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ベース話者ごとのスピーチレベルの比較

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 94-99)

第 4 章 「グローバルな観点」からみるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト 58

4.2 母語場面と接触場面におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの比較

4.2.1 両場面におけるスピーチレベルの比較(対目上、対同等)

4.2.1.2 ベース話者ごとのスピーチレベルの比較

一方、接触場面における女性ベース話者は、目上と同等を問わず、普通体を有意に多く 使用していることがわかった。なお、接触場面における男性ベース話者の場合、有意差が 見られなかった。すなわち、母語場面と接触場面におけるスピーチレベルの分布に関して 最も大きな相違点は、目上に対する普通体の多用である。

以上から、母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的に 使用する無標スピーチレベルがともに丁寧体であったにもかかわらず、対話者側との上下 関係によって、スピーチレベルの分布に大きな差異があると言える。

94.9 89.3 97.7 95.9

88.4 89.9

78.2

88.9

5.1 10.7

2.3 4.1

11.6 10.1

21.8

11.1

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

%

丁寧体 普通体

78.6

69.2

95.9 92.2

55.2

42.9 21.4

30.8

4.1 7.8

44.8

57.1

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

JFB023/O JFB023/S JMB006/O JMB006/S TFBA003/O TFBA003/S

%

丁寧体 普通体

4-6 母語場面と接触場面におけるベース話者ごとの各スピーチレベルの分布

図4-6を参照すると、母語場面と接触場面における全ての女性ベース話者は、目上の相 手に対して、丁寧体を50%以上使用していることがわかった。すなわち、上下関係のある 相手との初対面会話において、無標スピーチレベルが丁寧体である点で両者は共通してい る。一方、同等の相手に対して、母語場面における女性ベース話者JFB024と接触場面にお ける女性ベース話者TFBA003のみは、普通体を50%以上使用しており、すわなち、無標 スピーチレベルが普通体であることが観察された。このことから、女性ベース話者は場面 を問わず、社会的に同等の相手に対するスピーチレベル選択に個人差があることが言える。

また、接触場面における各女性ベース話者は、目上に対して使用する丁寧体の割合が母 語話者の各女性ベース話者より低いことがわかった。このことから、接触場面における女 性ベース話者は、目上に対する「丁寧に話す」意識が母語場面ほど強くなかったと言えよ う。

一方、母語場面と接触場面における全ての男性ベース話者は、目上と同等の相手を問わ ず、使用する無標スピーチレベルが丁寧体である点で共通していることが観察された。こ れにより、上下関係のある相手と同等の関係のある相手との初対面会話において、両場面 の男性ベース話者は似たようなスピーチレベル選択を行っていると言える。

以上の母語場面と接触場面における全ての女性ベース話者と男性ベース話者が使用す る目上と同等に対する丁寧体と普通体の出現回数をカイ二乗検定で行った結果と残差分析 の結果を、以下の表4-10に示した。

76.2

28.6

89.5 87.2

69.6

93.3 23.8

71.4

10.5 12.8

30.4

6.7

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

JFB024/O JFB024/S JMB007/O JMB007/S TFBA004/O TFBA004/S

%

丁寧体 普通体

4-10 母語場面と接触場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごとのスピ ーチレベルの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果

カイ二乗検定

ベース話者ごと 丁寧体 普通体 χ2の結果

母 語 場 面

女性 ベース話者

JFB021

対目上 64(56.733) 4(13.267)

χ2(27) = 304.262, p<.01

対同等 53(66.806) 30(16.194)

JFB022

対目上 75(63.586) 4(15.414)

対同等 75(67.611) 9(16.389)

JFB023

対目上 44(45.074) 12(10.926)

対同等 27(31.391) 12(7.609)

JFB024

対目上 64(67.611) 20(16.389)

対同等 16(45.074) 40(10.926)

男性 ベース話者

JMB004

対目上 45(37.830) 2(9.170)

対同等 35(34.610) 8(8.390)

JMB005

対目上 42(34.610) 1(8.390)

対同等 94(78.879) 4(19.121)

JMB006

対目上 47(39.440) 2(9.560)

対同等 47(41.049) 4(9.951)

JMB007

対目上 68(61.172) 8(14.828)

対同等 82(75.660) 12(18.340)

接 触 場 面

女性 ベース話者

TFBA001

対目上 65(66.806) 18(16.194)

対同等 50(57.147) 21(13.853)

TFBA002

対目上 84(76.465) 11(18.535)

対同等 71(63.586) 8(15.414)

TFBA003

対目上 58(84.514) 47(20.486)

対同等 24(45.074) 32(10.926)

TFBA004

対目上 32(37.025) 14(8.975)

対同等 28(24.147) 2(5.853)

男性 ベース話者

TMBA001

対目上 42(37.830) 5(9.170)

対同等 74(70.026) 13(16.974)

TMBA002 対目上 43(44.269) 12(10.731)

対同等 32(28.976) 4(7.024)

( )内は期待値

残差分析

調整された 残差と結果

ベース話者ごと 丁寧体 普通体

母語 場面

女性 ベース話者

JFB021 対目上 2.890**▲ -2.890**▽ 対同等 -3.913**▽ 3.913**▲ JFB022

対目上 3.312**▲ -3.312**▽ 対同等 2.083*▲ -2.083*▽ JFB023 対目上 -0.368 ns 0.368 ns

対同等 -1.793+ 1.793+

JFB024 対目上 -1.018 ns 1.018 ns 対同等 -9.957**▽ 9.957**

男性 ベース話者

JMB004

対目上 2.674**▲ -2.674**▽ 対同等 0.152 ns -0.152 ns JMB005 対目上 2.878**▲ -2.878**

対同等 3.961**▲ -3.961**▽ JMB006 対目上 2.762**▲ -2.762**▽ 対同等 2.132*▲ -2.132*▽ JMB007

対目上 2.019*▲ -2.019*

対同等 1.694+ -1.694+

接触 場面

女性 ベース話者

TFBA001 対目上 -0.512 ns 0.512 ns 対同等 -2.183*▽ 2.183*▲ TFBA002 対目上 2.003*▲ -2.003*▽ 対同等 2.151*▲ -2.151*▽ TFBA003

対目上 -6.724**▽ 6.724**▲ 対同等 -7.217**▽ 7.217**

TFBA004 対目上 -1.893+ 1.893+

対同等 1.790+ -1.790+

男性

ベース話者 TMBA001 対目上 1.555 ns -1.555 ns 対同等 1.102 ns -1.102 ns

TMBA002 対目上 -0.438 ns 0.438 ns 対同等 1.284 ns -1.284 ns

表 4-10 によると、母語場面と接触場面における各女性ベース話者と各男性ベース話者 は、目上と同等に対して使用する丁寧体と普通体の回数に 1%の有意水準で有意であった

(χ2 (27 ) = 304.262 , p<.01)。なお、残差分析の結果、母語場面における女性ベース話者

JFB021は、目上に対して丁寧体を有意に多く使用しているのに対し、同等に対して普通体

を有意に多く使用していることが観察された。女性ベース話者 JFB022 は、目上と同等を 問わず、全て丁寧体を有意に多く使用している。女性ベース話者JFB024は、同等に対する 普通体の使用が有意に多いことがわかった。一方、母語場面における男性ベース話者

JMB004 と JMB007 は、目上に対して丁寧体を有意に多く使用している。それに対し、男

性ベース話者JMB005とJMB006は、目上と同等を問わず、丁寧体を有意に多く使用して いることが観察された。

また、接触場面における女性ベース話者 TFBA001 は、同等に対する普通体の使用が有 意に多いことがわかった。女性ベース話者TFBA002は、目上と同等を問わず、全て丁寧体 の使用が有意に多いことが見られた。それに対し、女性ベース話者TFBA003は、目上と同 等を問わず、全て普通体を有意に多く使用していることが観察された。一方、接触場面に おける男性ベース話者には、有意差が見られなかった。

以上から、母語場面と接触場面における最も大きな相違点として、目上の相手に対する 普通体の多用であることが挙げられる。これにより、接触場面における学習者のベース話 者は、母語場面における母語話者のベース話者より、目上に対する「丁寧に話す」意識が 比較的希薄であったと言えよう。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 94-99)

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