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中国人日本語学習者のスピーチレベル・シフトの使用上の問題点

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 165-168)

第 6 章 中国人日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用意識

6.3 アンケート調査の結果分析と考察

6.3.3 中国人日本語学習者のスピーチレベル・シフトの使用上の問題点

表6-13は質問14の結果を表している。表6-13からわかるように、中国人日本語学習者 は留学を契機に、日本語母語話者のスピーチレベル・シフトの複雑さに気づき、学習者自 身のスピーチレベル・シフトの使用意識に影響を受けている。

具体的には、日本語母語話者とうまくコミュニケーションを取るために、スピーチレベ ル・シフトに関する練習をしたり(CSF9)、スピーチレベル・シフトを使用する前に相手 との関係や場面などの社会的属性を判断するようになったり(CSM6、CSF16)、普通体の 使用範囲が明確になったりする(CSF18)などのことが見られた。また、母語話者との会 話を通して、学習者は内省しながら自身の問題点(6.3.3 節を参照)を見出した(CSF15)

ことが観察できた。つまり、CSF15は目上に対して無意識に普通体を使用したことが不適 切であることに気付いた。目上に普通体を使用する原因にについて、鈴木(1997: 71)は、

学習者の中には、「日本語の母語話者も、目上でも親しい相手には普通体を使っているでは ないか」という誤解を抱いている者が少なくないことを指摘している。そこで、目上に対 する社会言語学的規範を学習者に明示的に提示する必要がある。さらに、使用意識という 主観性を持つものを考えてもうまく説明できないという記述が見られ、結果的に教科書で のスピーチレベル・シフトに関する知識は、母語話者との会話であまり使用されていない

(CSF3)という食い違いが示された。

以上から、中国人日本語学習者は日本留学後、スピーチレベル・シフトの使用意識が高 まる傾向にあると言える。

6-14 質問15の結果

今までの日本語学習におけるスピーチレベル・シフトの使用上の問題点

非 留 学 経 験 者

1.スピーチレベル・シ フトの必要性

日本人とのコミュニケーションでは、(日本人は)特にシフトを 重視していないことに気づいた。同じコミュニティでは、お互い の関係が固定しているから、非母語話者はより巧みにシフトする ことが必要なのであろうか(CFF9)

2.指導者との相違 先生から「ます体」は日常ではあまり使用しないと言われたが、

ドラマを見ると結構使っている感じがした(CFF10)

3.シフトの難しさ 丁寧体から普通体に変えることは容易ではない。否定、過去式

などでは問題を起こす可能性がある(CFM7)

4.学習者の意識不足 シフトに速く反応できない(CFF1)、シフトに関する明確な認

識がない(CFM2)

留 学 経 験 者

1.同世代に対するスピ ーチレベルの選択

同世代の日本母語話者に対して、いつ「だ体」を使い、いつ「で す・ます体」を使うか。そして、どうやって自分、教授、同級生、

後輩を呼称するか(CSM12)、同世代に対して、どんな時に普通体 に変えるかは分からない(CSM6)

2.シフトの難しさ

初級で意識的に「だ・である体」へシフトしたことがあるが、

少し不自然な感じがする(CSF4)、スピーチレベルに関する先行 研究を見てもよく運用できない(CSF11)、普通体を使い慣れてい るから、丁寧体使用が必要とされる場面であっても不注意に普通 体になってしまう。巧みにスピーチレベル・シフトをすることは 学習者にとって難しい(CSF14)、日本語母語話者のスピーチレベ ル・シフトを観察しても、実際の会話でなかなか巧みに運用でき ない(CSF20)86

3.定型文の学習不足

変形のほか、(日常で)よく使われる用法、例えば「んだ」をよ り学習したい(CSF9)、「と思う」の使用(がうまく運用できない)

(CSF19)

4.日本の人間関係に対 文法を身につけたとしても、日本の人間関係のため、どちらの

86 学習者CSF20の自由記述を、内容から判断し、「2.シフトの難しさ」と「7.教科書によるシフ

ト使用の重要性の不足」の二ヵ所に分類した。

する理解不足 スピーチレベルを使用するかが分からない。これは一種の社会文 化の問題であろう(CSF16)

5.スピーチレベルの維 持

ずっと会話の時に「です・ます体」、書く時に「だ・である体」

を一貫して使用している(CSF10)

6.中国国内の日本語教 育と日本の日本語教育

の相違

(中国)国内の(日本語)教育では、「食べます」「食べまし た」のように、より文法の正確性を強調する。日本では、「食べ る」「食べるんです」「食べた」「食べたんです」のような言語 現象もよく見られ、文法より語用論的な運用と言語使用の流暢さ を重視する(CSM13)

7.教科書によるシフト 使用の重要性の不足

そのほか、教科書での解釈により、学習者がスピーチレベル・

シフトの使用の重要性を無視する(CSF20)

表6-14は質問15をまとめたものである。表6-14によると、日本留学経験のない学習者 のスピーチレベル・シフトの使用の問題点には、1.スピーチレベル・シフトの必要性、2.

指導者との相違、3.シフトの難しさ、4.学習者の意識不足の4点がある。そのうち、問 題点「1.スピーチレベル・シフトの必要性」にある自由記述(CFF9)と問題点「4.学習 者の意識不足」にある自由記述(CFF1、CFM2)から、中国国内における日本語学習者は スピーチレベル・シフト使用の必要性に関する認識が喚起されていないことがわかった。

この点について三牧(2007)も同様な結果が得られ、さらに会話教育における文体の系統 的な指導案の一つとして、「初級段階から文体を意識させる」(p. 64)ことを提示している。

一方、日本留学経験者は比較的に多様かつ複雑な問題点を挙げていることがわかった。

日本語母語話者との接触の機会が増加するとともに、スピーチレベル・シフトに影響し得 る要素である対話者の社会的属性(CSM6、CSM12)と日本の人間関係(CSF16)を含める 社会文化能力と社会言語能力の重要性を感じた学習者が多く見られた。また、初級の指導 は実際の会話との相違が感じられ(CSF10)、さらに教科書での解釈によりスピーチレベル・

シフトの使用の重要性を無視してしまう(CSF20)ことがわかった。

以上から、上級学習者になったにもかかわらず、スピーチレベル・シフトをうまく使用 できないことが見られた。今後の日本語教育では、三牧(2007)が提案した学習者のレベ ル別による系統的な指導が緊要である。系統的な指導を実践する前に、まず指導者は初級 段階からスピーチレベル・シフトを学習者に認識させることを意図した教科書を導入する ことが急務である。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 165-168)

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