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考察

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第 4 章 「グローバルな観点」からみるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト 58

4.3 考察

4.3.1 母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者の比較

本節では、分析結果に基づいて、母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者が 使用するスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの共通点と相違点を考察する。

1)母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル

母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的に使用する無標スピーチ レベルが丁寧体であった点で共通している。しかし、目上と同等に対するスピーチレベル の分布に差異が生じている。すなわち、女性ベース話者は、同等に対して、普通体を有意 に多く使用しているのに対し、男性ベース話者は、目上と同等を問わず、全て丁寧体を有 意に多く使用している。

これにより、母語場面における女性ベース話者は、初対面における無標スピーチレベル が丁寧体であったにもかかわらず、社会的に同等の相手(大学生同士)との仲間意識を普 通体で表明するという社会的規範に基づいていると思われる。一方、男性ベース話者は、

初対面の疎の人間関係にふさわしい無標スピーチレベルを距離の保持した丁寧体で表明す るという社会的規範に基づいていると考えられる。このことから、母語場面における女性 ベース話者と男性ベース話者は、全体的に使用する無標スピーチレベルがともに丁寧体で あったにもかかわらず、対話者側との上下関係によって、スピーチレベルの分布に差異が あると言える。

女性ベース話者の結果について、宇佐美(2001b)によると、女性ベース話者は目下に対 して、常体を含む発話のみを有意に多く使用していることが示されている。このことから、

「対話相手との力関係(年齢、社会的地位)を顕著に反映しているのは、尊敬語などの使 用ではなく、常体の使用であることが分かる」(宇佐美, 2001b: 11)と述べ、さらに「初対 面の会話においては、目上の人により多く敬語を使うのではなく、目下の人により多く常 体を使うという傾向が顕著である」(宇佐美, 2001b: 11)と結論付けている。この点につい て、本研究では、女性ベース話者は同等に対する普通体の使用が有意に多いことと関連し ており、普通体の使用が対話相手との力関係を反映しているものであると考えられる。

李(2008)は、「日本語の場合、ベースの性別に関係なく、目下が目上に敬体を使うこと によってではなく、目上が目下に常体を使うことで上下関係をマークしている」(p. 297)

と結論付けている。だが、これは本研究の女性ベース話者と男性ベース話者が使用するス ピーチレベルの結果と異なっている。この差は、李(2008)の社会人を対象とした分析と

本研究の大学生を中心とした分析の相違からくるのではないかと考えられる。

また、ベース話者ごとにみると、女性ベース話者JFB021、JFB022、JFB023は、対目上・

同等を問わず、無標スピーチレベルが丁寧体であるのに対し、女性ベース話者JFB024は、

目上に対する無標スピーチレベルが丁寧体であるのに対し、同等に対する無標スピーチレ ベルが普通体であると判断できた。すなわち、女性ベース話者は同等の相手に対するスピ ーチレベル選択に個人差が生じている。この点について、宇佐美(1995)は、日本語母語 話者は同等の相手との初対面会話では、会話例の全てが丁寧体基調であったことが報告さ れており、本研究の結果と相違している。この差は、宇佐美(1995)のデータの会話参加 者が社会人で30代~40代であるのに対し、本研究は20代の大学生・大学院生であるよう に、年齢・社会的な経験の差を反映しているものと思われる。

一方、全ての男性ベース話者は、目上と同等の相手に対して、初対面における無標スピ ーチレベルがともに丁寧体であると判断できた。これにより、丁寧体を選択した全ての男 性ベース話者は、初対面の疎の人間関係にふさわしい無標スピーチレベルは、距離を保持 した丁寧体であるという社会的規範に基づいていると考えられる。この点について、李

(2008)は、女性ベース話者は尊敬語・謙譲語と敬体の使用割合が高かった一方、男性ベ ース話者は常体と丁寧度を示すマーカーのない発話の使用割合が高かったが、年上に対し て男性のほうがより丁寧度の高い言語形式を使うという「敬語使用の規範」(p. 167)に従 っていると結論付けている。これは、本研究の母語場面における男性ベース話者の対目上 に使用する丁寧体の多用という結果と整合している。

2)母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル・シフト 母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的に目上に対してアップシ フトの使用が有意に多く、同等に対してダウンシフトの使用が有意に多い点で共通してい る。

女性ベース話者のスピーチレベル・シフトの結果について、宇佐美(2001b)は、ダウン シフトに関して、女性ベース話者は目上との会話において、同等と目下との会話より有意 にダウンシフトが少ないという結果が得られた。また、アップシフトに関して、目上の相 手に対して、同等と目下の相手より有意に多く、そして、目下に対して同等の相手より有 意に多く用いられていたと結論付けている。これは、本研究の結果と整合している。

李(2008)によると、ベース話者の性別を問わず、ダウンシフトは年上の対話相手に最 も低くなっており、日本人初対面会話において対話相手との力関係を顕著に反映している

のは常体の使用、すなわち、ダウンシフトであることが明らかになったと指摘されている。

この点は本研究の結果とも一致している。

また、ベース話者ごとにみると、女性ベース話者JFB021とJFB024のみ、目上に対して アップシフトを有意に多く使用しているのに対し、同等に対してダウンシフトを有意に多 く使用していることがわかった。一方、男性ベース話者JMB004のみ、同等の相手に対し てダウンシフトを多く使用していることが観察された。このことから、全体のスピーチレ ベル・シフトの分布状況と異なり、母語場面における各女性ベース話者と各男性ベース話 者は、対話者側との上下関係によって、実際に使用するダウンシフトとアップシフトの分 布に差異があると言える。

4.3.2 母語場面と接触場面の比較

本節では、分析結果に基づいて、母語場面と接触場面におけるスピーチレベルとスピー チレベル・シフトの共通点と相違点を考察する。

1)母語場面と接触場面におけるスピーチレベル

母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的に対目上・対 同等を問わず、無標スピーチレベルが丁寧体である点で共通している。

両場面における女性ベース話者ごとを比較すると、目上の相手に対して使用する無標ス ピーチレベルが丁寧体である点で共通している。一方、同等の相手に対して、母語場面に おける女性ベース話者JFB024と接触場面における女性ベース話者TFBA003を除くと(同 等に対する無標スピーチレベルが普通体)、全ての女性ベース話者が使用する無標スピー チレベルが丁寧体であると判断できた。このことから、両場面における各女性ベース話者 において、同等の相手に対するスピーチレベル選択に個人差があると言える。

一方、両場面における男性ベース話者ごとを比較すると、両場面における全ての男性ベ ース話者は、対目上と対同等を問わず、無標スピーチレベルが丁寧体であった点で共通し ている。これにより、上下関係のある相手と同等の相手との初対面会話において、両場面 における男性ベース話者は似たようなスピーチレベル選択を行っていると言える。

台湾人上級日本語学習者と同等の日本語母語話者との接触場面の初対面会話を分析した 陳(2004a)によると、「基本レベル」が「デス・マス体発話」である学習者が5名(男性:

3名、女性:2名)、「ダ体発話」である学習者が3名(男性:1名、女性:2名)いること が確認された。このことから、上級学習者では、三牧(2002)の研究における母語話者と

同様なスピーチレベルの選択基準が働いている。すなわち、初対面会話で疎の関係を重視 して「デス・マス体」になる場合と、仲間意識の表示あるいは上位的立場をアピールする ために「ダ体」になる場合の両方があると結論付けられる。

上記から、本研究では、接触場面における全ての男性ベース話者は同等に対して使用す る無標スピーチレベルが丁寧体であった点で、陳(2004a)と異なっている。一方、両場面 における女性ベース話者は同等に対する無標スピーチレベルが丁寧体でも普通体でも見ら れた点で、陳(2004a)と同様であった。ただし、本研究のデータは限られているため、今 後更なる検証が必要であると考えられる。

また、母語場面におけるベース話者と接触場面における学習者のベース話者の目上・同 等に対するスピーチレベルを比較した林(2005)によると、母語場面のベース話者のみは、

目上に対して使用する無標スピーチレベルが丁寧体であった一方、それ以外の場面は無標 スピーチレベルの同定ができないことが示されている。これは、丁寧度を示すマーカーの ない発話の使用が非常に多い(20%~40%)ため、丁寧体が占める割合が50%を超えない 点が考えられる。

2)母語場面と接触場面におけるスピーチレベル・シフト

母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、全体的にスピーチレ ベル・シフトの分布に大きな相違が見られた。すなわち、母語場面における女性ベース話 者と男性ベース話者は、同等に対してダウンシフトを有意に多く使用しているのに対し、

目上に対してアップシフトを有意に多く使用している。一方、接触場面における女性ベー ス話者は、母語場面と正反対であり、対目上の場合、ダウンシフトの使用が有意に多いの に対し、対同等の場合、アップシフトの使用が有意に多いことがわかった。なお、接触場 面における男性ベース話者の場合、有意差が見られなかった。

上記の結果から、接触場面におけるベース話者は性別を問わず、宇佐美(2001b)と李

(2008)の提示した、目上に対して有意にダウンシフトが少なく、日本人初対面会話にお いて対話相手との力関係を顕著に反映しているのはダウンシフトである、という結果と相 違している。

また、両場面における女性ベース話者ごとを比較すると、母語場面における女性ベース

話者JFB021とJFB022は、目上に対してアップシフトを有意に多く使用している。女性ベ

ース話者 JFB024 は、目上に対してアップシフトを有意に多く使用しているのに対し、同

等に対してダウンシフトを有意に多く使用している。一方、接触場面における女性ベース

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