第 5 章 「ローカルな観点」からみるスピーチレベル・シフト
5.1 母語場面におけるスピーチレベル・シフトのポライトネス効果
5.1.2 ニュートラル・ポライトネス効果
例5)JFB024-JFO016(女女、目上)「感想」
発話文 番号
発話文
終了 話者 発話内容 スピーチ
レベル
シフ ト
264 * JFO016 んー1年住んでみてどうだった?[→]。 N
265-1 / JFB024 あーでも,,
266 * JFO016 学生だったけど…。 NM
265-2 * JFB024 学生でー、ちょっとがやがやしすぎて後悔
してるんですよ=。 267-1 / JFB024 =<もっとちゃんと>{<},,
268 * JFO016 <ほんと?>{>}<笑い>。
267-2 * JFB024 勉強しとけば良かったー=。
269-1 / JFB024 =もっともっと自分から交流してー,,
270 * JFO016 うんうん<うんうんうんうんうんうんうん
うん>{<}。
269-2 * JFB024 <積極的にやれば良かったと思ってる>{>}
んですけど、帰ってきたときはやっぱ安心 P
して(うんうん)、あーもう二度と行きたくな い(<笑い>)と思ったんですけど、やっぱり。
271 * JFO016 過ぎてみると…。 NM
272 * JFB024 うん、過ぎてみると<楽しい>{<}66。 N D
273 * JFO016 <いいのかな>{>}。 N
274 * JFO016 うんうんうん。
275 * JFB024
でもいるときはほんとに辛くて(うんうん うん)、なんで辛いかっていうとたぶん言語 が伸びないからで。
NM
276 * JFO016 <笑い>。
277 * JFB024 それは自分が悪いんですけど。 P U
278 * JFO016
まあね、ある一定ぐらいでね、行くと結構
伸びるのほんと難しい…。 NM
279 * JFO016 ねー。
例5)は、ベース話者JFB024と目上の対話相手JFO016が、一年中国で過ごすという話
題について話している場面である。ベース話者JFB024は、発話文番号269(269-1と 269-2)で、無標スピーチレベルの丁寧体を用い、目上に当たるJFO016への配慮を表している。
発話文番号272で、ベース話者は直前の対話相手の中途終了型発話(「過ぎてみると…。」) を、「うん、過ぎてみると<楽しい>{<}。」のように普通体を用い、中途終了の発話を補完し ていることが見られる。ベース話者は、対話相手が言葉探しの途中、対話相手の発話を自 分の理解に基づき補足している、すなわち、共同発話を作っている。
このようなダウンシフトの使用は、対話相手の発話を補完することによって、言語形式 上から共同発話を形成している。「ディスコース・ポライトネス理論」に基づき、このダウ ンシフトは相手が心地よく感じる「プラス・ポライトネス効果」も、相手が失礼だと感じ る「マイナス・ポライトネス効果」も見られない。一方、「プラス・ポライトネス効果」と
「マイナス・ポライトネス効果」と別次元の効果、すなわち、共和的話し方を使用するこ
66 発話文番号272と273で、話者双方は「楽しい」と「いいのかな」を同時発話していることが見 られた。ベース話者JFB024は「うん、過ぎてみると楽しいです」のように発話末の「です」がオー バーラップによって中断される可能性が考えられる。しかし、本研究では、このような同時発話に よる発話末のスピーチレベルの判断には限界がある。この点について、今後検討すべきである。
とにより、和やかな雰囲気を作り出しているという効果があると考えられる。
例6)JMB006-JMSa004(男男、同等)「繰り返し」
発話文 番号
発話文
終了 話者 発話内容 スピーチ
レベル
シフ ト
57 * JMSa004 ふーん、で、機械、制御でしたっけ??。 P
58 * JMB006 機械制御<です>{<}。 P
59 * JMSa004 <あー>{>}、具体的にはどういうことをや
ってらっしゃる<んですか?>{<}。 P
60 * JMB006 <ロボット>{>}とかです。 P
61 * JMSa004 あ、ロボットですね、<あー>{<}。
62 * JMB006 <はい>{>}。
63 * JMB006 《沈黙2秒》単純には<笑い>。 NM
64 * JMSa004 あー。
65 * JMSa004 じゃそれ、つく、作るってことですか?、
ロボットを。 P
66 * JMB006 そうですね=。
67 * JMSa004 =あー。
68 * JMB006 ロボットを(あー)作る。 N D
69 * JMB006 あのー、NHKとかでロボットコンテスト
<やってる…>{<}。 NM
70 * JMSa004 <はいはいはい、あります>{>}。 P U
71 * JMB006
ああいうのにも、(あー)ええ、出たことが
あります。 P
例6)の会話は、同等の対話相手JMSa004がベース話者JMB006の専門(機械制御)に について聞いている場面である。ベース話者JMB006は、発話文番号57-65で、無標スピ ーチレベルの丁寧体を使い続けており、同等の相手に当たるJMSa004に対して初対面の疎 の人間関係を配慮している。
対話相手による「<あー>{>}、具体的にはどういうことをやってらっしゃる<んです
か?>{<}。」(発話文番号59)という質問に対し、ベース話者はその直後の発話文番号60で、
「<ロボット>{>}とかです。」と答えている。この「質問-応答」の隣接ペアはともに無標 スピーチレベルの丁寧体を使っている。その後、対話相手は「じゃそれ、つく、作るって ことですか?、ロボットを。」(発話文番号65)を発話し、先ほどの「<ロボット>{>}とかで す。」という返答に対してさらに確認を求めていることが見られる。それに対し、ベース話 者は発話文番号68で、「ロボットを(あー)作る。」のように普通体を用い、相手の質問の一 部を繰り返しながら、相手からの確認の質問を返答した。
このようなダウンシフトの使用は、対話相手の発話の一部を繰り返して言うことで、対 話相手からの確認を応答する時に見られた。「ディスコース・ポライトネス理論」に基づき、
このダウンシフトは相手が心地よく感じる「プラス・ポライトネス効果」も、相手が失礼 だと感じる「マイナス・ポライトネス効果」も見られない。一方、このダウンシフトは、
「プラス・ポライトネス効果」と「マイナス・ポライトネス効果」と別次元の効果、すな わち、相手の発話を繰り返すことにより、発話内容を強調するという効果があると考えら れる。