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中国国内のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの学習

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 153-161)

第 6 章 中国人日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用意識

6.3 アンケート調査の結果分析と考察

6.3.1 中国国内のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの学習

6.2.4 自由記述の分析方法

自由記述の質問項目(質問7、8、13、14、15)を、以下の手順に沿って分析する。

1)自由記述の回答から、最も記述を意味するキーワード(語彙あるいは語句)を1つか

2 つ選出する。元の記述に適切なキーワードが存在しない場合、回答の意味を吟味したう えで相応しいキーワードを提示する。なお、意思疎通をより円滑にするために、回答者の 意思を把握したうえで、括弧で筆者による解釈を加える場合がある。

2)回答のキーワードに関する分類作業を行う。小さい意味範囲を持つキーワードをより 意味範囲の広いキーワードへと統括していく。また、1 人の回答者が様々な内容を記述し た場合、2つ以上のキーワードに分類することがある。

3)必要に応じて、それ以上意味範囲の広いキーワードへ統括することができなくなるま で、2)の手順を繰り返す。最後に、最終的に残ったキーワードを表にまとめる。

6-4 質問2の結果

日本語教科書 人数(%)

『標準日本語』(人民教育出版社) 6(20.0)

『総合日本語』(北京大学出版社) 9(30.0)

『新編日本語』(上海外語教育出版社) 7(23.3)

『みんなの日本語』(外語教学と研究出版社) 1(3.3)

その他

『基礎日本語』(外語教学と研究出版社)

『新大学日本語』(大連理工大学出版社)

『新経典日本語』(外語教学と研究出版社)

西安外国語大学自編日語精読教材 北京第二外国語大学自編日語精読教材

3(10.0) 1(3.3) 1(3.3)

1(3.3)

1(3.3)

表 6-4は質問2 の結果を表している。表6-4によると、中国国内で様々な日本語教科書 が使用されていることがわかった。その中で、『総合日本語』、『標準日本語』と『新編日本 語』の3種は比較的に使用率の高い日本語教科書であることがわかった。そこで、各々の 日本語教科書におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの扱いを分析する必要が あると考えた78

6-5 質問3の結果

項目 人数(%) a.詳しく紹介している79 10(33.3)

b.ある程度紹介している 20(66.7)

c.ほとんど紹介していない 0(0)

78 本章では、主にアンケート調査の結果を中心に分析したため、日本語教科書の分析(『総合日本 語』、『標準日本語』、『新編日本語』の3種)に関しては第8章を参照のこと。

79 質問3(使用した教科書の中では、スピーチレベルの内容をどれぐらい紹介していますか。)に対 して、学習者が教科書の内容を詳しく覚えていないと考えられるため、スピーチレベルに関する大 まかな記憶を回答させた。

6-6 主要の日本語教科書におけるスピーチレベルの紹介(学習者の記憶)

日本語教科書

選択(人) 『標準日本語』 『総合日本語』 『新編日本語』

a.詳しく紹介している 2 3 3

b.ある程度紹介している 4 6 4

表 6-5は質問3 の結果を示している。表6-5によると、中国国内の日本語教科書では、

スピーチレベルを「b. ある程度紹介している」教科書が最も多く、「a. 詳しく紹介してい る」教科書は全体の3分の1 を占めているのに対して、「c. ほとんど紹介していない」教 科書は見られなかったことがわかった。

また、最も多く使用している『標準日本語』、『総合日本語』、『新編日本語』という3種 の日本語教科書におけるスピーチレベルの紹介を表6-6に示した。学習者の記憶によると、

同一の日本語教科書であっても、スピーチレベルを「a. 詳しく紹介している」と、「b. あ る程度紹介している」という2つの回答が得られた。

さらに、第8章での教科書分析の結果を参照すると、『総合日本語』と『標準日本語』は、

『新編日本語』よりスピーチレベルに関する説明が豊富且つ多角的に提示されていること がわかった。『総合日本語』と『標準日本語』では、丁寧体と普通体の定義の説明のほか、

スピーチレベルの使用を相手との親疎関係・上下関係の2面から説明している点で共通し ていることがわかった。一方、『新編日本語』では、丁寧体と普通体の定義と簡単な説明の みが示され、スピーチレベルが場面、人間関係、会話相手に応じてどのように変化してい くかについては言及されなかった(詳しくは第8章8.6節を参照)。

以上から、学習者の記憶と日本語教科書における解説との間に差異があることが見られ た。だが、この差の生じる原因が学習者の単純な忘却なのか、教科書の提示の仕方や教員 の指導の仕方によって違った印象、記憶が残るためなのかについては断定できず、今後更 なる研究が必要であろう。

6-1 質問4の結果

図6-1は質問4 の結果を示したものである。図6-1を参照すると、半分近くの学習者は 1コマと2コマを選んでいる(1コマ:6人、2コマ:8人)ことがわかった。

1コマを選んだ6人のうち、「1コマかかった。先生は後の授業でもよく触れる」80(CSF14) という自由記述が見られた。そして、2コマを選択した8人のうち、「2コマぐらいかかっ た。主に丁寧体について説明した」(CSF11)という自由記述も見られた。さらに、「その 他」の中、「3~5コマ」、「6コマぐらい」、「10コマ以上」、「たくさん」のほか、「特に説明 していないが、授業ではよく練習をしている」(CSM12)という自由記述が見られた。一方、

調査対象者は日本語教師からの指導を覚えていない、あるいは記憶が明確ではないと回答 した。

上記から、多くの日本語教師は1コマと2コマのような短時間でスピーチレベルとスピ ーチレベル・シフトに関する内容を説明したことがわかった。教師の説明不足のため、学 習者が実際に運用する上での困難につながると考えられる。そこで、今後の日本語教育で は、日本語教科書の改革とともに、日本語教師による説明も必要である。

80 本調査では、全ての学習者は中国語母語話者であるため、中国語の調査票を使用した。ただし、

アンケートの項目と回答を分析する際に、日本語の訳文を使うこととする。その際、できるだけ中 国語の語句・語法に従って忠実に翻訳した。以下同様。

6

8

4

1 1 1

4

5

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

時間(コマ)

人数

6-2 質問5の結果

図 6-2は質問5の結果を示している。質問5における「復習・勉強」とは、授業外で行 われる教科書内容(それに関係する指導書なども含む)に関する自習・復習、あるいは趣 味でドラマや映画などを見る時の勉強のことを指す。なお、調査を実施したとき、「復習・

勉強」を表す意味を調査対象者に説明した。

図6-2をみると、半分以上の学習者は1時間と2時間を選択していることがわかった。

「その他」のうち、「30時間ぐらい」(1人)、「一ヶ月」(1人)、「かなり長い時間がかかっ た」(2 人)、「復習しなかった」(2人)、「復習時間と関係のないことを記入した」(1人)

といった内容が観察された。すなわち、かなり長い時間をかけて復習・勉強した学習者と、

あまり復習・勉強しなかった学習者が両方いる。さらに、「復習しなかった」理由に関して、

「わざわざ時間をかけて復習しなかった。また復習する必要がなく、日常の会話のうちに だんだん習得できると思う」(CSF11)という自由記述が見られた。そして、復習時間を書 かずに、「当時難しい内容だとは思わなかった。実は過去も今もなかなか身につかない感じ がする」(CSF15)という自由記述も見られた。

以上から、初級レベルでは、スピーチレベルとスピーチレベル・シフトに関する使用意 識が欠けていると言える。この点については、三牧(2007)と同様の結果となった。今後 の日本語教育では、初級レベルにおける意識の喚起が必要である。

9 9

2

1

2

7

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

時間(h)

人数

6-7 質問6の結果 項目 人数(%)

a.ある 26(86.7)

b.なし 4(13.3)

表6-7は質問6を示したものである。表6-7からわかるように、初級レベルでは、学習 者26人は意識的に文末に「です・ます体」あるいは「だ・である体」を使ったことがあ る。これは初級レベルでは、日本語教科書に現れる文型をそのまま学習者に記憶させるこ とに由来する可能性が考えられる。その理由を以下の表6-8(質問7)と表6-9(質問8) に示す。

6-8 質問7の結果

意識的に「です・ます体」を使った理由

1.教科書からの影響81 教科書の例文でそう書かれている(CSM12)82、日本語の文の基本的な

型(CFM6)、(教科書からの)83文型を覚える(CFF3)

2.尊敬などの表明 タメ口を使わない(CSF7)、尊敬を表す(CSM6、CSF18)、ポライトを

示す(CSF15、CSF16、CFM5、CFF8)、敬意を表す(CSF5 、CFF9)

3.指導者からの影響

(教師から)要求されている(CSF1、CFF10)、教師から失礼にならな いと強調されているから、習慣になる(CSF11)、教師から公的場面で

「です・ます体」を使用するほうが良い、また、親しくない人との会話 でもできるだけ「です・ます体」を使用すると指導されている(CSF20)

4.指導方法による影響 変形の練習(CSF9)、敬語の使用(CSF2、CSF8、CSF9)(をする時使用 している)、丁寧体を先に勉強した(CFM7)

5.学習者自身の意識

普通体と丁寧体の使用場面が異なるので、かなり注意して使用してい る(CSF14)、日本語の文末に「です・ます体」で完結すると強く思う

(CSF4)、習慣(CSF10)、読みやすい(CFM4)、初心者は比較的にスピ ーチレベルのきまりに準ずる(CFM2)

81 本章の全ての自由記述式の回答を筆者によって箇条書きで分類した。詳細は6.2.4節を参照。

82 本章では、自由記述(日本語訳)をそのまま引用した後、回答者の番号を付いた。また、表に全 ての回答をまとめたが、アンケート調査票に回答が記入されない場合、表に反映しない。以下同様。

83 括弧内の内容は、筆者が回答者の意思を把握したうえで解釈を加えたものである。以下同様。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 153-161)

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