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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

中国語を母語とする日本語学習者のスピーチレベル とスピーチレベル・シフト : ディスコース・ポライ トネス理論に基づいて

馮, 荷菁

http://hdl.handle.net/2324/4475215

出版情報:Kyushu University, 2020, 博士(学術), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

中国語を母語とする日本語学習者の スピーチレベルとスピーチレベル・シフト

―ディスコース・ポライトネス理論に基づいて―

九州大学大学院地球社会統合科学府 馮 荷菁

20213

(3)

要旨

日本語母語話者は、対話相手との人間関係、話題の性質や場面状況などに応じて、適 切にスピーチレベルを選択できる。さらに、スピーチレベルを巧みに切り替えながらコ ミュニケーションを効果的に進め、人間関係を円滑に保とうとしている(谷口2004a)。 ところが、日本語のような敬語体系とスピーチレベル体系を有していない中国語を母語 とする日本語学習者にとって、スピーチレベルを相手と場面に応じて使い分けることは 大きな課題であり、日本語教育で習得が困難な課題の1つであるとされている。本研究 では、母語場面と接触場面の談話データ(『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスク リプト・音声)2018年版』)をもとに、母語場面の「ベース話者」と接触場面の「ベー ス話者」(学習者)が使用するスピーチレベルとスピーチレベル・シフトを比較した。

その結果を宇佐美まゆみが提唱する「ディスコース・ポライトネス理論」に基づき、量 的・質的双方の観点から考察を行った。

本研究は全10章から構成される。

第1章では、研究背景、研究目的および理論的枠組みについて述べた。

第2 章では、用語の整理、本研究の用語の定義、用語の分類基準と分析単位の認定、

日本語母語話者と中国語を母語とする日本語学習者のスピーチレベルとシフトに関す る先行研究、母語話者と学習者の比較に関する先行研究を概観した上で、従来の研究の 問題点を指摘し、本研究の課題を提示した。

研究課題は次の4点である。(1) 母語場面で、女性ベース話者と男性ベース話者が使 用するスピーチレベルとスピーチレベル・シフトを比較する、(2) 母語場面と接触場面 で、母語場面のベース話者と接触場面のベース話者(学習者)が使用するスピーチレベ ルとスピーチレベル・シフトを、対目上・対同等とベース話者の性別という2つの要因 から比較する、(3) 母語場面と接触場面におけるスピーチレベル・シフトの「ポライト ネス効果」を考察する、(4) 中国人日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・

シフトの使用意識、使用状況と指導状況を分析する。(なお、「ベース話者」とはコーパ ス内で複数話者と会話をし、比較の基となる話者である。)

第3章では、本研究で用いるデータ、分析単位である「発話文」の認定基準とスピー チレベルの分類基準、コーディングの方法、記号凡例および分析手順を提示した。

第4章以降が分析結果とその考察である。第4章では、シフトの頻度など数量的な観 点から、母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者が対目上・同等

(4)

に使用するスピーチレベルとスピーチレベル・シフトを比較した。その結果、母語場面 と接触場面における初対面会話において、全体的に無標スピーチレベルは丁寧体であっ たが、複数のベース話者の中で同等の相手に対するスピーチレベルの使用に個人差が生 じていることが明らかになった。

第5章では、個別のシフトの解釈から、有標行動と捉えられるダウンシフトを取り上 げ、母語場面と接触場面の初対面会話におけるダウンシフトの「ポライトネス効果」を 分析した。その結果、母語場面と接触場面におけるダウンシフトが、相手が心地よく感 じる「プラス・ポライトネス効果」を有することをディスコース・ポライトネス理論に 基づいて説明した。また、接触場面では、学習者の一部に相手が失礼だと感じる「マイ ナス・ポライトネス効果」を生んでいることが明らかになった。

第6章では、アンケート調査を通して、中国人日本語学習者のスピーチレベルとスピ ーチレベル・シフトの使用意識の問題点を分析した。その結果、初級レベルでは、中国 人学習者はスピーチレベル・シフトの使用意識が不足していることと、上級学習者にな っても、スピーチレベル・シフトをうまく使用できないことが明らかになった。

第7章では、談話完成テストを通して、日本語母語話者と中国人日本語学習者のスピ ーチレベルに関する使用を比較し、中国人学習者の問題点を分析した。その結果、母語 話者は上下関係の社会的規範を重視する一方、学習者は親疎関係を重視しながらスピー チレベルを使用したことが明らかになった。今後の日本語教育では、中国人学習者に対 話相手との上下関係に応じたスピーチレベル使用に関する指導が必要であると同時に、

親しい相手に対する普通体の過度の使用を工夫しなければならない。

第8章では、中国国内の日本語専攻の大学生に広く使用されている3種の日本語教科 書を分析することによって、中国人日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・

シフトに関する指導上の問題点を考察した。その結果、初級教科書では、丁寧体と普通 体およびダウンシフトとアップシフトを導入しているが、明示的な説明は見られなかっ た。また、中級以上の教科書では、相手との親疎・上下関係からスピーチレベルを考え る運用練習が欠けていることなどが明らかになった。

第9章では、第4章と第5章の分析をもとに、ディスコース・ポライトネス理論の鍵 概念(宇佐美2008)を用い、量的・質的双方の観点から母語場面と接触場面におけるス ピーチレベルとスピーチレベル・シフトを総合的に考察した。また、第6章から第8章 までの分析結果を、中国人日本語学習者の意識上・使用上・指導上の問題点として総合 的に考察した。

(5)

終章の第10章では、本研究の結論として第 2章で提示した本研究の課題に対する回 答と考察を示し、最後に本研究の意義と今後の課題を述べた。

以上の結果、本研究は、母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話 者の共通点と相違点を明らかにした。また、ディスコース・ポライトネス理論に基づい て、両場面のベース話者が使用するダウンシフトがもたらすポライトネス効果を明らか にした。さらに、アンケートによる意識調査、談話完成テスト、教科書分析などによっ て、中国人学習者の意識上、使用上と指導上の問題点を指摘したことは、先行研究では 指摘されることのなかったものであり、今後当該分野の発展に貢献するものである。

(6)

目次

要旨 ...

目次 ... i

表目次 ... viii

図目次 ... xi

1章 序論 ... 1

1.1 本論文の問題の所在 ... 1

1.2 本研究の目的と意義 ... 6

1.3 理論的枠組み―ディスコース・ポライトネス理論 ... 7

1.3.1 「ディスコース・ポライトネス(Discourse Politeness)」... 7

1.3.2 「基本状態(default)」 ... 8

1.3.3 「有標ポライトネス(marked politeness)」と「無標ポライトネス(unmarked politeness)」 ... 9

1.3.4 「有標行動(marked behavior)」と「無標行動(unmarked behavior)」 ... 10

1.3.5 「ポライトネス効果(politeness effect)」 ... 10

1.3.6 「グローバルな観点」と「ローカルな観点」 ... 12

1.4 本論文の構成 ... 13

2章 先行研究の概観および研究課題 ... 15

2.1 用語の整理... 15

2.1.1 「スピーチレベル」 ... 15

2.1.2 類似用語 ... 19

2.1.2.1 「スピーチスタイル」... 19

2.1.2.2 「スタイル」 ... 21

2.1.2.3 「待遇レベル」 ... 21

2.1.2.4 「文体」 ... 23

2.1.2.5 類似用語のまとめ ... 23

(7)

2.1.3 本研究の用語と定義 ... 24

2.2 用語の分類基準と分析単位の検討 ... 25

2.2.1 丁寧体と普通体の2分類 ... 26

2.2.2 語彙的スピーチレベルの付加 ... 26

2.2.3 終助詞の付加 ... 26

2.2.4 中途終了型の扱い ... 27

2.2.5 分析単位の認定... 28

2.2.6 頻度の高いスピーチレベルの認定 ... 30

2.3 日本語母語話者のスピーチレベル(シフト)に関する先行研究... 31

2.3.1 幼児・児童のスピーチレベル習得に関する研究... 32

2.3.2 社会人同士の初対面会話に関する研究 ... 33

2.3.3 大学生同士の初対面会話に関する研究 ... 34

2.4 中国語を母語とする日本語学習者のスピーチレベル(シフト)に関する先行研究 ... 36

2.4.1 使用意識に関する研究 ... 36

2.4.2 接触場面における学習者のスピーチレベルに関する研究 ... 36

2.5 母語話者と学習者の比較研究 ... 37

2.5.1 母語場面と接触場面の初対面会話に関する比較研究... 37

2.5.2 母語話者と学習者の発話末表現の認識に関する比較研究 ... 40

2.6 先行研究の問題点 ... 40

2.7 本研究の研究課題 ... 41

3章 研究方法... 43

3.1 データ... 43

3.2 分析単位の認定基準とスピーチレベルの分類基準 ... 45

3.2.1 分析単位の認定基準 ... 45

3.2.2 スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの分類基準 ... 46

3.2.3 「無標スピーチレベル」の認定基準 ... 49

3.2.4 スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用割合の計算方法 ... 50

3.3 コーディングの方法 ... 50

3.3.1 スピーチレベルのコーディング... 51

3.3.2 スピーチレベル・シフトのコーディング ... 52

(8)

3.4 BTSJコーパスの記号凡例 ... 53

3.5 分析手順 ... 56

4章 「グローバルな観点」からみるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト 58 4.1 母語場面におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト ... 58

4.1.1 女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの比較(対目上、対同等) ... 58

4.1.1.1 全体のスピーチレベルの比較 ... 58

4.1.1.2 ベース話者ごとのスピーチレベルの比較 ... 61

4.1.2 女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル・シフトの比較(対目上、 対同等) ... 66

4.1.2.1 全体のスピーチレベル・シフトの比較... 66

4.1.2.2 ベース話者ごとのスピーチレベル・シフトの比較 ... 69

4.1.3 本節のまとめ ... 73

4.2 母語場面と接触場面におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの比較 ... 74

4.2.1 両場面におけるスピーチレベルの比較(対目上、対同等) ... 74

4.2.1.1 全体のスピーチレベルの比較 ... 74

4.2.1.2 ベース話者ごとのスピーチレベルの比較 ... 78

4.2.2 両場面におけるスピーチレベル・シフトの比較(対目上、対同等)... 83

4.2.2.1 全体のスピーチレベル・シフトの比較... 83

4.2.2.2 ベース話者ごとスピーチレベル・シフトの比較 ... 87

4.2.3 本節のまとめ ... 93

4.3 考察 ... 94

4.3.1 母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者の比較 ... 94

4.3.2 母語場面と接触場面の比較... 96

4.4 日本語教育への示唆 ... 98

4.5 本章のまとめ ... 99

5章 「ローカルな観点」からみるスピーチレベル・シフト...101

5.1 母語場面におけるスピーチレベル・シフトのポライトネス効果...101

5.1.1 プラス・ポライトネス効果...101

(9)

5.1.2 ニュートラル・ポライトネス効果 ... 110

5.1.3 本節のまとめ ... 113

5.2 接触場面におけるスピーチレベル・シフトのポライトネス効果... 114

5.2.1 プラス・ポライトネス効果... 114

5.2.2 ニュートラル・ポライトネス効果 ... 119

5.2.3 マイナス・ポライトネス効果 ...124

5.2.4 本節のまとめ ...126

5.3 考察 ...127

5.3.1 対話相手との上下関係からみる「ポライトネス効果」 ...127

5.3.2 母語場面と接触場面における「ポライトネス効果」の比較 ...128

5.4 日本語教育への示唆 ...129

5.5 本章のまとめ ...130

6 章 中国人日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用意識 ...131

6.1 先行研究および本章の研究課題 ...131

6.1.1 スピーチレベル(シフト)の使用意識に関する先行研究 ...131

6.1.2 本章の研究課題...133

6.2 調査方法 ...133

6.2.1 調査対象者...133

6.2.2 アンケート質問紙(調査票) ...135

6.2.3 調査手順 ...136

6.2.4 自由記述の分析方法 ...137

6.3 アンケート調査の結果分析と考察 ...137

6.3.1 中国国内のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの学習 ...137

6.3.2 日本留学後のスピーチレベル・シフトに関する使用意識の変化...145

6.3.3 中国人日本語学習者のスピーチレベル・シフトの使用上の問題点 ...149

6.4 日本語教育への示唆 ...152

6.5 本章のまとめ ...153

7章 スピーチレベルの使用に関する日中比較 ...154

7.1 先行研究および本章の研究課題 ...154

(10)

7.1.1 スピーチレベルの使用に関する先行研究 ...154

7.1.2 本章の研究課題...155

7.2 調査方法 ...156

7.2.1 調査対象者...156

7.2.2 談話完成テスト(調査票)...158

7.2.2.1 対話相手と場面の設定...158

7.2.2.2 自由回答の設定 ...160

7.2.3 調査手順 ...161

7.2.4 回答の計算方法...162

7.3 談話完成テストの結果分析と考察 ...163

7.3.1 日中のスピーチレベルの使用傾向 ...163

7.3.1.1 上下関係からみる日中のスピーチレベルの使用傾向 ...165

7.3.1.2 親疎関係からみる日中のスピーチレベルの使用傾向 ...166

7.3.1.3 上下・親疎関係の組み合わせからみる日中のスピーチレベルの使用傾向 ...167

7.3.2 日中のスピーチレベルの使用状況 ...169

7.3.2.1 謝罪場面における日中のスピーチレベルの使用状況 ...169

7.3.2.2 依頼場面における日中のスピーチレベルの使用状況 ...172

7.3.2.3 断り場面における日中のスピーチレベルの使用状況 ...175

7.4 日本語教育への示唆 ...179

7.5 本章のまとめ ...180

8 章 中国国内の日本語教科書におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト の指導 ...181

8.1 先行研究および本章の研究課題 ...181

8.1.1 日本語教科書の分析に関する先行研究 ...181

8.1.2 本章の研究課題...182

8.2 調査方法 ...183

8.2.1 データ ...183

8.2.2 調査内容 ...183

8.3 『総合日本語』におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト ...184

8.3.1 『総合日本語』の概要 ...184

(11)

8.3.2 『総合日本語』におけるスピーチレベル ...185

8.3.3 『総合日本語』におけるスピーチレベル・シフト ...190

8.4 『標準日本語』におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト ...195

8.4.1 『標準日本語』の概要 ...195

8.4.2 『標準日本語』におけるスピーチレベル ...196

8.4.3 『標準日本語』におけるスピーチレベル・シフト ...201

8.5 『新編日本語』におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト ...204

8.5.1 『新編日本語』の概要 ...204

8.5.2 『新編日本語』におけるスピーチレベル ...205

8.5.3 『新編日本語』におけるスピーチレベル・シフト ...206

8.6 各日本語教科書の比較...207

8.7 日本語教育への示唆 ... 211

8.8 本章のまとめ ...212

9章 総合的考察 ...213

9.1 ディスコース・ポライトネス理論から見たスピーチレベルとスピーチレベル・シ フト...213

9.1.1 ディスコース・ポライトネス理論から見たスピーチレベル ...213

9.1.2 ディスコース・ポライトネス理論から見たスピーチレベル・シフト...215

9.1.3 スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの関連性...217

9.2 中国人日本語学習者の問題点 ...218

9.2.1 意識上の問題点...218

9.2.2 使用上の問題点...220

9.2.3 指導上の問題点...222

9.2.4 意識・使用・指導の関連性...223

9.3 本章のまとめ ...225

10章 結論...226

10.1 本研究の要約...226

10.2 本研究の意義...229

10.3 今後の課題 ...230

(12)

参考文献 ...231

付録 ...238

付録1 中国語のアンケート調査票 ...238

付録2 日本語のアンケート調査票 ...242

付録3 談話完成テストの調査票 ...246

謝辞 ...252

(13)

表目次

表1-1 学習者レベルの判断基準... 2

表1-2 ポライトネス効果の分類項目...11

表3-1 データの内訳 ... 44

表3-2 発話文末のスピーチレベルの分類項目 ... 47

表3-3 発話文末のスピーチレベル・シフトの分類項目 ... 48

表4-1 母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの使用頻 度と使用割合(%)... 59

表4-2 全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル の出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果 ... 60

表4-3 母語場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごとのスピーチレベル の出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果 ... 65

表4-4 母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル・シフト の使用頻度と使用割合(%) ... 67

表4-5 全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベ ル・シフトの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果... 68

表4-6 母語場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごとのスピーチレベ ル・シフトの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果... 72

表4-7 母語場面と接触場面における女性ベース話者の各スピーチレベルの使用頻度と 使用割合(%) ... 75

表4-8 母語場面と接触場面における男性ベース話者の各スピーチレベルの使用頻度と 使用割合(%) ... 75

表4-9 全体的に両場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの 出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果 ... 77

表4-10 母語場面と接触場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごとのス ピーチレベルの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果 ... 81 表4-11 母語場面と接触場面における女性ベース話者の各スピーチレベル・シフトの

(14)

使用頻度と使用割合(%) ... 84

表4-12 母語場面と接触場面における男性ベース話者の各スピーチレベル・シフトの 使用頻度と使用割合(%) ... 84

表4-13 全体的に両場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベ ル・シフトの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果... 86

表4-14 母語場面と接触場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごとのス ピーチレベル・シフトの出現回数に関するカイ二乗検定と残差分析の結果 .... 90

表6-1 留学経験者の一覧 ...134

表6-2 非留学経験者の一覧 ...135

表6-3 質問1の結果 ...137

表6-4 質問2の結果 ...138

表6-5 質問3の結果 ...138

表6-6 主要の日本語教科書におけるスピーチレベルの紹介(学習者の記憶) ...139

表6-7 質問6の結果 ...142

表6-8 質問7の結果 ...142

表6-9 質問8の結果 ...143

表6-10 質問9の結果 ...144

表6-11 質問10の結果 ...144

表6-12 質問13の結果 ...146

表6-13 質問14の結果 ...148

表6-14 質問15の結果 ...150

表7-1 日本語母語話者の一覧 ...156

表7-2 中国人日本語学習者の一覧 ...157

表7-3 日本語母語話者の発話文末におけるスピーチレベルの使用回数 ...164

表7-4 中国人日本語学習者の発話文末におけるスピーチレベルの使用回数 ...164

表7-5 謝罪場面における日中の回答例 ...170

表7-6 依頼場面における日中の回答例 ...173

表7-7 断り場面における日中の回答例 ...176

(15)

表8-1 中国国内の日本語専攻の大学生を対象とする日本語教科書 ...183

表8-2 チェック・リストの内容項目...184

表8-3 『総合日本語』におけるスピーチレベル...186

表8-4 『総合日本語』におけるスピーチレベル・シフト ...191

表8-5 『標準日本語』におけるスピーチレベル...197

表8-6 『標準日本語』におけるスピーチレベル・シフト ...202

表8-7 『新編日本語』におけるスピーチレベル...205

表8-8 『新編日本語』におけるスピーチレベル・シフト ...206

表8-9 3種の日本語教科書におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフト ...208

(16)

図目次

図4-1 全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベル

の分布... 59

図4-2 母語場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごと各スピーチレベル の分布... 63

図4-3 全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベ ル・シフトの使用割合 ... 67

図4-4 母語場面における女性ベース話者ごとと男性ベース話者ごと各スピーチレベ ル・シフトの使用割合 ... 71

図4-5 全体的に母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者が使用 するスピーチレベルの分布... 76

図4-6 母語場面と接触場面におけるベース話者ごとの各スピーチレベルの分布 ... 80

図4-7 全体的に母語場面と接触場面における女性ベース話者と男性ベース話者が使用 するスピーチレベル・シフトの使用割合 ... 85

図4-8 母語場面と接触場面における各女性ベース話者と各男性ベース話者のスピーチ レベル・シフトの使用割合... 89

図6-1 質問4の結果 ...140

図6-2 質問5の結果 ...141

図7-1 日中における発話文数の比較...163

図7-2 上下関係からみる日中の丁寧体と普通体の使用割合 ...165

図7-3 親疎関係からみる日中の丁寧体と普通体の使用割合 ...166

図7-4 上下・親疎関係の組み合わせからみる日中の丁寧体と普通体の使用割合 ...167

(17)

1 章 序論

本章では、本研究を行うに至った背景と問題の所在、研究の目的とその意義を述べる。

また、本研究で用いる理論的枠組みと分析概念を紹介した後、本論文の構成を概述する。

1.1 本論文の問題の所在

日本語母語話者は、対話相手との人間関係、話題の性質、場面状況などに応じて適切に スピーチレベル1を選択できる。さらに、スピーチレベル・シフト2を巧みに行いながら、コ ミュニケーションを効果的に進め、人間関係を円滑に保とうとしている(谷口2004a)。

一方、ACTFL(The American Council on the Teaching of Foreign Languages:全米外国語教 育協会)が規定している日本語学習者のOPI(Oral Proficiency Interview)の基準(表1-1)

によると、適切にスピーチレベルを使いこなすという社会言語学的能力は超級学習者に該 当する。スピーチレベルの運用の習得には時間がかかり、またスピーチレベル意識を持続 して会話を継続すること自体も難しく、日本語学習者には総じて困難な課題となっている。

1 研究者によって使用する用語が異なるが、本論文では「スピーチレベル」に統一する。なお、先行 研究を言及する際には元の文献の用語を用いる。本論文で用いる「スピーチレベル」用語の定義に ついて、詳細は2.1.3節を参照。

2 「スピーチレベル・シフト」の表記方法(中黒の有無)は文献によって異なる。本研究では「スピ

ーチレベル・シフト」と表記し、先行研究に言及する際は元の文献の表記に従う。

(18)

1-1 学習者レベルの判断基準

場面/話題 社会言語学的能力 語用論的能力(ストラテジー)

超級

フォーマル/インフォ ーマルな状況で、抽象的 な話題、専門的な話題を 幅広くこなせる。

くだけた表現もかしこ まった敬語もできる。

ターンテイキング、重要な情報 のハイライトの仕方、間のとり 方、相づちなどが巧みにでき る。

上級

インフォーマルな状況 で具体的な話題がこな せる。フォーマルな状況 で話せることもある。

主なスピーチレベルが 使える。敬語は部分的コ ントロールだけ。

相づち、言い換えができる。

中級 日常的な場面で身近で 日常的な話題が話せる。

常体か敬体のどちらか が駆使できる。

相づち、言い換えなどに成功す るのはまれ。

初級 非常に身近な場面にお いて挨拶を行う。

暗記した待遇表現だけ

ができる。 語用論的能力はゼロ。

(牧野他2001: 18-19を参照し筆者が整理した)

また、従来、日本語の文体を相手や場面に応じて使い分けることは日本語学習者にとっ て大きな課題であり、日本語教育の中でも習得が困難な課題の一つとされている(三牧

2007)。その中で、特に上級・超級話者であっても、日本語のスピーチレベルの運用能力に

不安を感じている学習者は少なくない(宮武 2009)。さらに、敬語体系とスピーチレベル 体系を有していない中国語を母語とする日本語学習者にとっては更に困難な課題である3

中国語を母語とする日本語学習者4のスピーチレベルとシフトの使用に関する困難が生

3 牧野他(2001: 24)は、英語などでは、日本語の用言に見られるような常体(ウチの空間でウチの 人に使うのでウチ形と呼ぶ)と敬体(ソトの空間でソトの人に使うのでソト形と呼ぶ)の区別がな いため、英語母語話者には待遇表現が非常に難しいと指摘しており、さらに、ウチ形が使えないと いうこと以外には超級の条件を全て満たしている被験者に何人も出会っていると述べている。だが、

中国語母語話者については言及されていない。

4 本論文では、「中国語を母語とする日本語学習者」を対象とするうえ、「中国語」の範囲について説 明する。中国語は様々な方言からなっており、全体的に北の方言と南の方言に差が大きいと言われ ているが、本論文では方言の差を問わず(台湾で使用する閩南語、客家語などを含む)、広い意味で の中国語を捉えることとした。また、台湾華語と中国大陸で使用される標準語である“普通话”に は、話し言葉ではイントネーションなどの感覚が異なるが、ともに日本語のようなスピーチレベル

(19)

じた根本的な原因には、現代中国語における敬語体系とスピーチレベル体系5にあると考え、

具体的に以下のように順序立てて説明する。

現代中国語における敬語体系について、輿水(1977)は、「中国語に体系的な敬語法が存 在しない」(p. 273)ということを指摘している。一方、中国語における敬語は文法的より も語彙的に表され、中でも旧中国の貴族豪紳に使われたあいさつ語6に大きな比重が占めら れていることを示している。また、体系的な敬語法が存在しない原因について、「かつて中 国で用いられていた敬語が、社会体制の変化により、ほとんどその生命を失った」(輿水, 1977: 273)のように述べている。

彭(1999a)は、中国の各時代の長編小説を対象に、14世紀から20世紀にかけて敬語使 用の変化を調査した。その結果、伝統的な敬語表現は19世紀から20世紀初頭にかけて急 激に減少し、20世紀半ばから体系として完全に消えたことが究明されている。さらに、敬 語が減少した原因について、「儒教の礼法に基づく従来の敬語体系は、近現代中国の社会体 制や教育システム、価値観などの激変によって、姿を消してしまったのである」(彭, 1999a:

63)のように結論付けている。

また、輿水(1977)は、現代中国語における語彙的な敬語には、人称代名詞、親族名称、

敬語表現をつくる上で活用される語彙、丁寧表現などが挙げられると示している。それと ともに、現代中国語において、間接表現、親族呼称の転用、人称代名詞の回避など発話ス トラテジーによる丁寧さの表現は依然として存在すると彭(1999b: 63)も強調している。

すなわち、輿水(1997)と彭(1999a、1999b)は、現代中国語における敬語体系に関す る結論が一致していると言える。

現代中国語における語彙的な敬語について、輿水(1977: 278)によると、二人称代名詞

「你」7は目上にあたる際、例えば生徒が先生に使える一方、「李老师,你也去吗?」(李先

という文法項目に該当するものが見当たらない。そのため、中国語を母語とする日本語学習者は母 語が様々であるにもかかわらず、発話末のスピーチレベルとそのシフトの使用に影響しないことが 判断される。

5 現代中国語は様々な方言からなっているが、本論文では、標準語である“普通话”における敬語体 系とスピーチレベル体系について検討する。

6 輿水(1977: 273-274)によると、例えば、「贵姓?」(ご尊名は?)、「敝姓钱」(銭と申します。)、

「哦,久仰久仰!还没请教台甫……」(あ、ご高名はかねがねうかがっております。で、ご雅号は…

…)などが挙げられる。

7 輿水(1977)は、“nǐ(你)”という「ピンイン(漢字)」の表記法を使用しており、言語形式の提 示を「nǐ」というピンインによって示した。だが、本論文では、先行研究にある中国語を「 」と

(20)

生、あなたもいらっしゃいますか?)のように、目上に「先生」と呼びかけてから、「你」 を使うことも少なくないと提示している。

中国語における二人称には、“你”のほかに、“您”という敬語がある。郭(1973)は、

“您”について、「您はもともと北京方言で、你は普通体で、您は丁寧体である。北京の人 たちが話をするとき、年長者や、先生や、面識のない人には敬意を表して您と言い、你と 言わない。現在、您という言葉はすでに共通語に入っている」(筆者訳)8(p. 16)のように 述べている。

現代の中国語では、親族名称は、親族関係のない人にも使われ、親しみや敬意を表すこ とができることは、福地(1974)により提示されている。例えば、中国の子供たちは、面 識のない大人に対して「叔叔」(おじさん―もともとは父の弟を指す)や「阿姨」(おばさ ん、もともとは母の姉妹を指す)と呼びかけ、さらに、相手の職業が分かっていれば、「工 人叔叔」(労働者のおじさん)とか「护士阿姨」(看護婦さん)と呼ぶこともあることが、

輿水(1977: 280)によって提示されている。

また、彭(2001: 116)は、中国社会において、呼称を用いて人間関係を確認し合うこと が「礼貌」を示す重要な手段であると示している。さらに、「姓+職業・身分」と「老・小

+姓」が職場での呼称の基本的なパターンであると述べている。

そして、敬語表現を作る上で活用される語彙として、人に何かを勧めたりお願いしたり する場合に用いる「请」、人間を指し示したりその数量を計ったりする場合の類別詞「位」、 人の動作・行為の敬意につながる「特意」、「特地」(とくに、わざわざ)などの副詞(輿水,

1977: 285-287)が見られる。

さらに、輿水(1977: 290)は、「中国語も、婉曲法を人間関係の潤滑油とし、いわば消極 的に敬語表現を成り立たせる傾向がある」と述べている。例えば、動詞に不定数量詞を付 けたり、動詞の重ね型を作ることによって、文末の語気を和らげ、丁寧な感じを出すこと ができる。具体例として、「给我介绍一下」(ちょっと紹介してください。)、「我想问问你」

(ちょっとおたずねします。)が挙げられる。また、文末に「好不好?」、「好吗?」、「好吧?」

などを付け加え、相手に相談を持ちかけるような語気にすることによって、丁寧な感じを 表する。

以上で見てきた通り、中国語における敬語は語彙的に多く表されるが、日本語のように 文法的に系統的な敬語体系を持っていない。

いう表記法に統一して示し、本文にある中国語の言語形式を“ ”の記号によって示す。

8 以下、日本語以外の文献からの引用は全て筆者訳とする。

(21)

一方、現代中国語におけるスピーチレベル体系について、佐治(1983)は「現代中国語 には、普通体と丁寧体の区別はなく、例えば『ない』も『ありません』も『ございません』

もみんな形の上では『没有』になってしまうのである」(p. 34)と述べている。

(1)A 这是什么?

B 那是饭碗。

(2)A これは何か。

B それは茶わんだ。

(3)A これは何であるか。

B それは茶わんである。

(4)A これは何ですか。

B それは茶わんです。

(5)A これは何でございますか。

B それは茶わんでございます。

(6)A これは何ですか。

B それは茶わんでございます。

(7)A これは何でございますか。

B それは茶わんだ。 (蘇, 1981: 15-16、用例番号は改めた)

蘇(1981)によると、(1)の中国語を日本語に訳すと、(2)~(7)などになり、日本語 では「だ体」「である体」「です・ます体」「でございます体」と使い分けるところが、中国 語では全部同じになり、それぞれが翻訳の際に頭を痛める問題であることを示している。

また、佐治(1983)は、日本語で話を始めるにあたって、まず話し手の聞き手に対する 関係の判断9をして文体を決めるのに対し、「中国語では、それらにうまく対応する文体の 別がないということで、中国人が日本語を話す場合には、普通体と丁寧体の混乱が起こる 可能性がある」(p. 40)ことを提示している。

以上のことを理由として、中国語を母語とする日本語学習者は、例えば日本語の会話に

9 佐治(1983: 40)によると、「だ体」「である体」「です・ます体」「でございます体」の別は文体の 別であるとともに、話し手の聞き手に対する関係の把握が前提となっている。話し手は常に相手が 自分にとって、親しい身内の人間か、あまり親しくないよその人間かなどといったようなことを判 断しながら文体を使い分けている、とされている。

(22)

おける丁寧体と普通体の使い分け、さらにその切り替えをうまく行えず、日本語母語話者 とのミス・コミュニケーションが起き、円滑なコミュニケーションができなくなる恐れが ある10。さらに、対人関係の構築・維持の面に影響を及ぼし、「社会文化能力」と「社会言 語能力」(ネウストプニー1995)の習得に支障を来す可能性もある。そこで、中国語を母語 とする日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用上の難点と問題点 を見出すことは極めて重要である。

本研究では、中国語を母語とする日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シ フトに焦点を当て、母語場面と接触場面の初対面会話におけるスピーチレベルとスピーチ レベル・シフトの使用傾向と使用実態を分析・解明する。また、学習者のスピーチレベル とスピーチレベル・シフトに関する使用意識、使用状況と指導状況も考察する。これらの 調査を通して、今後の中国国内の日本語教育、特に中上級段階の学習者に対するスピーチ レベルとスピーチレベル・シフトの指導に寄与できればと考える。

1.2 本研究の目的と意義

本研究では、以下の点を明らかにすることを目的とする。

【研究目的】

中国語を母語とする日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトに関する 使用上、意識上、指導上の難点と問題点を明らかにする。

さらに、今後の日本語教育においては、主に以下の2つの面に意義があると考えられる。

【研究意義】

1) 学習者側:使用と意識の2面に現れている問題点を明示することにより、学習者に 誤用や意識不足などの問題点を認識させ、今後の学習の内省に役立つ。

2) 指導者側:中国国内の学習者に対するスピーチレベルとスピーチレベル・シフトの 指導に寄与することと、新たな教授法の開発や教科書開発に貢献する。

10 日本語学習者が、丁寧体と普通体、さらにスピーチレベル・シフトをうまく使用できないという ことは、命題内容の情報には影響しないが、日本語母語話者は違和感を覚え、人間関係の構築に影 響を及ぼし得るため、円滑なコミュニケーションができなくなる。

(23)

1.3 理論的枠組み―ディスコース・ポライトネス理論

宇佐美(2001a)は、ポライトネス11を「文レベル、発話行為レベルで捉えている」(p. 24) ことを問題点の1つとして指摘し、文・発話行為レベルを超えた「談話」レベルの分析に 重点を置くべきであるというディスコース・ポライトネス理論(Discourse Politeness Theory、

「DP理論」と略)を唱えている。

本節では、ディスコース・ポライトネス理論の基本的な考え方と、本論文で用いた鍵概 念12を中心に説明する13

1.3.1 「ディスコース・ポライトネス(Discourse Politeness)」

「ディスコース・ポライトネス」とは、「一文レベル、一発話行為レベルでは捉えること のできない、より長い談話レベルにおける要素、及び、文レベルの要素も含めた諸要素が、

語用論的ポライトネスに果たす機能のダイナミクスの総体である」(宇佐美, 2001a: 11)と 定義している。Brown & Levinson(B&Lと略)のポライトネス理論と比較して、「文/発話 行為レベル」から「談話レベル」へと分析単位を拡大しただけではなく、談話行動を構成 する諸要素の働きと、それら要素の機能の「総体」を主要な研究対象に包含できることが 大きな特徴である。宇佐美(2001a、2001b、2002)によると、具体的な分析対象として、

スピーチレベルのシフト、話題導入の頻度、あいづちや終助詞の使用頻度などが挙げられ ている。

本研究では、母語場面と接触場面の初対面会話における発話末のスピーチレベルとスピ

11 宇佐美(2001a)は、Brown & Levinsonの言う “politeness” の正確な概念を表すために、日本で片 仮名表記がよく使われる「ポライトネス」を用いた。なお、「ポライトネス」用語について、生田(1997) により提示された。

12 宇佐美(2008: 158-164)は、DP理論の鍵概念には、①「ディスコース・ポライトネス」、②「基 本状態」、③「有標ポライトネス」と「無標ポライトネス」、④「有標行動」と「無標行動」、⑤「ポ ライトネス効果」、⑥「見積もり差(De値)」と、行為の適切性、ポライトネス効果の関係、⑦「相 対的ポライトネス」と「絶対的ポライトネス」の7つがあると提示している。

本研究では、研究目的に照らしたうえで、宇佐美(2008)の提唱した①~⑤の鍵概念と分析観点

(「グローバルな観点」と「ローカルな観点」)を用いて分析する。

13 本節の記述内容は、宇佐美(2001a、2001b、2002、2008など)の提唱した「ディスコース・ポラ イトネス理論」を基にして書かれた他の論文、特に李(2008)の内容・表現と重複する部分が生じ ることは当然であり、避けられなかった。本論文の内容は直接に李(2008)に基づいているわけで はないので、記述が重複する部分について個々には注記しなかった。

(24)

ーチレベル・シフトの使用傾向、スピーチレベル・シフトのポライトネス効果を比較する ことを目的とする。

1.3.2 「基本状態(default)」

宇佐美(2008)によると、「基本状態」には、「談話の基本状態」と「談話要素の基本状 態」という2種類がある。「談話の基本状態」とは、「特定の『活動の型』における談話の

『典型的な状態』」(宇佐美, 2008: 159)であるのに対し、「談話要素の基本状態」とは、「そ の談話の基本状態を構成する要素としての『特定の言語行動や言語項目それぞれの典型的 な状態』」(宇佐美, 2008: 159)であると定義している。

また、宇佐美(2008)によると、「談話の基本状態」は、「理論的観点から想定されたも ので、談話内の諸要素を特定するものではない」(p. 159)と指摘されている。一方、「談話 要素の基本状態」とは、「個々の研究において研究対象として設定した要素について、同定・

算出するものである」(宇佐美, 2008: 159)としている。

具体的には、「ある活動の型の談話における重要要素の構成比率の基本状態」とは、例え ば、本研究の研究対象であるスピーチレベルの構成比率が、敬体6:常体1:スピーチレベ ルのマーカーなし 314、であるのが基本状態であるという捉え方(宇佐美 2001b)を言い、

「談話内の『特定要素』の基本状態」とは、スピーチレベルという要素を例に取ると、成 人の初対面二者間会話においては「敬体使用率が約6割」であるのが基本状態であるとい う捉え方(宇佐美2001a)である。

ディスコース・ポライトネス理論が新たに組み込み、これまでのポライトネス研究では 扱われてこなかった最も重要な観点は、「基本状態」を「媒介変数(parameter)」として扱 うことによって、ポライトネス効果を相対的に捉えるということである。

本研究では、ディスコース・ポライトネス理論を用い、母語場面と接触場面の初対面会 話におけるスピーチレベルの「基本状態」、すなわち、スピーチレベルの構成比率を計算し、

「無標スピーチレベル」を同定することによって、そこから離脱したスピーチレベル・シ フトがもたらすポライトネス効果を捉える試みを行う。

14 宇佐美(2001a)は、全ての発話文を分析対象とし、発話末スピーチレベルの構成比を算出した。

例えば、「敬体6:常体1:マーカーなし3」である場合、使用率が最も多い「主要スピーチレベル」

は敬体であると認定できる。さらに、敬体の使用率が50%を超えているため、宇佐美(2001a)の定 義に従い、「無標スピーチレベル」も敬体であると同定できる。

(25)

1.3.3 「 有標ポライトネス(marked politeness)」と「無標ポライトネス(unmarked politeness)」

ディスコース・ポライトネス理論では、ポライトネスを「有標ポライトネス」と「無標 ポライトネス」とに分けて考察する。

宇佐美(2008)は、「有標ポライトネス」について、以下のように定義している。

Brown & Levinson(1987)のポライトネス理論におけるポライトネスは、基本的には、

依頼行為などのように、相手のフェイス15を脅かす「フェイス侵害行為」16を行わざる を得ないときに、「相手のフェイス侵害度を少しでも軽減するためにとるストラテジ ー」として捉えられている。このような「フェイス侵害度の軽減行為」としてのポラ

イトネスを、ディスコース・ポライトネス理論では、「有標ポライトネス」と呼ぶ。

(宇佐美, 2008: 160)

一方、「フェイス侵害度の軽減行為」とは異なるポライトネスで、フェイス侵害行為が生 じていない状態にある日常会話におけるポライトネスを捉える必要がある。それは、「特定 の状況や場面において期待されている言語行動」(宇佐美, 2008: 160)と関係し、特定の状 況において、「あって当たり前で、それが現れないときに初めてそれがないことが意識され、

ポライトネスではないと捉えられる」(宇佐美, 2008: 160)というタイプのポライトネスを、

ディスコース・ポライトネス理論では、「無標ポライトネス」と呼ぶ。

本研究では、ディスコース・ポライトネス理論を用い、談話レベルから母語場面と接触 場面の初対面会話におけるスピーチレベルの「基本状態」は、「無標ポライトネス」である と捉えることができる。

15 Brown & Levinson(1987田中典子監訳2011: 17)は、「フェイスは、やりとりの参与者が互いに帰 する 2つの特定の欲求(「フェイス欲求」)、すなわち、自らの行為を妨げられたくないという欲求

(ネガティブ・フェイス)と、(何らかの点で)認められたいという欲求(ポジティブ・フェイス)

からなる」と述べている。

16 フェイス侵害行為は、Face Threatening Act(FTAと略す)と称して、注15で示す「ネガティブ・

フェイス」と「ポジティブ・フェイス」を脅かす可能性のある行為である。

(26)

1.3.4 「有標行動(marked behavior)」と「無標行動(unmarked behavior)」

宇佐美(2008: 161)によると、談話の「基本状態」は、ポライトネスの観点からは「無 標ポライトネス」であると捉えられる。

また、「無標行動」と「有標行動」について、以下に定義している。

談話の「基本状態」を構成する要素としての言語行動を「無標行動」、「各々の要素の 基本状態から離脱した言語行動(発話行為レベル)」、或いは、「基本状態とは異なる一 連の行動(談話レベル)」を、「有標行動」と呼ぶ。 (宇佐美, 2008: 161)

本研究では、ディスコース・ポライトネス理論を用い、母語場面と接触場面の初対面会 話におけるスピーチレベルの「基本状態」を基に、そこから「有標行動」への「動き」に 焦点を当てている。

なお、スピーチレベルの「基本状態」を指す構成比率の計算に関して、宇佐美の一連の 研究、李(2008)と三牧(2013)は異なっている。宇佐美の一連の研究と李(2008)は、

スピーチレベルの「基本状態」を、「敬体:常体:スピーチレベルのマーカーなし」という 構成比率を指す。一方、三牧(2013)は、文末スピーチレベルが明示された丁寧体と普通 体という2種のみの構成比率を指す。しかし、スピーチレベルのマーカーなしを入れた計 算である場合、丁寧体あるいは普通体の割合が50%を超えない可能性が考えられる。

本研究では、上記の点を考慮したうえで、三牧(2013)のスピーチレベルの構成比率を 採用する。例えば、スピーチレベルの「基本状態」が「丁寧体7:普通体3」である場合、

普通体を使うこと、すなわち、ダウンシフトすることが「有標行動」と捉えられる。

1.3.5 「ポライトネス効果(politeness effect)」

宇佐美(2008)によると、ディスコース・ポライトネス理論では、「ポライトネス効果」

とは、「談話の基本状態や話し手の言語行動、選択されたストラテジーに対する話し手と聞 き手の『見積もり差(Discrepancy in estimations: De値)』17によって引き起こされる聞き手 側からの認知」(p. 161)のことである。また、ある特定の「談話」の「基本状態」から離 脱や回帰という言語行動の動きにより、実質的な「ポライトネス効果」が生み出されると している。

17 「見積もり差(De値)」とは、「話し手と聞き手の、話し手の言語行動のフェイス侵害度について

の見積もりの差」(宇佐美, 2006: 19)を数値化して得られた値である。

(27)

本研究では、スピーチレベルを例に取ると、初対面会話では丁寧体が無標スピーチレベ ルである場合、普通体を使用すること、すなわち、ダウンシフトすることが「有標行動」

であると捉えられる。ディスコース・ポライトネス理論では、「有標行動」であるダウンシ フトは「ポライトネス効果」が生み出されると理解できる。

李(2008: 181)は、宇佐美(2008)を参照し、「ポライトネス効果」の分類項目を以下の ようにまとめている。

1-2 ポライトネス効果の分類項目

PP: Plus politeness effects プラス・ポライトネス効果:心地よい、丁寧だと感じ

るという効果

NP: Neutral politeness effects

ニュートラル・ポライトネス効果:強調や話題転換な どのように、特に丁寧と感じるわけでも不愉快でもな い効果:言語的談話効果等

MP: Minus politeness effects マイナス・ポライトネス効果:不愉快な、失礼だと感

じる効果

(李2008: 181の表45による引用)

本研究では、ディスコース・ポライトネス理論を用い、母語場面と接触場面の初対面会 話における「有標行動」と捉えられるスピーチレベル・シフトがもたらす効果を、宇佐美

(2008)の分類に従い、「プラス・ポライトネス効果」、「ニュートラル・ポライトネス効果」、

「マイナス・ポライトネス効果」の3つに分けて分析する。

ただし、「プラス・ポライトネス効果」を表す「心地よい」と「丁寧」の2用語は、使用 上の矛盾が考えられるため、本研究ではどちらかを用いて分析することとした18

また、ポライトネス効果が二次元的連続性を有するのであれば、その線上でニュートラ ル(ゼロ)ということは効果がないことになる。その場合、ポライトネス上は何の効果も ないのか、+/-軸上ではない次元の効果があるのかについて分析する必要がある。

さらに、初対面会話では、不愉快な、失礼だと感じる「マイナス・ポライトネス効果」

が出にくいと考えられるが、接触場面でその可能性があり得るため、本研究では「ポライ トネス効果」を3分類した。

18 例えば、普通体やぞんざいな言い方などを用いて相手と親密さを示そうとしている時、相手に心 地よく感じられるが丁寧ではない。そのため、「心地よい」と「丁寧」を分けて分析する必要がある。

(28)

1.3.6 「グローバルな観点」と「ローカルな観点」

宇佐美(2008)は、「グローバル」と「ローカル」という2つの観点を含む会話の分析を

「総合的会話分析」19と呼ぶ。

「ローカルな観点」からダウンシフトの機能を捉えるとは、「ダウンシフトした『当該の 一発話の機能』を、その前後の発話の内容などの文脈を考慮して解釈する」(宇佐美, 2008:

152)ということである。そして、「そのダウンシフトは、相手に共感を示したり、相手と の心的距離を縮めるという機能を持つ」(宇佐美, 2008: 152)というような分析を「ローカ ルな分析」という。

また、「グローバルな観点」からの分析には、定量的分析と定性的分析の2側面がある。

「定量的分析」とは、「話者の年齢や性などの当該会話外の要因の影響を考慮に入れた」(宇

佐美, 2008: 152)ということである。また、「定性的分析」とは、「当該の会話の流れやその

結末などを考慮に入れたグローバルな観点からの定性的な分析を指す」(宇佐美, 2008: 152)

と述べている。

本研究では、「グローバルな観点」と「ローカルな観点」という概念を用い、母語場面と 接触場面の初対面会話におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトを比較分析する。

ただし、宇佐美(2008)の概念と異なる部分があるため、具体的に以下のように説明する。

1)「グローバルな観点」:宇佐美(2008)は、「グローバルな観点」からの分析には、定 量的分析と定性的分析の2側面があると述べている。一方、本研究では、「グローバルな観 点」を、スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用頻度と使用割合などの数量的な 観点であると規定する。

2)「ローカルな観点」:本研究では、宇佐美(2008)と同様、「ローカルな観点」を、前 後の発話の内容などの文脈からダウンシフトの機能を分析する観点であると規定する。

19 「談話の定量的分析―言語社会心理学的アプローチ」(宇佐美1999)に、ローカル分析、グローバ

ル分析の考え方(宇佐美2006)を明確に組み込んだものを「総合的会話分析」と呼ぶ。

(29)

1.4 本論文の構成

本論文は10章から構成され、第1章では第1 節、第2節で論文を執筆するに至った背 景、問題の所在、目的と意義を述べ、第3節では本研究が拠って立つ理論的枠組みと分析 概念、すなわち、宇佐美まゆみが提唱する「ディスコース・ポライトネス理論」とそのも とにある鍵概念と分析観点について、本研究がどういう立場でこれらの理論の概念を使用 するかを説明する。そして第4節で本論文の構成を紹介する。

第2章は、先行研究とその問題点、そして本研究の課題を述べる。第1、2、3、4、5節 では、5 つの部分から先行研究を概観する。用語の整理、用語の分類基準と分析単位の検 討、日本語母語話者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトに関する先行研究、中国 語を母語とする日本語学習者のスピーチレベルとスピーチレベル・シフトに関する先行研 究、母語話者と学習者の比較研究を概観する。そして、第6節で先行研究の問題点をまと めた後、第7節において、先行研究の問題点に基づく本研究の課題を提示する。

第3章において、本研究で使用する研究方法を提示する。具体的に、データ収集、分析 単位の認定基準、スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの分類基準、「無標スピーチレ ベル」の認定基準、スピーチレベルとスピーチレベル・シフトの使用割合の計算方法、量 的分析に用いるコーディングの方法、コーパスの記号凡例を述べた後、本研究の分析手順 を2つの観点に分けて詳細に提示する。

第4章と第5章は、本研究が取り込んだ調査と分析・考察の結果を量的・質的双方の面 からまとめる。第4章で、「グローバルな観点」(シフトの頻度など数量的な観点)から、

母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者が使用するスピーチレベルとスピーチ レベル・シフトを比較する。また、母語場面と接触場面の初対面会話において、母語話者 と学習者のベース話者が使用するスピーチレベルとスピーチレベル・シフトを比較する。

第5章で、「ローカルな観点」(個別のシフトの解釈)から、母語場面と接触場面の初対面 会話におけるスピーチレベル・シフトの「ポライトネス効果」について比較し、学習者の ベース話者の問題点を見出し、今後の日本語教育への示唆を提示する。

第6章は、中国人日本語学習者(30名)を対象として、スピーチレベルとスピーチレベ ル・シフトに関する使用意識について、アンケート調査(選択式と自由記述式を含む)を 行うものである。これにより、中国人日本語学習者の使用意識上の問題点を見出す。

第7章は、日本語母語話者(30名)と中国人日本語学習者(30名)の使用するスピーチ レベルについて、具体的に様々な場面設定を行う談話完成テストによる比較研究である。

対話相手との人間関係(上下関係、親疎関係、上下・親疎関係の組み合わせ)と場面(謝

(30)

罪、依頼、断り)によって、日中が発話末で使用するスピーチレベルの差異を明らかにす ると同時に、中国人日本語学習者のスピーチレベルの使用上の問題点を究明する。

第8章は、中国国内の日本語専攻の大学生が使用している日本語教科書(3種)を分析 材料として、それらの教科書におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトに関する 指導の方法をそれぞれ検討するうえで、各教科書の指導上の問題点を指摘する。さらに、

今後の日本語教育への留意点を提示し、新たな教授法への開発に示唆を与える。

第9章は、第4章と第5章の結果を、ディスコース・ポライトネス理論に基づき、母語 場面と接触場面の初対面会話におけるスピーチレベルとスピーチレベル・シフトを総合的 に考察する。また、第6章から第8章までの結果を、中国人日本語学習者の意識上・使用 上・指導上の問題点として総合的に考察する。

最後に、第10章において、本研究で明らかになったこと、明らかにならなかったこと、

今後明らかにすべきであることと、本研究の意義を述べるものとする。

(31)

2 章 先行研究の概観および研究課題

本章では、本研究を進めるに当たって、用語の整理、用語の分類基準と分析単位の検討、

日本語母語話者のスピーチレベル(シフト)、中国語を母語とする日本語学習者のスピーチ レベル(シフト)、母語話者と学習者の比較に関する先行研究をまとめたうえで、先行研究 の問題点を指摘し、研究課題を提示する。

2.1 用語の整理

スピーチレベルに関する研究においては、スピーチレベルをはじめとした多様な類似用 語が用いられてきた。その中では、「スピーチレベル」(英語表記の “speech level” を含む)

が最も多く採用されている(Ikuta 1983、Obana 2016、宇佐美1995など、Usami 2002、陳

2003、陳2004a、佐藤・福島1998、佐藤2000、上仲2007、三牧2007、三牧2013など)。

また、類似用語として、「スピーチスタイル」(伊集院2004、岡野2000、今村2014)、「ス タイル」(松村・因2001、李2003)、「待遇レベル」(三牧1989など、江口1999、佐藤・福 島199820)、「敬語レベル」(生田・井出1983)、「文体」(岡本1997)などが挙げられる。

上記のような用語は、定義、扱う範囲とニュアンスが異なるため、以下に先行研究を概 観し、本論文における用語としていずれが適切かを検討した後、本論文で使用する用語の 定義について規定する。

2.1.1 「スピーチレベル」

先行研究においては、「スピーチレベル」に関する明示的な定義が見られるものは多くな い。管見の限り、谷口(2004a、2004b)と岡部・蒲谷(2000)がある。

谷口(2004a)は、「スピーチレベル」を以下のように定義している。

ある「談話」において選択される文末文体(「ですます体」・「非ですます体」)や敬語

(いわゆる尊敬語・謙譲語)の使用、不使用、終助詞(「ね」、「よ」、「わ」、など)の 使用・不使用による「丁寧さ」のレベルであると規定する。 (谷口, 2004a: 117)

20 佐藤・福島(1998)は、同一論文内で「スピーチレベル」と「待遇レベル」の両方を使用してい た。その定義と使用範囲に関する相違については、2.1.2.3節を参照のこと。

(32)

すなわち、谷口(2004a)は「スピーチレベル」を、文末スピーチレベル、文中の語彙、

文末の終助詞などのような多様な要素と関連付けて扱っていることが見られる。なお、谷 口(2004b)も同様な定義と扱いを用いた。

また、「スピーチレベル・シフト」とは、谷口(2004a)は、次のように定義している。

「ですます体」を基調とする談話の中で、任意の発話が「非ですます体」に変化する ことを指すものとする。 (谷口, 2004a: 118)

谷口(2004a)は、以上の定義が示したように、「ですます体」から「非ですます体」へ と変化する要因に重点を置いたにもかかわらず、その逆の「非ですます体」から「ですま す体」への変化をもシフトの範囲内に扱った。すなわち、スピーチレベル・シフトを双方 向に扱っているのである。

さらに、シフトが前後の発話との関係をみると、谷口(2004a)は、日本語の講演の談話 を分析資料としたため、自分の発話のみにシフトが生じ、すなわち、同一話者によるシフ トのみを扱っている。一方、日本語教材におけるスピーチレベル・シフトを分析した谷口

(2004b)は、谷口(2004a)と同様な定義と方向性を用い、「ですます体」を基調とする会

話の中で「非ですます体」が混用された箇所を分析対象とするため、同一話者内に生じた シフトと、異なる話者間に生じたシフトを問わず全て取り扱っている。

一方、岡部・蒲谷(2000)は、待遇コミュニケーションの観点から、「スピーチレベル」

を「ある『談話』において選択される『表現の待遇度』のこと」(p. 112)と規定した上で、

次のように定義している。

「スピーチレベル」は、その「文話」21における「人間関係」・「場」・「題材・内容」・

「表現形態」などの諸条件によって決まり、狭義の「敬語」をはじめ、語彙の選択・

表現方法・「文話」の構成に至るまで、広く反映されるものだと考える。

(岡部・蒲谷, 2000: 112)

すなわち、岡部・蒲谷(2000)は「スピーチレベル」を、待遇度と関連付けたうえで、

待遇コミュニケーションにおけるいくつかの概念的尺度(「人間関係」「場」「題材・内容」

21 蒲谷他(2002: 22)によると、「文話」について、「文章・談話の総称として『文話』という術語を 用いている」と述べている。

表 1-1   学習者レベルの判断基準  場面/話題  社会言語学的能力  語用論的能力(ストラテジー) 超級 フォーマル/インフォーマルな状況で、抽象的 な話題、専門的な話題を 幅広くこなせる。  くだけた表現もかしこまった敬語もできる。  ターンテイキング、重要な情報のハイライトの仕方、間のとり方、相づちなどが巧みにできる。  上級 インフォーマルな状況で具体的な話題がこな せる。フォーマルな状況 で話せることもある。  主なスピーチレベルが使える。敬語は部分的コントロールだけ。  相づち、言い換えがで
表 3-1   データの内訳  データの名称  話者の組み合わせ  データ数 総発話数 <データ 9 >  台湾人学習者ベース話者 (上級男性、上級女性)と 日本人(年上、同等)の初対 面同性同士雑談 女性ベース話者
表 4-1   母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者のスピーチレベルの使用頻度 と使用割合( % )  女性ベース話者  スピーチレベル 男性ベース話者  スピーチレベル 丁寧体  普通体  丁寧体  普通体  JFB021  対目上  対同等  64 ( 94.1 )  53 ( 63.9 )  4 ( 5.9 ) 30(36.1 )  JMB004  対目上 対同等  45 ( 95.7 ) 35(81.4)  2 ( 4.3 ) 8(18.6 )  JFB022  対目上  対同等  75(
表 4-2 によると、全体的に母語場面における女性ベース話者と男性ベース話者は、目上 と同等に対して使用する丁寧体と普通体の回数に 1 %の有意水準で有意であった(χ 2  (3) =  91.504 , p<.01) 。なお、残差分析の結果、女性ベース話者は、同等に対して丁寧体を有意に 少なく、普通体を有意に多く使用していることが観察された。一方、男性ベース話者は、 対目上と対同等を問わず、全て丁寧体を有意に多く、普通体を有意に少なく使用している ことがわかった。  すなわち、女性ベース話者は、初対
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参照

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