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第 4 章 結果と考察―日本語専攻学習者―

4.4 各学習者の学習軌跡―A03 と A05 を除く―

4.4.10 学習者 A12

A12は日本語専攻に配属されたが、最初から「特に抵抗がなかった。流れに任せれば良 い。(不是特别反感,一切随缘。)(質問紙調査/20110920)」というように、日本語専攻を受 け入れる姿勢を見せていた。大学に入学し、「最初は新鮮だと感じていた。高校時代は英 語の成績が良くなかったが、日本語学習の場合は、みんなスタートが同じだから。(感觉很 新鲜,之前学习英语的记忆并不太好,但觉得日语还好,大家起点一样。)(質問紙調査/20150524)」

とあるように、日本語に新鮮味を感じていたと同時に、皆が同じレベルから開始した日本 語学習に安心感があったことが分かる。

高校時代は理系であったため、周りのルームメートがみんな転専攻しようと思っている のを見て、大学入学後、転専攻試験の受験勉強の教科書を購入した。「大学入学前、でき

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れば転専攻したいと思っていた。今はやってみたいが、できなくても大丈夫だ。もし、転 専攻するなら、科学研究にずっと憧れているので、機械工学専攻に転入したい。(之前是想 能转最好 ,现在有点一般想,转不成也没关系,一直比较向往那种做科学研究的东西。想转到机械。(質 問紙調査/20111006)」というように心境が変化していた。変化の理由について、「総合日 本語の担当の先生から将来はどうなるか分からないが、とりあえず現在やっていることを しっかりやらないといけないと教わった。私もそれに賛同する。(综日老师Y老师教导我们不 管将来什么打算,首先要将手头的事搞好,我很赞同。(質問紙調査/20111006)」とあるように、

教師からの影響で現在の専攻である日本語を主として学習することと決めた。それだけで はなく、A12は転専攻試験の科目にある英語が得意ではないという心配もあった。また、

身についた日本語を無駄にしたくないことも転専攻の決意が弱まった原因である。A12の 転専攻試験の受験勉強は主に、数学の授業で微分積分を学習し、それ以外の時間でも時々 学習するようにしていた。

一年生の上半期時の記述式質問紙調査や日本語専攻学習調査票から分かるように、A12 は授業外での日本語学習の時間が短かった。下記の日常調査票はA12の授業終了後の活動 を綴ったものである。

2011年度日本語専攻学生日常調査票 姓名 A12 2011-11-28(月) 2011-11-29(火) 2011-11-23(水) 2011-11-24(木) 2011-11-25(金)

学習 内容

精神 状態

学習 内容

精神 状態

学習 内容

精神 状態

学習 内容

精神 状態

学習 内容

精神 状態 放

課 後

( 時 間 帯 も

授 業 終 了 後 教 室 に 残 っ て 少 し 授 業 内 容 を 復習した。その 後寮に戻り、洗 濯 な ど を や っ た

10 時以降日記 をつけていた

(在教室继续复 习了一会儿,回宿 舍收东西,洗衣 服,开箱子 10 点多以后开始 写东西)

他のこ とをち ょっと やって 日本語 を勉強 した

做 了 一 些 杂 事,看日 语)

眠 か っ た の で 、 あ ま り 集 中 し て い な か った

点 困 没 看 多少)

父 母 に メ ー ル した PowerP oint(課 外活動)

作成 読書

给 爸 妈 发 短 PPT 看书)

悲 し か っ た

郁 闷 的)

欠落 欠落 晩ご飯の 後、叔母 と長電話 した

一 起 吃 晚饭,回来 后 和 姑 姑 通话)

戸 惑 っ て い た

点 纠 结)

記録が欠落している一日以外、A12は授業外にほとんど日本語学習を行っていなかった ことが分かった。上記の学習者日常調査票は、A12の四年間の日本語学習の中では特殊な 例であるが、一年生の上半期では、他の人の様子も併せて考えると典型的な例と言っても 過言ではないだろう。A12は当時、転専攻するかしないかで悩んでいた。A12本人として

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は、転専攻したくなかったが、A12の家族としては、やはり工学のほうが良いから転専攻 するようにと勧めてきていた。調査票の中で、A12が自分の父母叔母と連絡していたこと が分かるが、これは転専攻のことで揉めていたのである。転専攻のことでA12は、家族と 一時期議論していた。その後、A12は家族を説得し、転専攻しないことにした。この時期、

日本語の聞き取りテストが定期的に行われており、成績が良くなかったことに対して、「基 本的には試験前しか暗記していなかった。平日に意識的に暗記しようとは思っていなかっ たからだ。(基本上是临时抱佛脚,因为平时都不想刻意去记。)(質問紙調査/20111121)」と説 明している。授業外での学習時間が少なかったが、これは日本語学習より他のことを優先 してやっていたからである。授業外での時間配分は、日本語学習と他のこととの比率は3:7 である。大学生活については、「大学は勉強するだけのところではない。(大学不仅仅是学 习的地方。)(質問紙調査/20110920)」と説明している。一年生の上半期では、期末試験の 成績がクラスで下位のほうであった。「予想以上に成績が良くなかった。でも、おかしく はない成績だった。(总体上表现不如预期,但也在情理之中。)(質問紙調査/20120215)」とあ るように、日本語学習にあまり時間をかけていなかったため、この結果に納得している。

この時の心境として、「日本語専攻について理解できなかった。高校の英語のような普通 の科目として学習していた。(大一上还不是很了解,就跟高中一样学习英语那样的普通学科在学。)

(インタビュー調査/20140901)」と述べていた。

一年生の上半期から転専攻を完全に考えなくなり、落ち着いて日本語を学習することが できたが、「転専攻できたA15とA14は新しい専攻で大変良さそうで、転専攻しなかった ことにちょっと後悔していた。(因为感觉他们A14A15他们转专业挺好的。然后大一下的时候又 有点后悔想转专业了。)(インタビュー調査/20140901)」とあるように、クラスで転専攻で きた二人を羨ましがっていた。日本語の学習時間は依然として限られていたが、宿題は完 成させていた。二・三・四年生時も同じ状況であった。二年生の下半期からA12は、当時 好きだったアメリカのドラマの主人公が建築学であったためそれに影響を受け、建築学の 双学位を履修した。履修後の一学期目は双学位の授業に出席していた。その後、好きでは なかった科目に出席しなくなった。二年生では、N2を受験した。しっかり受験勉強をして いたため、合格した。三年生の上半期から、N1を受験し始めたのであるが、A12なりに受 験勉強していたが、卒業するまで合格出来なかった。卒業から半年後、ようやく N1 に合 格することができたのである。

A12は日本語に興味を持っているかどうかについては、下記のように回答した。

興味があるかも。実はそんなにないけど。日本語の本を読んでと言われたら、抵抗がない。

だけどもしこの空き時間で他のこともできるとすると、私は日本語ではなく、他のことを やってしまうことになることが多かったかも。時間があるときは、日本語学習ではなく、

別のもっと関心を持っていることをやっていた。他のことをやっていて疲れたら、日本語

133 の本を読んで良い感じだったかな。

(可能有兴趣就是因为兴趣比较淡,叫我看一些内容的话,我也不会抵触,但是如果这个时间比较 空闲,我可以做其他别的事情,我可能就不会去看了,比如说我有时间去看看课本单词什么的,但 是我可能就会玩别的事情去了,但如果我如果不想玩了有点累了,我也可以看看书。)

(インタビュー調査/20150524)

日本語学習には抵抗がなかったが、日本語より他のことをやりたいようだ。一年生の前 半では、日本語の授業に対して、「面白くて楽しんでいる。その中で分からないことがあ ったら、知識欲が湧く。(很有趣很享受。对讲的不懂的东西,比较有求知欲。(質問紙調査/20111121) 」 と書いていた。その後の日本語の授業の精神状態も良かったとA12は自己報告しているが、

授業外でも日本語学習にあまり時間を割かずに優先的に学習以外のことをやっていた。

日本語の成績がずっとクラスで最下位に近い位置にあったため、日本語を学習する自信 をなくした。挫折感を感じると言っているが、改善する行動に出ようとは思わなかった。

また、授業外の日本語学習では、日本のアニメや映画などを鑑賞していた。三年生になっ て日本文学などの文学社会関連の授業が開設された。日本文化などに関心を示し、関連書 籍も閲読していた。日本語教材と比べて、娯楽の形式で日本語を学習できるからであった。

A12の四年間における日本語の学習動機は、専攻である以上学習する義務があるという 義務感によるものであると思われる。この義務感があったからこそ、日本語の授業に出席 し、宿題を完成させていた。無論、同じ宿題を完成させると言っても、真面目に質を重視 し、コツコツ宿題を完成するパターンと、宿題を先延ばしして、授業前日、急いでやるパ ターンがある。A12は日本語学習にかける時間が少なく、どちらかというと、後者のパタ ーンであった。また、予習や復習などチェックされない宿題の場合、やらないことも多か った。学習時間が少なかった理由は、前述したように、大学は学習が全てではないという 意識にある。「日本語専攻は重要だと思うが、努力が足りなかった。頭の中ではよく勉強 しようと思うが、本能は遊んでよいとなる。(就是不够努力,就是理智告诉我要学学好,天性告 诉我可以玩一玩,就是什么本我和真我。)(質問紙調査/20150524)」とあるように、誘惑に負 けてしまったからである。

A12の四年間における日本語の学習動機を図に表示すると、図4-12になる。

日本語専攻学習開始

無味乾燥だが、日本語専攻だからという義務感

時間経過 学習者の心理状態 学習動機 日本語専攻に配属さ

れたが、抵抗が強く

なかった 大学生活は学習だけでないと思い、学習動機下降

図4-12 大学四年間における学習者A12の日本語の学習動機のモデル