第 4 章 結果と考察―日本語専攻学習者―
4.4 各学習者の学習軌跡―A03 と A05 を除く―
4.4.9 学習者 A11
A11は高校が理系であったため、日本語専攻に配属され、「自分の好きな専攻に入れず に、がっかりした。(没能选上自己喜欢的专业,心里觉得不舒服。)(質問紙調査/20110920)」と
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いう気持ちで日本語専攻に入学した。しかし、「これまで接したことのない言語なので、
情熱を込めて学習していた。(学一门之前没有接触过的语言,很认真去学了。)(インタビュー調 査/20150524)」と一年生上半期時の最初の心境について、述べていた。
50音学習後の精神状態について、「難しいと感じている。授業中、緊張している。予習 が足りなかったからだと思う。(很难,很紧张,预习不够充分。)(質問紙調査/20111006)」と あるように、予習が足りなかったため、授業中緊張していると感じていた。予習が足りな い理由は日本語の学習時間があまりなかったからである。大学に入学して、予想していた 大学生活とは違い、授業が多かったという驚きがあった。毎日、授業以外の時間の配分を 行っていなかった。限られた授業外の時間では、転専攻する気があったため、日本語専攻 学習の他に、30 分ほど転専攻試験の受験勉強を行っていた。 それで、日本語教科書の予 習の時間が不足したため、授業中緊張していると感じていたのである。下記の学習者日常 調査票からも、記述式質問紙の回答を検証することができる。この週には朝8時から夜8 時 30分まで、授業のある日が三日あり、残りの二日間は授業が 6 時までで、その後夜 8 時半までイベントで埋まっていた。このごく限られた自由に利用できる時間帯で、最も多 く利用されていたのが日本語学習のための三日間であり、その次は転専攻の受験勉強の微 分積分と英語であり、その次は副科目などであった。これはA11が定めた方針「目の前の 日本語専攻をメインに、時間を見つけて転専攻試験を学習している。(以专业学习为主,在 保证专业学习的情况下抽出一定时间学习。)(質問紙調査/20111006)」を裏付けている。
2011年度日本語専攻学生日常調査票 姓名 A11 放
課 後
( 時 間 帯 ま で
)
20111128(月) 20111129(火) 20111123(水) 20111124(木) 20111125(金)
学習内 容
精神 状態
学 習 内容
精神 状態
学 習 内容
精神 状態
学 習 内容
精神 状態
学習 内容
精神 状態 9:00-9:3
0 微 分
積分 9:30-11:
00 日本 語単語、
本文
(9:00-9:
30 做 微
积分 9:30-11:0
0 记 单
词,读课 文)
真 面 目
( 很 认真)
9:00-11:00 単 語 の 暗 記 練 習 問 題 の 回答
( 学 日 语
( 记 单词,
做 练 习 册))
欠落 ミ ー テ ィ ン グ
( 开 会)
10:00 -11:0 0
ち ょ っ と 興 奮
(有 些 兴奋)
英 語 学習
(学 英 语)
10:00-11:00 日 本 語 学 習
( 学 日语)
日 本 語 真 面目
(比较 认真)
パ ソ コ ン 授 業 の Excel 宿題
( 做 Excel 大 作 业)
う っ と う し い
( 複 雑 す ぎる)
(觉 得 有 点 烦
( 作 业 太 复 杂))
中間試験前後の学習日記からも上記のことが裏付けられる。下記の内容は中間試験後の
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A11の授業外の日本語学習と転専攻試験の受験勉強である。
今日は日本語の試験が終了したので、気分的に楽になった。その後、試験ではっきりして いなかったことを改めて復習して、「そういうことだったんだ」という気持ちになった。
これらの知識は前に覚えたつもりだったが、しっかり覚えることができなくて、練習でも 滅多に使わないものが多い。たとえば、複雑な漢字の書き方など。大体1時間ぐらいかか った。残りの時間は転専攻受験勉強の微分積分に使用した。
(今天考完日语,相对比较轻松,主要是将考试时感觉遗忘或记得不太清楚的内容又看了一下,往 往产生一种恍然大悟的感觉,这些地方很多都是以前记过但是记得不够深刻,并且在练习中用得比 较少,如一些复杂汉字的写法等,做这件事大概只用了一个小时,其他时间就用来学微积分了。)
(学習日記/20111201)
当時、転専攻について、「できれば転専攻したい。(能转最好。)(質問紙調査/20111121)」
という気持ちがあり、大学入学当時と比較して、「転専攻したい気持ちがちょっと弱くな ってきた。その原因は日本語学習の深まりや転専攻についての情報収集。(转专业的心态变 弱;原因是对日语学习的深入和对转专业了解的增加。)(質問紙調査/20111121)」というように変化 してきた。日本語学習の深まりというのは、理系だったA11が日本語学習前に感じていた 不安が、時間の経過とともに、ある程度解消されてきていることを指すのであろう。転専 攻に関する情報収集というのは、転専攻人数の定員や、試験の内容(難易度等)であろう。
無論、A11は日本語専攻に対し、大学四年間を振り返って、何度も新しさを、新鮮味を 感じる出来事があり、日本アニメを鑑賞しはじめ、その中で話された簡単な日本語が分か るようになった際など、「大喜び」していたことを私的接触で聞いた。
学期末に行われた転専攻試験では、準備不足のため、失敗したようである。日本語の成 績にも満足いってなかったが、その原因を「計画的に学習を行っていない。日本語学習と 副科目の関係もうまく対応できていなかった。空き時間を合理的に学習に配分すべきだ。
(每天有计划的学习,处理好专业课和其他课的关系。将空余的时间合理的分配,尽可能用来学习。)(質 問紙調査/20120215)」と分析していた。一年生の下半期では、「当初の日本語への情熱が なくなった。日本語学習の動機は自分の成績を上げたいことだ。(当初对日语的热情减少了,
学习日语的动机就是想把成绩提高点。)(質問紙調査/20150524)」という動機になった。上半期で は、転専攻試験の受験勉強をやっており、大学生活に入り、どのように時間を配分すれば 良いか分からなかったため、日本語の学習時間が少なかった。下半期の学習日記から、ほ とんど毎日日本語を学習するようになったことが分かる。
今日は私が発表する番だ。最初の 1・2 コマ目は授業がなかったから、寮で発表内容を暗 唱していた。やっと熟練するまで暗唱できた。そのせいで、教科書の予習をできなかった。
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そして、運悪く授業中当てられて本文の音読をしたが、よくできなかった。今後は新しい 内容の学習開始前、熟練するまで予習しなくてはならない。夜、6:30-7:30 単語を暗記し た。いま学習しているユニットの単語が多く、長時間かけても熟練度があまりよくない。
今度にするしかない。7:30-8:30 本文を音読した。その中の単語が分かると、本文も分か りやすくなる。それで、本文の後についている文法説明文を参考にして、本文への理解を 深めようとし、分からないところをマークした。
(今天轮到我发表,早上前两节没有课,一直在寝室里背发表。终于背的还算熟练。由于早上没有 读课文,所以被老师点起来读课文的时候,读得很不熟。以后上新课文之前一定要先读熟。晚上
6:30-7:30记单词,这个单元的单词非常多,花了好长时间也没记熟,只有以后再记了。7:30-8:30读
课文,单词读熟了,读课文也容易多了。然后参考后面的语法理解课文,不懂的做了记号。)
(学習日記/20120604)
夜7:00-8:00 聴解の練習をした。内容は今日聴解の授業の内容で、まだ理解していない箇
所をもう一度聞いていた。聞いたあと、スクリプトと対照して、分からなかったところが 全部分かった。9:30-11:00 昨日覚えられない単語を暗記した。今日は少し暗記できたが、
すぐ忘れると思う。改めて学習する必要がある。これから学習する単語も予習した。
(晚7:00-8:00听听力,听的是今天上课老师讲的,我还没听明白的地方。
听完后对着原文看了一下,都明白了。
9:30-11:00继续记昨天没记完的单词。
今天虽然勉强记住了,但是很快就会忘记。
以后还要巩固。还把第二单元的单词读了几遍。)
(学習日記/20120605)
上記の学習日記から、「授業中、真面目に先生の話を聞いていた。授業外で、予習と復 習もやった。(上课认真听讲,课外预习复习也做了。)(インタビュー調査/20150524)」というこ とが分かる。しかしながら、日本語の授業中では、A11が不足している聴解のほうで、「先 生から色々と宿題が課されたが、ずっと提出直前に練習していた。時間がない時は、ごま かす感じで聞いていた。毎日練習することができなかった。(是布置了很多,总是赶着要交作 业的时候听一下,有时候没时间听得时候,随便停了一下就随便过了,反正没有很认真地去每天都听什么的。)
(インタビュー調査/20140901)」というような状況であった。聴解に困難を感じはじめた のは、一年生の時である。その後、定期試験の成績などから自分の弱点を意識し、改善し ようと思っていたが、「忙しくて忘れたとかで、長続きしなかった。(因为太忙了,又忘记弄
了。)(インタビュー調査/20150524)」というような理由で改善することができなかった。
二年生の上半期にA11 は、N2 を受験することになった。「上半期の日本語の原動力は 受験勉強だった。(学习动机,这学期报考了N2,能考过 N2成了这学期学日语的主要目的。)(質問
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紙調査/20150507)」とあるように、試験合格はA11 の最大の目標であった。受験勉強のた めに勉強道具も購入したが、「最初、単語の本を一ヶ月ぐらい学習したが、あまりにも効 率が悪かったので、諦めた。自分が怠けすぎた。試験まで二週間というところで文法を学 習し終わった。(开始背了一个月单词,觉得效率太低。便放弃了。考前两个星期看完了语法。)(質問 紙調査/20130305)」という状況であった。結局合格した。二年生の下半期から、A11は「具 体的なものを学習したい。ハードウェアとソフトウェアがあるが、コンピュータサイエン スのソフトウェア開発に関心を持っている。(具体一点嘛,主要是搞软件和硬件,我主要是想搞 软件方面。)(インタビュー調査/20140901)」と述べており、K大学のコンピュータサイエ ンスを双学位として履修した。「授業に出なければならないと思っている。授業内容が非 常に多く、独学で学習しきれない量だと思う。(我是觉得课一定要去上,因为课上内容讲的很多,
如果不去上课,自己根本就没时间看。)(インタビュー調査/20140901)」とあるように、A11は 双学位の授業が非常に重要だと考え、双学位の授業には皆勤で、悉く出席していた。また、
授業日の土曜日・日曜日だけではなく、金曜日、木曜日の一部の授業外の時間も双学位学 習に当てていた。A11 が双学位を重視していることが分かる。当時、双学位コンピュータ サイエンスへの大学院への進学を決心した。大学院入学試験では、外国語科目は日本語で 受験するため、双学位を良く学習すると同時に、日本語力も維持しないといけないという ビジョンを持っていた。なぜ、日本語をより良く向上させるのではなく、維持しようとい う目標を設定したかと言えば、日本語をもっと良くしたいが、それは難しいことであった ためである。双学位開始後、A11 は双学位に重心を置いたことが分かる。日本語学習は定 期試験前以外では、宿題しか行っていなかった。
三年生の上半期では、A11はN1を受験することになった。N2を受験した際、A11は簡 単に合格することができるという印象を持ち、今回は受験勉強をあまりしなかった。その 結果、不合格になった。
四年生の前半では、大学院入学試験の受験勉強の準備をしていた。四年生の始めにA11 が希望する大学院の入学試験では、日本語を外国語科目として受験できなくなり、英語し か受験できないことになった。そのため、大学院入学試験では日本語が使用できなくなり、
「日本語の授業に出席するのが負担だと感じていた。(动机只是被动地去上课)(インタビュ ー調査/20150524)」というように心境が変化した。それでも、「特別の理由なしで、欠席 することは良くない。(没有什么特殊的理由感觉也不好请假)(インタビュー調査/20150524)」と 思っていたようで、上半期の日本語の授業には出席していた。四年生まではずっと、日本 語が大学院入学試験で役に立つと思っていたが、A11は改めて外国語科目の英語を猛勉強 しなければならないことになった。結局準備不足のため、学期末の大学院入学試験に不合 格であった。A11は大学院入学試験の結果を知り、就職活動の準備を開始した。「日本語 関連の職種につこうと思ったが、翻訳本など数日間しか読んでいなかった。找工作前,考虑 到可能会找日语翻译的工作,因此,做过一些翻译的练习。)(質問紙調査/20150507)」とあるが、