第 4 章 結果と考察―日本語専攻学習者―
4.6 日本語専攻学習者についての考察
4.6.1 学習動機の視点からの考察
4.6.1.1 一年生から三年生
(一) 学習動機不変型
このパターンに属する学習者は二種類に分けられる。一種類目は終始日本語学習に興味 を持っている学習者である。二種類目の学習者のおおよその特徴としては、四年間を通し て、日本語学習にさほど興味を持っていなかったが、日本語が専攻であるため学習しなけ ればならないという義務感から生じる動機に支配されることが多かったことが指摘できる。
一種類目にはA03が該当する。A03は日本のアニメが好きで、日本語専攻を第二志望と して選んだ。本格的に日本語学習を開始した後、単語や文法などの反復練習で無味乾燥だ と思い、日本語が前より美しく聞こえなくなったが、日本語を学習することは義務だと認 識したこともあり、四年間を通して勤勉に日本語を学習していた。暗誦などの反復練習に 飽きることがあったが、日本のアニメや文学などを楽しんでいた。A 03は日本語学習を振 り返った際、日本語が好き、日本語に対し情熱があると認めていた。娯楽形式の日本語学 習とは違い、専攻として単語の暗記など学習することを無味乾燥だと感じるのは避けられ ないかもしれないが、日本語に対する情熱があったからこそ、四年間努力してきたのであ る。
二種類目に属する学習者は学習動機に変化はないが、学習行動によりさらに二つのタイ プに分けられる。一つ目のタイプには A02、A04、A06 が該当する。これらの学習者は日 本語学習のプロセスの中で、アニメやドラマ、日本文学などの日本語関連のコンテンツで
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自分に日本語への興味を持たせようとしていたが、失敗に終わっていた。また、「高校時 代と同じで、単なる一科目として学習している。」という考えで日本語を学習していた。
日本語学習にはあまり興味を感じていなかったが、日本語の宿題(練習問題などの紙媒体 の宿題)をきちんと完成させ、教科書の予習や復習なども常に気にかけ、時間があれば自 習室に行って日本語を学習していた。そうでないと、みんなで真面目に学習しているのに、
自分だけ遊んでいるという申し訳ない気持ちになってしまうからである。日本語学習に対 して強い責任感を持ち、自分の主たる任務であると認識していた。このパターンの学習者 の学習過程における日本語の原動力の多くは外にあったため、教師に与えられた宿題を完 成することを目標とし、それ以外で日本語を学習しようとは思わなかった。
もう一つのタイプにはA10、A11が該当する。このタイプの学習者は、一年生の上半期 では、転専攻試験の受験準備を行っていたが、当面の専攻が日本語であったため、転専攻 試験の試験準備より日本語を優先的に学習していた。転専攻試験に失敗した後、日本語を 専攻として受け止めた。日本語の宿題を完成させることが当面の日本語学習の目標であり、
日本語の教科書の宿題を完成させていたが、締切日(授業日の前日)に急いでやることが 多かった。繰り返し暗記することを好まないため、大抵の場合、聞き取り試験や試験前に 一気に単語などを暗唱していた。双学位履修後、双学位を本格的に学習し、日本語の学習 時間が減少した。N1合格後、それぞれ就職活動、大学院試験の受験準備のため、日本語の 授業や宿題を「負担」だと感じていた。しかし、それでも日本語の授業に出席し、宿題を 完成させていた。
(二) 学習動機下降型
この種の学習者の日本語の学習動機は四年間を通して下降していた。該当者はA08、A12、
A13である。これらの学習者は日本語学習の時間が長くなればなるほど、日本語学習にネ ガティブな心情を持ち、卒業証書の取得のみが日本語学習の目的となった。A08は大学入 学前、学校で三ヶ月ほど日本語を学習していたため、今後の日本語学習もよくできるとい う期待があった。A12とA13は大学入学当時、転専攻する気持ちがあったが、皆が同じス タートから開始した日本語学習では、自分もよくできるという自信があった。しかし、彼 らは日本語学習を良く学習したいという願望があったが、繰り返し暗記することが嫌いな ため、授業外では、やりたいことが全て終わった後に日本語学習をしていた。宿題の完成 度は高くなく、日本語の成績も常にクラスの下位にあった。期末試験の良くない成績に刺 激を受け、よく学習しようと思い短期間頑張ったが学習効果が見られなかった。日本語の 基礎がしっかりしていなかったからであると反省したが、継続する原動力はなくなってい った。日本語学習の目的が卒業証書を取得すればよいということに変わっていった。また、
これらの学習者は日本語力が不足していたにも関わらず、日本語能力試験の準備を軽視す る(落ち着いて単語や文法を繰り返し暗記できない)傾向があり、四年生(通常三年生)
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以降にようやく試験に合格できた。これらの学習者は日本語学習の結果が良くなくて、自 信がなくなったとしており、日本語学習の様子をあまり口にしたがらなかった。
(三) 学習動機上昇型
この種の学習者は日本語学習の過程において、学習動機が強くなり、自ら進んで日本語 を学習するようになったタイプである。該当者はA01、A03、A07、A09である。その中で、
A01、A07 は一・二年生時に、日本語の成績が良くなかった。A01 は推薦入試で大学院に
進学したかったため、三年生になって日本語の成績を良くしたいという気持ちが強くなり、
様々な工夫をしてその目標を実現した。A07は、クラスで下位の成績だと日本語専攻とし て失格であると考えたため、日本語がよくできない自分と向き合うようになった。日本語 力を向上させたいという考えだけではなく、それにつながる学習行動を実際に取った。四 年生になり、上半期には新聞専攻の大学院入学試験のため、一時的に日本語学習を負担で あると感じたが、下半期では三年生と同様の動機に戻った。A03とA09はそれぞれ努力と 興味(大量のアニメ鑑賞)を通して、良い日本語の成績を獲得した。それが原因で日本語 学習への自信につながり、日本語学習が進むにつれ、今後の日本語学習もうまく行くとい う期待をし、日本語学習への原動力も増加していったのである。学習動機が上昇した時期 は四人それぞれ異なり、上昇した要因には内的要因もあれば外的要因もある。そして、四 人の学習者の学習動機の性質も異なる。特に、A07は一・二年生では日本語の成績がクラ スの最下位であったが、日本語から逃避した時期があった者でも、日本語を改善しようと 決心し、それにつながる行動をしっかりとれば、実現する可能性があることを証明した。
それに対して、先に挙げた A08、A12、A13 のような学習動機下降型では、日本語の成績 の悪さに我慢できず、一時的に多めに学習するという行動に出たが、効果が現れないうち に放棄した。一・二年生時は、学習動機下降型の三人とA07は日本語の成績が同じくクラ スの下位のほうにあったが、三年生からA07はその下位グループから脱出した。この三人 は自分の日本語をどうにかしたいが、一・二年生時に日本語の基礎がしっかりできておら ず、皆に追いつくことができないということを述べていた。これは日本語から逃避する言 い訳に過ぎないことがA07の事例から分かる。
また、A03とA09の事例から、日本語を学習する主な媒介や手段が異なっていたとして も、きちんと時間をかければ日本語の成績または日本語力に反映されるということが分か る。A03の日本語学習のプロセスを見れば、優秀な日本語の成績を獲得できた理由に納得 することができるだろう。
しかし、A09のようにアニメ鑑賞を通して日本語力を向上させるやり方については、疑 わしいと考える人が多いかもしれない。A09と同じように、アニメ鑑賞が好きな学習者と してはA05とA08が挙げられる。A05は教科書学習終了後、娯楽としてアニメを鑑賞して おり、A08は授業外で教科書学習をほとんど行わずに日課としてアニメ鑑賞をしていた。
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授業外の時間では、A05は教科書学習を主としており、A08は部活動(一・二年生)を中 心にやっていた。二人は、時間上授業外の時間をほとんどアニメ鑑賞に使用していたA09 とは比較できないだろう。他の学習者がA09と同じようにひたすらアニメ鑑賞に時間をか けたとしても、A09と同じのような効果を収めるとは限らないと考えられる。A09は二年 生の上半期のN2 でクラスで最も高い点数を獲得したことで、それまでの日本語学習にお ける鬱憤が一気に吹っ切れ、自分の日本語学習の仕方について自信を持つようになった。
しかしながら、この自信は盲目的なものではなく、A09はA03と比べ、自分の日本語学習 に欠けているところについて、「日本語能力試験もそうだし、聴解のほうは楽だったが、
文法のほうはダメだった。それが正しいと語感で分かるが、具体的にその文法をマスター したわけではない。(听和说比较好,语法就差很多,我可能什么语法都不知道,但是我就是知道,这 个可能是对的。)」(インタビュー調査/20140901)とあるように、きちんと分析していた。
大量のアニメ鑑賞により、耳が日本語に慣れており、かつ真実に近い会話を追求してクラ スメートと日本語で話していたため、聴解または会話(関連問題も含めて)がよくできて いたが、教科書学習を好まないため、文法が弱点であったということである。
私たちに馴染みのある成績優秀者はA03である。A03の学習方法は最も馴染み易く、模 倣しやすい学習方法であると思われる。それに対してA09の日本語の学習方法は、異論の ある言語学習の仕方であり、A03自身が「あのようなやり方だと不安になるから」と言っ ているように、不安の気持ちに駆られることも考えられるだろう。A09のような日本語学 習の仕方は当事者が大量の時間をかけて、アニメの中の日本語で会話することを好むだけ のように見えるが、大量のアニメ鑑賞を行う際、当事者の内面においてその中で話されて いる日本語をどのように処理しているかが外面からは見えない。その処理プロセスは本人 ですら意識していないことが多い。よって、A09の日本語学習の仕方は他の学習者にとっ て真似しにくく、再現の可能性が低いやり方であると思われる。
学習動機不変型の学習者には日本語にあまり興味を持っていない学習者が多かった。こ のパターンの学習者は文系理系別に考えると分類しやすい。文系学生は、大学までに日本 語学習に似ている性質の科目を多数学習してきた。日本語は新しく学習する言語とはいえ、
基本的に暗唱する必要があるという点では変わりがないと考えられる。それに対して、高 校時代理系であった学生は、文系学生とは異なり、高校時代に国語と英語しか暗唱の科目 がなかったため、繰り返し暗唱を主とする学科に慣れていないことが予想できる。また、
これらの理系の学生には、高校時代、他の科目と比べて国語や英語が苦手であったという ケースも少なくもない。この場合の繰り返し暗唱を主とする学科に慣れていないというこ とには具体的に下記のような原因があると考えられる。大学入学後、それまでの国語や英 語のように、毎日多くても2コマの授業だけではなく、専攻として授業中だけではなく、
授業外も時間を割く必要がある日本語を学習するのである。大量の時間をかけて、暗唱す ることが要求されることに対して、理系の学生はその覚悟を持っていなかった。高校時代