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四年生における学習動機と学習ストラテジー

第 4 章 結果と考察―日本語専攻学習者―

4.5 優れた日本語専攻学習者の学習軌跡―A03 と A05―

4.5.4 四年生における学習動機と学習ストラテジー

四年生では、A03は推薦入試で北京外国語大学の日本語研究センターに入学することに 成功し、A05は日本の九州大学院で交換留学をしていた。A03は将来の進路が決定したこ とから、その学習動機と学習行動は前の三年間と異なることを想定することができる。A05 は日本語を使用することができる日本という学習環境に置かれることになった。日本語の 学習動機と学習行動がどのように変化していたかを見ていきたい。

学習動機の面について、A03は下記のように記述していた。

四年生では、主に卒業論文を書いていた。自分の作品を切実に作りたいという願望が強く、

この種の願望は前の三年間の主に読む、聞く、話す、などの基本的能力を訓練した時と大 きく違った。日本語学習は前より自主性が増して来ており、研究テーマに対する知的好奇 心と質の良い卒業論文を仕上げたいという勝気が主な原動力だ。自分の需要に対して、学 習内容を選択することができる。

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(论文写作阶段,和前三年的不同之处在于开始针对自己的小方向深入系统学习,以前就是听说读写,

现在就是跳出那个框架了,学习自主性很强,学习的动力来自于想搞懂自己所选的课题(好奇心)

以及好胜心(要写出一篇优秀的毕业论文)。

(質問紙調査/20150507)

四年生の上半期に、A03は推薦入試に成功したあと、進路が決定し、主な日本語学習を 卒業論文のほうに回していた。これは、前の三年間の日本語の基礎知識の学習とは違い、

卒業論文のテーマ決め、先行研究、どのように展開していくか、などのことを基本的に自 分で学習しなくてはならないのである。A03はそれを自覚し、卒業論文に取り掛かってい る間、能動性を発揮して、卒業論文を完成させていたのである。この際の日本語の学習動 機は「研究テーマへの知的好奇心」と「質の良い卒業論文を仕上げたいという勝気」によ るものであるとA03は記述している。具体的には、「四年生の上半期では、卒業論文に多 くの時間をかけていた。四年生の上半期の11月からはもう準備が始まっている。研究テー マを探すのに結構時間がかかった。インターネットから気になる論文を一つ一つダウンロ ードして、そこから自分が研究したい、そして着手できる研究を見つけ出した。(大四上学 期主要搞论文花的时间比较多,从十一月份就开始了,那时候就是花了很长时间,找论题这个过程就花了很 多时间,在网上下论文,一个一个看,然后找出自己感兴趣的,能够做研究的地方,主要是那个花的时间比

较多。)(インタビュー調査/20150524)」というように時間をかけて卒業論文のテーマ探しに

力を入れていたのである。卒業論文に大変時間をかけていた根本的な原因は、日本語専攻 の大学院に進学することになったからであると思われる。卒業論文は将来の大学院進学に とっては、非常に重要なことであるとA03は認識しているのである。それで、四年生では、

卒業論文を一大事として重視し、大量の時間をかけて、取り組んでいたのである。

そして、卒業論文だけではなく、大学の三年間ずっと続けてきた日本語力アップの努力 も怠っていなかった。A03は自分の聴解力をアップさせるために、字幕なしのニュースを 見るようにしており、その他に、日本のドラマなど毎日少しずつ日本語を聞いていた。日 本語に対する反応をキープするためである。A03は四年生では、日本語学習の重点を卒業 論文に移行し、前の三年間の基礎練習を補助的に行うようにしているのである

それに対して、A05は九州大学に来て国内での日本語学習とは一変し、授業が多く、授 業に関連する発表も多かった。授業以外の時間はそれを完成するために、一部分の時間を 使った。また、日本の大学院に進学したかったため、希望の先生とコンタクトを取った。

心理学を専攻しようとして、それに関連する文献を読み、研究計画書を書こうとした。そ して、四年生の上半期では、卒業論文については考えていたが、本格的に執筆しなかった。

四年生の下半期の授業数は少なくなかったため、時間があまりなかったが、状況としては 執筆しなければならない状況であった。日本に留学した学習者A05はやることがたくさん あるように感じていた。A05がそのように考えたのは、日本という学習環境に適応するプ

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レッシャーと、日本の大学院に進学するための準備をする必要があったからである。中国 国内とは全く違う学習環境では、A05の学習動機は前の三年間のそれとはかなり異なって いた。日本に来て、常に日本語で自分の意見を言えるようにしなくてはならなかったため である。そのため、会話力を重視していて、流暢に自分の意見を言えるようになりたいと いう動機が働いていると主張している。この動機に対応して、A05は主に下記のように日 本語学習を行っていた。

以前のように、単純に単語と文法だけを暗記するのではなく、日本語力をどのように確実 にアップすることができるかを考えるようになった。ある新しい単語を学習したら、その 使い方、類似の表現がないかを考えるようにしている。前は、中国語を使わずに、頭の中 で日本語のみを使い、日本語力の向上に良いと思っていたが、現在、中国語との対照の言 い方の勉強も大事だと思う。なぜなら、何かを表現したい時、まず出るのは中国語で、そ れを日本語に訳さなければならない。なので、ある言葉の中国語と日本語との言い方の対 照を暗記することでより正確に表現できる。

(会想着怎样才能提高日语水平而不是单一去记单词语法,学到一个新词时会想着怎样才能用对,

想象什么时候可以用的上,下次遇到类似说法可以记在一起。以前觉得用日语翻译日语可以学到更 多说法,其实有时候知道中文的解释也很重要,因为当你想表达某个意思时脑海里反应的是中文然 后搜寻对应的日文,所以记住对应关系有助于正确表达要说的话。)

(質問紙調査/20150507)

以上の記述は、A05が日本に留学し、自分に切実に関わってくる日本語の会話力を向上 させるには、どのようにすればよいか思案したものであると思われる。このような思いは、

日本に留学して日本語を話す必要性がある学習環境に置かれなければ、生まれてこなかっ たのではないかと思われる。また、日本に来たことのもう一つの収穫として、A05は下記 のことを挙げている。

前の三年間の中国国内の日本語学習とは違い、日本の様々な面について授業があった。幕 末の歴史や日本経済、文化など、だんだん興味を持つようになった。特に、前は全く知ら ないと言って良い、日本歴史についても、関心を持ちはじめ、関連の書籍も読めるように なった。

(和前三年国内日语学习不同,日本开设了有各个方面的课程。对于幕府时期的历史经济文化渐渐 有了兴趣。以前完全不清楚,但是现在有了点兴趣,也开始阅读相关书籍了。)

(質問紙調査/20150507)

K大学の日本語学科のカリキュラムには、日本歴史、経済、文学などの授業も取り入れ

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られているが、K大学のこれらの授業に参加した際は、このような感想がなかったのであ る。このことについても、A05は「九州大学の歴史の授業で、幕末の歴史についての面白 い説明や、文学の授業で担当の先生がある小説への情熱は、学生にプラスの影響を与える と思う。(九大历史课上对幕末历史有趣的讲解,文学课上感受到教师自身对某些小说的热爱,这些都可 以感染到学生。(質問紙調査/20150507)」と九州大学の授業を絶賛し、それに引き換えにA05 は自分自身が受けたK大学の日本語歴史の授業を「簡単な紹介の場合、一学期では、全て の日本史を概観するなら、短期間で多くの内容を扱えないので、最終的に学生も誤魔化す 感じで、単位を取るだけの授業になってしまう。(一个学期的教学任务是完成整个日本史的教学 任务,在这么短的时间粗略介绍是很难讲清楚的。这样课程只会变成学生在敷衍,只是一个拿学分的形式而

已。)(質問紙調査/20150507)」と指摘している。学習者の本当の意味での興味を引き起こ

すには、担当先生の専門知識面での素養と、授業を面白くする工夫が求められるとA05は 考えているのである。このような見方は日本留学を経験してこそ出てくるものである。

四年生においては、学習者A03とA05の学習環境の違いはそれぞれの学習動機および学 習内容の違いの原因になった。具体的には、K大学の日本語学科にいるA03は四年生では、

日本語専攻の大学院に進学したため、大学卒業後の進路と密接に関係している卒業論文の 完成を最も大きな目標としていたが、日本に交換留学していたA05は将来の進路――日本 の大学院への留学のために受け入れ大学の情報収集・研究計画などの準備を進めていた。

学習者は卒業後の進路に合わせて、四年生の学習行動を調整したのである。前の三年間の 日本語の基本能力の学習とは違い、三年間の学習成果を利用し、将来の進路と関連する行 動を取っていた。

4.5.5 まとめ

以上、四年間における学習者A03およびA05の学習動機及びそれを促進させる要因を分 析してみた。A03は、日本語が専攻なので元々勉強しなければならないということもある が、成功経験と日本語専攻が就職に有利ということが日本語学習に積極的な影響を与えた。

ただし、就職に有利という動機は最終的な利点であるためか、日本語学習開始後にはそれ ほど現れていなかった。さらに、学習委員、班長を担当することで生じた使命感と、奨学 金をもらいたいという動機とが相まって、特に良い成績が取れたことがさらに強い動機へ とつながり、好循環になっている。四年生になり、将来は日本語専攻の大学院に進学する ことが決まり、それに密接に関連する卒業論文、日本語力の向上などに力を入れていた。

学習者A03の学習動機を整理してみると、次のような図となる。