大和(2003)が学習ストラテジーについて、練習によって学習ストラテジーの使用が自 動化され、効率的に外国語を学習することが望ましいと述べているように、学習ストラテ ジーの習得は可能である。つまり、学習ストラテジーは何らかの形によって、良い方向へ と変化させることができるということである。そのため、学習動機のみならず、優秀な言 語学習者から学習ストラテジーを学ぶことは重要であると思われる。
学習ストラテジーの定義や分類は研究者により様々である(Rubin 1975、Stern 1975、
O'Malley &Chamot 1985)。Oxford(1990)は、学習ストラテジーを「学習をより易しく、
より早く、より楽しく、より自主的に、より効果的にし、かつ新しい状況に素早く対処す るために学習者がとる具体的な行動」(宍戸・伴訳 1994)と定義している。また、Oxford
(1990)は、それまでの学習ストラテジーの分類を、一つのシステムに体系化し、Strategy Inventory for Language Learning(以下 SILL)を開発し、学習者のストラテジー使用頻度を 調査し、学習者の言語習熟度との間に相関関係があることを明らかにした。その後の第二 言語習得分野において、そのままの、あるいは若干の修正がなされた SILL により、様々 な研究が行われてきた(杉橋2004、木村・遠藤 2007・2008、呉2007、齋藤 2009、朴 2010)。 ネウストプニー(1995)は SILL について、日本語教育の場合、学習者のストラテジーの 取り扱いについていくつかの修正が必要であると指摘している。SILLを含め、学習ストラ テジー研究について、宮崎(2003)は9つの問題点を指摘している。本研究では、研究目 的に即し、その中の9つの問題点について、調査を行った。その9つの問題点は以下のと おりである。
①学習ストラテジーの研究の出発点は常にSILLであるが、SILLが全ての学習ストラ テジー研究の解明につながる汎用性のある理論であるかどうかは検証の余地がある。
②類型化を中心とする研究が多いため、学習ストラテジーは普遍的なもので変化しな いというイメージを形成してしまう可能性がある。
③学習ストラテジーの複合領域を見据えた研究が少ない。
言語学習のストラテジー研究の出発点は優れた学習者の学習行動の調査であった。第二 言語習得領域において、優れた学習者の研究は1970年代から始まり、その代表的な研究と
してRubin(1975)、Stern(1975)とEllis(1994)が挙げられる。Rubin(1975)はフラン
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ス語とヘブライ語の優れた学習者を対象に、授業観察や授業映像の観察、インタビューな どを通じて、優れた学習者の特徴を下記のように7項目にまとめた。
① 推定が得意かつ好き
② 目標言語でのコミュニケーションに積極的
③ 目標言語での表現を恐れない
④ 言語形式の重視
⑤ 練習の重視
⑥ 他人との交流に積極的
⑦ 目標言語上での意味を重視
一方、Stern(1975)はそれまでの先行研究の観点と教育現場での教師の経験を生かし、
優れた学習者の学習ストラテジーを10項目挙げた。
① 個性的な学習スタイルと効果的な学習ストラテジー
② 目標言語に対して積極的かつ包容的
③ 友好的で目標言語の母語話者との一致が目標
④ 言語習得上の困難の克服能力
⑤ 計画、実践、そして、計画の修正を繰り返すことで言語学習を系統的にし、言語の 意味を深く探索できる能力
⑥ 練習の重視
⑦ 目標言語による交流を好む
⑧ 言語応用に敏感
⑨ 優れた自己モニター能力
⑩ 目標言語の反復使用により、目標言語による独立した思考回路を発達させているこ と
また、Ellis(1994)は、下記のように優れた学習者に五つの特徴を見出した。
① 目標言語の形式に焦点を当て、注意深く練習する
② わからない単語や表現があったときに推測により意味を考えたり、積極的にコミュ ニケーションする機会を求める
③ 自分なりの目標を定め、目標達成のための計画を立てて遂行する
④ 学習に関する意志決定は自分でし、好みの学習スタイルで学習を進める
⑤ 自分のニーズを理解し、学習進度を評価し、自分の学習を方向付ける
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上記三つの研究の結論から分かるように、調査対象者の環境のほとんどが第二言語の学 習環境である。外国語の学習環境では、上記のすべての結論に汎用性があるとは限らない。
例を挙げると、目標言語を用いた実際の交流では相手が必要であるが、実際上は相手がい ないことが多々ある。
日本語教育の分野では、学習ストラテジーと学習動機、学習成績、日本語学習歴、来日 経験の有無、学年別などとの関係を解明する量的研究は多く行われてきた(伊藤・楠本 1992、
石橋 1993、村野 1996、楊 2011、副島他 2015)。また、岡崎(1990・1991)は、日本語 教育において日本語学習者が適用するストラテジーに関する記述的研究の構築が急務であ ると述べている。読解、聴解など個別技能に関しては縦断的な観点からの研究がいくつか 見られる(伊藤 1991、水田 1995a・1995b・1996、関 1996)。しかし、全般的な学習スト ラテジーを扱った研究は少ない(浜田1999)。浜田(1999)は学習ストラテジーの研究に はミクロプロセスとマクロプロセスがあるとしており、マクロプロセスで用いられるスト ラテジーを「マクロストラテジー」とし、その中で大切な役割を果たしているものとして マクロタスクを挙げた。マクロタスクは、言語習得という究極の目標を実現するために、
どの部分に集中的に取り組めばよいか、というマクロレベルの学習任務のことである。学 習過程において、単語学習や文法学習を重視するなどがマクロタスクに相当する。また、
宮崎(2003)は学習ストラテジーと他の学習者要因との複合領域を見据えた研究が少ない と指摘した。浜田(2004)も学習者を特性によって捉える手法は、学習者をステレオタイ プに当てはめて理解してしまう危険性があると主張している。本研究では、学習動機だけ ではなく、学習ストラテジーを含めた記述的研究を行う。
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