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C 先生のストーリー

ドキュメント内 2016 年度 博 士 学 位 申 請 論 文 (ページ 135-143)

第3章 日本の英語教育と言語態度の諸相

4.5 分析

4.5.8 C 先生のストーリー

C 先生は幼少時代に特に英語に触れた経験はなく、英語学習を始めたのは中学校 に入学してからだった。毎回の授業開始時に天候について英語で話す先生、洋楽を 聴いて歌詞の聞き取りをさせる先生など印象的な教師たちの思い出を語ったが、文 法のパターンプラクティスに冗長さを感じたりしていた等、特に英語は難しくもな いが、楽しいという印象も持っていなかったという。しかし、それでも他の教科と 比較すると英語自体には興味が持て、最も好きな教科であったかもしれないと語っ た。

高校生になってからのことを尋ねると、C 先生は英語の授業の様子についてのス トーリーを語った。((C)はC先生、(*)は調査者)

(C)本文を書き写してー、単語の意味を調べて全文和訳をしてきなさいってい う、

(*)んー。

(C)でー、その答えあわせをしてー、音読をしてー、

(*)うんうん。

(C)で、文法の確認っていう感じのものすごく典型的なグラマートランスレーシ ョンで…でなんだろう、うん、まあそんなもんかって思ってたぐらいです かねー。

(*)あー、なるほどー。でもそのやり方はけっこう自分で合っていたとか?

(C)… 合ってた…のかなー。そんなに大変ではなかったかんじがしますけど。

(*)うーん。つまんないとかそういう否定的なイメージもなかったのかなー?

(C)楽しくは…ないですよねー(笑)

(*)(笑)

(C)だってもくもくとやるんだもの。(笑)で、音読でするぐらいでしか声出さ ないのでー。

(*)あー。

(C)だから、作業っていう科目ですよね。

自身が受けた英語の授業方法についてのこのストーリーでは、それに対してのC 先 生の心情や感情は調査者が尋ねないと言及しないほどのものであり、当時は、英語 の授業はグラマー・トランスレーション(文法訳読式)が当たり前のものであり、

他のメソッドなどは高校生として知る由も無く、受けたこともなかったことがわか る。英語教師となった今だからこそ、それが「典型的な」文法訳読式であったとい う区別ができ、「作業」だったという評価を下しているが、当時は際立ったマイナ ス・イメージを抱くこともなく授業をこなしていたようである。

また、C 先生に中学・高校時代の英語との関わりを尋ねると、自身を主体とした 感情などを伴うプライベート・ストーリーよりも、まず、どのような方法で英語の 授業が進められていたかということについてから話し出す傾向が見られた。これは、

C 先生自身の英語教育に対する興味・関心およびプロ意識に起因するものであると 考えられると同時に、協力者も調査者も共に英語教師であり、共通の関心を持つこ とを前提にインタビューが行われていることも理由のひとつであろう。

インタビューを開始してからこのストーリーを語るまで、C 先生には英語に対し て一切「楽しい、面白い」などの発言がなく、自身もそれに気がつく。以下はその 時のストーリーである。

(C)何が楽しかったんだろう、英語…。(笑)

(*)(笑)

(C)たぶん文…なんだろうな…。たぶん高1 の時の担任の先生が生物の先生で、

英語の勉強の仕方を英語の先生に聞きに行きなさいって言われて…でも行 かないでいたら「聞いといたから」っていきなり言われて「この問題集がお 薦めらしい」とかって言われて、5 冊ぐらいリストアップされちゃっていて ー…、で、やばいなこれはやらないとまずかろうって、

(*)えっ、個人的に言われて?

(C)うーん、だから他の人にどれくらい声をかけられていたかはわからないん ですけどー、私はとにかく呼ばれてー、うん。

(*)へー。

(C)で、その内の1冊をとりあえず買ってやってみたら、文法の本だったんです

けど、その書き方が偉そうでー。(笑)

(*)(笑) あー、上から目線なの。

(C)上からなので、カチンときてー、

(*)(笑)なにー。

(C)なん、なんか悔しくなって、3回くらいやってみた。

(*)(笑)悔しくてやるんだ。もうイヤじゃなくて。

(C)うん、ちょっと悔しくて(笑)まあ別にちょっと堅苦しい言葉遣いの書き方 だっただけだと思うんだけどー、

(*)へー。

(C)あとはー…文法の先生が…あのなんだろうな…、ちょっとしたコアな意味を 触れてくれたりだとか、そのto不定詞のto って根本的にこんな感覚を持っ ているって教えてくださって、その先生はtoは矢印なんだよっていうふうに 言っていて…それがなんだろうすごく納得感があったっていうか。すごく納 得できるように教えてもらえたので、わりと文法のほうがすんなり勉強でき たっていうか。

このストーリーを皮切りに、C 先生の語りは英語授業のメソッドなどに関する過 去の事実という語りから、個人を主体として感情や評価を伴った、よりパーソナル な語りへと変化をみせる。高校時代に学習全般への意識が変わったというC先生は、

担任教師の薦めで文法書を紹介され、その文法書の説明の書かれ方に反感を覚えて、

結果的に英文法の勉強を多く行ったという。また、認知言語学の視点から文法を説 明する教師との良い出会いによって、英文法自体への馴染みやすさも感じたことが わかる。

さらにこの後のストーリーで、この担任であった生物担当教師の指導によって、

予習をすれば授業がよくわかるようになるという体験をさせてもらい、勉強はやれ ば楽しいと感じられるようになったことに対する感謝の念を述べている。また、こ の教師が物質の名前につく mono-等の接頭辞について豆知識として授業内で教えて くれたことに端を発し、それ以来英語の接頭辞や接尾辞に興味を持つようになり、

辞書から接頭辞や接尾辞を選び出してノートに大量に書き抜いていったという。下 書きに続いて清書もしたため、すべて 2 回書き記し、これについては「楽しくて仕

方なく、夢中でやった」と語った。アルファベットの文字の美しさにも惹かれ、こ の頃から「ことば」への興味が出てきた C先生は大学で言語学を勉強したいと思う ようになり、英語以外の言語についても検討したという。その中には日本語も含ま れていたというが、結局、意味と形式、文法構造などに興味を持ったという英語に ついて理解を深めたいと考えたと語った。

高校2年次には、同級生の友人に英語を教え、わかってもらったことへの楽しさ から英語教師を志すようになった。念願であった英語に特色のある国内の大学への 合格を果たし、入学後は、多く在籍している留学生や帰国子女の学生らと共に大量 の英語の文献を読破していくことで自身の英語力がついていくことを実感し、大学 で学んだ内容には非常に満足し充実していたと語った。

しかし、受講した講義の中で風変わりなものがあったというストーリーから、C 先生の大学の授業における苦労が浮かび上がっていった。

(C)私ね、ドロップアウトしたんですよ、その科目。何やってるかわかんなくて。

やーほんとね、ソシオリングイスティクスだったかな、なんですけど、話さ れているのはゴリラだかチンパンジーだかが手話で話せるっていうビデオを 見せられて、すごく難解なテキストを読まされて、で、ディスカッションな んですけどそこの関連性が全然わからなくて。

(*)えー。

(C)うーん、とにかくその難解だから、なんでみんなついていけているのかがち っともわからなくって。

(*)先生の話してることは?

(C)あ、先生は日本語だからわかるの、言ってることはね。

(*)ほー。

(C)サルはすごいよねっていう話でそれでチンパンジーとかが何を覚えているの かとかが、どういう反応だったのかとかの説明があるんですけど、それって 今話していることの学生間の内容がわからなくて、受けている人はほとんど ノンジャパニーズだったり、帰国子女だったりしてペラペラやっていて全然 ついていけなかたっていうのを覚えてるんですよね。

(*)へーそのディスカッションで帰国子女とかと一緒でなんか何?っていうかん

じはありました?

(C)…うーん…まあ…基本的にはそういう環境でも受けられるようになってるん ですけど、まったくもってそこだけはついていけなかったっていう。他の科 目でもそういう機会はいっぱいあって、

(*)あー。

(C)いっぱいあったのかな(笑)それなりにあって、私はあの教職も取ってたの で日本語の科目もけっこう多かったんですよね。ディスカッションは幸いな かったりとか……っていうのもあったんですけど……でも別にそうなったら そうなったで自分ができる限りのことはするようになってるので。

大学での充実した勉強の中で、その科目は内容が難解であり、ディスカッションの 内容との関連性が掴めず、困難であった状況が述べられている。英語でのディスカ ッションは他の科目でも行われ、出来る限りのことをするようになっているという が、帰国子女の学生らが「ペラペラやっていて」という表現を用い、教職科目では ディスカッションは「幸い」なかったというところからも、C 先生にとって英語で のディスカッションは多少の負担を伴ったものであったことがうかがえる。帰国子 女や外国人留学生らとは異なる自己の認識、および彼らと比較した自己についての 語りは、大学での英語の授業に関するストーリーの中に続いていく。

(C)リスニングはやっぱり週に何回もなくて、スピーキングのクラスとあわせ ても週に2回しかなくて、読み書きよりは少なくて、でねー、ましてまわり はもともとできる人たちとかー、ネイティブの人とか、帰国子女がいっぱい いるので、まあ劣等感みたいなかんじとか(笑)はありましたねー。

(*)あー。リスニングに関して?

(C)うん、リスニングももう全てですね。

(*)うーん。

(C)できる人は当たり前に書けるし読めるし話せるし、で、日本語まぜこぜで聞 こえてくるような環境だったから。

C 先生は、英語の母語話者や帰国子女が多数在籍し、英語でやりとりをすることが

ドキュメント内 2016 年度 博 士 学 位 申 請 論 文 (ページ 135-143)