4. 事例調査―移動動詞の lassen 構文と与格構文
4.1. lassen 構文
4.1.1. 構文の解釈
4.1.1.4. lassen 構文の解釈の分布:
4.1.1.1.~4.1.1.3.では、コーパスから収集されたlassen構文の事例を、「間接使役」「意
図的使役」「非意図的使役」の解釈ごとに示した。事例分析の結果から、lassen構文の 解釈と補部で表される移動のタイプの分布状況は、以下の表 4-1 のとおりにまとめら れる:
表 4-1: lassen構文の解釈の分布
表4-1で示されるように、「間接使役」解釈のlassen構文の補部では内的な要因による 自律的移動が、「意図的使役」「非意図的使役」解釈の lassen 構文の補部では外的な要 因・原因による非自律的移動が表されることが、実例から確認された。
また、収集されたlassen 構文の事例については、調査対象の動詞ごとに、補部で表 される移動のタイプ(自律的移動/非自律的移動)に偏りが見られた:
79 95 0
0 0
137
0 20 40 60 80 100 120 140 160
非意図的使役 意図的使役 間接使役
補部: 自律的移動 補部: 非自律的移動
89
表 4-2: 各動詞における移動のタイプ(自律的移動/非自律的移動)
表4-2のとおり、fahren(車などで行く)、klettern(よじ登る)、kriechen(這う)、rudern
(ボートを漕いで行く)では、以下の(26)~(29)の事例のように、補部で表される移動 のタイプがほとんど自律的移動に限定されていた11:
<自律的移動>
(26) [...] warum die Mutter ihre siebenjährige Tochter im Dezember um halb sechs Uhr abends allein mit der Tramway fahren ließ. (Die Presse, 28.05.1997)
‚die Mutter ließ ihre (...) Tochter allein mit der Tramway fahren‘
the mother-NOM let-3SG her (...) daughter-ACC alone by the tram drive-INF
11 kletternおよびkriechenでは、その語彙的意味に鑑みて、内的要因によらない非自律的移
動が表される場合は想定しにくい。kletternとkriechenについて、それぞれ1例ずつ観察
された、lassen構文の補部で非自律的移動が表される事例は、次のとおりである:
(a) klettern
Für eine einzige Einstellung etwa ließ Gestalter Georg Riha seine Camcat-Kamera von 0 auf 110 Meter klettern [...]. (Kleine Zeitung, 22.04.1997)
例えばワンカットのために、カメラマンのゲオルク・リーハは、彼のCAMCATカメ ラ(ロープに吊るした状態で操作できるカメラ)を0から100メートルに上昇させた
〔…〕
(b) kriechen
[...] erst als Leo Glacehandschuhe aus den Taschen seines Gehrockes holte und die weißgelblichen, hautähnlichen Hüllen über seine Finger und Handteller kriechen ließ [...].
(Grass, Günter: Die Blechtrommel. 1964, S. 206)
〔…〕レオがキッド革手袋を彼のフロックコートのポケットから取り出して、その白 い、皮膚のような布を彼の指と掌の上に這わせたときにはじめて〔…〕
0 5 10 15 20 25 30 35
springen segeln schwimmen rutschen rollen rudern laufen kriechen klettern fliegen fallen fahren
自律的移動 非自律的移動
90
〔…〕なぜ母親は自分の7歳の娘を12月の夕方5時半にひとりで市街電車に乗せ たのか。
(27) Die Feuerwehr ließ Kinder einmal in ihren Einsatzwagen klettern.
the fire department-NOM let-3SG children-ACC once into its fire.engine climb-INF (Rhein-Zeitung, 17.09.2003) 消防隊は子どもたちを一度彼らの消防車に乗せてあげた。
(28) [...] dann zündete er das Lichtchen an, setzte den Krebs auf den Boden und ließ ihn kriechen. (Der Meisterdieb. In: Kinder- und Hausmärchen, gesammelt von Jacob und Wilhelm Grimm. 1978, S. 781)
‚er ließ den Krebs kriechen‘
he-NOM let-3SG the crab-ACC creep-INF
〔…〕それから彼は〔蟹の背にはり付けた〕ろうそくに火を灯し、その蟹を地面 に置いて這わせた。
(29) [...] ließ der Kapitän sie an Land rudern.
let-3SG the captain-NOM them-ACC to shore row-INF
(Balàka, Bettina: Eisflüstern. 2006, S.34)
〔…〕船長は彼らにボートを漕いで岸に行かせた。
また、fallen(落ちる)、rutschen(滑る)では、以下の(30), (31)のように、補部で表さ れる移動のタイプが非自律的移動に限定されていた:
<非自律的移動>
(30) Der Gangster ließ den (...) Beutesack fallen, (...). (= (18)) the gangster-NOM let-3SG the (...) bag.of.loot-ACC fall-INF
その悪党は(…)盗んだ品物の入った袋を落とした(…)
(31) Durch die Sonne geblendet, griff Boussious daneben und ließ den Ball durch die Handschuhe rutschen – 1:1 (23.). (Braunschweiger Zeitung, 24.09.2007)
‚Boussious ließ den Ball durch die Handschuhe rutschen‘
Boussious-NOM let-3SG the ball-ACC through the gloves slide-INF
日光がまぶしくて、ブショーはキャッチミスをし、ボールをグローブから滑り落
91 としてしまった―1対1(23分)。
以上のfahren やfallenなどのように、補部で表される移動のタイプが自律的移動、あ
るいは非自律的移動のどちらかにほぼ限られる動詞が認められた一方で、fliegen(飛 ぶ)、laufen(走る・歩く)、rollen(転がる)、schwimmen(泳ぐ)、segeln(帆走する)、 springen(跳ぶ)では、補部で表される移動が(若干の偏りはあるものの)いずれかの タイプに限定されていなかった。fliegenおよびspringenを例にすると、以下の(32), (33) が補部で内的要因による自律的移動が表されるlassen 構文の事例、以下の(34), (35)が 補部で外的要因・原因による非自律的移動が表されるlassen構文の事例である:
<自律的移動>
(32) In einer Kiste hatten sie Tauben versteckt, die die Braut dann fliegen ließ. (Rhein-Zeitung, 04.05.2002)
‚die Braut ließ Tauben fliegen‘
the bride-NOM let-3SG doves-ACC fly-INF
彼らは箱の中に(数羽の)ハトを隠しておき、花嫁はそのハトを飛ばせた。
(33) Dort ließ der Dompteur die (...) Raubkatzen durch Feuerreifen springen. (= (10)) there let-3SG the tamer-NOM the (...) wild.cats-ACC through fire.hoops jump-INF
そこで調教師は、(…)ライオンやトラに火の輪をくぐってジャンプさせた。
<非自律的移動>
(34) Kugelstoßer Pfingsten präsentierte sich in glänzender Frühform und ließ die Kugel gleich viermal über die 19-Meter-Marke fliegen. (Mannheimer Morgen, 28.04.1999)
‚Kugelstoßer (...) ließ die Kugel über die 19-Meter-Marke fliegen‘
shot.putter-NOM let-3SG the shot-ACC over the 19.meter.mark fly-INF
砲丸投げ選手のプフィングステンは、シーズン始めのすばらしい状態で現れて、
砲丸を一度に4回、19メートルのマークを越えて飛ばした。
(35) [...] der Halleiner ließ den Ball über seine Schulter ins Tor springen.
the Halleiner-NOM let-3SG the ball-ACC over his shoulder into.the goal bouce-INF
(Salzburger Nachrichten, 04.06.1992)
〔…〕ハライン出身のそのゴールキーパーは、弾んだボールを自分の肩を越えてゴ
92 ールに入らせてしまった。
(32), (33)のlassen構文の補部で表される「ハトが飛ぶ」「ライオンやトラが火の輪をく
ぐってジャンプする」では、その意味上の主語の生物に移動を生じさせる内的な要因 が認められる。他方、(34), (35)の補部で表される「砲丸が19メートルのマークを越え て飛ぶ」「ボールが弾んで肩を越えてゴールに入る」では、その移動を生じさせた外的 要因・原因が想定される。例えば(34)では「砲丸選手が砲丸を投げること」、(35)では
「ゴールキーパーが弾んだボールをつかみ損なうこと」が、補部で表される移動の外 的原因であるといえる。(32)~(35)のfliegenおよびspringenの例で示されるように、動 詞によって表される移動が内的要因による自律的なものか、あるいは外的要因・原因 が想定される非自律的なものであるかは、動詞の語彙的意味によって一義的に定めら れるものではない。とりわけ、移動の外的要因・原因が想定されるか否かは、具体的 な移動物や経路項の表示を伴う文レベルで判断されるものであるといえる。
以上本節では、lassen 構文の解釈(「間接使役」「意図的使役」「非意図的使役」)と 補部で表される移動のタイプの分布状況を示し、lassen 構文の「間接使役」解釈が自 律的移動の場合に、「意図的使役」および「非意図的使役」解釈が非自律的移動の場合 に限定されることが、収集された実例に基づき確認されることを述べた。次節以降で は、収集した lassen 構文の事例において、共起が認められた文要素を取り上げる。具 体的には、移動の起点・着点・中間経路を表す経路項、および動作や行為のあり様を 叙述する副詞規定や頻度を表す副詞規定を取り上げて、これらの文要素の出現状況や その内実と、lassen構文の異なる解釈との相関性を考察する。