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意味構造を構成する関数

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 168-171)

5. 理論的背景―語の意味と文意味の対応関係

5.2. 意味構造を構成する関数

語彙分解の手法による語彙意味の分析では、語あるいは文の意味は複合的な構造を 持つものとして捉えられ、意味関数の組み合わせによって表示される。動詞の意味構 造20を構成する関数にどのようなものを想定するかは、先行研究によって差異が見られ るものの21、基本関数として概ね認められるものをまとめると、以下の(38), (39)のよう になる。(38)が個体に関わる関数、(39)がイベントに関わる関数としてそれぞれ区別さ

れる22。(38)や(39)の基本関数を組み合わせることで、以下の(40)のように、様々な動詞

や文の意味構造を捉えることが可能となる:

(38) a. BE (x) :「x は~(という性質・状態)だ)」

Die Tasche (x) ist klein. そのかばんは小さい。

the bag-NOM is-3SG small

20抽象的な意味述語からなるレキシコンの意味表示をどのように呼称するかは統一されて おらず、5.1.で取り上げた各アプローチによっても差異が見られる。例えば、Jackendoff

(1983, 1990)の概念意味論では「概念構造」あるいは「語彙概念構造」、Levin/Rappaport

Hovav (1995)の分析では「語彙意味構造」、Wunderlich (1997a)の語彙分解文法では「意味

形式」のように呼ばれる。そのほかにも、例えばRapp (1997)は、Bierwisch (1983)の二層 意味論の考え方(意味形式SFと概念構造CSを区別する)を採用したうえで、語の意味 表示に当たる部分を「語彙意味構造 (Lexikalische Semantische Struktur; LSS)」と名づけ

ている(Rapp (1997: 31)参照)。以下、本稿では、用語の不統一による混乱を避けるため

に、語彙意味の表示に対して、一貫して「意味構造」という用語を用いる。

21例えば、5.1.2.で取り上げたPustejovsky (1991)や5.1.3.のLevin/Rappaport Havov (1995)で は、「xがyする」ことを表す関数ACTまたは関数DOが用いられているものの、Jackendoff

(1990)ではこのような行為を表す関数は基本的なテンプレートにおいて想定されていな

い(5.1.1.の(3)参照)。

22 例えばRapp (1997: 31)は、個体の項のみを取る関数(「状態」のBEや「行為」のDOな

ど)を「単一関数(Grundprädikate)」、他の述語関数を項として取る、すなわち事象に関 わる関数(例えば「変化」のBECOMEや「使役」のCAUSE)を「複合関数(Komplexe

Prädikate)」と呼び、それぞれ区別している。

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b. DO (x)またはDO (x, y):「xが~する」「xがyに~する」

Er (x) singt. 彼は歌う。

he-NOM sings-3SG

c. POSS (x, y) :「xがyを所有する」

Er (x) hat ein Auto (y). 彼は車を持っている。

he-NOM has-3SG a car (39) a. BECOME (s) :「sの状態になる」

b. CAUSE (s1, s2):「s1(原因事象)がs2(結果事象)を引き起こす」

(40) a. BECOME (BE (x))

Er (x) ist gestorben. 彼は亡くなった。

he-NOM is-3SG died b. BECOME (POSS (x, y))

Er (x) bekam ein Buch (y). 彼は本をもらった。

he-NOM got-3SG a book c. CAUSE (DO (x), BECOME (BE (y)))

Er (x) knickte die Blume (y). 彼は花を折った。

he-NOM snapped-3SG the flower

(38c)のような「所有」の概念は、所有者とその所有物に認められるような狭義の所 有関係を表すだけでなく、広義の態(Diathese; diathesis)の関係を捉えるために用いら れることがある。例えば、Wunderlich (2000)は、個体の「所有」を表す関数POSSを用 いて、ドイツ語の自由与格(主に表される事態から影響を受ける「被動者」を表す)

を分析している23。本稿第7章の分析においては、このWunderlich (2000)のアプローチ とともに、所有という概念が重要な位置を占めることになる。また、「使役」の概念を 表す関数については、Wunderlich (2000)によって、DO(動作)& BECOME(変化)と いう関数の組み合わせに還元することで、伝統的なCAUSE(使役)を基本の意味関数 から排除するという提案がなされている。しかし、このWunderlich (2000)の提案につ いては、理論的・経験的な観点から問題が指摘されている(藤縄 (2010)参照)。本稿の 第7 章では、移動動詞におけるlassen 構文と与格構文という項の拡張現象を定式化す

23 Wunderlich (2000)の分析については、本稿第7章で取り上げる。

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るにあたり、使役関数 CAUSE が重要な役割を担うことを明らかにする。このような 本稿の分析は、基本関数としての CAUSE の重要性をあらためて示すものであるとい える。

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