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経路項の名詞と与格との「関係性」

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 127-131)

4. 事例調査―移動動詞の lassen 構文と与格構文

4.2. 与格構文

4.2.2. 経路項との共起

4.2.2.1. 経路項の名詞と与格との「関係性」

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でやってくる」という移動は、その主語(移動物)に移動の内的要因が認められる自 律的なものである。他方で、(88), (89)で表される「発炎筒が転がって通りから建物の 地下室の窓の中に入る」「ランタンが(岸辺で)人の足元に流れ着く」という移動には、

それを生じさせた外的な要因・原因が想定される。例えば(88)では、「発炎筒を手にし ていた人がそれを落としてしまうこと」が、(89)では「川の流れ」のような外的要因が、

それぞれで表される移動を引き起こした原因として考えられる。

以上本節では、与格構文の解釈(「被影響」「潜在的使役」)と表される移動のタイプ との相関関係を示した。事例調査の結果、「被影響」の解釈が表される移動のタイプ(自 律的移動か非自律的移動か)を問わず認められる一方で、「潜在的使役」の解釈は非自 律的移動が表される場合に限定されることが確かめられた。

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名詞句と与格で示される人との間に関係性が認められるか否かを、「関係名詞」と「非 関係名詞」とを分ける指標とする。以下では、具体的な例を挙げながら、経路項で示 される名詞句が、与格で示される人との関係性が認められる「関係名詞」であるか、

あるいはそのような関係性が認められない「非関係名詞」であるかを見ていく。

まずは、経路項で示される名詞句が与格との関係性を示す「関係名詞」として捉え られる例を示す。4.1.2.1.で述べたように、関係名詞の典型は、身体部位のような譲渡 不可能なものである。例えば、以下の(91), (92)ではその経路項で与格の人物の身体部 位である目(das Auge)や手(die Hand)が、(93)では身体の延長として捉えられるよ うな、与格の人物が身につけている上着(der Anorak)が示されている:

(91) Nach einem Hochwurf am Mittelkreis (der Ball war zuvor an die Hallendecke gesprungen) war Jackie Johnson das Leder quasi vor die Füße gefallen. (Frankfurter Rundschau, 22.09.1997, S. 29)

‚das Leder war Jackie Johnson vor die Füße gefallen‘

the ball-NOM was-3SG Jackie Johnson-DAT in.front.of the feet fallen

センターサークルでのジャンプボールのあと(ボールはその前にホールの天井に 当たってしまった)、ジャッキー・ジョンソンの足元にボールが落ちてきた。

(92) Den Angaben zufolge ist ihm ein 16jähriger mit beiden Beinen in den Rücken gesprungen, [...]. (Frankfurter Rundschau, 30.06.1998, S. 1)

‚ihm ist ein 16jähriger in den Rücken gesprungen‘

he-DAT is-3SG a 16.year.old.boy-NOM into the back jumped

申し立てによると16歳の少年が両脚で彼の背中に跳びかかってきた〔…〕

(93) (...) nachdem sie ihm aus dem Anorak gerutscht war. (= (78)) after she-NOM him-DAT out.of the anorak slid was-3SG

それ(=そのネコ)を彼のアノラックから滑り落としてしまったあとに(…)

また、以下の(94)や(95)の与格構文の経路項で示されているのは、アイスホッケーで使 用されるスティック(der Schläger)や猟銃の銃身(der Lauf)という、上掲(93)の着衣 と同様に、与格で示される人の身体の延長として捉えることのできる、その人物が手 にしている道具である。これらの名詞句についても、身体部位や着衣と同様、与格と

122 の関係性を示す「関係名詞」として捉えられる:

(94) Der Puck ist mir irgendwie über den Schläger gesprungen.

the puck-NOM is-3SG me-DAT somehow over the stick bounced

(Mannheimer Morgen, 18.11.2006) どういうわけか、私はパックを(自分の)スティックをとび越えて弾ませてしま った。

(95) Und dann sei ihm der hetzende Setter vor den Lauf gelaufen [...].

and then is-SBJ1-3SG him-DAT the (...) setter-NOM in.front.of the barrel run

(Neue Kronen-Zeitung, 20.01.1998, S. 13) そしてそのとき、せわしなく走る猟犬が、彼の構える銃身の前にとびだしてきた。

以下の(96)~(98)では、上掲の(91)~(93)のような身体部位や着衣、あるいは(94), (95) のような身体の延長と捉えられる道具ではないものの、与格の人の領域と呼べるもの が経路項で示されている。以下の(96)では与格の人物が乗っている自動車(das Auto)、

(97)では与格の人物が食事のために席についているテーブル(der Tisch)、(98)では与格

の人物が住む家屋の地下室(die Keller)が、それぞれ経路項で示されている。これら の名詞句についても、Löbner (2011)による関係名詞の定義とは異なるものの、与格の 人物とその人物が関わりを持つ範囲という意味で、与格の「関係名詞」として捉えら れる:

(96) Später wird sie witzeln, dass ihr ein Baum vors Auto gesprungen ist. (Braunschweiger Zeitung, 16.01.2006)

‚ihr ist ein Baum vors Auto gesprungen‘

her-DAT is-3SG a tree-NOM in.front.of.the car bounced

後に彼女は、自分の運転する車の前に木がとんできたと、笑い話にするだろう。

(97) Als Kati Wilhelm die freudige Nachricht erfuhr, wäre ihr vor Aufregung fast das Frühstücksei vom Tisch gerollt. (Hamburger Morgenpost, 09.02.2006)

‚ihr wäre das Frühstücksei vom Tisch gerollt‘

her-DAT was-SBJ2-3SG the egg.for.breakfast from.the table rolled

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カーティ・ヴィルヘルムがその喜ばしい知らせを知ったとき、興奮のあまり危う く彼女のテーブルから朝食用の卵を転がり落としてしまうところであった。

(98) (...) das Wasser den Leuten in die Keller gelaufen ist. (= (75)) the water-NOM the people-DAT into the cellers run is-3SG

(…)水が人々の(家屋の)地下室に流れこんだ。

以上、経路項で示される名詞句が与格の人との関係性が認められる「関係名詞」と して捉えられる例を示した。与格との関係性が示されない「非関係名詞」の例として は、例えば以下の(99)~(101)が挙げられる:

(99) Mir ist versehentlich der Wohnungsschlüssel (ohne Adressenschild) in den großen Papiercontainer vorm Haus gefallen, [...]. (Berliner Morgenpost, 10.11.1999, S. 1)

‚mir ist der Wohnungsschlüssel (...) in den großen Papiercontaner (...) gefallen‘

me-DAT is-3SG the house.key-NOM into the big container.for.paper fallen 私はうっかり(住所を記したプレートが付いていない)自宅の鍵を家の前にある 大きな紙ゴミ用のコンテナに落としてしまった〔…〕

(100) Der Pneu war einem 11jährigen den Hang herunter auf die Straße gerollt [...].

(Rhein-Zeitung, 04.06.1998)

‚der Pneu war einem 11järigen auf die Straße gerollt‘

the tyre-NOM was-3SG a 11.year.old.boy-DAT onto the street rolled

そのタイヤは11歳の少年が坂道を転がし道路に出してしまったもので〔…〕

(101) (...) weil ihnen (...) der Fußball aufs BND-Areal gesegelt war, [...]. (= (85)) because them-DAT the soccer.ball-NOM onto.the BND.area sailed was-3SG

(…)彼らは(…)サッカーボールを連邦情報局(BND)の敷地内に飛ばしてし まったので〔…〕

(99)における経路項の名詞句der Papiercontainer(紙用のコンテナ)は、Löbner (2011)

によるところの種名詞である。種名詞であっても、上掲の(96)~(98)のように与格の所 有物や領域であれば、与格との関係性を示す「関係名詞」として捉えられるが、(99)

におけるder Papiercontainerは与格の「私」の所有物やその関与の及ぶ範囲として捉え

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ることができず、与格との関係性は認められない。(100)におけるdie Straße(道路)も 同様に、与格の人物が存在する・その関与が及ぶ領域としては捉えられず、与格との 関係性を示さない「非関係名詞」である。(101)におけるdas BND-Areal(連邦情報局の 敷地)については、「連邦情報局(BND)」という特定の存在に属するものとして捉え られるものの、与格で示される「彼ら」がいる場所やその領域ではないため、与格と の関係性を示さない「非関係名詞」に分類される。

以上、経路項で示される名詞句のタイプに「関係名詞」と「非関係名詞」という 2 つを想定したうえで、それぞれの事例を取り上げた。収集した与格構文(240 例)に ついて、与格構文の解釈(「被影響」「潜在的使役」)と経路項の名詞句のタイプ(関係 名詞/非関係名詞)の分布状況を示すと、次の表4-8のように示される:

表4-8: 与格構文の解釈と経路項の名詞のタイプ23

表4-8が示すとおり、「被影響」解釈の事例178例中178例(100%)、および「潜在的 使役」解釈の事例62例中55例(88.7%)で、経路項に関係名詞が出現していた。この ことから、与格構文では構文の解釈にかかわらず、経路項で示されるのは与格の人と の関係性が認められる関係名詞であることがほとんどであるといえる。

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 127-131)