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経路項の名詞と主語との「関係性」

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 100-107)

4. 事例調査―移動動詞の lassen 構文と与格構文

4.1. lassen 構文

4.1.2. 経路項との共起

4.1.2.1. 経路項の名詞と主語との「関係性」

名詞はその指示対象に応じて、いくつかのタイプに分類することができる。例えば Löbner (2011)によると、「種名詞(sortal nouns)」、「固有名詞(individual nouns)」、「関

67 38

79

12

57 58

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

非意図的使役 意図的使役 間接使役

経路項なし 経路項あり

94

係名詞(relational nouns)」、「関数名詞(functional nouns)」という4つのタイプが認め られる(図4-1はLöbner (2011: 307)からの引用。なお、日本語訳は筆者による):

図4-1: Löbner (2011: 307)における4タイプの名詞の区別とそれらの限定方法

✓:整合的限定方法 !!!:非整合的限定方法

名詞のタイプを弁別する基準として Löbner (2011: 307)が挙げているのは、「固有性」

(inherently unique ; [U])および「関係性」(inherently relational; [R])という2つの素性 である。固有性と関係性のどちらも示さない種名詞には、例えば stone(石)や book

(本)のような普通名詞が該当する。moon(月)や Maria(マリア)のような固有名 詞は、固有性を示し(inherently unique)、関係性を示さないとされる。sister(姉妹)や

leg(脚)のような関係名詞と、father(父)や head(頭)のような関数名詞は、どち

らも他の存在との関係性によって規定される(inherently relational)という点は共通し ているが、固有性を示すか否かという点で異なる。leg(脚)とhead(頭)を例に挙げ ると、特定の人物の「身体」のような関連づけられる存在が決まれば、headはその人 物の1つしかない「頭」を指す一方で、legについては、その人物の「左脚」と「右脚」

のどちらを指すかは定められない。関係名詞では、関数名詞と異なり、関連づけられ る存在が決まっても、その指示対象が1つの存在には限定されないといえる。

以上のLöbner (2011)による名詞のタイプを参考とし、本節の分析では、経路項で示

[U] [+U] 固有性を示す

(inherently unique)

[R] SORTAL NOUNS

stone, book, adjective, water, …

✓ 不定(Indef.), 複数 (Plural), 数量詞 (quantif.), 指示詞 (dem.)

!!! 単数・定 (singular definite)

✓ 独立的 (absolute)

!!! 関係的 (relational), 所有 (possessive)

INDIVIDUAL NOUNS moon, weather, date, Maria,…

!!! 不定(Indef.), 複数 (Plural), 数量詞 (quantif.), 指示詞 (dem.)

✓ 単数・定 (singular definite)

✓ 独立的 (absolute)

!!! 関係的 (relational), 所有 (possessive)

[+R] 関係性を示す

(inherently relational

RELATIONAL NOUNS sister, leg, part, attribute, …

✓不定(Indef.), 複数 (Plural), 数量詞 (quantif.), 指示詞 (dem.)

!!! 単数・定 (singular definite)

!!! 独立的 (absolute)

✓ 関係的 (relational), 所有 (possessive)

FUNCTIONAL NOUNS father, head, age, subject, …

!!! 不定(Indef.), 複数 (Plural), 数量詞 (quantif.), 指示詞 (dem.)

✓単数・定 (singular definite)

!!! 独立的 (absolute)

✓ 関係的 (relational), 所有 (possessive)

95 されうる名詞のタイプに以下の2つを想定する:

(36) 経路項で示される名詞のタイプ

a) 関係性を示す([+ relational])「関係名詞」

b) 関係性を示さない([− relational])「非関係名詞」

Löbner (2011)による名詞のタイプ分類において、関係名詞(+関係性/-固有性)の

例として sister(姉妹)や leg(脚)が、関数名詞(+関係性/+固有性)の例として

father(父)やhead(頭)が挙げられていたように、関係性を示す(inherently relational)

名詞の典型は、家族関係を表す語や、全体と部分の関係で捉えられるような身体部位 を表す語であるといえる。これらの名詞は、関係づけられる存在から切り離すことの できない、譲渡不可能な(inalienabel; inalienable)ものとして捉えられる。以下、コー パスから収集した実例を挙げながら、経路項で示される名詞句が「関係名詞」あるい は「非関係名詞」のどちらとして捉えられるかを見ていく。ここでは、以下の(37), (38) の経路項で示されているような、譲渡不可能名詞(inalienable Nomina; inalienable nouns)

を「関係名詞」の典型として捉えながら、主語で示される「人」と経路項で示される 名詞句との関係性に着目し、分析していきたい:

(37) Goalie Jozef Kosovan ließ einen Ball von der Brust springen [...].

Goalie Jozef Kosovan-NOM let-3SG a ball-ACC from the chest bounce-INF

(Burgenländische Volkszeitung, 21.10.2009, S. 59) キーパーのヨゼフ・コソヴァンはボールを胸で弾いてしまった〔…〕

(38) (...) Boussious (...) ließ den Ball durch die Handschuhe rutschen. (= (31)) Boussious-NOM let-3SG the ball-ACC through the gloves slide-INF

(…)ブショーは(…)ボールをグローブから滑り落としてしまった。

(37)では、経路項において、主語の人物(Goalie Jozef Kosovan)の身体部位である胸(die Brust)が示されている。(38)の経路項では、主語で示される人(Boussious)が身につ けているグローブ(die Handschuhe)が示されている。(38)の例におけるグローブのよ うに、人が身につけているもの(例えば帽子や手袋、衣服など)は、その人の身体の

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延長のように捉えることができる。(37), (38)における経路項は、実際には「彼の胸か ら(von seiner Brust)」「彼の(キーパー用の)グローブを通して(durch seine Handschuhe)」 を意味しており13、経路項で示される名詞句には主語との関係性が認められる。

また、以下の(39), (40)における経路項の名詞句も、人が身につけている着衣と同様 に、その人物の身体の延長として捉えることができる:

(39) (...) eine Weinviertler Rettungsmannschaft (...), die vor wenigen Wochen ihren Patienten im engen, steilen Stiegenhaus von der Trage rutschen ließ. (= (23))

‚eine (...) Rettungsmannschaft ließ ihren Patienten von der Trage rutschen‘

a (...) rescue.team-NOM let-3SG its patient-ACC from the stretcher slide-INF

(…)ヴァインフィアテルの救助隊(…)その救助隊は数週間前に、吹き抜けにな っている狭く、急な階段で、患者を担架から滑り落としてしまったのだ。

(40) Nach Sebastian Osterlohs Aussetzer – er ließ die Scheibe von der Kelle springen [...].

(Mannheimer Morgen, 01.12.2007, S. 11)

‚er ließ die Scheibe von der Kelle springen‘

he-NOM let-3SG the puck-ACC from the stick bounce-INF

ゼバスティアン・オスターローによるミスの後に―彼(=オスターロー)はパッ クをスティックから跳ねとばしてしまったのだ〔…〕

(39)の経路項で示されている担架(die Trage)は主語の救助隊(eine Rettungsmannschaft)

が運んでいるもの、(40)の経路項で示されているスティック(die Kelle)は主語の彼(er)

がその手に持っているものである。これらは、(着衣と同様に)人の身体の延長として 捉えられるような道具を指しており、主語の人との関係性を示すといえる。

さらに、コーパスから収集した事例のなかには、以下の(41), (42)のように、経路項 において、所有限定詞つきで主語の所有物(=例(41))、あるいは主語の領域と呼べる もの(=例(42))が出現しているものも観察された。これらの経路項の名詞についても、

所有限定詞を介して主語との関係性が認められるといえる14

13実際に、次の事例のように、所有限定詞つきの表現で主語の人物の身体部位や着衣が示 される事例が11例観察された:[...] der Halleiner ließ den Ball über seine Schulter ins Tor springen. (= (35))

14 (41), (42)のように、経路項において所有限定詞つきの表現で主語の所有物や領域が示さ

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(41) Die Feuerwehr ließ Kinder (...) in ihren Einsatzwagen klettern. (= (27)) the fire department-NOM let-3SG children-ACC into its fire.engine climb-INF

消防隊は子どもたちを(…)彼らの消防車に乗せてあげた。

(42) Die EI spielte konzentriert weiter und ließ den Ball sicher durch die eigenen Reihen laufen.

(Mannheimer Morgen, 21.01.1998)

‚dieEI ließ den Ball durch die einegen Reihen laufen‘

the U11-NOM let-3SG the ball-ACC through the own rows run-INF

そのジュニアチーム(U11)は集中してプレーを続行し、ボールを安全に自陣内で 走らせた。

最後に、事例の数は少ないものの、以下の(43), (44)のように経路項で再帰代名詞が 示されているものも観察された15

(43) Die gegnerische Torfrau verschätze sich bei einer Bogenlampe von Anika Kummerer und ließ den Ball über sich hinweg springen. (Rhein-Zeitung, 07.05.2012)

‚die (...) Torfrau ließ den Ball über sich hinweg springen‘

the (...) female.goalkeeper-NOM let-3SG the ball-ACC over herself away bounce-INF 相手チームのゴールキーパーはアニカ・クンメラーのループシュートを見誤り、

自分自身を越えてボールを跳ばしてしまった。

(44) [...], ließ er seine Mitarbeiter um sich herum kriechen.

let-3SG he-NOM his coworker-ACC around himself round creep-INF

(Rhein-Zeitung, 28.09.2007)

〔…〕彼は同僚に自分の周りを這い回らせた。

(43), (44)における再帰代名詞sichは身体的存在を表しており、身体にはその所有者が

認められる。そして、sich によって指示される身体の所有者は、それぞれの文におけ る主語、すなわち(43)におけるdie Torfrau(ゴールキーパー)、(44)におけるer(彼)で

れている事例は、6例観察された。

15経路項で再帰代名詞が示されている事例は、lassen構文311例中2例であった。

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ある。よって、Löbner (2011)による関係名詞の定義とは異なるが、これらの例におけ る経路項の再帰代名詞sichについても、主語との関係性が認められるものとして捉え られる。

次に、経路項に主語との関係性が認められない「非関係名詞」が示されている事例 を取り上げる:

(45) [...] Maria erhielt anschließend einen bunten Flummi, den sie über die Kartonmauer springen ließ. (Mannheimer Morgen, 03.07.2009, S. 16)

‚sie ließ einen bunten Flummi über die Kartonmauer springen‘

she-NOM let-3SG a colourful rubber.ball-ACC over the cardboard.box.wall bounce-INF

〔…〕マリアは続いて 1 個のカラフルなゴムボールを受け取って、それを段ボー ル箱でできた壁の向こうへ弾ませた。

(46) Nach dieser Beobachtung näherte er sich nur noch einmal vorsichtig dem Ufer, ließ einen seiner Leute an Land schwimmen [...]. (Wikipedia, 2011: Entdeckung Tasmaniens)

‚er ließ einen seiner Leute an Land schwimmen‘

he-NOM let-3SG one-ACC his people-GEN to shore swim-INF

この観察のあと、彼はもう一度注意深く岸に近づき、部下のうち一人を陸地へと 泳いでいかせた〔…〕

(47) [...] ließ ihn sein Klub Boston Bruins nicht nach Italien fliegen.

let-3SG him-ACC his club Boston Bruins-NOM not to Italy fly-INF

(Mannheimer Morgen, 13.02.2006)

〔…〕彼のクラブであるボストン・ブルーインズは彼をイタリアへ行かせなかった。

(48) [...] der Ball kullerte über das Spielfeld und Torhüter Holger Hug ließ ihn ins Seiten-Aus rollen. (Nürnberger Nachrichten, 03.02.2003)

‚Torhüter (...) ließ den Ball ins Seiten-Aus rollen‘

goalkeeper (...)-NOM let-3SG the ball-ACC into.the touch roll-INF

〔…〕ボールはコート上を転がっていき、ゴールキーパーのホルガー・フークは そのボールを転がしてタッチラインの外側に出した。

(45), (46)における経路項の名詞句はLöbner (2011)によるところの種名詞、(47)の経路項

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の名詞句は固有名詞である。(48)の経路項で示されているdas Seiten-Aus(タッチライ ンの外側)は、サッカーフィールドという全体に対する部分を表すものであり、Löbner

(2011)によるところの関係名詞である。しかし、このdas Seiten-Ausが指し示す領域に

は主語の人物は存在せず、その関与の及ぶ範囲(=主語の領域)を表すものとして捉 えることはできない。その意味でこの名詞句は、主語の人との関係性が認められない

「非関係名詞」として捉えられる。

以上、lassen 構文と共起する経路項に出現する名詞句のタイプとして、主語との関 係性を示す「関係名詞」と、主語との関係性を示さない「非関係名詞」という 2 つを 想定し、それぞれの例を取り上げた。収集したlassen構文の全事例311 例中、経路項 を伴う事例は184例(「間接使役」79例、「意図的使役」38例、「非意図的使役」67例、

上掲の表4-3参照)である。lassen 構文の解釈(「間接使役」「意図的使役」「非意図的 使役」)と、経路項で示される名詞のタイプ(関係名詞/非関係名詞)の分布状況を示 すと、次の表4-4のとおりとなる:

表4-4: lassen構文の解釈と経路項の名詞のタイプ16

16表4-4では、文中に経路項が2つ以上示されている事例について、関係名詞を表す経路 項が1つでもある場合は「関係名詞」の例として、関係名詞を表す経路項がない場合は

「非関係名詞」の例として数え上げた。例えば、上掲(35)のder Halleiner ließ den Ball über

seine Schulter ins Tor springen(ハライン出身のゴールキーパーは弾んだボールを自分

の肩を越えてゴールに入らせてしまった)は、seine Schulter(彼の肩)という主語の人 との関係性を示す名詞句(関係名詞)とdas Tor(ゴール)という主語の人との関係性を 示さない名詞句(非関係名詞)が示されている。この例は、関係名詞を表す経路項が含 まれるため、「関係名詞」の例として数えている。

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

非意図的使役 意図的使役 間接使役

関係名詞 非関係名詞

間接使役 意図的使役 非意図的使役

関係名詞 7 8 50

非関係名詞 72 30 17

79 38 67

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