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Wunderlich (1997a)

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 161-166)

5. 理論的背景―語の意味と文意味の対応関係

5.1. 先行研究

5.1.4. Wunderlich (1997a)

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のthe mouse)が「方向づけられた変化」を被る対象として、内項の位置に生成される

ことになる(非対格動詞への転換)。その結果として、使役主(causer)や動作主(agent)

によって占められるべき外項の位置が空となり、その位置を外的な原因を表す項(例 えば(28b)ではthe general、(29b)ではthe rider、(30b)のwe)によって埋めることが可能 となり、(28b), (29b), (30b)のような他動詞用法が認められるとされる。

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分で、文脈情報を取り込むことで解釈されるレベルであるとされる12。その概念構造

(CS)と語彙化(lexicalization)によって関連づけられる意味形式(SF)は、語彙分 解の手法によって、抽象的な意味関数から構成される。この意味形式(SF)は語の文 法に関する情報を含むもので、統語構造へと反映される動詞の項構造(argument

structure)を決定する部分とされる。θ構造(TS)は意味形式(SF)において表示され

る個体項の意味論的な階層(argument hierarchy)を符号化し、それぞれの項を統語的 な句構造(PS)へと連結させる。CAUSE(使役)や BECOME(変化)といった関数 によって表示される意味形式は動詞の構造的な意味を表し、θ 構造(項構造)は動詞 の意味形式と統語的な句構造とを結びつけるインターフェイスであるとされる。

Wunderlich (1997a)の語彙分解文法では、とくに意味形式とθ構造に重点が置かれ、分

析が行われる。

Wunderlich (1997a)の分析では、意味形式(SF)の表示に対して形式意味論のλ抽象

化が適用され、そこからθ構造(TS)が導かれる。例えば、他動詞essen (= eat) を例 に挙げると、その意味形式とθ構造を示す意味表示はλy λx λs EAT (x, y)(s)であり、EAT

(x, y)(s)の部分が意味形式、λy λx λsがθ構造である。意味形式における個体項に対し、

具体的にどの構造格(主格、対格、与格)が付与されるかは、意味形式から導き出さ れる論理的なタイプのツリー表示において、一定の規則に従って決定される。ここで は、動詞giveを例に、その意味形式、タイプ論的なツリー表示を示し、個体の項(x, y,

z)の構造格がどのように決定されるかを見ていく。(32)は動詞 give の意味形式、(33)

が個体(タイプe)と命題(タイプt)に基づく論理タイプのツリー表示である(Wunderlich (1997a: 38f.))13

12 Wunderlich (1997a: 29)は両者を次のように区別している(SFとCSの違いについては、

Lang (1994)も参照):

”[…] SF is considered to be a computational level of grammar, and CS is the level of reasoning that may draw on any kind of mental operations.” (Wunderlich (1997a: 29))

「〔…〕意味形式(SF)は文法の計算可能なレベルとして捉えられる一方、概念構造(CS) はあらゆる種類の認知的操作を生み出す思考のレベルとして捉えられる。」

13 論理タイプは本来、個体eと命題tで示されるが、Wunderlich (1997a)では、動詞の状況

項sが論理タイプの表示で用いられている。状況項sのタイプは、変項x, y, zと同様に、

個体eであり、例えば(33)のツリーにおける<s, t>は本来であれば<e, t>と示すべきである が、(33)および以下では、Wunderlich (1997a: 39)における表記のまま示す。

156 (32) CAUSE (x, BECOME (POSS (y, z))))(s) (33) t

s <s, t>

x <e, <s, t>>

<t, <e, <s,t>> t CAUSE

<t, t> t

BECOME

y <e, t>

<e, <e,t>> z POSS

論理タイプに基づくツリー表示においては、それぞれの節点で関数適用(Functional

Application)が行われ、<α, β>というタイプは節点においてタイプαと結合され、その

結果としてタイプ β が得られる。例えば(33)では、「所有」を表す関数POSS(タイプ

<e, <e, t>>)がzという個体の項(タイプe)と結合されることで、<e, t>というタイプ が得られる。それがさらに個体の項y(タイプe)、関数BECOME(<t, t>)、関数CAUSE

(<t, <e, <s,t>>)のように関数適用が実行されることで、<e, <s, t>>というタイプが得 られる。この s(situation)は動詞の指示項 (referential argument)であり、時制要素 を含み、文のテンスやムードの認可に関わる。さらに、個体項x(タイプe)が<e, <s, t>>

と結合することで、<s, t>というタイプが得られ、最終的に動詞の指示項sが時制要素 によって認可されることで、当該の言語表現である文が得られる。

上掲(33)のようなツリー表示に含まれる個体の項(x, y, z)に対して、構造格が認可 されるか否か、および具体的にどの構造格(主格、対格、与格)が割り振られるのか は、タイプ論に基づくツリー表示における、以下の(34)のようなL統御(L-command)

という規則と、以下の(35)の項の制限条件によって規定される:

157 (34) L-command(L統御)

α L-commands β iff14 the node γ, which either directly dominates α or dominates α via a chain of nodes type-identical to γ, also dominates β.

αを直接的に配下に置く節点γ、またはγと同タイプの連鎖で繋がる節点の配 下にβがあれば、αはβをL統御する。

(35) Restriction on Structural Arguments(構造格となる項の制限)

An argument is structural only if it is either the lowest argument or (each of its occurrences) L-commands the lowest argument.

ある項は、〔タイプ論に基づくツリー表示において〕最下位の項であるとき、

または最下位の項をL統御する項である場合に、構造格となる。

(Wunderlich (1997a: 41))

例えば、上掲の(33)のツリー表示では、xのひとつ上に<s, t>があり、この<s, t>のツリ ーの配下にzがある。このような支配関係を指して、「xはzをL統御(L-Command)

する」という。(33)ではyもまた、そのひとつ上の節点tのツリーの配下にzを有し、

yはzをL統御しているため、(33)における個体(eタイプ)の項x, y, zの3つすべて に構造格が認可されることになる。このL統御と項の階層に従い、個体項x, y, zは統 語構造へと投射され、それぞれの位置に応じた構造格を付与される(xが主格、yが与 格、zが対格)。(33)のツリー状の意味階層を、λ抽象化によって(32)の意味形式に反映 させると、動詞giveの意味表示はλz λy λx λs CAUSE (x, BECOME (POSS (y, z)))(s)とな

る。このλz λy λx λsの部分がθ構造であり、項の階層x>y>zを示す。

以上のように、Wunderlich (1997a)の語彙分解文法では、抽象的な意味関数によって 構成される意味形式に形式意味論の論理的なタイプ表示が導入され、そこから θ 構造

(項構造)が得られる。意味形式における変項(x, y, z)は、上掲の(33)のような論理 タイプのツリー表示におけるL統御(=上掲(34))および構造格の制限条件(=上掲(35))

の規則に従い、構造格の認可および項の階層性が定められて、項の階層性が統語構造 において反映されることになる。このように意味形式から統語構造へのマッピングが 規定されることで、Wunderlich (1997a)の枠組みでは、意味形式におけるある個体の項

14 iffは論理記号で同値(=if and only if)を表す。

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に構造格が認可されるか否か、またその項が具体的には主格、対格(直接目的語)、与 格(間接目的語)のいずれで実現されるかを説明することが可能になるとされる。そ の例として、Wunderlich (1997a)では、leer trinken (= drink empty)のような結果構文にお ける対格(直接目的語)の項の認可が挙げられている。Wunderlich (1997a)では、結果

構文はBECOME(変化)を伴う結果述語の形容詞の付加による動詞の項構造の拡張15

して分析される。以下、(36)が基底の動詞trinken(意味形式はDRINK (x, y)(s))から拡

張されたleer trinken の意味形式、(37)がその論理的なタイプに基づくツリー表示であ

る(Wunderlich (1997a: 36, 40f.)):

(36) leer trinken (drink empty): [DRINK (x, y) & BECOME (EMPTY (z))](s) (37) <s, t>

<s, t> <<s, t>, <s, t>>

x <e, <s, t>> … <s, t>

AND

<e, <e, <s, t>>> y <t, <s, t>> t

DRINK BECOME

z <e, t>

EMPTY

基底の動詞trinkenでは、意味形式DRINK (x, y)(s)における個体項xおよびyが、どち らも構造格となる(xが主格、yが対格)。trinkenから拡張された(36)のleer trinkenで は、この意味形式における個体の項(x, y, z)のいずれの項に構造格が認められるかが 問題となる。(37)のツリー表示における最下位の項は、BECOMEの付加によって導入 されたzである。上掲(35)の構造格の制限条件で示されるとおり、(37)の最下位の項で

15結果構文で認められるこのような操作は、Wunderlichの枠組みでは、「語彙的な交替

(lexical alternation)」(Wunderlich (1997a: 36))あるいは「項拡張(argument extension)」

(Wunderlich (1997b: 118ff.))と呼ばれる。

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あるzに対しては構造格が与えられ、そのほかの項xとyについては、zをL統御す るか否かによって構造格が認可されるかが決定される。まず、(37)におけるxはそのひ とつ上の節点に<s, t>があり、そのさらにひとつ上の<s, t>の配下にzがあることから、

xはzをL統御している。一方で、yについては、そのひとつ上の節点<e, <s, t>>の配 下にzがなく、またこの節点の上にあるのは異なるタイプの節点<s, t>であることから、

連鎖が形成されず、y は z を L 統御しない。そのため、構造格となりえるのは、(37) の意味階層のツリー表示における最下位の項zとこれをL統御するxの2項のみとな る。よって、動詞trinken (= drink) の本来の目的語の項であるyには構造格が認可され ない。こうして、例えば「彼はワインセラーをからにするまで〔ワインを〕飲んだ」

を表す結果構文Er trank den Weinkeller leer. = He drank the wine cellar empty.(Wunderlich (1997a: 41)参照)において、合成された意味形式(=上掲(36))における基底の動詞

trinkenの本来的な項ではないz (例えばder Weinkeller)が構造格の対格で具現し、ま

たその場合に基底のtrinken の第2項y (例えばWein)に構造格が与えられず、統語 上実現しないことが説明される16

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