5. 理論的背景―語の意味と文意味の対応関係
5.1. 先行研究
5.1.3. Levin/Rappaport Hovav (1995)
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内項を表すとされる。さらに内項については、< >の内側の第1項yは直接内項(direct internal argument)を、第2項zは間接内項(indirect internal argument)を表すとされる。
(22)の項構造における項 e は、Davidson (1967)に始まるイベント意味論(例えば
Higginbotham (1985)やRothstein (1983)など)で想定される、動詞によって表される事
象を指すイベント項(event argument)とされる9。(22)のうち統語的な項となるのは、
個体を指す変項(x, y, z)のみである。
このように、Levin/Rappaport Hovav (1995)は、項構造を動詞のレキシコンに備わる特 性として想定し、各種の交替現象(例えば自他交替や場所格交替)をレキシコン内の 項構造において起こるものとして、統語現象とは切り離した語彙的な操作として捉え る。そのために、Levin/Rappaport Hovav (1995)の分析では、語彙意味構造(LSR)と項 構造(AS)を結びつける各種のリンキング規則が論じられる。Levin/Rappaport Hovav (1995)で提案される主要なリンキング規則は、以下のとおりである:
(23) Immediate Cause Linking Rule
The argument of a verb that denotes the immediate cause of the eventuality described by that verb is its external argument.
(Levin/Rappaport Hovav (1995: 135)) (24) Directed Change Linking Rule
The argument of a verb that corresponds to the entity undergoing the directed change described by the verb is its direct internal argument.
(Levin/Rappaport Hovav (1995: 146)) (25) Existence Linking Rule
The argument of a verb whose existence is asserted or denied is its direct internal argument.
(Levin/Rappaport Hovav (1995: 153)) (26) Default Linking Rule
An argument of a verb that does not fall under the scope of any of the other linking
9 Higginbotham (1985)によると、項構造の表示における動詞のイベント項(e)は、「動詞
句(VP)が屈折要素(INFL)と照合されるときに解消(discharge)され」(Higginbotham
(1985: 561))、統語的な項とはならない。このような動詞のイベント項は、動詞派生名詞
や副詞規定の解釈の分析に有効であるとされる(Higginbotham (1989)参照)。
152 rules is its direct internal argument.
(Levin/Rappaport Hovav (1995: 154))
(23)の「直接原因(immediate cause)」に関わる規則は、外的原因(external cause)あ るいは内的原因(internal cause)によって引き起こされる事象を表す他動詞および自動 詞のどちらにも適応されるもので、動詞が表す事象の(外的・内的にかかわらず)直 接原因を表す項は外項として項構造に連結される、というものである。ここでいう外 的原因を表す項とは、使役主(causer)の意味役割を与えられる項(例えば状態変化を 表す他動詞breakやopenの主語)に相当する。内的原因を表す項の代表とされるのは、
動作主(agent)の意味役割を持つものである。例えばplay(遊ぶ)、laugh(笑う)、speak
(話す)などの行為を表す動詞の主語として実現される項は、動詞によって表される 事象の内的原因(=動作主)を表すとされ、これらはいわゆる非能格の自動詞として 捉えられる。
(24)の規則は、位置的あるいは状態的に「方向づけられた変化(directed change)」が 表される場合に、その変化を受ける対象は内項として項構造にリンクされるというも のである。この規則は、典型的にはbreakのような状態変化を表す動詞に適用される。
break が他動詞として用いられる場合、その外的原因を表す使役主(causer)は(23)の
Immediate Cause Linking Ruleによって外項として連結される。その一方、変化を被る
対象(いわゆるtheme)は(24)のDirected Change Linking Ruleによって内項として生成 されることが保証される。動詞 break が自動詞として用いられる場合、直接原因を表 す項は「語彙的に束縛され(lexically bounded)」、変化を被る対象のみが項構造に連結 される。その際にも(24)のDirected Change Linking Ruleが適用されることで、「方向づ けられた変化」を受ける対象は内項位置に生成され、反使役の自動詞 break は統語的 には非対格動詞の性質を示すとされる。
(25)は存在(exist、remain など)や出現(appear、occur など)を表す動詞に関わる
もので、これらの動詞が取る項を「直接内項(direct internal argument)」を表すものと して、項構造に内項として連結する規則である。存在や出現を表す動詞が非対格動詞 の振る舞いを示すことが、この分析の証左とされる。
(26)は、動詞が取る項が(23)~(25)のリンキング規則のいずれにも当てはまらない場 合、その項は内項として項構造に連結されるというものである。
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さらにLevin/Rappaport Hovav (1995: 158)では、上記のリンキング規則とあわせて、
以下の(27)のようなリンキング規則の優先順位が想定されている:
(27) “[...] the Directed Change Linking rule takes precedence over the Immediate Cause Linking Rule.” (Levin/Rappaport Hovav (1995: 158))
(27)は、「方向づけられた変化」を被る対象(theme)が内項位置に生成されるという規
則(=(24)のDirected Change Linking Rule)が、動作主(agent)のような「直接原因」
を表す項が外項位置に連結されるという規則(=(23)のImmediate Cause Linking Rule)
よりも、優先されることを述べている。この優先規則により、例えばrun(走る)やjump
(跳ぶ)などの移動様態動詞が、run through the maze(迷路を走る)やjump over the fence
(柵を跳び越える)のように方向規定句を伴った場合、その主語が人や生物などの動 作主的な実体であっても、「方向づけられた変化」を被る対象として内項の位置に生成 され、その結果として非対格動詞の振る舞いを示すとされる(Levin/Rappaport Hovav
(1995: 187ff.))。その経験的な証拠として挙げられるのが、英語の移動様態動詞におい
て観察される、以下の(28)~(30)のような他動詞用法10である:
(28) a. The soldiers marched (to the tents).
b. The general marched the soldiers to the tents.
(29) a. The horse jumped (over the fence).
b. The rider jumped the horse over the fence.
(30) a. The mouse ran (through the maze).
b. We ran the mouse through the maze. (Levin/Rappaport Hovav (1995: 111, 188))
Levin/Rappaport Hovav (1995)の分析によれば、march(行進する)、jump(跳ぶ)、run
(走る)などの、動作主性を示す(agentive)移動様態動詞では、方向規定句が付加さ れることによって、その第1の項(例えば(28a)のthe soldiers、(29a)のthe horse、(30a)
10このタイプの自他交替は、「勧誘行為交替(induced action alternation)」とも呼ばれる。こ の勧誘行為交替現象については、影山 (2000)や丸太 (1998)などで、Levin/Rappaport
Hovav (1995)とは異なる分析が行われている。
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のthe mouse)が「方向づけられた変化」を被る対象として、内項の位置に生成される
ことになる(非対格動詞への転換)。その結果として、使役主(causer)や動作主(agent)
によって占められるべき外項の位置が空となり、その位置を外的な原因を表す項(例 えば(28b)ではthe general、(29b)ではthe rider、(30b)のwe)によって埋めることが可能 となり、(28b), (29b), (30b)のような他動詞用法が認められるとされる。