• 検索結果がありません。

Oya (2005)

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 176-180)

6. 移動動詞の意味構造

6.1. 先行研究

6.1.3. Oya (2005)

169 彼は2時間泳いだ。

b. Sie ist zur Insel geschwommen.

she-NOM is-3SG to.the island swum 彼女は島へ泳いで行った。

(8) schwimmen の語彙意味構造(LSS)

a. DO (x)

b. GO (LOC (x, a), LOC (x, b))

Rapp (1997: 113)では、kommen(来る)のようなGO(移動)のヴァリエーションのみ

を持つ一部の例外を除いて、ほとんどの移動動詞が上掲の(8)のschwimmen のように、

DO(行為)のヴァリエーションと GO(移動)のヴァリエーションを併せ持つとされ

ている。

170 Dieter rannte zum Bahnhof.

Dieter-NOM ran-3SG to.the station ディーターは駅へ走って行った。

(9a)のように結果構文で用いられる典型例は、例えば arbeiten(働く)、singen(歌う)

などの行為動詞であり、(9b)のような移動構文の典型例はkommen(来る)、gehen(行 く)といった純粋な移動を表す動詞であるとされる。laufen、rennen、schwimmenなど の様態動詞は、その名称のとおりに様態上の特徴を表す行為動詞としての側面と移動 動詞としての側面とを併せ持つものとして捉えられている。これらの動詞の意味構造 を分析するにあたって、Oya (2005)では、影山 (2000)によって提案された英語の移動 様態動詞の意味構造が批判的に検討されている。影山 (2000)では、jumpやrunといっ た移動様態動詞の意味構造が、以下の(10)の図式で捉えられている:

(10) 影山 (2000)による英語移動動詞の意味構造 [ xi ACT ] CAUSE [xi MOVE [Path ]]

(10)の図式で示されるのは、「自らの動作(ACT)によって、その行為者自身が移動す

る(MOVE)」という再帰的な意味構造である。影山 (2000)では、jump や run などの 移動様態動詞が(10)のように再帰的な構造を持つという証左として、これらの移動様態 動詞に、例えばThe horse jumped over the fence.(馬がフェンスを跳び越えた)/ The jockey jumped the horse over the fence.(騎手は馬を操ってフェンスを跳び越えさせた)のよう な、いわゆる「勧誘行為交替」と呼ばれる他動詞の用法が存在することが挙げられて いる5。このような影山 (2000)の分析に対し、Oya (2005)は、英語のjumpやrunに対応 するドイツ語のspringenやrennenでは、勧誘行為交替現象が観察されないことを指摘 している((11), (12)はOya (2005: 114)からの引用):

(11) a. The trainer jumped the horse over the fence.

騎手は馬を操ってフェンスを跳び越えさせた。

5 影山 (2000)は、jumpやrunなどの英語の移動様態動詞の意味構造として、(10)のような

再帰的構造を想定したうえで、The jockey jumped the horse over the fence.のような他動詞 の用法は、通常の自動詞用法では同一項である行為者と移動物のいずれかを、別の項に すり替えたものであると分析している。

171 b. The psychologist ran the mouse through the maze.

心理学者はネズミに迷路を走らせた。

c. The general marched the soldiers to the tent.

司令官は兵士たちにテントまで行進させた。

(12) a. *Der Trainer sprang das Pferd über den Zaun.

the trainer-NOM jumped-3SG the horse-ACC over the fence

b. *Der Psychologe rannte die Maus durch den Irrgarten.

the psychologist-NOM ran-3SG the mouse-ACC through the maze c. *Der General marschierte die Soldaten zum Zelt.

the general-NOM marched-3SG the soldiers-ACC to.the tent

Oya (2005)は、ドイツ語のspringenやrennenといった移動様態動詞では、(12)のように

語彙的な自他交替(勧誘行為交替)が認められてないことを挙げて、これらの動詞に ついて上掲(10)のような再帰的な意味構造を想定することは適切ではないと主張する。

そして、影山 (2000)による(10)の意味構造に代わって、Oya (2005)では、rennen、

schwimmen、springenなどの動詞およびそれらに対応する英語のrun、swim、jumpなど

の動詞について、以下の(13)の意味構造が提案される(Oya (2005: 116)):

(13) [x MOVE <manner> [Path ]]

(13)の意味構造は、「項xが特定の様態(manner)を伴って移動する(MOVE)」ことを

表し、この意味構造における経路(Path)の概念は、具体的には移動の方向を表す前 置詞句によって表されるとされる。

さらに Oya (2005)では、ドイツ語の様態動詞では「移動」と「行為」の要素のどち らに重点があるかによって、移動を表す構文における再帰代名詞の現れ方が異なるこ とが示されている((14)~(16)はOya (2005: 118)からの引用):

(14) a. Er rannte zum Bahnhof.

he-NOM ran-3SG to.the station 彼は駅へ走って行った。

172 b. Er schwamm ans Ufer.

he-NOM swam-3SG onto.the bank 彼は岸まで泳ぎ着いた。

(15) a. Er bettelt *(sich) durchs Land.

he-NOM begs-3SG REFL through.the country 彼は国じゅう物乞いをして回る。

b. Er kämpft *(sich) durch die Menschenmenge.

he-NOM fights-3SG REFL through the crowd.of.people 彼は苦労しながら群衆をかきわけて進む。

(16) a. Er robbt (sich) durchs Gebüsch.

he-NOM crawls-3SG REFL through.the bushes 彼は腹這いでやぶの中を進む。

b. Er hangelt (sich) über den Fluss.

he-NOM climbs.hand.over.hand-3SG REFL over the river 彼はロープにぶらさがりながら川を越えて渡る。

c. Er schleicht (sich) aus dem Zimmer.

he-NOM creeps-3SG REFL out.of the room 彼は部屋からこっそりと忍び出る。

(14)のように、移動構文で再帰代名詞が出現しないrennenやschwimmen などの動詞で

は、その意味構造上、移動(MOVE)の部分に重点があるとされる。(15)のbetteln(物 乞いする)や kämpfen(戦う)のように、移動を表す構文において再帰代名詞が出現 する動詞は、本来的には行為([x DO])を表すとされる。このタイプの動詞における 移動構文の意味構造は、[xi DO] CAUSE [yi MOVE [Path ]]「xiの動作によってyiが移動 する」のように、使役(CAUSE)に基づく表示で捉えられるとされる6。(16)のrobben

(匍匐前進する)、hangeln(ぶらさがりながら登る)、schleichen(足音をしのばせて歩 く)のように、移動構文で再帰代名詞の出現が任意であるものは、本来的に移動を含

6 Oya (2005: 118)によれば、移動する主体のyiは、主語で示される行為の主体xi自身の身

体である。両者が同一指示であることで(yi=xi)、yiは統語上、再帰代名詞で示される ことになるとされる。

173

意するものとされる。このタイプの動詞は、rennenやschwimmenと同様に、上掲(13) の意味構造で捉えることができるとされる。

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 176-180)