• 検索結果がありません。

Schröder (1993)

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 66-70)

3. 移動動詞における項の拡張

3.2. 移動動詞の分類

3.2.4. Schröder (1993)

59

(20) Die Sauce läuft über den Teller auf den Tisch.

the sauce-NOM runs-3SG over the plate onto the table

/TR/(担い手) /P/(経過点) /G/(着点)

ソースが皿から溢れてテーブルの上にこぼれる。

上掲のlaufen1~laufen3は、Gerling/Orthen (1979)の定義による能動的な(aktiv)移動を 表すもので、上掲のlaufen4とlaufen5は受動的な(passiv)移動を表すものであるとさ れる。/−AKT/で特徴づけられるlaufen4およびlaufen5の主語の移動物はどちらも「担 い手」の意味役割が与えられるが、その差異は「固体」(laufen 4)か「液体」(laufen 5)

かという移動物の性状によるとされる12

Gerling/Orthen (1979)による移動動詞の意味分析において特徴的なことは、それぞれ の移動動詞に内在する固有の意味特性を、/Land/(地上)や/+schnell/(速い)のような 修飾子によって、ヴァレンツに対応する意味役割を記す機能子とは分けて記述してい ることである。laufen の記述を例にすると、laufen1 として示される「私は歩いて街に 行く」のような場合、/Land/, /+horizontal/, /±schnell/といった修飾子で特徴づけられる。

laufen2 の「ヘンリーはスキーで山の野原を滑る」のような場合、/Land/, /+horizontal/,

/+schnell/, /sportlich/といった修飾子で特徴づけられている。両者は地上における水平方 向の移動(/Land/, /+horizontal/)という点で共通しているが、移動の速さ(/±schnell/ま たは/+schnell/)やその移動がスポーツによるものなのか(/sportlich/)という点で異な っている。修飾子として示される主な要素は、移動の空間(Land「地上」、Luft「空中」、

Wasser「水中」)、方向(horizontal「水平方向」か否か)、移動の速度に関わるものが挙

げられる。

60

観点は、Gerling/Orthen (1979)と共通しているといえる。また、Schröder (1993)の意味分

析では、Gerling/Orthen (1979)の分析と同じように、能動的な移動を表す場合の主語の 移動物には「動作主」の意味役割が、非能動的な移動を表す場合の主語には「担い手」

の意味役割が、それぞれ割り当てられるとされている(意味役割の捉え方は、Schröder (1993: 8ff.)参照)。

Schröder (1993)では、個々の動詞の意味分析についても、Gerling/Orthen (1979)との類

似が見られる。例えば、動詞laufenについての記述を見ると、Gerling/Orthen (1979)と 同様に、laufenの用法の下位分類が行われている。以下、Schröder (1993: 72-75)におけ

るlaufen1~laufen6の意味素性(semantische Merkmale)14と、それぞれに対応する例文

を示す(以下の(21)~(26)はSchröder (1993: 72-75)の引用):

laufen 1

意味素性: [+Aktivität / +solid]

(21) Unsere kleine Tochter läuft schon.

our small daughter-NOM walks-3SG already 私たちの小さな娘はもう歩いている。

laufen2

意味素性: [+Aktivität / +solid, +direktion (final)]

(22) Er läuft jeden Tag ins Wirtshaus.

he-NOM goes-3SG every day into.the pub 彼は毎日居酒屋に行く。

laufen3

意味素性: [+Aktivität / +solid, (+schnell), +direktion (final)]

(23) Ich laufe schnell nochmal zur Post.

I-NOM go-1SG quickly again to.the post 私は急いでもう一度郵便局に走って行く。

は、リストアップされたもののうち、約200の移動動詞であるとされる。

14 Schröder (1993)の分析では、個々の移動動詞について、ここで取り上げる「意味素性」

のほかにも、文中の項の数を示す論理的結合価(logische Stelligkeit)、動詞の共演成分の 数を示す統語的結合価(syntaktische Valenz)、それらに対応する意味役割(semantische Kasusfunktionen)および文成分としての表示形式を示す統語的な共演成分(syntaktische

Aktanten)が示されている。

61 laufen4

意味素性: [+Aktivität / +solid, +schnell, +direktion]

(24) Die Bewohner laufen aus dem brennenden Haus.

the inhabitants-NOM run-3PL out.of the burning house 住人たちは燃えさかる家から走って出てくる。

laufen5

意味素性: [+Aktivität / +solid, +schnell, +distanz]

(25) Sie läuft heute die 200 m, nicht die kurze Sprintstrecke.

she-NOM runs-3SG today the 200m-ACC not the short track-ACC

彼女はきょう、短距離のトラックではなく、200メートルを走る。

laufen6

意味素性: [−Aktivität / +solid, +liquid15, (+direktion)]

(26) Das Wasser läuft aus dem Hahn in die Wanne.

the water-NOM runs-3SG out.of the tap into the bath 水が蛇口から浴槽に流れる。

laufen 1は、人や動物などが自身の足で一歩一歩(schrittweise)移動し、その移動の方

向が示されない場合を指すとされる。laufen 2 と laufen 3 は、ある目標に向かい

(zielgerichtet)、特定の目的を持って移動する場合であるとされる。両者の差異は、

laufen 2が例文(22)「彼は毎日居酒屋に行く」で示されるように、必ずしも歩いたり走

ったりすることによる移動に限定されないのに対して、laufen3は「足を使って移動す る(sich auf den Füßen fortbewegen)」、すなわち「歩く」あるいは「走る」ことによる 移動に限られることである。laufen4は「走る」速度が速い場合を、laufen5は(とくに スポーツ競技で)特定の距離を走りきる場合を指すとされる。laufen1~laufen5が能動 的な移動を表す(+Aktivität)一方で、laufen6 は非能動的な移動(−Aktivität)を表す。

laufen6は具体的には移動物が液体(Flüssigkeit)である場合を指すとされる。

15 [liquid](液体)という素性は、Schröder (1993)では、例えば schwimmen(泳ぐ)のよう

な水中・水上における移動を特徴づける場合と、laufen6のように移動物の具体的な性状 が液体であることを特徴づける場合との、両方に用いられている。以下で(27)として挙 げる、「乗り物」主語の fahren の用法を特徴づけている素性の1 つである[liquid]は、移 動が生じる空間(水中・水上)の特徴づけとして用いられている。

62

以上のような「意味素性」として記される個々の動詞に内在する固有の特徴は、

Gerling/Orthen (1979)において「修飾子」および「機能子」として記述されていた素性 をまとめたものに概ね対応するといえる16。両者の分析は、どのような素性を弁別的な ものとして捉えるかという点で、部分的に差異が見られる。上掲のlaufen を例にする と、Schröder (1993)では、Gerling/Orthen (1979)では見られなかった移動の距離(distanz)

という素性が弁別的なものとして挙げられている。

さらに、Schröder (1993)の分析が Gerling/Orthen (1979)の分析と異なる点として、

Aktivität(活動)という素性をどのような場合に認めるかということが挙げられる。

Gerling/Orthen (1979)では、主語に移動手段として用いられる乗り物(Fahrzeug)が示 される場合、その移動は別の「動作主」(=乗り物を操縦する人)が認められる受動的 なものとされる17。他方、Schröder (1993)では、移動手段の乗り物が主語で示される場 合、その移動は能動的な移動に当たるとされる。以下、(27)はSchröder (1993: 36)にお ける「乗り物」主語のfahrenの用法についての記述である:

(27) Schröder (1993: 36)による「乗り物」主語のfahrenの記述18

„Ein Land- oder Wasserfahrzeug bewegt sich, von einer Kraft getrieben, zielgerichtet fort.“

16実際にSchröder (1993: 31)では、„Inhärente semantische Merkmale der Verben: Funktoren / Modifikatoren“のように、意味素性に対応するものとして機能子と修飾子が併記されてい る。

17 Gerling/Orthen (1979: 101)では、主語の移動物が乗り物である場合の捉え方について、次

のように述べられている:

Bei der Bewegung eines Fahrzeuges wird zwar die Bewegung am Fahrzeug selbst sinnlich wahrgenommen, diese Bewegung ist aber nach unserer Ansicht nicht als aktive Fortbewegung zu verstehen, da die Bewegung eines Fahrzeuges immer den Bewegenden (den Fahrer o.ä.) voraussetzt. Es ist also nicht das Auto, das von sich aus fährt, auch nicht der dahintersteckende Motor, der die Bewegung ermöglicht, sondern der Mensch, der dieses Auto fährt, ist der Aktor. (Gerling/Orthen (1979: 101))

乗り物の移動においては、たしかにその乗り物自体が移動するものとして認識 される。しかし、私たちの見解では、この場合の移動は能動的な移動としては 捉えられない。なぜなら、乗り物の移動においては、常に移動させる人(運転 手など)が前提となるためである。すなわち、〔それ自体に備わる動力で〕自発 的に走行する自動車でも、その移動が可能となる背後にある〔自動車に備わる 動力の〕モーターでもなく、自動車を運転する人物が、動作主(Aktor)として 捉えられる。

18 Schröder (1993: 36)で、fahren3の用法として挙げられている。

63

「陸上用あるいは水上用の乗り物が、動力により、目標に向かって移動する」

意味素性: [+Aktivität / +solid od. +liquid, +direktion]

(例)Der InterCity fährt von Berlin über Magdeburg nach Hannover.

the intercity-NOM goes-3SG from Berlin via Magdeburg to Hannover インターシティはベルリンからマクデブルク経由でハノーファーへ行く。

(27)の説明から、主語で示される乗り物がひとりでに動くような移動物として捉えられ る場合、その移動は(外的な要因によって「動かされる」ような)受動的なものでは なく、能動的なものとして捉えられていることがうかがえる。実際に、fahren で表さ れる移動手段の列車や自動車などの場合、それらの乗り物を操る人の存在が前提とさ れるものの、その移動自体は移動物(列車・自動車)に備わる動力によって推進され ると考えられる。このように Schröder (1993)では、移動動詞によって表される移動が 能動的移動なのかあるいは受動的移動なのかということが、単に生物か無生物かとい う主語の移動物の種別によってではなく、移動を生じさせる要因が移動物に内在する か否かという基準によって捉えられているといえる。

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 66-70)