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Wunderlich (2000)

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 191-194)

7. 事象の「所有」: 与格構文と lassen 構文の意味構造

7.1.1. Wunderlich (2000)

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いる。Wunderlich (2000)が提案する所有者拡張とは、以下の(1)で示されるような、動 詞本来の項構造に対して「所有」関係を表す関数POSS (z, u)「zがuを有する」を追 加する操作である。ここでの z と u はどちらも個体の項を指すとされる(Wunderlich (2000: 262)):

(1) a. 被動項を持つ自動詞の場合:

λx λs VERB (x)(s) ⇒ λx λz λs [POSS (z, u) & VERB(x)](s) +hr

b. その他の場合:

... λ s VERB (...)(s) ⇒ ... λs [VERB (…) & POSS (z, u)](s)

(1)のとおり、Wunderlich (2000)では、もとの動詞が 1 項をとる自動詞の場合とその他

の場合とに応じて、所有者拡張の図式に2 つのタイプが想定されている。その他の場 合とは、具体的には、2項をとる他動詞の場合を指す。(1a)では、ラムダ抽象化された zに「より高い項が存在する」ことを示す+hrという素性がつけられているが、これは POSS により追加された項 z が与格として実現することを保障するためであるとされ

る。1項動詞のfallen、2項動詞のwaschenを例に挙げると、基底の動詞の意味構造は

(2)のように、所有者拡張された図式は(3)のように示される((3)は Wunderlich (2000:

263)からの引用、(2)は筆者による1):

(2) a. Die Tasche fiel in den Fluss.

the bag-NOM fell-3SG into the river 「かばんが川へ落ちた」

fallen: λQ λx λs [FALL (x) & Q(x)](s) +DIR

b. Er wusch das Hemd.

he-NOM washed-3SG the shirt-ACC

「彼はシャツを洗った」

waschen: λy λx λs WASH (x, y)(s)

1 (2a), (3a)におけるQは「位置変化」を表し、この部分は具体的には方向を表す前置詞句

(directional PP; (2a), (3a)における素性+DIR)によって埋められる。

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(3) a. Mir fiel die Tasche in den Fluss.

me-DAT fell-3SG the bag-NOM into the river

「私にとって都合の悪いことにかばんが川へ落ちた」

λQ λx λz λs [POSS (z, u) & FALL (x) & Q(x)](s) +DIR +hr

b. Er wusch mir das Hemd.

he-NOM washed-3SG me-DAT the shirt-ACC

「彼は私のためにシャツを洗ってくれた」

λu λz λx λs [WASH (x, y) & POSS (z, u)](s)

POSS (z, u)の所有者拡張によって、もともとは1項動詞であるfallen (=λQ λx λs [FALL

(x) & Q(x)](s))ならびに2項動詞のwaschen (= λy λx λs WASH (x, y)(s))が、それぞれ2項 の関係を表すfallen (=λQ λx λz λs [POSS (z, u) & FALL (x) & Q(x)](s))、3項の関係を表す waschen (= λu λz λx λs [WASH (x, y) & POSS (z, u)](s))となる。その際に、POSSの第2 項である所有物uは、Wunderlich (2000: 251)が可能な動詞の意味論的条件として挙げて いる連辞(CONNEXION)の制約(=意味構造の合成において、合成される述語の項 は、合成される前の基底の意味述語のいずれかの項と同定される)2 によって、基底の 意味構造のいずれかの項と同一指示に解釈される必要がある。この制約により、(3a)

におけるPOSS の第2項uはFALLの移動物xと(u=x)、(3b)におけるPOSS の第2

項uはWASHの対象物yと(y=u)、それぞれ同一指示に解釈される。(3a)の所有者拡

張されたfallenは、その意味表示に従うと、「zがuを所有し、xが落ちてQという位

置の変化を被る」という意味を表す。この合成された意味構造において、u と x が同

2 Wunderlich (2000: 251)において、動詞の項拡張が可能となるための意味論的条件として挙

げられている制約は次のとおりである:

CONNEXION. In a decomposed SF structure, each predicate must share at least one argument with another predicate, either explicitly or implicitly. (ibid.: 251)

連辞(CONNEXION)。分解された意味形式(SF)において、〔合成される前と後

の〕それぞれの述語は、明示的あるいは非明示的に、少なくとも1つの項を共有 しなければならない。

COHERENCE. Subevents encoded by the predicates of decomposed SF structure must be connected contemporaneously or causally. (ibid.: 251)

結束(COHERENCE)。分解された意味形式(SF)の述語によって追加される下 位事象は〔上位事象と〕同時的あるいは因果関係的に解釈されなければならない。

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一指示であることで(ここではdie Tasche)、「zがxを所有し、xが落ちてQという位 置の変化を被る」という意味が得られる。(3a)と同様に、(3b)の所有者拡張された

waschenでは、「xがyを洗い、zがuを所有する」という意味表示において、yとuが

同一指示であり(ここではdas Hemd)、「xがyを洗い、zがyを所有する」という意 味が得られる。(3)の所有者拡張された意味構造からは、同時に、自由与格で表されう る不利益や利益といった意味を読み取ることも可能となる。(3a)では、与格で示される

「私」の所有物である「かばん」が、所有者(z)の手を離れるということになり、「私」

はそのような事態から不利益を被ると解釈することができる。(3b)では、与格で示され る「私」は洗われた状態のシャツの所有者(z)であり、ここでは「彼が(私の)シャ ツを洗ってくれる」という「私」にとっての利益の解釈が可能となる。

以上のように、Wunderlich (2000)による「所有者拡張」では、新たに追加される与格 の項と文中のいずれかの項(例えば(3a)では主語の移動物、(3b)では他動詞の目的語)

との間に所有の関係が認められる(=与格が該当項の「所有者」である)ならば、予 め提示された(1)の図式に従い、与格の追加が可能であるとされる。

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