3. 移動動詞における項の拡張
3.2. 移動動詞の分類
3.2.2. Diersch (1972)
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(12)では、各動詞を特徴づける様態上の要素に基づいて、gehen、laufen、stapfen など
の「地上における(Auf dem Boden)」「直立状態(Aufrecht)」の姿勢での移動を表す動 詞が下位分類されている。以上のように、Baumgärtner (1967)の分析では、有生の主語、
とりわけ人(Person)による移動が念頭に置かれて、gehen、laufen、schwimmen、kriechen などの移動動詞が、移動の生じる空間、移動の速度、移動手段、移動様態などの要素 によってそれぞれ記述されている。その際、移動動詞を互いに区別する弁別的な素性 として主に考慮されているのは、移動を推進する身体的な動作に関わる様態であると いえる。
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表される動作では足が地面について身体を支える時間がある一方で、Laufen タイプの 動詞で表される動作は交互の足の動きが素早く、足が身体を支える時間が短い、ある いは両足が地面から浮く瞬間があるとされる(Diersch (1972: 135))。Kriechenタイプの 動詞は、手足の動きが移動を推進するものである点で、上述の2 つのタイプから区別 される(Diersch (1972: 176))。このうちGehenタイプに分類される動詞が最も数が多く、
gehen(歩く)、trippeln(早足でちょこちょこと歩く)、staksen(よたよたと歩く)、schleichen
(足音をしのばせて歩く)、schlendern(ゆっくり歩く)など30の移動動詞が挙げられ
ている。Laufenタイプに分類されるのはlaufen(走る)、rennen(走る)、rasen(疾走す
る)、flitzen(突っ走る)、fegen(さっと走り過ぎる)などの動詞、Kriechen タイプに 分類されるのはkriechen(這う)、krauchen(這う)、robben(匍匐前進する)、krabbeln
(這い回る、腹這いで移動する)である。これらの移動動詞について、辞書用例や文 学先品などから取り出された事例に照らしながら、詳細な記述が行われている7。個々 の動詞の意味分析のあとに、Diersch (1972)が最終的に提案している移動動詞のタイプ 分けは、以下のとおりである:
(13) Diersch (1972: 201f.)による移動動詞の分類 Gehenタイプ
a) 様々な様態を含む:gehen(歩く)、trippeln(早足でちょこちょこと歩く)、trappeln
(ちょこちょこ歩く)、tappeln (dappeln)(小股で歩く)、stelzen(竹馬に乗って歩 く、ぎこちなく歩く)、storchen(足を高くあげてぎこちなく歩く)、staken(よた よた歩く)、staksen(よたよた歩く)、stolzieren(威張ったように歩く、気取って 歩く)、stöckeln(ハイヒールをはいて歩く、気取って歩く)、schwänzeln(腰をふ って気取って歩く)、tänzeln(踊るような足取りで歩く)、wackeln(よろめき歩く)、
watscheln(よたよた歩く)、schlurfen(足を引きずって歩く)、schlürfen(足を引き
ずって歩く)、tappen(おぼつかない足取りで歩く)、sich schleppen(引きずるよう にして動く)、schleichen(足音をしのばせて歩く)、latschen(足をひきずって歩く)、
7 Diersch (1972: 53-191)において、個別に意味記述が立項されているのは、以下の43の移
動動詞である:gehen, trippeln, trappeln, tappeln (dappeln), stelzen, storchen, staken, staksen, stolzieren, stökeln, schwänzeln, tänzeln, wackeln, watscheln, schlurfen, schlürfen, tappen, sich schleppen, schleichen, latschen, zotteln, trotten, trotteln, stapfen, stampfen, trampeln, stiefeln, schreiten, wandeln, schlendern, waten, laufen, eilen, hasten, rennen, rasen, flitzen, fegen, preschen, kriechen, krauchen, robben, krabbeln
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zotteln(のろのろ歩く)、trotten(だらだらと歩く)、stapfen(地面を踏みしめなが
ら歩く)、stampfen(足を踏み鳴らしつつ進む)、trampeln(どしどしと乱暴に歩く)、
stiefeln(大股にゆっくり歩く)、schreiten(堂々と、大股にゆっくり歩く)、wandeln
(逍遥する)、schlendern(ゆっくり歩く)など;(特に早い速度)eilen(急いで行
く)、hasten(大急ぎで行く)、hetzen(急いで行く)など;(特定の空間)waten(渡
渉する);(移動に障害を伴う)hinken(片足を引きずりながら歩く)、 humpeln(片 足を引きずって歩く)、lahmen(足を引きずりながら歩く)、 hatschen(足を引き ずって歩く)、schnappen(片足を引きずって歩く)、 stoplern(よろめきながら歩 く)、 taumeln(千鳥足で歩く)など
b) 意図、目的、使命を含意する:spazieren(散歩する)、promenieren(逍遥する)、
flanieren(漫然と散歩する)、bummeln(ぶらつく、漫然と散歩する)、wandern(歩
き回る、ハイキングする)、walzen(放浪する)、 pilgern(巡礼する)など c) 特定の陣形で移動する:marschieren(行進する)、defilieren(パレードする)、
paradieren(パレードする)、ziehen(行進する)
d) 短い距離(最小で一歩)かつ目標への到達を含意する:treten(歩み入る/出る)
Laufenタイプ
laufen(走る)、rennen(走る)、rasen(疾走する)、fegen(さっと走り過ぎる)、flitzen
(突っ走る)、wetzen(走る、急ぐ)、huschen(さっと通り過ぎる)、spritzen(急 いで駆けて行く)、jagen(疾走する、突進する)、pesen(急いで走る)、schesen(大 急ぎで走る)、sprinten(全力疾走する)、spurten(スパートする)、stürmen(突進 する)、stürzen(突進する)、stieben(あわてて突っ走る)、schießen(勢いよく進 む)など
Springenタイプ
springen(跳ぶ)、setzen(跳び越す)、schnellen(跳ねる)、hüpfen(ぴょんぴょん
跳ぶ)、hopsen(跳びはねる)、hoppeln(ぴょんぴょん跳びはねる)
Gleitenタイプ
gleiten(滑る)、schleifen(氷の上を滑る)、schlittern(スケートをする)、glitschen
(滑る)、kascheln(氷滑りをする)、rutschen(滑る)
Schlüpfenタイプ
schlüpfen(するりと入り込む)、schliefen(するりと滑り込む)、witschen(すばや
55 く滑り込む)、wutschen(さっと出る)
Kriechenタイプ
kriechen(這う)、krauchen(這う)、robben(匍匐前進する)、krabbeln(這い回る、
腹這いで移動する)、kribbeln(昆虫などがうようよと動き回る)など Kletternタイプ
klettern(よじ登る)、klimmen(よじ登る)、kraxeln(苦労してよじ登る)、hangeln
(ぶらさがりながら両手を使って登る)、turnen(巧みに身を動かしてよじ登る)
Schwimmenタイプ
schwimmen(泳ぐ)、kraulen(クロールで泳ぐ)
Fliegenタイプ
fliegen(飛ぶ)、flattern(ひらひら跳び回る)、schwirren(ぶんぶんと音を立てて飛
ぶ)、schweben(浮かぶ)
Reitenタイプ
reiten(騎行する)、traben(馬が速足で駆ける)、galoppieren(馬が疾走する)、sprengen
(馬で疾駆する)
Fahrenタイプ
fahren(車などで行く)、radeln(自転車で行く)、rollern(スクーターで行く)、kutschen
(馬車に乗って行く)、kutschieren(馬車に乗って行く)、rudern(ボートを漕いで 行く)、paddeln(カヌーに乗る)、segeln(帆走する)、dampfen(汽車・汽船で行 く)など
Springen、Gleiten、Schlüpfenタイプについては、それぞれ「一連の跳躍による移動」(=
Springenタイプ)、「滑ることができるような土台・表面における移動」(=Gleitenタイ
プ)、「(例えば部屋のように)閉じられた空間への短い距離を伴う完結的な移動」(=
Schlüpfenタイプ)を表すものとされる(Diersch (1972: 200, 202)の記述を参照)。Klettern タイプは、手足を用いた動作を表すという点では上述のKriechenタイプと同様である が、その移動が垂直方向に限定されるという点で Kriechen タイプから区別される。
Schwimmen タイプは、水中における移動を表すという点で、他のタイプと異なる。
Fliegenタイプは空中での移動を表すものである。ReitenタイプとFahrenタイプは、ど
ちらも移動主体である人による、何らかの移動手段(Hilfsmittel)を用いた移動を表す
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ものとされる。Reiten タイプでは移動手段が生物(Tier; 具体的には馬など)であり、
Fahrenタイプではそれが例えば自動車などの人工的な乗り物(Fortbewegungsmittel)で
ある点で、互いに区別される(Diersch (1972: 199))。このようにDiersch (1972)では、
動詞で表される動作の様態や速度、移動の空間、移動手段といった移動に関わる弁別 的な要素に従い、移動動詞がタイプ分けされている。