4. 事例調査―移動動詞の lassen 構文と与格構文
4.3. 分析結果のまとめと考察
4.1.および4.2.では、IDSコーパスから収集したlassen構文の事例(全311例)、与格
構文の事例(全 240 例)について分析を行った。事例分析の結果、lassen 構文の「間 接使役」の解釈は補部で自律的移動が表される場合に、「意図的使役」「非意図的使役」
の解釈は補部で非自律的移動が表される場合に得られる解釈であることが確かめられ た。また、与格構文の「被影響」の解釈は表される移動のタイプ(自律的移動/非自 律的移動)を問わず認められる一方で、「潜在的使役」の解釈は非自律的移動を表すも のに限定されることが、事例の分析結果から確認された。また、移動動詞が出現する
lassen 構文では、viel(たくさん)、gekonnt(巧みに)、gut(巧みに)などの動作や行
為のあり様を叙述する副詞規定との共起が観察され、それらの副詞規定は不定詞補部 の意味上の主語による移動の様態を叙述するものと、lassen 構文の主語による動作や 行為を叙述するものとに分けられた。lassen 構文の主語による動作や行為を叙述する 副詞規定は、「意図的使役」および「非意図的使役」のlassen構文の事例で認められた。
このことは、これらの解釈のlassen 構文における主語が、事態の引き起こしがその意 図によるものか否かという違いはあるものの、動作主的な項であることを裏づけてい ると考えられる。また、移動動詞が出現する与格構文では、fast(危うく)やplötzlich
(突然)のような事態の生起について叙述する副詞規定との共起が見られた。これら の副詞規定は、「被影響」あるいは「潜在的使役」という構文の解釈を問わず、共起が
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さらに、事例の分析結果に基づき、「非意図的使役」解釈のlassen構文は、有界的な 経路を表す経路項の表示を伴い完結的な移動が表される、経路項で主語との関係性を 示す「関係名詞」が現れやすい傾向があるという点で、lassen 構文で得られるその他 の2 つの解釈から区別されることが明らかとなった。このような「非意図的使役」の
lassen構文で見られる特徴は、「被影響」あるいは「潜在的使役」を表す与格構文全体
と共通するものである。与格構文では、構文の解釈を問わず経路項の表示が必須であ り、それらの経路項では与格との関係性を示す「関係名詞」が示される傾向が認めら れた。
また、与格構文では、構文の解釈と特定の経路表現(起点・着点・中間経路)との 間に一定の相関性が観察された。「被影響」解釈の与格構文については、以下の(117) の例のように、着点を表す経路項と結びつく傾向が顕著に認められた。他方で、「潜在 的使役」解釈の与格構文は、以下の(118)の例のような起点を表す経路項と相対的に結 びつきやすいという傾向が認められた。
(117) „Die Koffer sind uns auf die Köpfe gefallen, (...).“ (= (73), (83), (104)) the suitcases-NOM are-3PL us-DAT onto the heads fallen
「スーツケースが私たちの頭の上に落ちてきて、(…)」(被影響)
(118) „Mir ist die Zeitung aus der Hand gefallen, (...).“ (= (76), (102)) me-DAT is-3SG the newspaper-NOM out.of the hand fallen
「(…)私は新聞を手から落としてしまった。」(潜在的使役)
起点や着点のように有界的な経路を表す経路表現と結びつくと、表される移動もまた 時間的・アスペクト的に区切られた有界的なものとなる。経路項で示される対象物、
例えば(117)における「頭」や(118)における「手」は、移動物とその移動によって関連 づけられる対象であり、経路項で指示される空間は、いわばその移動の参照点ともい
える。(117)では着点を表す前置詞句aufとの共起によって、「移動物(=スーツケース)
が(移動の参照点である)「頭」に存在しない」から「移動物が「頭」に存在する」と いう、初発の段階とそれに反する終結の段階という相反する局面から構成される移動 が表される。また、(118)では起点を表す前置詞句ausとの共起によって、「移動物(=
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新聞)が(移動の参照点である)「手」に存在する」から「移動物が「手」に存在しな い」という相反する局面からなる移動が表される。(117)では、着点を表す経路項(前
置詞句auf)で示される「頭」の所有者である与格の「私たち」は、「(存在しなかった)
物体が、(自身の)頭に存在するようになる」という表される事態の受け手の人、事態 から影響を被る人物として解釈される。他方、(118)では、起点を表す経路項(前置詞
句aus)で示される「手」の所有者である与格の「私」は、「(初発段階で存在した)物
体が、(自身の)手に存在しなくなる」という事態の生起に関わりえた、その潜在的な 使役主として解釈されると考えられる。
「被影響」または「潜在的使役」の与格構文ではそのほか、以下の(119), (120)のよう に、有界的な中間経路を表す経路項との共起も観察された:
(119) Ein gefällter Baum war ihm über den Fuß gerollt.
a felled tree-NOM was-3SG him-NOM over the foot rolled
(Neue Kronen-Zeitung, 15.04.1997, S. 20) 倒木が彼の足の上に転がってきた。(被影響)
(120) „Der Ball ist mir durch die Hände gerutscht (...)“, [...]. (= (106), (110c)) the ball-NOM is-3SG me-DAT through the hands slid
「私はボールを手から滑り落としてしまった(…)」〔…〕(潜在的使役)
起点や着点の経路表現と同様に、有界的な中間経路を表す経路表現と結びつくと、表 される移動は時間的・アスペクト的に区切られたものとなる。有界的な中間経路では、
移動の参照点と呼べるような経路項で示される空間を、移動物が「通過する」ことが 表される。それはすなわち、経路項で示される空間(=移動の参照点)に初発段階で は存在しなかった物体が、その参照点に存在するという段階を経て(中間段階)、そこ から存在しなくなる(終結段階)、という推移を表す。(119), (120)のように有界的な中 間経路を表す経路項を伴う与格構文では、有界的な中間経路を伴うことで表される初 発段階から中間段階への移行あるいは中間段階から終結段階への移行のいずれに与格 と表される移動との関わり方の視点が置かれるかに応じて、構文の解釈に揺れが生じ ると考えられる。(119)では、「移動物(=倒木)が(移動の参照点である)「足」に存 在しない(初発段階)」から「移動物が「足」に存在する(中間段階)」への移行に、
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表される移動に対する与格の関わり方の視点が置かれて、「足」の所有者である与格の
「彼」は「(存在しなかった)物体が足に存在するようになる」という事態の受け手(こ こでは被害者)として解釈される((119)は「被影響」の解釈)。他方(120)では、「移動 物(=ボール)が(移動の参照点である)「両手」に存在する(中間段階)」から「移 動物が「両手」に存在しない(終結段階)」への移行に、表される移動に対する与格の 関わり方の視点が置かれ、「両手」の所有者である与格の「私」は「(存在した)物体 が、両手に存在しなくなる」という事態の生起に関わりえた人物として見なされるこ とが可能となると考えられる((120)は「潜在的使役」の解釈)。
また、上掲(117)~(120)の経路項で示されているのは、与格との関係性を示す「関係 名詞」であるが、「関係名詞」として捉えられる人の身体部位や着衣、その所有物、そ の関与の及ぶ領域は、人との間に狭義の所有関係(Possession; possession)が認められ る対象であるといえる。経路項で「関係名詞」が示される与格構文における与格の人 は、文で表される移動の参与者であると同時に、その「関係名詞」である経路項の対 象を介して、移動の推移のいずれかの段階で、移動物をその所有下に置く人物である といえる。例えば上掲の「被影響」解釈の(117)では、文で表される有界的な移動の終 結段階(=「移動物が「頭」に存在する」)において、経路項で示される与格の「関係 名詞」の「頭」を介して、移動物(=スーツケース)が与格の「私たち」のもとにあ る・その所有下にあるものと見なされる。その一方で「潜在的使役」解釈の(118)では、
表される有界的な移動の初発段階(=「移動物が「手」に存在する」)において、経路 項で示される「手」を介して、移動物(=新聞)が与格の「私」のもとにあった・そ の所有下にあったものと解される。(117)は起点を表す経路項、(118)は着点を表す経路 項と結びつく例であるが、(119), (120)の(有界的な)中間経路を表す経路項と結びつ く例においても同様に、経路項で示される与格の「関係名詞」((119)では「足」、(120) では「両手」)を介して、移動物が(一時的に)与格のもとにある(あるいはもとにあ った)・その所有下にある(あるいは所有下にあった)と認めることができる。上述の とおり、(有界的な)中間経路を表す経路項を伴う与格構文では、中間経路を伴うこと で表される初発段階から中間段階への移行あるいは中間段階から終結段階への移行の いずれに与格と表される移動との関わり方の視点が置かれるかに応じて、構文の解釈 に揺れが生じると考えられる。すなわち、移動の推移における中間段階は、そのよう な視点の置かれ方に応じて、「移動物が(参照点に)存在しない」(初発段階)から「移
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動物が存在する」(中間段階)への移行における「終結段階」、あるいは「移動物が存 在する」(中間段階)から「移動物が存在しない」(終結段階)への移行における「初 発段階」のいずれにもなりえるといえる。(119)では、上述のとおり、「移動物が「足」
に存在しない」から「移動物が「足」に存在する」という移行に与格と表される移動 との関わり方の視点が置かれると考えられるが、与格はその移行の終結段階(=「移 動物が「足」に存在する」)において、経路項で示される自らの「足」を介して、移動 物(=倒木)を所有することになったといえる。(120)では、上述のとおり、「移動物が
「両手」に存在する」から「移動物が「両手」に存在しない」という移行に与格と表 される移動との関わり方の視点が置かれ、その移行の初発段階(=「移動物が「両手」
に存在する」)において、移動物(=新聞)が経路項の与格自身の「両手」を介して、
与格のもとにあった・その所有下にあったと見なされる。
上掲(117)~(120)の与格構文の例では、移動の外的要因・原因が想定される非自律的 移動が表されているが、非自律的移動が表される与格構文においては、経路項の表示 を伴うことで表される有界的な移動の初発段階と終結段階のいずれにおいて移動物と 与格との所有関係が認められるかに応じて、「被影響」と「潜在的使役」のいずれかの 解釈が可能となると考えられる。(117), (119)のように表される有界的移動の終結段階 において与格の人物と移動物との(経路項の「関係名詞」を介した)所有関係が認め られる場合、与格は表される移動から影響を受ける人物と見なされる。他方で、(118), (120)のように表される有界的移動の初発段階で与格の人物と移動物との(経路項の「関 係名詞」を介した)所有関係を認めることができる場合、与格は表される移動の生起 に関わりえた、その潜在的な使役主と解することが可能となる。以上のことから、与 格構文において「潜在的使役」解釈が得られるためには、外的原因が想定される非自 律的移動が表され、かつ有界的な移動の初発段階において移動物が与格の人物のもと にあった・その所有下にあったと解される必要があると考えられる(=与格構文の「潜 在的使役」解釈の条件26)。
上述のとおり、lassen構文の「非意図的使役」解釈は経路項の表示を伴い、時間的・
アスペクト的に区切られた移動が表される、かつ経路項で主語との関係性を示す「関
26与格構文における「潜在的使役」解釈の条件について、および、なぜこの条件下で与格 が表される事態を意図せず引き起こした人物(=事態の潜在的な使役主)として見なさ れるのかについては、7.3.3.であらためて考察する。
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係名詞」が表示される傾向があるという点で、与格構文全体との共通性が見られた。
例えば、以下の(121), (122)の「非意図的使役」のlassen 構文では、経路項で有界的な 経路表現((121)は起点、(122)は有界的な中間経路)が示され、さらにその経路項にお いて主語の「関係名詞」が示されている:
(121) Caesar ließ den Ball (...) aus den Armen springen, [...]. (= (24), (49)) Caesar-NOM let-3SG the ball-ACC out.of the arms bounce-INF
ツェーザーは(…)ボールを腕からこぼして弾いてしまった〔…〕
(122) (...) Boussious (...) ließ den Ball durch die Handschuhe rutschen. (= (31), (38)) Boussious-NOM let-3SG the ball-ACC through the gloves slide-INF
(…)ブショーは(…)ボールをグローブから滑り落としてしまった。
(121), (122)では、それぞれ経路表現が起点を表すもの(例(121))、あるいは中間経路を 表すもの(例(122))という違いはあるものの、いずれも表される有界的な移動の初発 段階において、移動物が与格の人物のもとにあったと理解される点で共通している。
(121)では、「移動物が(主語の人物の)「腕」に存在する」から「移動物が「腕」に存
在しない」への移行の初発段階において、移動物(=ボール)が主語の人物のもとに あった・その所有下にあったと見なされる。(122)では、「(移動の推移の中で)移動物 が(主語の人物が身につけている)「グローブ」に存在する」から「移動物が「グロー ブ」に存在しない」への移行における初発段階で移動物(=ボール)が主語の人物の もとにあったと解することができる。以上のことから、lassen構文の「非意図的使役」
の解釈は、補部で非自律的移動が表され、かつその主語が(経路項の表示を伴うこと で表される)有界的な移動の初発段階において移動物をその所有下に置いていた人物 と解されるときに可能となると考えられる(=lassen 構文の「非意図的使役」解釈の 条件)。
以上本章では、コーパスから収集された移動動詞の lassen 構文および与格構文の事 例について、各構文の解釈と表される移動のタイプ(自律的移動/非自律的移動)と の連関、経路項の表示の有無およびその内実と各構文の解釈との相関関係、文中に共 起する副詞規定という観点から分析を行い、lassen 構文の「非意図的使役」と与格構 文の「潜在的使役」の解釈が可能となる統語的・意味的条件を明らかにした。この分