6. 移動動詞の意味構造
6.3. 移動動詞の意味構造: 自律的移動と非自律的移動
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182 (30) 与格構文
a. 自律的移動
Mir lief ein Kind vors Auto.
me-DAT ran-3SG a child-NOM in.front.of.the car
子どもが私の乗った車の前に走ってとびだしてきた。(被影響)
b. 非自律的移動
Mir rollte der Ball aus dem Spielfeld.
me-DAT ran-3SG the ball-NOM out.of the field
ボールは私にとって都合が悪いことにフィールドから転がり出た。(被影響)
/私はボールを意図せずフィールドから転がして出した。(潜在的使役)
(29)で示されるように、補部で自律的移動が表されるlassen構文は「間接使役」として
解釈される一方、補部で非自律的移動が表される lassen 構文は「意図的使役」または
「非意図的使役」の解釈を許す。(30)の例のように、自律的移動が表される与格構文で は「被影響」の解釈しか得られないのに対して、非自律的移動が表される与格構文で は「被影響」のほか「潜在的使役」の解釈も可能となる。このように、移動動詞にお
ける lassen 構文の「非意図的使役」の解釈と与格構文の「潜在的使役」の解釈には、
新たに追加される項(主語または与格)による「意図しない出来事」を表すという意 味的な共通性があり、しかも、これらの解釈は、移動動詞によって非自律的移動が表 される場合にのみ得られるという点でも共通している。
以上のように、項の拡張現象であるlassen 構文と与格構文の解釈に重要な影響を与 える自律的移動/非自律的移動という区別は、意味構造における違いとして分析する ことができると思われる。自律的移動/非自律的移動という違いは、動詞によって表 される移動において、その外的な要因・原因が想定されるか否かによる。上掲の(28b), (29b), (30b)で表されるような非自律的移動では、移動を引き起こした外的な要因・原 因が想定される。そのような潜在的な原因の存在は、意味構造において使役の関数
CAUSEを導入することによって、定式化できると考えられる。例えば「子どもが家に
走って入った」のような自律的移動(=上掲(28a))は、以下の(31)の意味構造で、「ボ ールがフィールドから転がり出た」(=上掲(28b))のような非自律的移動は、関数
CAUSEを含む以下の(32)の意味構造で示される:
183 (31) 自律的移動の場合
λP λx λs [MOVE (x) & P (x)](s)
P (x) = λv λx CHANGE (D, LOC (x, P* (v)))
(例)Das Kind (x) lief ins Haus. (= (28a)) (32) 非自律的移動の場合
λP λx λs∃s’ CAUSE (s’, [MOVE (x) & P (x)])(s) P (x) = λv λx CHANGE (D, LOC (x, P* (v)))
(例)Der Ball (x) rollte [durch den Wind] aus dem Spielfeld. (= (28b))
(31)の意味構造は、「xが移動し、xの移動に伴い経路Pが形成されるという事象sがあ
る」ことを表し、6.2.1.の(19)で示したものと同じ図式である。(32)の意味構造は概略、
「「s’という事象が、x の移動(MOVE)を引き起こす」という事象 s がある」ことを 表す。この意味関係において移動の原因となる事象(s’)は、あくまでその存在が含 意されるのみであり、(32)の意味構造では∃によって存在量化される。
以上のように、laufen(走る・歩く)、schwimmen(泳ぐ)、rollen(転がる)、fallen
(落ちる)などの移動動詞によって表される、内的な要因による自律的移動と外的な 要因(=Ursache; cause(原因))による非自律的移動は、(31)および(32)のように異なる 意味構造で示される。ただし、このことは、ある移動動詞に対して、自律的移動を表 す(31)の意味構造とあわせて、非自律的移動を表す(32)の意味構造を語彙項目として認 めるものではない。(32)の非自律的移動における「使役」のCAUSEは、あくまでも動 詞によって表される移動に対して、その外的な要因・原因が想定されるときに、はじ めて導入されるものであると考えられる。そのため、(31)のような自律的移動が表され るか、あるいは(32)のような非自律的移動が表されるかは、移動動詞の語彙的意味に一 義的に還元されるものではなく、動詞の語彙的意味による項(具体的な移動物や経路 項)が定められた文レベルで判断されるものであるといえる。
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