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Pustejovsky (1991)

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 152-157)

5. 理論的背景―語の意味と文意味の対応関係

5.1. 先行研究

5.1.2. Pustejovsky (1991)

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項同士の影響関係が表される。そして、行為層におけるActorであるthe carは統語上 の主語として示される。(8b)の主題層において、BillはInstigatorかつSource、the ball はTheme、the fieldはGoalである。他方、(8b)の行為層において、BillはActor、the ball はPatientである。(8b)の概念構造は全体として、「the ballのBillからthe fieldへの位置 変化をBillが引き起こし(CAUSE)、かつBillは行為者である」ことを表し、Actorで あるBillは統語上の主語として具現する。また、行為層のPatientかつ主題層のTheme

であるthe ballは目的語として、主題層のGoalであるthe fieldは前置詞句で示される

ことになる。このように、影響関係を表す行為層が、位置変化を軸とする主題層と並 行して概念構造に導入されることで、空間的な位置づけや位置変化の対象である主題

(Theme)の項が、例えば(7)のhitでは主語として示されたり(Themeはthe car)、(8)

のthrowでは目的語として示されたりするという(Themeはthe ball)、動詞の意味に由

来する項の統語上の性質にも一定の説明が与えられることになる。

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(9) a. 状態(S): b. 過程(P)

S P

e e1 . . . en

c. 推移(T): T

E1 ¬E2

(9)の事象構造において、e がイベントを表す。(9a)のとおり、状態(S)は単一のイベ

ント e によって構成される。(9b)の過程(P)は、[e1...en](n は任意の数を表す)のよ うな、全体のイベントeと同質のサブイベントの連続によって構成される。(9c)の構造 における E は任意の事象タイプを指し示しており、具体的には、推移(T)の下位事 象を構成する事象のタイプ(状態Sや過程P)が埋め込まれることになる。

Pustejovsky (1991)は、上掲の(9)のような事象構造と、act(行為)やat(場所)など

の意味述語7 から構成される LCS’とが組み合わされることで、動詞の語彙概念構造

(lexical conceptual structure; LCS)が得られると想定する。以下の(10)は、状態(S)の

be closed、(11), (12)は推移(T)のclose(自動詞および他動詞)の例である((10)~(12)

はPustejovsky (1991: 57f.)からの引用8):

(10) The door is closed.

S ES:

e

LCS’: [closed (the-door)]

LCS: [closed (the-door)]

7 Pustejovsky (1991)では、意味述語は例えばact (x, y)、at (x, y)のように小文字で表記され ているため(例えばPustejovsky (1991: 57)参照)、本節ではPustejovsky (1991)による表記 をそのまま採用している。

8 Pustejovsky (1991)の図式では、(12)における固有名詞Johnが省略形式(Johnの場合はj)

で示されているが、ここでは表記法による混乱を避けるために、省略せずに示している

(以下の(13), (14), (16), (18)の図式におけるMaryについても同様)。

147 (11) The door closed.

ES: T

P S

LCS’:

[¬closed (the-door)] [closed (the-door)]

LCS: become (closed (the-door))

(12) John closed the door.

ES: T

P S

LCS’:

[act (John, the-door) & ¬closed (the-door)] [closed (the-door)]

LCS: cause ([act (John, the-door)], become ([closed (the-door)]))

単一の事象e によって構成される状態(S)では、(10)のように LCS’とLCSが同じ図 式となる。(11)や(12)のcloseのように、下位事象から構成される推移(T)では、LCS’

とLCSが異なる図式となる。推移(T)は、(11), (12)のLCS’において¬closedとclosed という述語として示されているように、初発的な事象からそれとは相反する終結的な 事象への移行を表す。この下位事象間における対立関係が、LCS において意味述語

becomeとして反映される。(11)と(12)のcloseの差異は、行為者が存在するか否かにあ

るが、(12)における行為者(John)の存在は、LCS’における意味述語act(=act (John,

the-door)「Johnがthe doorに働きかける」)で示されている。(12)のLCSにおける使役

の意味述語causeは、初発の事象における述語 act(行為)と、事象の派生関係(P か らSへの移行)を組み合わせることで解釈される、「初発事象Pにおける行為者が、終 結事象Sを引き起こす」という意味関係を反映している。このように、Pustejovsky (1999) の分析では、意味述語become(変化)およびcause(使役)は、事象構造(ES)とLCS’

を組み合わせて得られる、語彙概念構造(LCS)のレベルではじめて表示されること になる。

上掲の(10)は状態(S)タイプ、(11)および(12)は推移(T)タイプの例であるが、過 程(P)タイプの場合は、例えば以下の(13), (14)のような図式で捉えられる((13), (14) はPustejovsky (1991: 58f.)からの引用):

148 (13) Mary run.

ES: P

e1 . . . e2

LCS’: [run (Mary)]

LCS: [run (Mary)]

(14) Mary pushed the cart.

ES: P

e1 . . . e2

LCS’: [act (Mary, the-cart) & move (the-cart)]

LCS: cause ([act (Mary, the-cart)], [move (the-cart)])

(13)の自動詞の run では、LCS’とLCS が同一の表示となる。他方で、(14)の他動詞の

push では、LCS’と LCSの表示が異なる。(14)のpush の LCS’における述語&は、「act の第1項の動作主(Mary)がactの第2項である対象物(the cart)に働きかける(=

act (Mary, the cart))」ことと、「moveの項が移動する(=move (the cart))」ことの同時 性を示すとされる。この同時性は、LCS のレベルでは、「x がy に働きかけることで、

yが移動する」という、関数causeで表される使役の意味関係として反映されている。

以上のような基本の事象構造のタイプに基づき、Pustejovsky (1991)では、これらの 事象構造が統語現象とどのように影響し合うかが論じられる。そこで取り上げられる のが前置詞句(PP)の付加と結果述語を伴う結果構文である。Pustejovsky (1991)は、

これらの現象を事象合成(event composition)として分析する。例えば、以下の(15)の ような動詞runに対する前置詞句(to the store)の付加は、動詞句(VP)の事象構造を 過程(P)タイプから推移(T)タイプへと変化させるものとして分析される。(15b)の 概念構造は(16)のように示される。(16)における<P, T>は過程(P)を推移(T)へと移 行させる関数(function)を表すとされる(Pustejovsky (1991: 63)):

149 (15) a. Mary ran.

b. Mary ran to the store.

(16) Mary ran to the store.

ES: T

P <P, T>

LCS’:

Mary ran to the store

[run (Mary)] [at (Mary, the-store)]

LCS: cause (act (Mary), become (at (Mary, the-store)) BY run)

前置詞句の付加と同様に、以下の(17b)の結果構文における結果述語の形容詞(flat)の 付加も、動詞句の事象構造を過程(P)から推移(T)へと移行させるものとして分析 される。(17b)の概念構造は、(18)のように示される(Pustejovsky (1991: 65)):

(17) a. Mary hammered the metal.

b. Mary hammered the metal flat.

(18) Mary hammered the metal flat.

ES: T

P <P, T>

LCS’:

Mary hammer the metal flat [hammer (Mary, the-metal)] [flat (x)]

LCS: cause (act (Mary, the-metal), become ([flat (the-metal)]) BY hammer)

(15)のような前置詞句の付加や、(17)のような形容詞の付加によって事象構造(ES)の

レベルで認められるとされる事象の合成(=過程タイプから推移タイプへの変化)は、

(16), (18)のとおり、最終的な語彙概念構造(LCS)で、使役の述語(cause)と変化の 述語(become)の組み合わせによって、「原因の上位事象が結果の下位事象を引き起こ す」という意味関係で表示されることになる。

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ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 152-157)