• 検索結果がありません。

経路項の内訳: 起点・着点・中間経路

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 131-136)

4. 事例調査―移動動詞の lassen 構文と与格構文

4.2. 与格構文

4.2.2. 経路項との共起

4.2.2.2. 経路項の内訳: 起点・着点・中間経路

124

ることができず、与格との関係性は認められない。(100)におけるdie Straße(道路)も 同様に、与格の人物が存在する・その関与が及ぶ領域としては捉えられず、与格との 関係性を示さない「非関係名詞」である。(101)におけるdas BND-Areal(連邦情報局の 敷地)については、「連邦情報局(BND)」という特定の存在に属するものとして捉え られるものの、与格で示される「彼ら」がいる場所やその領域ではないため、与格と の関係性を示さない「非関係名詞」に分類される。

以上、経路項で示される名詞句のタイプに「関係名詞」と「非関係名詞」という 2 つを想定したうえで、それぞれの事例を取り上げた。収集した与格構文(240 例)に ついて、与格構文の解釈(「被影響」「潜在的使役」)と経路項の名詞句のタイプ(関係 名詞/非関係名詞)の分布状況を示すと、次の表4-8のように示される:

表4-8: 与格構文の解釈と経路項の名詞のタイプ23

表4-8が示すとおり、「被影響」解釈の事例178例中178例(100%)、および「潜在的 使役」解釈の事例62例中55例(88.7%)で、経路項に関係名詞が出現していた。この ことから、与格構文では構文の解釈にかかわらず、経路項で示されるのは与格の人と の関係性が認められる関係名詞であることがほとんどであるといえる。

125

される傾向があるか、その分布を示し、特定の経路表現と与格構文の解釈(「被影響」

「潜在的使役」)との相関関係を考察する。

以下、(102), (103)は移動の起点、(104), (105)は移動の着点、(106), (107)は中間経路を 表す例である:

<起点>

(102) „Mir ist die Zeitung aus der Hand gefallen, (...).“ (= (76)) me-DAT is-3SG the newspaper-NOM out.of the hand fallen

「(…)私は新聞を手から落としてしまった。」

(103) [...], als ihm der Ball [...] vom Fuß gesprungen war.

when him-DAT the ball-NOM from.the foot sprung was-3SG

(Hannoversche Allgemeine, 30.03.2009, S. 16) 彼が〔…〕ボールを足から跳ねとばしてしまったときに〔…〕。

<着点>

(104) „Die Koffer sind uns auf die Köpfe gefallen, (...).“ (= (73), (83)) the suitcases-NOM are-3PL us-DAT onto the heads fallen

「スーツケースが私たちの頭の上に落ちてきて(…)」

(105) (...) dass ihm eine große Spinne ins Gesicht gesprungen ist [...]. (= (68)) that he-DAT a big spider-NOM into.the face jumped is-3SG

(…)彼の顔に大きなクモが跳んできて〔…〕

<中間経路>

(106) „Der Ball ist mir durch die Hände gerutscht, das tut mir unheimlich Leid für meine Mannschaft“, [...]. (Braunschweiger Zeitung, 17.11.2006)

‚der Ball ist mir durch die Hände gerutscht‘

the ball-NOM is-3SG me-DAT through the hands slid

「私はボールを手から滑り落としてしまった。そのことで、チームに対して本当 に申し訳なく思っている」〔…〕

(107) „Kürzlich ist uns eine 90-jährige Frau über ein Gartentor geklettert“, [...]. (St. Galler Tagblatt, 16.09.2000)

126

‚eine 90-jährige Frau ist uns über ein Gartentor geklettert‘

a 90.year.old woman-NOM is-3SG us-DAT over a garden.gate climbed

「先日、(施設入居者の)90 歳の女性が私たちの(施設の)庭門を越えてよじ登 りました」〔…〕

移動の起点は、(102), (103)のようなaus(~の中から)を伴う前置詞句(前置詞句aus)、

von(~から)を伴う前置詞句(前置詞句von)で表される。収集した与格構文の事例

に出現した着点の経路項としては、(104)のような前置詞句auf(~の上に)、(105)のよ うな前置詞句in(~の中に)のほか、前置詞句an(~へ、~に当てて)、前置詞句gegen

(~にぶつかって)、前置詞句hinter(~の後ろに)、前置詞句unter(~の下に)、前置

詞句vor(~の前に)、前置詞句zu(~へ)が挙げられる。与格構文に出現した中間経

路を表す経路項は、(106)のような前置詞句durch(~を通って)、(107)のような前置詞

句über(~を通過して)のほか、前置詞句zwischen(~の間を)が挙げられる。

与格構文の解釈ごとに経路表現の内訳(起点・着点・中間経路)を示すと、以下の 表4-9となる:

表4-9: 与格構文の解釈と経路項の内訳24

24収集した与格構文(240例)のうち、文中に2つ以上の経路項が出現している事例が、「被 影響」で5例、「潜在的使役」で1例観察された。これらの事例については、経路表現(起 点・着点・中間経路)のそれぞれで数え上げている。表4-9における計数(=「被影響」

0% 20% 40% 60% 80% 100%

潜在的使役

被影響 起点

着点 中間経路

被影響 潜在的使役

起点 9 (4.9%) 27 (42.9%)

着点 131(71.6%) 24 (38.1%)

中間経路 43 (23.5%) 12 (19.0%)

183 (100.0%) 63 (100.0%)

127

表4-9のとおり、「被影響」では、着点と共起する事例が全体の70%を占める一方で、

起点と共起する事例が5%未満である。「潜在的使役」では、「被影響」とは異なり、特 定の経路表現への偏りは顕著には見られないものの、「被影響」の場合と比較すると起 点の出現頻度が高い。前述のとおり、「被影響」では起点と共起する事例が5%未満で ある一方で、「潜在的使役」では起点と共起する事例が全体の40%以上を占めている。

これらのことから、「被影響」の与格構文が着点と共起する傾向が顕著であるのに対し て、「潜在的使役」の与格構文は相対的に起点と共起する傾向があるといえる。

「被影響」と比較して相対的に起点と共起する傾向が認められる「潜在的使役」の 与格構文では、起点のほかに着点とも比較的高い共起頻度が示されたが(起点との共

起頻度は 42.9%、着点との共起頻度は 38.1%)、「潜在的使役」の事例における着点の

出現の仕方は特定の文脈および特定の前置詞にかなりの程度で集中している傾向が見 られた。「潜在的使役」の与格構文の事例に出現していた着点を表す経路項を詳しく見 てみると、以下の(108), (109)のような前置詞句 an で示されるものが多く観察された

(「着点」と共起する24例中14例25)。しかも、それらのほとんどが以下の事例のよう に「サッカーの試合」という文脈であった:

(108) Nachdem ihm der Ball unabsichtlich an den Arm gesprungen war, gab der Schiedsrichter auch hier Elfmeter – 1:1. (Braunschweiger Zeitung, 05.09.2011)

‚ihm war der Ball unabsichtlich an den Arm gesprungen‘

him-DAT was-3SG the ball-NOM unintentionally on the arm bounced

ボールが意図せず彼の腕に当たって跳ね返ったあと、審判はここでもペナルティ キックを与えた。(潜在的使役)

(109) „Das kann man pfeifen, ganz klar. Der Ball ist mir an die Hand gesprungen“, gab Bierofka offen zu [...]. (Mannheimer Morgen, 18.11.2002)

の183、「潜在的使役」の63)は、これらの重複を含むものである。なお、2つ以上の経 路項の内訳は、以下のとおりである:

「被影響」:durch, an 1例、durch, in 2例、über, zu 1例、von, auf 1例 「潜在的使役」:von, in 1例

25「潜在的使役」における着点の経路項の内訳は、an 14例、auf 6例、in 3例(うち1例は vonとの共起例)、unter 1例である。

128

‚der Ball ist mir an die Hand gesprungen‘

the ball-NOM is-3SG me-DAT on the hand bounced

「あれはホイッスルを鳴らしてもいい、当然だ。ボールがぼくの手に当たって跳 ねたのだから」と、ビーロフカは率直に認めた。(潜在的使役)

(108), (109)では、(移動物である)ボールが与格で示される人の「腕」や「手」に当た

ったことが表されており、さらに、与格の人物はそのためにペナルティをとられてい る。これらの経路項で示されている前置詞an は、「点的」な接触を表すものである。

(108), (109)ではこの前置詞anを伴う経路項が動詞springen(跳ぶ)と共起しているこ

とで、跳んできた移動物(ボール)が着点である与格の人の「腕」や「手」にとどま ることができなかったことが表されていると考えられる。そのような状況を指して、

これらの事例では移動物が与格の人の身体部位に当たっていわば「跳ねとんだ」と見 なされ、与格がその事態の生起に責任を負う人物として捉えられているのではないか と思われる。

また、durch や über などの中間経路を表す前置詞では、有界的な経路のみならず非 有界的な経路も表されうるが(4.1.2.2.参照)、与格構文と共起していた中間経路を表す 経路項では、以下の(110)のように、構文の解釈を問わず有界的経路が表されていた:

(110) 有界的経路を表すdurch/über

<被影響>

a. Ein Vogel ist einem Kasseler Autofahrer bei voller Fahrt durch die offene Seitenscheibe an den Kopf geflogen. (Nürnberger Nachrichten, 30.06.2005)

カッセル在住の運転手がフルスピードで走行しているときに、1 羽の鳥が開い たサイドウィンドウを通って運転手の頭に飛んできた。

b. (...) dass eine Autofahrerin einer anderen Frau über den Fuß gefahren ist. (= (69), (79))

(…)1人の運転手の女性が他の女性の足(の上)を車でひいた。

<潜在的使役>

c. „Der Ball ist mir durch die Hände gerutscht (...)“, [...]. (= (106))

「私はボールを手から(=両手を通して)滑り落としてしまった(…)」〔…〕

d. Der Ball ist unserem Goalie leider über die Finger gerollt. (Niederösterreichische

129 Nachrichten, 09.04.2008, S. 76)

残念ながら私たちのゴールキーパーは指先をかすめて(=指の先を通過させて)

ボールを転がしてしまった。

以上のとおり、移動動詞の与格構文では「被影響」「潜在的使役」解釈のいずれにお いても、有界的な経路を表す表現(=起点・着点・有界的な中間経路)を伴うことで、

有界的・完結的な(telisch; telic)事象が表される必要があると考えられる。また、上 述のとおり、構文の解釈と特定の経路表現との間には相関性があり、「被影響」の与格 構文は着点と共起する傾向が顕著である一方で、「潜在的使役」の与格構文は相対的に 起点と共起する傾向があることが、事例分析の結果から示された。

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 131-136)