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Rapp (1997)

ドキュメント内 ― ドイツ語の移動動詞を例に ― (ページ 173-176)

6. 移動動詞の意味構造

6.1. 先行研究

6.1.2. Rapp (1997)

Rapp (1997)では、Vendler (1967)による従来的な動詞アスペクトの分類と、Pustejovsky

(1991)による事象構造(event structure)に基づく意味分析が組み合わされ、動詞の語彙 意味が表示される。Rapp (1997)によれば、動詞の語彙的なアスペクトは、状態(Zustand;

Z)、行為(Tätigkeit; T)、過程(Prozess; P)、状態変化(Zustandswechsel; ZW)の4 つに分類される。このうち状態(Z)と行為(T)はVendler (1967)における「状態」と

「活動」にそれぞれ対応する。とりわけ問題となるのは、ともにある種の変化を表す とされる、状態変化(ZW)と過程(P)の違いである。両者の事象構造(E-Struktur)

と語彙意味構造 (Lexikalische Semantische Struktur; LSS)は、それぞれ以下の(3), (4) のように示される(Rapp (1997: 47))2

(3) 状態変化(ZW)

事象構造(E-Struktur)

ZW

Zustand Zustand 語彙意味構造(LSS): BECOME (ZUSTAND)

2 (3), (4)で示される事象構造におけるZustandの部分は、具体的にはBEやLOCなどの「状

態を表す関数(Zustandsprädikat)」によって埋められる。状態変化(ZW)の場合、下位 事象は¬BE (x)とBE (x)、¬LOC (x, y)とLOC (x, y)のように相反する関数によって構成 される。例えば、状態変化(ZW)タイプの einschlafen(眠り込む)、sterben(死ぬ)の 語彙意味構造(LSS)はBECOME (BE (x))として表示され、その事象構造(E-Struktur) は¬BE (x)とBE (x)から構成されるとされる(Rapp (1997: 48)参照)。

167 (4) 過程(P)

事象構造(E-Struktur)

P

Zustand Entwicklung Zustand 語彙意味構造(LSS): DEV (ZUSTAND)

このようにRapp (1997)では、意味述語BECOMEによって表される、「ある状態からそ れに反する状態への変化」という2 つの下位事象から構成される状態変化(ZW)と、

DEV(推移; DEVELOPMENT)のような意味述語によって表される、状態の移行にお いて発展(Entwicklung)的な段階を有する事象構造の過程(P)とが、明確に区別され る。Rapp (1997)の定義によれば、ankommen(着く)やerreichen(届く、到達する)の ように従来的なアスペクト分類で「到達」と分析されるものを除いて3、場所の変化を 表す動詞は、事象構造において発展的な段階を有し、3 つの下位事象から構成される

(dreigliedrig)過程(P)を表すものとして分析される。

さらに、Rapp (1997)によるところの「場所の変化に関する過程(Lokative Prozesse)」

では、DEV(推移)とGO(移動)が区別される。besteigen(~に登る)、verlassen(~

を去る)、erklimmen(~に苦労して登る)のように、経路項を対格目的語にとるタイ プの動詞の語彙意味は、以下の(5)のように意味述語DEVによって捉えられる。他方、

laufen(走る・歩く)、rennen(走る)、schwimmen(泳ぐ)、rollen(転がる)、fallen(落

ちる)のように、経路項が前置詞句で示されるタイプの動詞の語彙意味は、以下の(6) のように意味述語GOによって表される(Rapp (1997: 49)):

3 ankommenやerreichenは、einschlafen(眠り込む)、sterben(死ぬ)のような動詞と同様 に、2 つの下位事象から構成される(zweigliedrig)、状態変化(ZW)を表すものとされ る(Rapp (1997: 48)参照)。Rapp (1997)の定義による状態変化(ZW)とは、ある結果の 状態への変化(BECOME)を語彙意味として内在するものを指しており、これは必ずし も対象となる人や物体の性質・性状の変化(例えばsterbenでは「生きている状態」から

「死んだ状態」への変化)を表すものに限らない。ankommenやerreichenでは「(移動の 結果として)ある場所に存在する」という結果の状態が表されるとされる(BECOME (BE (x))またはBECOME (LOC (x, y))。

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(5) besteigen(~に登る)、verlassen(~を去る)、erklimmen(~に苦労して登る)

事象構造(E-Struktur)

P

¬LOC (x, y) DEV (LOC (x, y)) LOC (x, y) 語彙意味構造(LSS): DEV (LOC (x, y))

(6) laufen(走る・歩く)、rennen(走る)、fallen(落ちる)steigen(よじ登る)、gehen

(歩く)、wandern(ハイキングする)、rollen(転がる)

事象構造(E-Struktur)

P

LOC (x, a) GO (LOC (x, a), LOC (x, b)) LOC (x, b) 語彙意味構造(LSS): GO (LOC (x, a), LOC (x, b))

(5)の事象構造と語彙意味構造で示されるように、DEVタイプでは「y地点ではない場

所からy地点への変化」のように、ある到達地点(y)が基準となる位置変化が表され る4。その一方で、(6)として示されるGOタイプでは、「a地点からb地点への変化」の ように、異なる地点間(aとb)に認められる位置変化が表されるとされる。

さらに、Rapp (1997)では、laufen、rennen、schwimmenといった移動動詞は、上掲の

(6)で捉えられる「移動」のヴァリエーションのほかに、「行為」のヴァリエーションも

持つとされる。その証左としては、完了助動詞sein またはhabenの使い分けが挙げら れており、以下のschwimmenの(7a, b)の用法と対応する形で、(8a, b)の意味構造が提案 されている(Rapp (1997: 111)):

(7) a. Sie hat zwei Stunden geschwommen.

she-NOM has-3SG two hours swum

4 DEV(推移)タイプの位置変化動詞は、「y地点ではない場所からy地点への変化」のよ

うに、ある到達地点(y)が表される変化の基準となる点において、終結事象の状態が変 化の基準となるZW(状態変化)タイプ(例えば¬BE (x)からBE (x)への変化)と同様で あるが、上述のとおり、この2つのタイプは事象構造において発展(Entwicklung)的な 段階を有するか否かで区別される(DEVタイプの事象構造は発展段階を持つ)。

169 彼は2時間泳いだ。

b. Sie ist zur Insel geschwommen.

she-NOM is-3SG to.the island swum 彼女は島へ泳いで行った。

(8) schwimmen の語彙意味構造(LSS)

a. DO (x)

b. GO (LOC (x, a), LOC (x, b))

Rapp (1997: 113)では、kommen(来る)のようなGO(移動)のヴァリエーションのみ

を持つ一部の例外を除いて、ほとんどの移動動詞が上掲の(8)のschwimmen のように、

DO(行為)のヴァリエーションと GO(移動)のヴァリエーションを併せ持つとされ

ている。

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