2. 新たな項の追加―lassen 使役と自由与格
2.2. 自由与格
2.2.2. 自由与格の用法
目的語の与格から区別される自由与格の用法には、いくつかの下位分類が知られて いる11。その代表的なものとして、「所有の与格(possessiver Dativ)」、「利益の与格
(Dativus commodi)」、「不利益の与格(Dativus incommodi)」、「判断の与格(Dativus judicantis)」、「関心の与格(Dativus ethicus)」が挙げられる(Duden (2005: 826ff.)、Helbig (1984)、Helbig/Buscha (2001: 262-265)など参照)。それぞれの例は、以下の(20)~(23)の とおりである(以下の(20)~(23)について、出典表記のない例文はHelbig/Buscha (2001:
263)からの引用):
<所有の与格>
(20) a. Meinem Vater schmerzt der Kopf.
my father-DAT aches-3SG the head-NOM 私の父は頭が痛い(=父は頭痛がする)。
b. Der Arzt reinigt dem Patienten die Wunde.
the doctor-NOM cleans-3SG the patient-DAT the wound-ACC
その医者は患者の傷口を消毒する。
11 自由与格の分類をめぐる問題については、Helbig (1984: 189)やWegener (1985: 2ff.)で述べ られている。
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c. Der Chef klopft dem Angestellten auf die Schulter.
the chief-NOM taps-3SG the employee-DAT on the shoulder 上司はその従業員の肩を叩く。
<利益・不利益の与格>
(21) a. Der Pförtner öffnet der Frau die Tür.
the doorkeeper-NOM opens-3SG the woman-DAT the door-ACC
門番はその女性のためにドアを開ける。
b. Das Kind trägt seiner Mutter die Einkaufstasche.
the child-NOM carries-3SG its mother-DAT the shopping.bag-ACC
その子どもは母親のために買い物袋を持ってあげる。
c. Dem Gärtner sind Blumen verwelkt.
the gardener-DAT are-3PL flowers-NOM wilted
その庭師にとって都合の悪いことに花がしおれてしまった。
d. Das Kind zerbrach den Eltern die Vase.
the child-NOM broke-3SG the parents-DAT the vase-ACC
その子どもは両親にとって都合の悪いことに花瓶を割ってしまった。
<判断の与格>
(22) a. Das Curry war den Touristen zu scharf. (Duden (2005: 826)) the curry-NOM was-3SG the tourists-DAT too hot
そのカレーは観光客らにとっては辛すぎた。
b. Anna fuhr ihrem Freund viel zu schnell. (ibid.: 826) Anna-NOM drove-3SG her boyfriend-DAT much too fast
アナは彼女の恋人にとって速すぎるスピードで車を飛ばした。
c. Den Jugendlichen war die Musik noch nicht laut genug. (ibid.: 826) the young.people-DAT was-3SG the music-NOM yet not loud enough
その若者たちにとって音楽はまだ十分な音量ではなかった。
<関心の与格>
(23) a. Falle mir nicht!
fall-IMP-2SG me-DAT not 転ばないでちょうだい!
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b. Bringt mir dem Lehrer die Hefte pünktlich!
bring-IMP-2P me-DAT the teacher-DAT the notebooks-ACC punctually お願いだから先生にノートを時間厳守で持って行って!
c. Das war dir vielleicht ein Blödsinn! (Duden (2005: 828)) that-NOM was-3SG you-DAT MP a nonsense
それはまったくばかげたことだよ!
所有、利益・不利益、判断、関心の与格のうち、関心の与格は命令文や感嘆文にしか 現れず、もっぱら1人称あるいは2人称でしか示されないという点で、他の与格から 明確に区別される(Ogawa (2003)、Wegener (1985))。また、判断の与格も、zu(~すぎ
る)や genug(十分に)といった程度副詞がある環境にのみ現れることができるとい
う点で、他の与格と異なる性質を持つ。一方で、所有、利益・不利益の与格は、それ ぞれ明確な差異を見出すことが難しい。例えば、利益の与格と解される(21b)では、目 的語で示される「買い物袋」は、与格で示される「その子どもの母親」の所有物と考 えられる。この文では、本来であればその所有者である母親が持つはずの買い物袋を、
主語で示される「子ども」が持つことで、「子どもが母親のために買い物袋を持ってあ げる」という、母親にとっての利益が表されているといえる。また、不利益の与格と 解される(21d)では、目的語の「花瓶」が与格の「両親」に属するもの、与格の所有物 であるという解釈が可能である。さらに、所有、利益・不利益の与格の背景には、人 と表される事態との影響関係という意味的共通性があると考えられる。例えば(20a)で は、与格の「私の父」は主語で示される「頭」の所有者として解される。とりわけそ の所有関係は、人とその人物の身体部位という譲渡不可能な(inalienabel; inalienable)
ものである。しかし、(20a)はまた、「頭が痛い」という事態を「私の父」がその当事者 として経験している、その事態から影響を受けているとも捉えられる。また、利益の 与格と解される(21a)や不利益の与格と解される(21c)では、与格は「門番がドアを開け る」「花がしおれる」という事態から、それぞれ影響を被る人物である。ここにおいて も、表される事態と与格との間に影響関係が認められる。
以上のように、所有、利益・不利益といった自由与格では、互いに意味的な連続性・
共通性が認められる。それでは、これらの与格が認可されるための意味的な条件はど のようなものだろうか。次節では、先行研究に基づいて、自由与格が認められるため
28 の意味的な背景を示す。