• 検索結果がありません。

高齢者の自立支援(熊本県)

第7章  ニュー・パブリック・ガバナンスの事例検証−NPGの有用性の考察− . 146

1  高齢者の自立支援(熊本県)

  熊本県では、全国よりも17年速く高齢化が進んでおり、高齢者人口のピークは2025年 となっている20。また、介護保険制度が発足した2000年以降、介護保険料は全国平均に 比べ高く、一貫して上昇している。また、65歳以上高齢者に占める要介護認定者の割合 である要介護認定率についても介護保険制度発足当初から一貫して上昇しており、直近で

図表7−5  NPGの重要な視点による検証(図書館建設(瀬戸内市)) 

出所)筆者作成。 

は横ばいで推移しているものの全国平均よりも高い水準となっている。熊本県では、これ までも地域包括ケアシステムの充実に向けた取組みを進めてきたが、要介護認定率が改善 しない状況である。隣接する大分県においては、

2012

年をピークに要介護認定率が低下し た。その要因は、医療や介護の多職種参加の地域ケア会議において、居宅介護事業所のケ アマネージャーが事例提供する介護保険のケアプランをサービスありきのプランではなく、

高齢者の自立支援のケアプランとなるよう修正をし、ケアマネージャーや介護サービス事 業所の意識改革を促し、自立支援型のケアマネジメントの確立を目指す取組みを進めたこ とにあるとされている21

  熊本県においても、「高齢者の幸福量の最大化のための自立支援」を掲げ、「熊本型自立 支援ケアマネジメントの充実」に向けた取組みを進めることとし、2017 年

1

月から本格 的に取組みを開始した22。取組みの柱は地域ケア会議の充実と介護予防であるが、地域ケ ア会議を通じた高齢者の自立支援の事例を検証する。

  地域ケア会議とは、2015 年の介護保険の制度改正により介護保険法に規定された会議 であり、地域包括支援センターレベルの地域ケア個別会議と市町村レベルの地域ケア推進 会議に分けられる。地域ケア個別会議では、①地域支援ネットワークの構築、②高齢者の 自立支援に資するケアマネジメント、③地域課題の把握の3つの機能が求められる。また、

地域ケア推進会議では、地域ケア個別会議からの流れである③地域課題の把握の機能があ り、④地域づくり・資源開発、⑤政策形成の機能が求められる。合わせて5つの政策機能 を持った地域ケア会議の運営を全市町村において

2018

年当初までに具体化するよう求め られている23。なかでも、②高齢者の自立支援に資するケアマネジメント機能に焦点をあ てて取り組むものが、当該事例の「自立支援ケアマネジメント」である。

  地域ケア会議の重要な要素が、医療・介護の専門職等の多職種参加である。医師や歯科 医師、薬剤師、看護師、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護支援専 門員、介護サービス事業者など多様な専門的知識と、民生委員・児童委員等の住民代表者 の知識によってケアプランに修正を加えることにより、自立支援型のケアプランへと修正 されるとともに、事例提供者である介護支援専門員やサービス事業者は、自立支援ケアマ ネジメントにとっての重要な新たな気づきを得て、その後のサービスに生かされていく24。   熊本県では、2017年

1

月に全市町村を集めて会議を開催し、「熊本型自立支援ケアマネ ジメント」を進める方針を示した25。そして、自立支援型のケアマネジメントのための地 域ケア会議を多職種参加のもと月1回以上開催することを求めている。また、市町村が多

職種への会議参加を依頼しやすくなるように、専門職の関係団体

21

団体で構成する「熊 本県地域リハビリテーション協議会」において、体制の拡充を具体化した。「熊本県地域リ ハビリテーションセンター(事務局:熊本県医師会)」、県内の二次医療圏をベースに

18

の 医療機関を市町村等の支援のための専門職派遣や広域的な専門職人材育成、連携体制の構 築等を行う機関として指定する「熊本県地域リハビリテーション広域支援センター」に加 え、新たに専ら市町村等の支援のための専門職派遣を行う医療機関等を「熊本県地域密着 リハビリテーション支援センター」として指定を

2016

11

月に開始、約

100

の医療機関 等を指定し、市町村等が専門職の協力を得やすくするようにした26。この地域リハビリテ ーションの三層構造をとっている都道府県は他にはない。また、熊本県医師会、熊本県理 学療法士協会、熊本県作業療法士会、熊本県言語聴覚士会と連携し、「自立応援プロジェク ト」を立ち上げて、地域リハビリテーション活動を担う専門職人材の育成プログラムを実 施している。この取組みの結果、2017年

6

月時点の調査において、県内の

172

の地域ケ ア会議のうち、自立支援型ケアマネジメントのための会議が

49

会議立ち上がっている27。   図表7−6当該事例を地方自治体、アクター、顧客別に、NPGにとって重要となる視 点ごとに分析したものである。ビジョンや事業内容は熊本県において設定したものである。

それを市町村や専門職を集めた会議や研修等の場で、機会があるごとに繰り返し説明や対 話を行い、各アクターや顧客との共有を行ったものである。アクターは、地域リハビリテ ーションセンター、専門職団体、市町村・地域包括支援センター、医療・介護の専門職、

住民組織である。顧客は、市町村・地域包括支援センター、医療・介護の専門職、住民で ある。顧客である市町村・地域包括支援センター、医療・介護の専門職は、アクターとし て提供者としての役割も担っている。

  協働における役割について、熊本県が事業の企画やコーディネートを行っている。また、

アクターである地域リハビリテーションセンターや専門職団体と連携し、専門職派遣体制 の強化や人材育成策の充実を進める役割があり、そのための財源確保を行っている。さら に、市町村や地域包括支援センターの取組みを促進する役割がある。地域リハビリテーシ ョンセンターはアクターとして、市町村等からの要請に応じ専門職の派遣を行う役割があ る。また、専門職間のネットワークの構築を進め、専門職間の相互影響を通じた基盤の強 化を図る役割がある。専門職団体である熊本県医師会、熊本県理学療法士協会、作業療法 士会、言語聴覚士会は、相互に連携し、地域リハビリテーションを担う専門職人材の育成 を行っている。市町村や地域包括支援センターは、自立支援型の地域ケア会議を設置・運

営し、そのために必要となる財源を確保する役割がある。医療・介護の専門職のうち、介 護支援専門員や介護サービス事業者はケアプランを提供する役割がある。他のリハビリテ ーション専門職、歯科衛生士、栄養士等の専門職は、ケアプランに対する自立支援の観点 からの助言者としての役割がある。住民組織の住民代表者は、ケアプランに対する住民の 立場からの意見や地域の情報提供を行う役割がある。このように顧客でもあるアクターの 提供者としての参加があってこそ、高齢者自立支援のためのガバナンスの構築が可能とな る。このように、それぞれのアクターが明確な役割を持ち、相互影響を行いながら政策等 の形成と実践が進められていることが分かる。

  経営資源について、熊本県の財源や人的資源に加え、アクターである地域リハビリテー ションセンターは、専門職人材、専門的知識といった資源を提供する。専門職団体は、事 業実施に必要な人的資源を提供する。アクターとしての市町村・地域包括支援センターは、

地域ケア会議の設置・開催に必要な財源・人的資源、専門職の活用のための財源を提供す る。アクターとしての医療・介護の専門職は、専門的知識といった資源を提供する。住民 組織は、地域住民や地域に関する知識を提供する。こうしたアクターとしての資源は、熊 本県だけでの取組みでは到底実現できるものではない。課題が多様化するほど多様なアク ターが必要となる。そうした場合には、事業の企画段階からガバナンスを企図し具体化を 進めることが重要となる。

  高齢者の自立支援の取組みを通じて創造される価値について、顧客としての住民の個別 価値は、健康で自立した生活や充実した日常生活である。顧客としての市町村・地域包括 支援センターの個別価値は、高齢者自立支援のノウハウ・体制が確立されることである。

顧客としての医療・介護の専門職にとっての個別価値は、専門性の向上となる。アクター としての地域リハビリテーションセンターにとっての個別価値は、専門性の向上や地域貢 献力の向上となる。アクターとしての専門職団体にとっての個別価値は、会員の専門性の 向上である。アクターとしての医療・介護の専門職にとっての個別価値は、市町村等との 関係の構築による社会関係資本の形成である。住民組織にとっての個別価値は、地域にお ける健康な高齢者の増加である。以上のような個別価値の積み重ねで得られる社会的価値 は、健康な高齢者の増加や要介護認定率の低下、財政負担の軽減である。

関連したドキュメント