第2章 わが国地方自治体における総合計画策定の問題点
4 多様なアクターの関係性の強化促進
総合計画は、各分野にまたがる政策・施策・事務事業を実践するうえでの基本となる総 合的な計画であり、政策の形成や実践を通じ、多様なアクターがヒト・モノ・カネといっ
た経営資源で創造する事業やサービスを規定するものである。ガバナンスにおいては、相 互影響を通じ、ヒトとヒト、資源と資源、ノウハウとノウハウなどの組み合わせにより創 出されるソーシャルキャピタルといった新たな資源により強化された政策・施策・事務事 業が形成される。そうした資源の形成に向けて、Rashman
et al
.(2009)は、民間企業を対 象に研究が進められてきた組織学習と知識創造は公的組織にとっても重要であることを指 摘し、ガバナンスにおいては、複雑な外部環境の改善のために民間セクターとの知識や情 報の共有を行い、目的を達成することが求められるとしている43。こうした異なる多様なセクター間の情報や知識の共有による相互影響の結果、創造され る資源がソーシャルキャピタルであり、地方自治体単独による政策形成よりも高いレベル の政策を形成する資源となるものである。ソーシャルキャピタルとは、Putnam(1993)によ って提唱され、社会関係資本とも訳される。上田(2010)は、ソーシャルキャピタルについ て「人々の協働行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、『信 頼』、『規範』、『ネットワーク』といった社会的仕組みの特徴との定義が広く理解されるに 至った」44としているが、その機能には、地域の安全や治安の改善を高める機能や失業率 を低下させる機能、老人医療費を低下させる機能など、公共的課題の解決につながる様々 な機能があるとされている45。
社会的関係資本での関係性の強化について、永田(2003)は、「第1に、関係の構造である。
強い結びつきであっても弱い結びつきであっても、幅広い交流を長期的に継続していくこ とが重要である。第2に、主体間のダイナミックスである。社会的関係資本を生成してい くのは、ネットワークのなかにいる諸主体の積極的な相互作用である。その際、主体相互 の信頼や相互関係により受けられる利益が社会的関係資本の生成、増進のキーとなる。第 3に共通の日常語を使用することや文脈を共有することである」46としている。
William
et al
.(2000)は、ソーシャルキャピタルとガバナンスとの関係について、ソー シャルキャピタルは、本来的に相互影響の文脈のなかで理解されるべきであり、また、多 様なアクター間の関係性のなかで本来備わっている資源と捉えるべきだとしている47。す なわち、多様なアクター間のガバナンスが本来創造している資源であり、政策・施策・事 務事業の形成に有用な資源がソーシャルキャピタルであるととらえることができる。ソー シャルキャピタルの効果的な創造に向けては、ガバナンスの機能を高めるマネジメントが 重要となると考える。ガバナンスの機能を高めるためには、「継続性の担保」、「相互影響」、「共通認識の形成」
の3点を重視するマネジメントが重要と考える。この3点を実現するためには、「場」と「対 話」が重要と考えられる。野中(1996)は、知識変換モードとして、「共同化」、「表出化」、
「連結化」、「内面化」の4つの知識変換モードがあり、暗黙知をはじめ知識共有のため、
個人が直接対話を通じて相互に影響しあう「場」の重要性を提唱している48。「場」は「継 続性の担保」となる重要な要素であり、対話を通じて相互影響を促進する。また、協定や 契約などの手法で信頼感・一体感を醸成・担保する「提携」も重要である。あるビジョン のもと、地方自治体、NPO、企業、住民組織等の関係者のなかで、実現したいビジョン の関係者が集まり、議論し、事業成果を高めるためには、組織間連携の強化促進が重要で ある。そのためには、「継続性の担保」、「相互影響」、「共通認識の形成」の促進を図るため の「場」と「対話」、「提携」が重要である。
多様なアクターとの協働によるガバナンス機能する重要な要素として、総合計画に基づ く策定のプロセスのマネジメント、実施のマネジメント、評価のマネジメントといったP DCAの各段階におけるマネジメントが求められる。総合計画によるガバナンス機能の発 揮のためには、各プロセスにおいてガバナンスを促進する要素を明確に位置づけることが 求められる。特に、実施計画においては、具体的な事務事業に関する位置づけを行うため、
具体的なガバナンスの方策を明確化することが重要である。
現状では、策定プロセスにおけるガバナンスについては、市民会議等の対話や相互影響 の場を設置した地方自治体は約半数となっている。また、住民参加の方法としては、公募
が73.0%となっているが、一方で商工会議所など特定の団体の代表者が83.1%となるなど、
必ずしも策定プロセスへの住民参加は進んでいない49。総合計画を主体的に策定した主体 としても、企画担当の部局または課、審議会で5割以上を占め、住民参加は今後も課題と なる50。ガバナンスに基づき総合計画の策定を進めていくなかでは、住民や企業、NPO 等の主体となる施策や事務事業等も位置づけることが考えられる。実施計画上でも位置づ けを行っている地方自治体もある51が、総合計画における多様なアクターの位置づけの明 確化と策定プロセスにおける「場」と「対話」による相互影響の促進が求められる。
施策や事務事業の実施段階や評価におけるマネジメントについては、実際に実施計画等 に位置づけた多様なアクターの相互影響によって形成された事務事業や目標等に基づき、
多様なアクター間での相互影響による具体的な事務事業の展開を実践し、評価を行ってい くことである。その実効性を高めるマネジメント方策を進めるためには、策定プロセスと 同様に「場」と「対話」を基本に相互影響を促進することが求められる。