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災害時における生活不活発病対策(熊本県)

第7章  ニュー・パブリック・ガバナンスの事例検証−NPGの有用性の考察− . 146

5  災害時における生活不活発病対策(熊本県)

2016年4月14日の熊本地震発生後、避難所各地でエコノミークラス症候群防止や高齢 者の生活不活発病対策、避難所における段差解消等の生活環境調整にかかる活動がJRA T(大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会)により実施された。その後、仮 設住宅の建設がはじまり、仮設住宅等の高齢者の心身機能の低下を防ぐための対策に継続 的に取り組む必要があることから、熊本県、熊本県医師会、熊本県老人保健施設協会、熊 本県理学療法士協会、熊本県作業療法士会、熊本県言語聴覚士会等 18 の関係団体が連携 し、JRAT活動を引き継ぐかたちで熊本県復興リハビリテーションセンター(以下、「復 興リハセンター」という。)を2016年7月14日に熊本県医師会内を事務局に設置した46。 東日本大震災にはこのような復興期のリハビリテーションを担う組織は存在していない。

しかしながら、東日本大震災後の半年後から要介護認定率が急上昇していることから、仮 設住宅入居後の心身機能の低下のリスクが高いことが予見された。そのため、前例のない

図表7−9  NPGの重要な視点による検証(太陽のまちづくり) 

出所)筆者作成。 

組織をつくることとなった。

  復興リハビリテーションセンターの活動内容は、仮設住宅入居後2週間以内の段差解消 等の初期改修支援や仮設住宅の集会所を利用した高齢者の生活不活発病予防のための介護 予防活動である。その活動に必要となるリハビリテーション専門職をはじめとする専門職 の派遣を県内各医療機関等に依頼し、750名の専門職を登録、市町村等からの求めに応じ て、復興リハセンターが専門職の派遣を調整し、現地への派遣を行っている47。財源は国 から県に対する補助金を復興リハセンターに対して補助を行い、また日本財団の支援によ り復興リハビリテーションセンターが直接財源を受けている。

仮設住宅における初期改修支援には要請がある都度、専門職派遣を行った。また、介護 予防活動についても市町村等からの要請に基づき週1回専門職を派遣し、仮設住宅の集会 所における活動を実施している48

  図表7−10は、災害時における生活不活発病対策について、地方自治体、アクター、顧 客別に、NPGにとって重要となる視点ごとに分析したものである。ビジョンや事業内容 は、当初に、熊本県と熊本県医師会等の関係者で方針案をつくり、専門職団体間で共通認 識の形成を行ったものである。ここでのアクターは、医師会等の専門職団体、医療機関等、

市町村・地域包括支援センター、それから被災者支援に重点的に取り組んでいた日本財団 である。

  協働における役割について、熊本県は専門職団体と連携し、事業の企画、実施方針の作 成・合意形成、復興リハセンターの活動財源の確保、県医師会等との連携による医療機関 への専門職派遣の要請等の役割である。熊本県医師会等の専門職団体は、復興リハセンタ ーの設置・運営、市町村等からの要請に応じた専門職の派遣を行う役割である。市町村・

地域包括支援センターは、仮設住宅等に復興リハセンターの活動を周知し、地域住民のニ ーズを把握し、必要に応じ、復興リハセンターへ派遣要請を行い、住民のフォローを行う 立場である。こうした役割分担と連携に基づく政策形成と実践は、震災対応のために新た なに設置した協議の場ではなく、通常時の地域リハビリテーションの協議会において、専 門職団体が対話をし、相互影響を繰り返し行いながら形成され実践されたものである。

  経営資源について、熊本県では企画・コーディネートや周知のための人的資源や、復興 リハセンターの財源が経営資源として用意できたが、それだけでは、この事業は動かせな い。アクターによる多様な資源が提供されるからこそ、実現できた事業である。アクター である医師会等の専門職団体は、専門職人材を複数名コーディネーターとして復興リハセ

ンターの事務局をローテンションで担うようにし、専門的知識を生かしながら、復興リハ センターの運営を行うなど、専門職人材と知識が資源となった。専門職の派遣元である医 療機関等も同様である。市町村・地域包括支援センターは、担当者の配置といった人的資 源である。日本財団からは、活動に必要な財源が提供された。

  この活動から創造される価値について、顧客である住民にとっての個別価値は、心身機 能の低下の防止による健康的な生活や日常生活の充実である。市町村や地域包括支援セン ターにとっての個別価値は、被災者支援体制が復興リハビリテーションによって強化され るということである。アクターとしての専門職団体等にとっての個別価値は、震災対応の 支援ノウハウの獲得である。また、医療機関等にとっての個別価値は、震災対応の専門性 の向上である。アクターとしての市町村・地域包括支援センターにとっての個別価値は、

被災者支援ノウハウである。日本財団にとっての個別価値は、被災地の支援実績である。

当該事例のビジョン・目標ともなりうる社会的価値としては、被災者の生活不活発病の防 止、要介護認定率の抑制、震災時対応のノウハウである。

地方自治体 アクター 顧客

熊本県 医師会等の専門職団体、医

療機関等、市町村・地域包 括支援センター、日本財団

市町村、地域包括支援セン ター、住民

ビジョン 仮設住宅の高齢者等の心身機能の低下の防止。

事業内容 熊本県復興リハビリテーションセンターの設置、仮設住宅の初期改修支援、集会所等 を活用した介護予防活動の実施

協働

(地方自治体及び各アク ターの役割)

・事業の企画・コーディネ ート、実施方針の作成・

合意形成

・専門職団体との連携によ る組織の設置。専門職派 遣体制づくり、そのため の財源確保

・医療機関等への協力要請 による派遣できる専門 職の確保

【医師会等の専門職団体】

・復興リハセンターの設 置・運営

・医療機関等への協力要請 による派遣できる専門 職の確保

・市町村等からの要請に応 じた専門職の派遣

【市町村・地域包括支援セ ンター】

・仮設住宅等への周知、ニ ーズの把握、活動への申 請、復興リハセンターと の連携による住民のフ ォロー

【医療・介護の専門職】

・現地での活動の実施

【日本財団】

・活動に対する財源等の支

経営資源

(各主体によって提供さ れたヒト・モノ・カネ・知 識等)

※地方自治体にとっては、ア クターの資源が活用できる こととなり、必要とする資 源が最少化される。

・企画・コーディネートや 周知のための人的資源

・復興リハセンターの財源 確保

【医師会等の専門職団体】

・専門職人材

・専門的知識

【医療機関等】

・専門職人材

・専門的知識

【市町村・地域包括支援セ ンター】

・人的資源

【日本財団】

・活動に必要な財源

創造される価値

(個別価値、社会的価値)

【社会的価値】

・被災者の生活不活発病の 防止

・要介護認定率の抑制

・震災時対応のノウハウ

【個別価値(関係団体等)

・震災対応の支援ノウハウ の獲得

【個別価値(医療機関等)

・震災対応の専門性の向上

【個別価値(市町村・地域 包括支援センター)

・被災者支援ノウハウ

【個別価値(日本財団)

・被災地の支援実績

【個別価値(住民) 心身機能の低下の防止 日常生活の充実

【個別価値(市町村・地域 包括支援センター)

・被災者支援体制の強化

【社会的価値】

・被災者の生活不活発病の 防止

・要介護認定率の抑制

・震災時対応のノウハウ

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