第6章 コ・プロダクションの拡張と新たなビジネス・モデル−コ・クリエーション
Ⅴ コ・クリエーションのビジネス・モデルの再構築
前節で説明したように、コ・クリエーションのビジネス・モデルを示し、地方自治体の 様々な分野の政策形成における有用性が想定される。これまで述べてきたように、NPG の手法の中心とされているのがコ・プロダクションも含めたコ・クリエーションである。
しかしながら、欧州の先行研究におけるコ・プロダクションやコ・クリエーションの現在 の捉え方が、わが国の地方自治体の事務事業の守備範囲と比較するとサービスを中心とし たものであり限定的である。欧州における先行事例では、福祉や教育における事例が中心 である
53。NPGでは、組織間連携による共創も重要な視座と考えられるが、コ・プロダ クションやコ・クリエーションに関しては、行政対住民といったサービスモデルでの議論 が中心となっている感があり、 Osborne ほか多くの論者が説明する具体例から判断すると、
少なくともわが国の地方自治体の事務事業のなかでは一部である住民への直接的なサービ ス分野、特に保健・医療・福祉に焦点の中心があると感じる。
前節において説明したように、幅広い分野において適用可能性があり、個人から組織ま で適用可能性があるのがコ・クリエーションの可能性ということになる。しかしながら、
ネットワークによるガバナンスや相互影響を特徴とするNPGから想定される領域の広さ と比較し、コ・プロダクションも含めたコ・クリエーションの現在の論調は領域が狭いと 考えられる。前節で説明したとおり、まちづくりなどのプロジェクト的な事業についても 多様なアクターによる相互影響を行いながら進められるものであり、時には利用者も巻き 込みながら進められることもある。それはコ・クリエーションの手法ともいえる。また、
産業振興や公共建築の分野においても優れた事例においてはそうした手法もとられること もある。このようにコ・クリエーションの拡張がわが国地方自治体への適用における一つ の重要な研究課題となりうる。
前述のように、コ・プロダクションの概念については、SDLを提唱した Vargo and Lusch(2008)においても、従来は、SDLの基本定理の一つとして「顧客は常に共同生産者
(co-producer) 」としていたものを「顧客は常に共創者(co-creator) 」であると修正を加 えている
54。一方で、コ・プロダクションは、コ・クリエーションとは区別しているが、
コ・クリエーションの一部でありSDLには位置づけられると考えているともしている。
また、基本定理の一つとして、 「全ての社会や経済のアクターは資源統合者である」とし、
社会や経済にかかわるあらゆる分野で活動を行うアクターはコ・クリエーションを行う価
値共創者としての位置づけを明確にしている
55。
こうしたことも踏まえるとコ・プロダクションの概念がコ・クリエーションに包括され る妥当性は Vargo and Lusch(2008)の主張からも十分に説明できる。
コ・クリエーションについても、組織間連携を基本的要素とし、それぞれのアクターの 主体性を発揮することを前提に、必ずしも住民に対する直接サービスだけには限定しない 考え方をベースとする枠組みで捉えなおすことも考えられる。例えば、プロジェクト組成 やその実行等における組織間連携については、Howllet et al. (2017)が、NPMの市場に根 ざしたマネジメントツールが多いのに対し、NPGに関連したツールは遙かに少ないとし ている
56とおり、現在の先行研究では、概念が示されている程度であり、より具体的な内 容には踏み込まれていないのが現状である。組織間連携を促進する要素についての明確化 が求められると考える(図表6−10 参照) 。PAやNPMでは、これまで、地方自治体以 外のアクターの主体性を前提としない事務事業の展開が中心であったが、NPGによる行 政システム改革を通じて、連携先の主体性を前提としつつ有効性の高い施策や事務事業の 展開が可能となり、既存の手法の見直しへのインパクトも大きいと想定される。
こうしたことを踏まえ、図表6−10 では、NPGによる価値共創システムとして、 「コ・
クリエーション(タイプⅠ) 」とし、概念の拡張の検討としている。また、 「組織間連携タ イプ(タイプⅡ) 」として、枠組みの具体化を課題とし、次章において、具体的な先行事例 により検証を行い、手法の明確化を検討することとする。コ・クリエーション(タイプⅠ)
は、Osborne et al. (2015)が事例等で示しているコ・プロダクションを含めたコ・クリエー ションとして地方自治体と住民組織との共創が想定されるものである。この類型について は、福祉や教育のサービス現場以外も含め、例えばまちづくりの事例を検証することによ り、概念の拡張を検討することとしたい。また、組織間連携タイプ(タイプ2)について は、地方自治体と企業や事業所組織等との組織間連携により、供給側のアウトプット供給 力を高め、顧客が利用することによる価値創造力を高めるものである。顧客も価値の供給 者として参入することも想定される。この類型についても、多様な分野での事例の検証を 行い、有用性を検証することとしたい。
事務事業の実施においては、ヒト・モノ・カネ・知識といった資源が必要であり、それ
らを組み合わせたマネジメントが求められる。しかしながら、NPGの先行研究において
は、特に財源について述べられておらす、マネジメントの拠り所となる評価といった点も
明確にはなっていない。そのため、次章においては、NPGと財源や評価との関係性も視
野に入れながら事例検証を行うこととし、検証結果も踏まえて、第 8 章でその関係性につ いて論じることとしたい。
注
1 Ostrom, V. and F. P. Bish, eds. Comparing urban service delivery system. Sage, 1977, p.35を参照。
なお、Osborne et al.(2016)やPestoff(2011)においても、コ・プロダクションの提唱者はOstromと されている。
2 Osborne, S. P., Z. Radnor, T. Kinder and I. Vidal, “The Service Framework: A Public-service-dominant Approach to Sustainable Public services,” British Journal of Management, 2015,p.9.
3 Pestoff, V., “Co-production, new public governance and third sector social services in Europe,"
Ciências Sociais Unisinos 47.1, 2011,p.15.
4 この点については、第4章において詳細に説明している。
5 Osborne, S. P., Z. Radnor, T. Kinder and I. Vidal, op.cit.,p.9.
6 石川和男「マーケティングにおける中心価値の変化―価値創造思考の新たな枠組みを中心として」『専修 ビジネスレビュー』Vol10、2015年、3頁。
7 「同上稿」、3頁。
8 Pestoff, V., op.cit.,p.15.
9 Ibid.,p.20.
10 Ibid.,p.23.
11 Ibid.
12 Ibid.
図表6−10 NPGの概念や手法における課題と対応の方向
コ・プロダクション
・行政対住民への限定 組織間連携
・具体性そのものが弱い
コ・クリエーション(タイプⅠ)
・概念の拡張について検討 組織間連携タイプ(タイプⅡ)
・枠組みの具体化 NPG における価値共創システム
出所)筆者作成。
NPG の概念や手法の課題
13 Ibid.
14 Osborne, S. P., Z. Radnor, T. Kinder and I. Vidal, op.cit.,p.3.
15 Ibid.,p.7.
16 Ibid., p.9.
17 Brudney, J. l., R. E. England, “Toward a Definition of the Coproduction Concept,” Public Administration Review, vol.43,1983 p. 61.
18 Ramirez, R., “Value Co-Production: Intellectual Origins and Implications For Practice and Research,” Strategic Management Journal, 1999, p.61.
19 Osborne, P. S., Z. Radnor, and S. Kirsty, “Co-Production and the Co-Creation of Value in Public Services: A suitable case for treatment?," Public Management Review, 2016, p.645.
20 Ibid.
21 Ibid.,p.648.
22 Osborne, Stephen P.,行正彰夫翻訳「公共サービスにおけるコ・プロダクションと価値共創―コラボレ ーションアプローチからの展開―」2016年9月12日英国勅許公共財務会計協会日本支部講演記録。
23 Osborne, P. S., Z. Radnor, and S. Kirsty, op.cit., p.645.
24 Osborne, P. S., “From public service-dominant logic to public service logic: are public service organizations capable of co-production and value co-creation?,” Public Management Review,2017, p.3.
25 Ibid., p.4.
26 Ibid., p.2.
27 Ibid.
28 Vargo, S. L. and R. F. Lusch, “Service-dominant logic: continuing the evolution," Journal of the Academy of marketing Science 36.1 ,2008.p.7
29 Ibid.
30. Ibid.
31 Durose, D. and L. Richardson, Designing public policy for co-production, Policy press, 2016, p.34.
32. Ibid.
33 公益社団法人日本生産性本部『「基礎的自治体の総合計画に関する実態調査」調査結果報告書』、2016 年、6頁。
34この点については、第2章で詳細を述べている。
35 Osborne, P. S., Z. Radnor, and S. Kirsty, op.cit.,p.644.
36 Howlett, M., A. Kekez and O. Poocharoen, “Understanding Co-production as a policy tool:
Integrating New Public Governance and Comparative Policy Theory,” Journal of Comparative Policy Analysis, 2017, pp.5-6.
37 Osborne, P. S., Z. Radnor, and S. Kirsty, op.cit., p.645.
38 この点については、第5章の塚本(2017)を参照されたい。
39 Osborne, P. S., Z. Radnor, and S. Kirsty, op.cit., pp.645-648.
40 Ibid.
41 Ibid.
42 Ibid.
43 Ibid.
44 Ibid.
45 Osborne(2017) op.cit.,p.4.
46 Osborne, S. P., Z. Radnor, T. Kinder and I. Vidal, op.cit.,p.9.
47地域包括ケア研究会「地域包括ケア研究会報告書』2009年5月、6頁。
48 Porter M.E and M. R. Kramer, “Cresting Shared Value: How to reinvent capitalism and unleash a wave of innovation and growth,” Harvard Business Review, 2011.p.16.
49 Prahalad & Ramaswamy, The Future of Competition – Co-creating Unique Value with Customers, Harvard Business Press, 2004. 有賀裕子訳『価値共創の未来へー顧客と企業のCo-Creation』ラン ダムハウス講談社、2004年、41頁。
50 Osborne, P. S. 2017, op.cit., p.3
51 Prahalad & Ramaswamy『同上書』、2004年、41頁。
52 Porter M.E & M. R. Kramer op.cit.,p.16.
53 Osborne, P. S., Z. Radnor, and S. Kirsty, op.cit.,pp.645-648.をはじめ、引用を行っているコ・プロダク ションの論文では、福祉や教育を事例としているものが多い。
54 Vargo, S. L. and R. F. Lusch, “Service-dominant logic: continuing the evolution," Journal of the Academy of marketing Science 36.1 ,2008.p.7
55 Ibid.
56 Howlett, M., A. Kekez and O. Poocharoen, op.cit.,p.4.