第2章 わが国地方自治体における総合計画策定の問題点
Ⅳ ガバナンスと地域経営
地域における社会的課題の解決に向けては、多様なアクターとの協働が重要であり、地 方自治体はそのコーディネートの役割も有する。地方自治体は地域づくりの視点で、管轄 する地域の経営を行う役割がある。玉村(2014)は、地域経営を機能させるための総合計 画として、「目指す成果や成果の達成状況をわかりやすくする情報体系として、効果的な役 割分担や協働・共創を生み出していく仕組みとともに機能させていくこととなる」とし、
総合計画を根幹に据えた地域経営のトータルシステムを提起している62。このように、総 合計画においては、行政システムにおける今後の概念として多様な主体間の相互影響を特 徴とする関係性のガバナンスを明確に規定することが求められている。
すなわち、多様なアクターとの関係性の構築を主眼とするガバナンスと、政策・施策・
事務事業の企画・実行・評価といった具体的な政策等の形成や実践を行ううえでのガバナ ンスが実効性を高めるために求められていることであり、それを総合計画により担保する ことが考えられる。その事項としては、以下の二点を提起できる。
第一に、地方自治体と外部組織等がそれぞれ主体性を発揮する対等の関係のもと政策・
施策・事務事業を企画し、実行し、評価し、改善していくPDCAのマネジメントプロセ スが重要である。そのため、まず多様なアクター間で共有する目標の設定を行い、その目 標の達成のために必要な政策等を形成し、具体的な実践方策を明確化することが求められ る。これら一連の事項が実施計画等において明確化されることが考えられる。
第二に、地方自治体の役割は、企業やNPO、住民組織等と連携しながら政策・施策・
事務事業の形成を推進するコーディネーターとしての役割が重要である。そのため、地方 自治体のアクターとしての役割だけでなくコーディネーターとしての役割や、連携するア クターの役割についても明確化することが必要である。
図表2−4では、NPGに基づく政策・施策・事務事業の形成と評価の枠組みを示し、
この枠組みを総合計画に規定すべきものとして整理している。地域経営におけるビジョン や目標のもと政策・施策・事務事業を展開することが重要であり、多様な分野において多 様な組織等の連携パターンがあることを示している。
まず、地域経営については、公共領域における多様な主体による住民等の福祉の向上の ための取組みといった趣旨で様々な論者が多様な定義を行っているところであり、統一し た定義はない状況である。ガバナンスとの関係性が想定できる定義もある。例えば、「ステ
ークホルダー相互間やステークホルダーと地域資源との間の価値の交換を効果的・効率的 に実現していくこと」63や「地域社会の中核たる地方自治体を中心として、地域社会が主 体性をもって、自ら有する経営資源を最高限度に活用し、地域福祉の極大化をめざす政策 実践」64といった定義からは、地方自治体におけるガバナンスと地域経営は関連性のある ものであることが想定される。
総合計画に基づき、多様なアクター間で共通のビジョンや目標を共有し、相互影響を行 いながら、地域課題の解決を図るガバナンスに基づく地域経営が重要となる。その地域経 営のキーワードの一つは「相互影響」である。相互影響については、Osborne
et al
.(2015) 以外にもガバナンスにとっての重要性を指摘している。例えば、Kooimanet al
.(2008)は、インタラクティブガバナンスという概念を提起し、相互影響を取り入れたガバナンスが効 果的であると主張している65。NPGの柱となる相互影響を取り入れたガバナンスの充実 のためのコーディネーターは、「各種主体間のマーケティングをネットワーク化して地域 の全体最適まで視野に入れた仕組みづくりができる究極のネットワーカーは自治体の他存 在しない」66としているように、地方自治体が行うことが想定される。NPGを進めるに あたり、多様なアクター間でのビジョンや目標を共有しマネジメントしていくために、こ れまで以上に重要となることが想定されるのが、行政評価や管理会計的な手法と考えられ る。
地方自治体はコーディネーター兼アクターとして中心的な位置づけである。コーディネ ーターの役割として多様なアクターを調整し、ビジョンや目標に関する共通認識を形成し たうえで、最終的には事務事業レベルにおいて、アクターの主体性を尊重しながら、役割 分担等を整理したうえで、事務事業を形成することが求められる。そして、事務事業を実 施し、アクター間で評価を行い、改善を進めていく一連のプロセスをコーディネートして いくことが地方自治体の役割として求められる。
アクターとしての役割のみを考えた場合には、「ガバナンス概念では、政府は公共空間に おける一主体に過ぎない」67とされるようにガバナンスのネットワークを構成する一主体 にすぎない。ネットワークの構成は、住民や企業・NPOなど多様な組織等で構成される が、構成されるメンバーは、事務事業の内容により変わる。各メンバーは、それぞれの主 体性を発揮した取組みを展開するとともに、相互影響を行いながら、取組みの質を高めて いくことが求められる。
このようにNPGによるガバナンスの導入は、地域経営にとっても密接に関連するもの
である。また、NPMに基づく行政内部の効率化は地方自治体の内部の経営に関連するも のであるが、玉村(2014)が行政経営と地域経営の相乗効果を促す総合計画の必要性を指 摘しているように68、NPMとNPGの両者を体系化するものが総合計画の機能として求 められる。
地方自治体の最上位の計画である総合計画に明確に位置づけることによって、ガバナン スの地域経営における機能を発揮させる環境が整備され、ガバナンスの実践に結びついて いく。その実践力を高めるためにはマネジメントが重要である。多様なアクターにおける 相互影響を促進し、ガバナンスの実効性を高める観点から総合計画に基づくマネジメント・
サイクルを確立することについて、業績評価や管理会計の観点での先行研究等は見当たら ない。そのため、従来型の地方自治体の内部的なマネジメントツールであり、NPMを実 現するためのツールとして導入された行政評価システムを踏まえつつ、管理会計的なマネ ジメントツールを検討することも必要となる。この点については、第8章で検証すること としたい。
出所)筆者作成。
図表2−4 地域経営におけるガバナンス・イメージ
注
1玉村雅俊『総合計画の新潮流―自治体経営を支えるトータルシステムの構築』公人の友社、2014年、260 頁。
2 1969年の地方自治法改正では、第2条第4項において「市町村は、その事務を処理するに当たっては、
議会の議決を経てその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定め、こ れに即して行うようにしなければならない」とされている。従って、策定義務があり、議決が必要だ ったのは、正確にいえば総合計画ではなく、基本構想である。
3 公益社団法人日本生産性本部『「基礎的自治体の総合計画に関する実態調査」調査結果報告書』、2016年、
8頁。
4 杉岡秀紀「自治体政策における総合計画とフューチャーデザイン」『福知山公立大学研究紀要』、2017年、
78頁。
5 公益社団法人日本生産性本部『前掲書』、2016年、8頁。
6 『同上書』。 7 『同上書』、7頁。
8 石原俊彦編著『自治体行政評価ケーススタディ』東洋経済新報社、2005年、15頁。
9 高寄昇三『自治体の行政評価システム』学陽書房、1999年、3−4頁。
10 杉岡秀紀「前掲稿」、77頁、及び公益社団法人日本生産性本部『前掲書』、7頁を参照。
11 杉岡秀紀「前掲稿」、77頁、及び公益社団法人日本生産性本部『前掲書』、7頁を参照。
12 杉岡秀紀「前掲稿」、77頁を参照。
13 「同上稿」。
14 「行政機関が行う政策の評価に関する法律」に基づく総務省の政策評価の実施に関するガイドライン によると、「政策」は、「特定の行政課題に対応するための基本的な方針の実現を目的とする行政活動 の大きなまとまり」と定義される。また、「施策」は、「上記の『基本的な方針』に基づく具体的な方 針の実現を目的とする行政活動のまとまりであり、『政策』を実現するための具体的な方策や対策と とらえられるもの」と定義される。「事務事業」は、「上記の『具体的な方策や対策』を具現化するた めの個々の行政手段としての事務および事業であり、行政活動の基礎的な単位となるもの」と定義さ れる。総務省『政策評価の実施に関するガイドライン』2012年3月、2頁。
15 真山達志「自治体における事業評価導入の多面的意義」『会計検査研究』24号、2001年9月、51頁。
16 「同上稿」。 17 「同上稿」。