第7章 ニュー・パブリック・ガバナンスの事例検証−NPGの有用性の考察− . 146
6 医療と介護の連携(大分県臼杵市)
地方自治体 アクター 顧客
熊本県 医師会等の専門職団体、医
療機関等、市町村・地域包 括支援センター、日本財団
市町村、地域包括支援セン ター、住民
ビジョン 仮設住宅の高齢者等の心身機能の低下の防止。
事業内容 熊本県復興リハビリテーションセンターの設置、仮設住宅の初期改修支援、集会所等 を活用した介護予防活動の実施
協働
(地方自治体及び各アク ターの役割)
・事業の企画・コーディネ ート、実施方針の作成・
合意形成
・専門職団体との連携によ る組織の設置。専門職派 遣体制づくり、そのため の財源確保
・医療機関等への協力要請 による派遣できる専門 職の確保
【医師会等の専門職団体】
・復興リハセンターの設 置・運営
・医療機関等への協力要請 による派遣できる専門 職の確保
・市町村等からの要請に応 じた専門職の派遣
【市町村・地域包括支援セ ンター】
・仮設住宅等への周知、ニ ーズの把握、活動への申 請、復興リハセンターと の連携による住民のフ ォロー
【医療・介護の専門職】
・現地での活動の実施
【日本財団】
・活動に対する財源等の支 援
―
経営資源
(各主体によって提供さ れたヒト・モノ・カネ・知 識等)
※地方自治体にとっては、ア クターの資源が活用できる こととなり、必要とする資 源が最少化される。
・企画・コーディネートや 周知のための人的資源
・復興リハセンターの財源 確保
【医師会等の専門職団体】
・専門職人材
・専門的知識
【医療機関等】
・専門職人材
・専門的知識
【市町村・地域包括支援セ ンター】
・人的資源
【日本財団】
・活動に必要な財源
―
創造される価値
(個別価値、社会的価値)
【社会的価値】
・被災者の生活不活発病の 防止
・要介護認定率の抑制
・震災時対応のノウハウ
【個別価値(関係団体等)】
・震災対応の支援ノウハウ の獲得
【個別価値(医療機関等)】
・震災対応の専門性の向上
【個別価値(市町村・地域 包括支援センター)】
・被災者支援ノウハウ
【個別価値(日本財団)】
・被災地の支援実績
【個別価値(住民)】 心身機能の低下の防止 日常生活の充実
【個別価値(市町村・地域 包括支援センター)】
・被災者支援体制の強化
【社会的価値】
・被災者の生活不活発病の 防止
・要介護認定率の抑制
・震災時対応のノウハウ
保険制度の地域支援事業49を活用し、臼杵市が「在宅医療・介護連携推進事業」を医師会 に委託する形で取り組みが継続されている50。
その特徴の一つとして組織間連携や多職種連携によるプロジェクトチームの組成があ げられる。臼杵市の地域包括ケアシステムの大きな特徴の一つとして、在宅医療と介護の 連携が進んでいることがあげられる。2012 年に臼杵市医師会立コスモス病院の地域医療 福祉連携室からの発意により、厚生労働省の在宅医療連携拠点事業を財源として取り組み が進められることとなる。プロジェクトZと名付けられ組織が立ち上げられた51。 医療や介護の主要な組織が参画・連携するもとで、目的別のチーム(班)が編成されて いる。具体的には、医師会、訪問看護、県保健所、市役所、歯科医師会、薬剤師会、歯科 衛生士会、栄養士会、社会福祉協議会、居宅介護支援事業所、ホームヘルパー、コスモス 病院から
35
名の参加のもと、「調査班」「広報班」「研修班」「IT班」「防災班」「24時間体 制班」である。特にIT
班と防災班が所掌する「うすき石仏ねっと」、24
時間体制班が所掌 する24
時間体制構築は一定のハードルを要する取り組みであり、全国的にも地方自治体 レベルで組織的に取り組みが進んでいるところは少ないと思われる。そうした班をベース にさまざまな連携プロジェクトやサービスの改善・充実策が展開されている52。2016
年の段階までに、コアメンバーの充実もなされ、事業主体の変更もあり、「臼杵市 Z会議」という臼杵市主体のもとでの在宅医療・介護・福祉の連携のプロジェクトとして 発展している。臼杵市Z会議のビジョンは、「自分らしい生き方を選択しましょう。石仏が 見守るこの臼杵で生きる・活きる・逝ききる」となっている。現在では、16
名のコアメン バーによる「コア会議」により、各班の活動内容や課題の共有、解決策の具体化が図られ る体制がベースにある。そのもとで「研修班(12名)」、「啓発班(11名)」、「リアル班(63 名)」という構成となっており、うすき石仏ねっとは班から独立し、連携を図るうえでの情 報共有の支援という位置づけとなっている。コア会議は月1回開催され解決策の検討等が なされている。研修班では、多職種連携のための研修会が定期的に開催されている。リア ル班では、4チームに分かれて、チームごとのテーマで課題解決に向けた検討を行い、検 討結果を臼杵市Z会議全体会議で報告するといった活動を行っている53。在宅医療の充実を進めるうえでは、行政、医療、介護の関係者間の顔が見える関係の構 築が重要となる。また、サービスの高度化のためには人材育成策の質の向上も重要である。
その結果、多職種の現場レベルでの相互影響によるサービスの充実、改善につながること となる。また、組織間連携や現場レベルでの連携においては、それぞれの組織や関係者の
主体性が結びついた効果的な連携体制であることが重要である。プロジェクトZが関係者 の効果的な連携を深める場となっている54。情報共有の深化と信頼性のある関係性の構築 により現場サービスの質的向上が図られている事例といえる。
図表7−11は当該事例を地方自治体、アクター、顧客別に、NPGにとって重要となる 視点ごとに分析したものである。
協働における役割について、臼杵市が事業の企画・コーディネートを医師会を中心とす るメンバーと相互影響を行いながら実施する。また財源については、介護保険財源で臼杵 市が確保し、医師会に委託する役割がある。アクターの中心となるのは医師会をはじめと する専門職団体である。事業を医師会が受託し、各団体から派遣されたメンバーとプロジ ェクトチームを組成し、研修等の事業を推進している。事業を通じ現場サービスの改善が 進められる。
経営資源について、地方自治体の経営資源としては、企画・コーディネート費用、事業 実施のための財源である。これだけでは事業は成立しないが、各専門職団体からは専門職 人材と専門職の専門知識が経営資源として提供されることに事業実施が可能となる。
こうした活動により創造される価値は、顧客としての医療機関や介護事業所の専門職に とっては、専門性の向上が個別価値として挙げられる。また、住民は、スキルアップされ 連携体制のとれた従前より質の高いサービスが提供されることが個別価値として挙げられ る。社会的価値としては、専門職のスキルアップと多職種の連携等を通じた専門職基盤の 強化であり、在宅サービスの充実である。アクターとしての専門職団体としての個別価値 は、多職種連携を通じたサービス基盤の強化であり、団体としてのプレゼンスの向上であ る。臼杵市にとっての社会的価値は、在宅サービスの充実、医療と介護のシームレスなサ ービス体制の構築である。
本事例では、臼杵市が、在宅医療・介護の連携という多職種の専門職の連携による取組 みが必要な課題に対し、医師会を軸に多様な専門職団体との連携体制を構築し、医師会が 主導的に様々な課題に対応するプロジェクトを組成し、個々の専門職や住民といった顧客 への価値を創造するガバナンスが実現されている。また、医療や介護のサービスの現場に までガバナンスの効果を発揮できる体制づくりができている。こうした取組みの場合、組 織間の壁が支障になるケースが多く見受けられるが、医師会の強いリーダーシップと関係 団体の主体性により、スムーズに事業が推進されている。その要素としては、実務者レベ ルでのプロジェクトチームという場が機能し対話の機会が積み重ねられていることが大き
いと考えられる。
地方自治体 アクター 顧客
臼杵市 臼杵市医師会、歯科医師
会、薬剤師会、社会福祉協 議会、居宅介護事業所
医療・介護の専門職、住民
ビジョン 自分らしい生き方を選択しましょう。石仏が見守るこの臼杵で生きる・活きる・逝きき る
事業内容 多職種連携のための研修、医療・介護の24時間体制づくり、在宅サービスの充実のた めの課題と解決策の検討、臼杵市Z会議の運営
協働
(地方自治体及び各アク ターの役割)
事業の企画・コーディネー ト
アクターとの連携による 財源確保
会議の運営 プロジェクトの組成 研修の企画実施 現場サービスの改善
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経営資源
(各主体によって提供さ れたヒト・モノ・カネ・知 識等)
※地方自治体にとっては、ア クターの資源が活用できる こととなり、必要とする資 源が最少化される。
・企画・コーディネート費 用
・事業実施のための財源確 保
・各団体・関係機関からの 専門職人材の投入
・専門職の専門知識
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創造される価値
(個別価値、社会的価値)
【社会的価値】
在宅サービスの充実 医療と介護のシームレス なサービスの提供体制の 構築
【個別価値】
多職種連携によるサービ ス基盤の強化
専門職団体のプレゼンス の向上
【個別価値(専門職)】 専門性の向上
【個別価値(住民)】 提供されるサービスの質 の向上
【社会的価値】
専門職基盤の強化 在宅サービスの充実