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第4章  ニュー・・パブリック・ガバナンスのフレームワークーOsborne を中心とす

2  基本原理

(1) NPMとNPGの比較 

NPGの提唱者である

Osborne et al. (2015)は、NPMについては行政組織内部での組

織維持のためのマネジメントに終始する限界があることを指摘し、組織間の関係性の構築 により行政サービスの向上を図るNPGを提起している21。NPGは、多様なアクターが 行政活動に参加し、対等な立場で対話を進めることで、政策・施策・事務事業の形成、そ の運用や実践を協働で行うこととされる。NPMとNPGの主要な要素として、NPMが 組織の資源と成果のマネジメントを重視しているのに対し、NPGでは価値や目的、関係 性の協議を重視している22。NPMが競争や市場原理の効果を価値の基盤としているのに 対し、NPGでは、分散化と対話を価値の基盤としている23(図表4−2参照)。

NPM NPG

主要な要素 ・組織の資源と成果のマネジメント ・価値や目的、関係性の協議 価値の基盤 ・競争や市場原理の効果 ・分散化と対話

(2) NPGの基本原理 

わが国においては、地方自治体の経営資源の制約が強まり生産年齢人口の減少が進むな か、地域における組織間連携や住民も含めた多様なアクターをサービス提供主体として組 み込むことが重要である。そのような時代背景のなか、地域の経営資源を生かし地域の総 力により地域特性に応じた政策形成が求められている。その解決に向けては地域の総力を 引き出すガバナンスが問われており、それは、NPMでは解決ができないものである。一 方で行政の効率化も引き続き問われている。このことから、わが国地方自治体の経営の基 軸にNPGを新たに導入しつつ、NPMとNPGで再構築することには合理性があると考 える。

Osborne et al. (2015)

は、NPGはネットワークによるガバナンスを超え、複雑なサー ビスシステムの相互影響を重視し公共サービスが提供されるものとし24単に公的サービス 機関のネットワークではないとしている。

Koppenjan et al. (2013)

は、社会が知識の拡大と単独の事業体だけでは提供できない問 題解決能力を必要とするとしており、NPMのアプローチは、グローバル化するネットワ ーク社会が直面する複雑性には対応できないとし、NPGの導入を主張している。高水準

出所)Osborne, P. S., The (New) Public Governance: A Suitable Case for Treatment?, Osborne,P. S.(ed.), The New Public Governance?: Emerging Perspectives on the Theory and Practice of Public Governance, Routledge, 2010, p.10.を筆者訳出。

図4−2  NPMとNPGの比較 

の個別化や多元的な価値観、情報の密度とダイナミクスへの対応が求められる環境といっ た複雑性に対応する新たなガバナンス形態としてNPGを捉えており、公共政策の策定と 公的サービスの対応を発展させていく必要があるとしている25。そうした新たに求められ るガバナンスは、PAやNPMと融合したガバナンスとして生み出されたものと主張して いる26

Morgan et al. (2014)

は、NPGの特徴として、次の3点を挙げている。1点目は、N PGは、全ての行政の行動によって創造される価値を増進させることであり、所与の条件 のなかで有効性を高めるということだけではなく、サービスの成果や満足度等に関する業 績評価や業績のマネジメントの目的を拡大することである27。2点目は、幅広い利害関係 者の間で実現可能な合意形成を促進する行政のプロセスを創造することを強調している点 である28。3点目は、公共のサービスや生産物の創造を、行政、市場、非営利セクターを 巻き込んだコ・プロダクションととらえていることである29。ここでの捉え方のうち、価 値の捉え方については、

Gronroos

等による整理を踏まえると、行政の行動によって創造さ れる価値を含んだ成果物であり、顧客に利用されることによって価値は発生する点には留 意が必要である。また、

Osborne (2017)

は、コ・プロダクションは、コ・クリエーション の一部であると修正を行っている点にも留意が必要である。

Kooiman et al. (2004)

は、「インタラクティブ・ガバナンス」を提起し、公的セクター 及び民間アクター間の交流を通じて社会問題を解決し、新たな社会を創造することを主張 している30。また、インタラクティブ・ガバナンスにおいては、統制対象システムとその 統治システム、およびガバナンスの相互影響で構成されていることを認識することによっ てアプローチされるとし、これら

3

つのコンポーネントを区別して概念化することは、社 会システムのガバナビリティを評価できるプロセスの一歩となると主張している。

Kooiman et al. (2004)は、NPGという言葉は使っていないが、社会を構成する主体のイ

ンタラクティブな相互影響が強調されており、NPGの特徴の一つとして

Osborne

の主張 とも重なる点である。

こ うし た捉 え方と同 様の 概念提起 として、

Flynn(2007)は 、 PVM

Public Value

Management:パブリック・バリュー・マネジメント)を提起しており、NPMが結果に

焦点を当てているのに対し、NPG同様、PVM では関係性に焦点を当てるものととらえ ている31。また、Spano(2009)は、NPMとの対比として

PV

(パブリック・バリュー)を 提起しており、顧客や市民、利害関係者の参加が必須であると説明している 32

Storker(2006)は、PVM

を提起し、NPMが専門職の判断による意思決定がなされるのに 対し、PVM では、意思決定にあたり対話の場が重視されるとしている 33。NPGに関連 し、様々なガバナンスに関するが提起がなされているが、共通するのは、ネットワーク性 や関係性によるガバナンスである。Osborneは、NPGに関連し、ガバナンスや公的ガバ ナンスは新しい用語ではなく、以前からのイデオロギーが付随しているものとしており、

ガバナンスを包括的に捉え、複雑な公共的課題の解決のための枠組みを提示したものが、

NPGであると考えられる。

Hartley(2010)は、公共における新しいガバナンス形態を Networked governance

と規 定し、PAやNPMとの比較により、イノベーションや改善を比較している。それを示し たものが図表4−3である。なお、

Networked governance

については、NPGの主な特 徴でもある利用者との共創や相互影響、行政の主導的な役割の重要性について触れており、

同様の概念としてみなすことができる。イノベーションについては、PAが立法を基盤と する大規模な国家や社会のイノベーションの急進的な推進であるとしているのに対し、N PMを主にビジネスプロセスにおける組織改革によるイノベーション、Networked

governance

を国による支配ではなく、市場原理を通しての改革であり、地方におけるネッ

トワーク化されたガバナンスを通じたイノベーションであるとしている34。また、改善に ついては、PAは、初期に大きな変革がなされるが、安定した環境下において持続的な改 善がないとしているのに対し、NPMでは、業務プロセスにおける組織改革を通じた改善 であるとしており、

Networked governance

では、現場サービスの拡大的かつ持続的な改 善を目的としている35

政策決定者の役割としては、PAが指揮官であるとしているのに対し、NPMでは、説 明者、責任者とし、

Networked governance

では、ネットワークによるガバナンスのもと で、リーダーシップが政策決定者によみがえる。リーダーになる36。行政のマネージャー の役割としては、PAが忠実な業務執行者としているのに対し、NPMでは効率性と市場 化の最大化を担う役割とし、

Networked governance

では、開拓者とし、新領域の開拓を 行う際にはマネージャーはイニシアティブと想像力を駆使しながらマネジメントを行うと している37。住民の役割としては、PAが標準化されたサービスを受ける利用者とし、N PMが顧客志向により改善されたサービスを受ける顧客としているのに対し、

Networked

governance

では共創者とし、サービスを革新する際には共同で行っていく存在であると

している38

PA NPM Networked governance イノベーション  大規模な国家や社会のイ

ノベーション

政策の中身の改革よりも 組織改革によるイノベー ション

中央と地方の双方におけ るイノベーション

改善  初期に大きな変革がなさ れるが、持続的な改善はな い

業務プロセスにおける改 善

顧客はサービスの質の改 善に注目する

現場サービスの拡大的か つ持続的な改善を目的と する

政策決定者の役割  指揮官 説明者、責任者 リーダー

行政のマネージャーの役 割 

忠実な業務執行者 効率性と市場化の最大化 を担う

開拓者

住民の役割  利用者 顧客 共創者

以上のような様々な論者の提起を総合すると、NPGの基本原理としては、図表4−4 のとおり整理できる。まず、主要な目的との関連では、「価値創造」と「価値共創」である。

先行研究からのキーワードとしては、価値の増進や時代背景から生じている社会の複雑性 への対応があげられる。そうしたことに対応していくための要素としては、共創、業績評 価やマネジメントの拡大、利害関係者間の合意形成があげられる。また、目的の達成のた めのマネジメントの要素としては、基本原理として、「相互影響」があげられる。先行研究 からのキーワードとしては、分散化、対話、相互影響、関係性があげられる。行政の役割 の観点からは、「コーディネート」があげられる。Osborne

et al.

(2015)が述べているよ うに、行政はリーダーシップを持ったコーディネーターとしての役割が求められる39。利 用者や利害関係者の観点からは、「協働」、「経営資源の拡大」があげられる。経営資源の拡 大はPraharad and Ramaswamy (2014)が説明したとおり、協働が進めば経営資源の土台 が広がる40。多様なアクターの組織間連携も先行研究の共通するキーワードである。利用 者や利害関係者はサービスの提供主体であり共創者である。ここであげた基本原理のうち、

価値創造や価値共創については次章で詳細に述べる。

図表4−3  ガバナンスと行政管理の概念の違いにおけるイノベーションや改善 

出所)Hartley. J, “Innovations in governance and public services: past and present,” Public Money and management, 2010, p.29.を筆者訳出。

主要な要素・目的 基本原理:価値創造、価値共創

[先行研究でのキーワード]

価値の増進、複雑性への対応、共創 マネジメントの要素 基本原理:相互影響

[先行研究でのキーワード]

分散化、対話、相互影響、関係性 成果や満足度等に関する業績評価

行政の役割 基本原理:コーディネート

[先行研究でのキーワード]

リーダーシップ、主導的役割、イニシアティブ コーディネーター

利用者、利害関係者 基本原理:協働、経営資源の拡大

[先行研究でのキーワード]

組織間連携、サービスの提供主体、共創者

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