第6章 コ・プロダクションの拡張と新たなビジネス・モデル−コ・クリエーション
2 コ・プロダクションの類型化とコ・クリエーションへの発展
2 コ・プロダクションの類型化とコ・クリエーションへの発展
ら象限Ⅳの関係性について、Osborne は学校教育の例示で次のように説明した。「学生が 授業から得る個のサービスは学習や技術である。これらは、学校というより大きなシステ ムの一部であり、わかれていない。授業から得るものは、学習や技術であり、全体として 学校にいることから得るものは、社会的価値、おそらくコミュニティの価値である」と説 明している。また、コ・コンストラクションについての質問に対しては、精神医療の問題 を例に、「患者は、セラピーや薬の処置を受ける。一方で、全体の精神医療の一部として、
他のサービスの利用者、他のサービスの専門職と会い、そして、それが彼らの日々の大き な部分を占めるようになる。このことは、ニーズを満たすだけでなく、彼らの人格を構築 する。これがコ・コンストラクションである」22としている。
すなわち、象限Ⅰの個人レベルのものから象限Ⅳのシステム的なコ・プロダクションま では一貫としたシステムとしての対応を考えることの重要性を示している。個人レベルで のコ・プロダクションを最終的にはコ・イノベーションといった次元まで高め、政策形成 につなげていくことが重要であることを示唆したものといえる。象限ⅠからⅣの先に価値 の共創「コ・クリエーション」に向けてとあるが、この象限の具体的なことは説明されて いない。この整理によると、「コ・プロダクション」はコ・クリエーションの中の一つの概 念として含まれるものとして、
Osborne
は既に捉えていると考えられるが、この時点では、この象限の4つをコ・プロダクションの概念として整理している。
図表6−5 コ・プロダクションの概念 価値の共創の場
Locus of co-creation of value 価値の共創
(あるいは コ・ディス トラクショ ン)に向け
て Towards
the co-creation (or
co-destruction)
of value 個人のサービス
Individual service
サービスのシステ ム Service system コ・プロダ
クションの 性質 Nature of
co-production
無意識 Involuntary
I:コ・プロダクシ ョン Co-production
Ⅲ: コ・コンスト ラクション Co-construction 意識的
Voluntary
Ⅱ: コ・デザイン Co-design
IV: コ・イノベー ション Co-innovation
出所)Osborne, Stephen P., Zoe Radnor, and Kirsty Strokosch, “Co-Production and the Co-Creation of Value in Public Services: A suitable case for treatment?," Public Management Review, 2016, p.645.を筆者訳出。
(2) コ・プロダクションからコ・クリエーションへの展開
前述のように、
Osborne et al. (2016)では、主要な理論的観点を統合するコ・プロダクシ
ョンの4つの象限の類型を図表6−5のように整理している。利用者は公共サービスの提 供者とともにサービスの経験知や成果をつくる純粋な「コ・プロダクション」、公共サービ スのデザインや提供方法の改善等に関係する「コ・デザイン」、サービスシステムに関連す る「コ・コンストラクト」、サービスシステムにおけるサービス提供の新しい形態を創造す る「コ・イノベーション」と4つの類型がいずれもコ・プロダクションの類型として整理 がなされている。これが「コ・クリエーション」に向けて展開されるといった整理であっ た23。Osborne (2017)では、その修正が行われている。端的にいえば、
「コ・プロダクション」、「コ・デザイン」、「コ・コンストラクト」、「コ・イノベーション」の4類型を包括する概 念を「コ・プロダクション」から「コ・クリエーション」に修正したということである。
筆者は、2017年
11
月8日に関西学院大学で開催された「日英研究者による学術シンポ ジウムー英国と日本における公共サービス改革の道筋」に参加し、Osborneに直接ヒアリ ングを行う機会を得た。Osborneに対し、コ・プロダクションの概念の修正点として、N PGの中核的な概念としていたコ・プロダクションについてコ・クリエーションの一つと いうことで修正を行ったという点をOsborne
本人に確認した。また、NPGの中核的な概 念として、コ・プロダクションからコ・クリエーションへの修正が行われていることを確 認した。さらに、SDLについては、企業では適用は妥当であるが、公共への適用につい ては課題があるとし、SDLからSLを重視する修正を行っていることを併せて確認した。すなわち、NPGの中核的な概念としては、コ・プロダクションも含めたコ・クリエーシ ョンであり、コ・プロダクションについては、概念が拡張されコ・クリエーションの一類 型として発展的に修正が行われている。
Osborne (2017)は、コ・プロダクションという言葉自体がグッズ・ドミナント・ロジッ
クに根ざしており、線形のモデルであると指摘をしている。また、コ・プロダクションは 現在でも発展的議論がなされているとしたうえで、コ・クリエーションへの修正を行うこ とを主張している。その焦点の変更の理論的背景としては、SDLが提供している線形の グッズ・ドミナント・ロジックからサービス・ドミナント・ロジックであるという説明に 加えて、サービス・ロジックの緻密さにも触れ、今後の可能性について言及している24。Osborne(2017)では、Osborne.et.al(2015)においてNPGの拠り所として重視していた
SDLからSLを重視する方向性で、PSDL(Public service dominant logic)からPS L(Public service logic)に修正が行われている25。SDLの限界についても指摘してお
り、
Osborne(2017)は、SDLの限界点として、SDLは、企業を顧客による価値の創造を
促進する価値の共創者として、相互影響を自らの価値の創造にも利用するとしている点を 指摘している。それに代わるロジックとして、
Gronroos
が提唱するSL(サービスロジッ ク)に拠る軌道修正を行っている26。すなわち、Gronroos
の「価値は利用者によってのみ 創造される」という主張をもとに、「サービス提供機関は、価値を決して提供(deliver)で き る の で は な く 、 利 用 者 に 対 し 価 値 や 価 値 の も と と な る 素 材 を 価 値 提 案(value proposition)することのみできる」としている。併せて、コ・プロダクションがあまりにも
グッズ・ドミナント・ロジックを想起させる言葉であるとし、PSLの中心概念としてコ・クリエーションへの修正を提起している27。
わが国の地方自治体においては、法的に提供者として明確に位置づけられている公共サ ービスや、インフラの整備や更新といったファシリティマネジメント、一定の期限をもっ て完遂することが必要なプロジェクトなどについては、価値の提供プロセスにおいても相 互影響により提供力を高めるという点が求められる。そのため、Osborne(2017)の主張に ついては、多様なアクターとの相互影響も重要となる価値の提供プロセスがないとそもそ も価値は創造されないため、その点が後退している印象があることが懸念される。
そもそも、コ・プロダクションの概念については、SDLを提唱した
Vargo and
Lusch(2008)においても、従来は、SDLの基本定理の一つとして、
「顧客は常に共同生産者(co-producer)」としていたものを「顧客は常に共創者(co-creator)」であると修正を 加えている28。その理由としては、SDLは「生産」というよりも「価値創造」に関する ものであることであり、価値創造の協調的な性質を表すことが意識されているが、「生産」
の意味合いにより失われてしまう可能性をあげている29。しかし、一方で、コ・プロダク ションは、コ・クリエーションとは区別しているが、コ・クリエーションの一部でありS DLには位置づけられると考えているともしている。また、基本定理の一つとして、「全て の社会や経済のアクターは資源統合者である」とし、社会や経済にかかわるあらゆる分野 で活動を行うアクターはコ・クリエーションを行う価値共創者としての位置づけを明確に している30。すなわち、SDLにおいてもコ・クリエーションの一部としてコ・プロダク ションが位置づけられており、この点は
Vargo and Lusch(2008)の主張も Osborne(2017)
の主張の双方とも変わりはない。現在のわが国の地方自治体の政策等の形成の実状も踏まえると、公共サービス以外にも インフラの更新や産業振興、プロジェクトなど事務事業の形成は多岐にわたるため、SD Lに基づき、地方自治体やアクターは価値の共創者として、価値の提供プロセスにおいて も積極的役割があると考える方が適当と考える。