第6章 コ・プロダクションの拡張と新たなビジネス・モデル−コ・クリエーション
3 ビジネス・モデルの適用可能な分野
NPGに関する事例検証は次章で詳述することとするが、図6−6で整理したコ・クリ
エーションに関する簡単なビジネス・モデルのフレームを念頭に置きながら、わが国の地 方自治体が展開する政策・施策・事務事業のうち、どのような分野や領域における適用を 検討すればよいのか整理する。
Osborne
をはじめ欧州の研究者がコ・プロダクションやコ・クリエーションの事例として用いることの多い福祉や教育だけでなく、産業振興や地域づ くりなど様々な分野に適用が可能であり、欧州の先行研究における事例として紹介される ことの多い個人レベルの現場サービスだけでなく、組織レベルでのコ・クリエーションの 有用性についても説明したい。
(1) 自治体と住民組織の組織間連携
わが国地方自治体の経営における課題の一つとして、サービスの内容と住民ニーズとの 乖離の問題がある。また、人口減少に伴う人材確保の観点からサービスの担い手として住 民に期待する声も高まっている。自助・互助・共助・公助における「互助」のレベルで、
高齢者福祉分野などにおいてサービス提供の担い手として住民に期待する動きがそれであ る。コ・クリエーションの一つの類型であるコ・プロダクションは、サービス提供機関と サービス利用者との相互影響の本質的なプロセスであるとされている46。この概念を地方 自治体の政策等の形成に適用させることで、住民ニーズとの乖離の是正や住民を担い手と する公共サービスを創造できる。
すなわち、公共サービスを提供するプロセスにおいて、利用者ニーズが十分反映されな いまま、サービスが創造され提供されることがあるため、利用者を主体として提供プロセ スに組み込み、ニーズに沿ったサービスを提供する重要性を指摘したものといえる。コ・
プロダクションの概念においては、「住民」個人とサービス提供者の相互影響によるサービ スの改善等に触れている事例が多い。しかしながら、このような事例は、「住民」個人がサ ービスの担い手となることは個人が直接的にうけるサービスに限定されるものであり、コ・
クリエーションの概念からは限定的な捉え方である。地域におけるサービス水準の底上げ など地域課題に対する対応策としてサービスを含めた事務事業の展開を進める場合には、
自治体と住民組織との組織間連携で捉えるほうが望ましいと考える。
コ・プロダクションを含めたコ・クリエーションのいう「住民」を地方自治体における 価値創造において捉えるには、日本社会の制度等も踏まえつつ退職した高齢者といった人 材の組織化、自治会など既存の住民主体の互助組織の活性化など幅広い視野で価値創造力 を高める具体的な視点が必要となる。地方自治体は、住民組織によるサービスの充実が可 能な事業は住民主体による事業展開を基本とすることが、住民ニーズの反映と担い手の確
保の両面から重要であることを十分に認識する必要があると考える。その際には、住民と 共有できるビジョンを設定し、具体的な事業及び住民参画が可能となるシステム構築を自 治体が行うことが重要である。
このような自治体と住民組織との組織間連携によるコ・クリエーションについては、主 に福祉の分野や地域振興・まちづくり分野等、住民のサービス提供主体としての直接的な 参加による価値共創が求められる分野における適用が考えられる。このなかで、福祉にお ける中長期的なまちづくりの要素もある「地域包括ケアシステム」を例に、地域包括ケア システム構築に向けて、地方自治体と住民組織が連携した取組みを想定したビジネス・モ デルを仮定しその妥当性を検討する
地域包括ケアシステムについては、「団塊の世代が
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歳以上となる2025
年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続ける ことができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制を実 現」するとされている47。今後、中長期的に人口が減少するなかで、高齢化率は高まって いくものの、高齢者人口は増加から減少に転じていくことが推計されている。ただし、高 齢化の動向は、大都市部では医療・介護のリスクが高まる
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歳以上の後期高齢者人口が 急増する一方で、町村部では高齢者人口も75
歳以上の後期高齢者人口のいずれも減少に 転じる地域もあり、高齢化の動向には地域差がある。また、医療・介護の地域資源につい ても地域差があるため、地域包括ケアシステムは、保険者である市町村が中心となり、地 域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて創り上げていくことが必要である。高齢者が増加し医療・介護需要が増大する一方で、15歳から
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歳までの生産年齢人口 は減少を続けるため、サービスの担い手不足が深刻化することが懸念される。そうした状 況のなか、住民の安全・安心な生活を社会全体で支えていくためには、NPOや企業、住 民等も含めた多様な主体による多様なサービスの充実に向けた取り組みを進める必要があ る。それとともに、元気な高齢者がサービスの担い手として社会参加するような仕組みの 構築を進めていくことが重要である。インフォーマルな介護予防や生活支援サービスも含めて、サービスの担い手として期待 されるのが地域の健康な高齢者であり、
2015
年の介護保険の制度改正では、その方向性が 明確に示され、取り組みが求められている。地域包括ケアシステムの構築にあたっては、高齢者の在宅生活に関わる自治体、地域包 括支援センター、医療機関や介護事業所、民間企業、専門職団体等の多様な組織の連携が
重要となる。まさに多様なアクターがそれぞれの主体性を発揮しつつ、相互影響を行いな がらサービスやプロジェクトを提供し、NPG(ニュー・パブリック・ガバナンス)に基 づく取組みを行うそのレベルによって、創造される価値の大きさも決定される。NPGが 求められる典型的な事例と考えられるが、先行していると思われる事例は、それほど多く はない。先行事例の共通点はそのガバナンス機能が優れていることが想定される。換言す れば、ガバナンス機能を発揮できない市町村も多く存在するということである。そのため、
先行事例のガバナンスの機能が高い要因について論じる意義は高い。
また、今後急速に人口減少が進むなかで、生産年齢人口が減少し、医療や介護分野にお ける専門職人材の不足が懸念されている。専門職は専門職にしかできない業務を行い、生 活支援サービスなどについては、専門職以外での対応ができるシステムの構築が重要とな る。住民の互助活動、地域における支え合いについては、住民の安全安心な暮らしを支え るうえで従来から重要であるものである。介護保険サービスへの過度な依存は、そうした 互助の関係性を弱める結果ともなっていると考えられる。住民の互助をベースに元気な高 齢者のサービス提供者としての社会参加活動を促進し、地域の総力をあげた地域の再構築 を進めていくことが重要となる。
このような地域包括ケアシステム構築に向けた住民の共創者としての参加について、市 町村や地域包括支援センターが推進する介護予防に関する住民運営の通いの場づくりにつ いて、コ・クリエーションにおけるビジネス・モデルに整理すると図表6−8のようにな る。
このビジネス・モデルの場合、サービス提供者は市町村及び地域包括支援センターとな る。また、利害関係者は高齢者本人と介護予防に見識のあるリハビリテーション専門職で ある。Ⅰの現場レベルにおいては、サービス提供者である市町村・地域包括支援センター から住民に対し介護予防の通いの場づくりが提案される。また、リハビリテーション専門 職に対して、そうした場における専門職見地からの指導や助言が要請される。この時点で はまだ、コ・クリエーションによる価値は創造されていない。そうした提案を受けて、高 齢者のなかから、意欲を持つ者がグループを組み、介護予防の通いの場を運営したいとの 申し出があり、専門職からも依頼を受けて派遣体制ができる。そして、実際に通いの場で の介護予防の活動が開始される。この段階で、顧客としての高齢者による利用が伴うので、
価値は創造されたと捉えることができる。実際の活動のなかで、通常の改善活動、例えば 活動内容をより興味関心の高いものに変更したり、活動頻度を高めたりすることなどは、