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行政における価値創造システム

第5章  ニュー・パブリック・ガバナンスにおける「価値」概念

Ⅳ  行政における価値創造システム

地方自治体において、利害関係者が利用することにより創造される価値を最大化するた めには、マネジメントと評価を一体とする PDCA サイクルでの経営管理が求められてい る。そのような経営管理について、企業においては、価値創造経営として論じられること も多い。徳崎(2012)は、価値創造経営について「財務活動のみならずマーケティングやオ ペレーション、人的資源管理など企業経営のすべての領域を統合することの結果として、

企業の様々な活動がそれぞれの価値を形成し、結果的に株価に反映される」31としている。

地方自治体においても財務活動、マーケティング、オペレーション、人的資源管理などの 統合活動を図り、利害関係者が提供を受ける価値を最大化するための経営が求められる。

そのため、地方自治体における価値創造経営にも、企業における価値創造経営の基本的考 出所)筆者作成 

      ※各項目の説明については、図表5−6参照。 

図表5−11  NPG型事務事業の価値創造(自治体と自治体の連携) 

え方はあてはまると考えられる。ただし、地方自治体の活動により創造され利用者が享受 する価値は、株価ではなく、結果的に顧客である住民やサービスを享受する組織等の幸福 度や顧客満足度の向上に関連する価値と考えられる。

また、企業と同様、地方自治体においても、事業を生み出す機能と事業を支える機能の 双方が有効に機能することが、創造される価値を高めることになる。企業活動において、

価値を生み出す仕組みをシステムとして捉えたものが「価値連鎖(バリューチェーン)」32 である。ポーターが示した価値連鎖の基本形については、図表5−12 のように購買物流、

製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスといった主活動と、主活動を支える全 般管理、人事労務管理、技術開発、調達活動といった支援活動により構成される。この主 活動や支援活動は、グッズやサービスが利用され価値が創造される段階に至るまでのプロ セスと捉えることができる。

すなわち、図表5−1におけるSDLやSL,Praharad

et al.

が定義している「価値創 造」や「価値共創」に援用できるプロセスと考えられる。こうした価値連鎖については、

企業活動における「利益」やコストに着目した価値として捉えられているが、地方自治体 において価値連鎖を捉えるにあたっては、地方自治体の活動で創造される「住民等の福祉」

に関連する価値として捉えなおし、価値創造のシステムとして再構築することが必要であ る。

図表5−13 では、地方自治体における価値連鎖のプロセスとして整理したものであり、

利用されて価値として創造されるまでの一連のプロセスとして整理している。主活動につ いては、各分野別の事業部別組織が、「企画・計画、マーケティングリサーチ」、「調整、連

購買物流  製造  出荷物 流  全般管理  人事・労務管理 

技術開発  調達活動  図表5−12  価値連鎖 

出所)Porter, M.E., Competitive Advantage, The Free Press, 1985. 土岐坤・中江萬治・

小野寺武夫訳『競争優位の戦略』ダイヤモンド社, 1985 年, 313 頁。 

価値

販売・

マーケ ティン グ 

サービ ス 

携、体制整備」、「サービス実施、プロモーション」といった業務プロセスのなかで、地方 自治体外部の組織と連携し、価値創造プロセスにおいて相互影響を行いながら、利害関係 者に提供する価値を創造していくことが求められる。

組織間連携による価値創造については、官民連携や官官連携を行うことで、それぞれの 主体の持つ資源・ノウハウを相互補完し、新たなグッズやサービス等の提供を通じた価値 を創造することが要点となる。そうした基本認識のもと価値連鎖を捉えると、価値連鎖の プロセスのなかで、地方自治体等の各アクターは、連携や分担を行いながらグッズやサー ビスの提供を通じ価値を創造するプロセスを共有している。この共有こそが価値創造の源 泉となりうる。すなわち、組織間連携による価値創造を基軸とする経営マネジメントが自 治体経営の基盤として重要であると考えられる。

さらに、図表5−13では、PA型、NPM型、NPG型の3つの事務事業の類型と価 値創造のターゲットとなる促進要素、供給側の主体の多様性を整理している。PA型の事 務事業は、内部管理事務や法令等に基づく事務であり、利害関係者に対し他の組織との連 携等により価値を提供する事務事業ではない。したがって、この事務事業では、利用者へ の価値のレベルを高めるためには、主に経済性を重視した地方自治体単体でのマネジメン トを実施することとなる。ただし、PA型でもサービスの場合には、有効性も重視するこ ととなる。また、NPM型の事務事業は、対象領域の選定や関係部署等との庁内調整、民 間事業者等の募集など地方自治体が主体性を持って形成する事務事業である。地方自治体

企画・計 画、マーケ

ティング 

調整・

連携・

体制整 備 

サービ ス実 施・プ ロモー ション  内部管理事務

図表5―13  地方自治体の事務事業形成における価値連鎖と評価のイメージ 

NPG型  PA型 

(内部管理) 

出所)筆者作成。 

内部 

地域 

PA型 

(サービス) 

住民  組織 

NPM型 

価値の創造

法令に基づく事務事業 

効率性  経済性  重視 

有効性  重視 

供給者の  多様性  小 

多様性  大  自治体独自の事務事業 

が主体となり、効率性や経済性の向上を目的とする事務事業が中心であり、民間事業者へ の委託等によるマネジメントを実施する。そのため、マネジメントの多様性がPA型より も必要となる。NPG型の事務事業では、地方自治体と連携組織、住民が対等の立場でそ れぞれの主体性を活かした事務事業の形成が求められる。連携組織や住民は顧客という立 場を越え、利害関係者として主体性を発揮する立場となりうる。その場合、多様な主体間 において目標やビジョンを共有しながら、有効性を重視したマネジメントを実施すること となる。相互影響を促す場や対話を通じ、共通のビジョンに基づく事務事業の展開が必要 であり、その実施にあたっては多様なアクター間のネットワークを前提とするマネジメン トの多様性が重要となる。その有力な手法とされているのが、コ・クリエーションであ る。次章においては、その手法について詳細に検討したい。

  また、マネジメントの多様性が必要な事務事業となるにしたがって、地方自治体内部の マネジメントはもとより、組織間連携のための共通基盤となる戦略的なマネジメントツー ルが必要となる。そこにBSC(バランスト・スコア・カード)に代表される戦略的管理 会計の適用の重要性がある。ただし、PA型やNPM型といった事務事業においても、効 率性や経済性の追求において戦略が必要なことは言うまでもない。3つの事務事業を総じ て高める価値の評価ツールが重要となると考える。この点については、第8章において論 じることとしたい。

1 石原俊彦編著『自治体行政評価ケーススタディ』東洋経済新報社、2005年、38頁。

2 永田晃也『価値創造システムとしての企業』学文社、2003年、3頁。

3 村上真理「関係性マーケティングの論点と本質」、村松潤一編著『価値共創とマーケティング論』同分舘 出版、20153月、37頁。

4 大藪亮「サービス・ドミナント・ロジックと価値共創」、村松潤一編著『価値共創とマーケティング論』

同分舘出版、20153月、58頁。

5 Gronroos, C. and J. Gummerus, “The service revolution and its marketing implications: service logic vs service-dominant logic,” Managing Service Quality Vol.24, 2014, p.208.

6 Ibid.

7 Vargo, S. L., P. P. Maglio and M. A. Akaka, “On value and value co-creation: A service systems and

service logic perspective,” European management journal, 26(3),2008 p.149.

8 この定義については、松尾亮爾「自治体価値創造における新地方公会計の意義」『公会計研究』、第 17 巻、第1・2合併号、20163月、においても同様の定義で論じている。

9 Gronroos, C. and J. Gummerus, op.cit.,p.213.

10 Prahalad C. K., and V. Ramaswamy, The Future of Competition – Co-creating Unique Value with Customers, Harvard Business Press, 2004. 有賀裕子訳『価値共創の未来へー顧客と企業の

Co-Creation』ランダムハウス講談社、2004年、241頁。

11 Gronroos, C. and J. Gummerus, op.cit.,p.213.

12 Ibid.

13 Vargo, S. L., P. P. Maglio and M. A. Akaka, op.cit.,p.149.

14 Gronroos, C. and J. Gummerus, op.cit.,p.213.

15 Prahalad C. K., and V. Ramaswamy, op.cit.,p.241.

16大藪亮「前掲稿」、65頁。

17 Osborne, S. P., Z. Radnor, T. Kinder and I. Vidal, “The Service Framework: A Public-service-dominant Approach to Sustainable Public services,” British Journal of Management, 2015, p.9.

18 塚本一郎「インパクト評価とアウトカムベース公共調達(上)、経営論集64巻第 1・2・3号、2017 3月、87頁。

19政策の形成や行政システムの改革の経緯については、第1章で詳細に論じているので参照されたい。

20石原俊彦『前掲書』、38頁。

21 この点について、西尾は、「自治事務はもとより法定受託事務もまた『自治体の事務』であることが明 確にされた。そこで、これ以降は、自治体には国の下請け機関として執行する『国の事務』は皆無に なった(西尾勝 1993, 93頁)」としている。

22 Osborne, S. P., “The (New) Public Governance: A Suitable Case for Treatment?,” Osborne,S. P.(ed.), The New Public Governance?: Emerging Perspectives on the Theory and Practice of Public Governance, Routledge, 2010, p.10.

23国が本来果たすべき役割に係る事務であって、国においてその適正な処理を特 に確保する必要がある ものとして法律又はこれに基づく政令に特に定める事務。主な事務の例として、 国政選挙、旅券の 交付、国の指定統計、国道の管理、戸籍事務、生活保護があげられる。総務省ホームページ参照。

24 石原俊彦『前掲書』23頁。

25 松本英昭『要説地方自治法  第七次改訂版』ぎょうせい、20124月、228頁。

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