第5章 ニュー・パブリック・ガバナンスにおける「価値」概念
3 事務事業類型別の価値創造
石原(2005)は、行政の行う事務事業による成果(=顧客に利用されることによって価 値となるもの) の捉え方として、「経済性」、「効率性」、「達成度」、「有効性」、「必要性」
で構成されるとしている24。これらに加えて特にNPGにおいては、有効性の延長上とし ての社会的価値の評価の重要性を述べたところである。本節では、価値創造の前提条件と なる「必要性」と価値創造の度合いを示す「達成度」を除いた、「経済性(Economy)」、「効 率性(Efficiency)」、「有効性(Effectiveness)」のいわゆる3Eの観点により、前節で整理 をしたPA型、NPM型、NPG型の3つの事務事業の類型に応じた価値創造を整理し、
価値を高めるためにとるべき手法について論じる。
(1) PA型
PA型は、法令等に基づき適切な執行管理が求められる事務事業や経理事務などの内部 管理の事務事業である。
2000
年の地方自治法改正により、地方自治体が国業務の代行処理出所)筆者作成。
図表5―5 地方自治体における各事務事業類型の価値創造のターゲット
を担っていた「機関委任事務」の一部が「法定受託事務」とされ、「法定受託事務」以外の すべての事務が「自治事務」とされた。
本論文での「PA型」は、この「法定受託事務」を含めて整理する。なお、「自治事務」
のなかにも、法令等に基づく事務は含まれうるが、「自治事務」である場合には、「法定受 託事務」に比較して、地域の実情に即して地方自治体が自主性を発揮すべき要請が一層強 いものであることが明示的に地方自治法に規定されている25。「PA型」は、アウトプット は一定のものが求められるため、「経済性」を重視したマネジメントを展開し、投入資源、
財源を一定程度に節減することが重要となる。アウトソーシングが難しい事務事業であり 地方自治体が主体的に行う事務事業である。図表5−6には、PA型の事務事業により創 造される価値を示した。経済性の達成が価値であり、具体的にはPA型のうち、内部管理 の事務事業の場合、事務事業が利用されてはじめて価値が創造されるとする定義からは、
直接的な価値を創造するものではない。しかしながら、最終的には利用者の価値につなが る様々な事務事業をいかに支えるかといった観点からは、価値創造のプロセスのなかで、
自治体内部の資源投入量の最小化等を通じてコストの縮減が実現し、間接的に価値につな がる要素となる事務事業として整理できると考える。
自治体 アクター
【主な価値促進要素】
価値(経済性)
内部+
・コストの縮減 ―
【副次的な価値促進要素】
― ―
また、PA型事務事業のうち、法定受託事務における生活保護事業等のように直接的な サービスを行う事務事業の場合、地域に対しプラスに働き、主体的な価値促進要素として は有効性の向上を目指し、副次的な価値促進要素として経済性の向上を目指す事務事業と して整理している。
図表5−6 PA 型事務事業の価値創造ビジョン(内部管理の事務事業の場合)
出所)筆者作成。
※「主な価値促進要素」とは、最終的には利用者によって創造される価値のレベルを高める主 な要素であり、「副次的な価値促進要素」とは、主な要素以外に価値のレベルを高める要素 である。
※「地域+」とは、自治体外部の「地域」の利害関係者に対し提供される価値が高まる要素が あったことを示す。同様に「内部+」とは、利害関係者に対し直接的に価値を提供する要素 ではないが、自治体内部における効率化等により間接的に価値が高まる要素があったことを 示す。
自治体 連携組織
【主な価値促進要素】
価値(有効性)
地域+
・顧客に対するアウトプットの増大 ―
【副次的な価値促進要素】
価値(経済性)
内部+
・コストの縮減 ―
(2) NPM型
NPM型については、「効率性」や「経済性」を重視した供給側の改革を中心に形成され た事務事業である。外部委託などの手法によりサービスを維持しながらも地方自治体内部 の人員削減を行った事務事業など継続的に実施すべきものも多い。そうした事務事業につ いて今後は有効性を高め、利害関係者に提供される価値を高めるマネジメントも重要な視 点と考えられる。NPM型では「アウトソーシング」を手法に自治体内部の原資を生み出 しつつ、利害関係者(受託者)に対し新たなビジネス機会という価値や、利用者に具体的 なサービスを通じ価値を提供する事務事業がある。NPM型は、主体的な価値促進要素と しては、「経済性」や「効率性」の向上につながる要素が重要であり、一定のサービス提供 を前提にコストの縮減や人的資源の投入量の減少を目指した取組みや、一定のコストのも とでの事務事業の提供量の増加を目指した取組みが求められる。一方で、副次的な価値促 進要素としては、民間企業等へのアウトソーシングを行う手法であることから、民間のノ ウハウを活用したサービスの創造・向上を目指した有効性を高める取組みも求められる。
また、NPM型では民間企業等の組織間連携による事務事業の形成が行われる。アクター にとっても協働によるコストの縮減となるような取組みが求められ、また、民間企業の場 合にはビジネス領域の拡大となるような取組みを行うことが重要と考える。
自治体 連携組織
【主な価値促進要素】
価値(経済性、効率性)
内部+
・コストの縮減
・人的投入資源の減少
・事務事業提供量の増加
内部+
・協働によるコストの縮減
【副次的な価値促進要素】
価値(有効性)
地域+
・民間ノウハウの活用によるサ ービスの創造・向上
地域+
・ビジネス領域の拡大 図表5−7 PA 型事務事業の価値創造ビジョン(サービスの場合)
出所)筆者作成。
※各項目の説明については、図表5−6を参照。
図表5―8 NPM型事務事業の価値創造ビジョン
出所)筆者作成。
※各項目の説明については、図表5−6参照。
(3) NPG型
NPGについては、「多様な主体が行政活動に参加し、対等な立場で対話を進めることで、
政策形成、運用方法、活動を協働で行うこと」26とされている。したがって、NPG型は、
地方自治体と多様な組織が連携し、それぞれの組織が有する強みやノウハウ、資源(ヒト、
カネ、モノ)を活用しながら、相互影響を通じて達成されるべき価値の最大化を目標に形 成される事務事業である。「有効性」がもっとも重視されるが、「効率性」や「経済性」も コスト節減や事務事業の提供量の増加の観点から重要な視点となる。また、組織間連携の 適切さにより各要素が影響を受けると考えられる。そして、ガバナンスの充実が図られる ことにより、社会的課題の解決が図られ、社会的価値が向上する。地方自治体がアクター でもある住民との価値共創を行うケースや、地方自治体と民間企業や関係団体等との組織 間連携による価値共創を行うケース、地方自治体同士が組織間連携し価値共創を行うケー スが想定されるが、NPGではそれぞれの主体が、対等な立場で主体性を持って価値共創 に参画していることが前提である。
まず、NPG型として、住民との価値共創について提起する。自治体経営の課題の1つ として、サービスの内容と住民ニーズとの乖離の問題がある。欧州のコ・プロダクション の概念は、自治体と住民との良好な関係性を築き、住民主導による公共サービスを創り出 すことである27。この概念を政策形成に適用させることで、住民ニーズとの乖離の是正や 住民を担い手とする公共サービスを創造できる。Osborne
et. al (2015)は、
「利用者のサー ビス利用に対する期待は、それまでの利用経験とは異なるものであるが、期待と相反する 成果が創造されてしまうこと、利用者そのものが単なるサービスの享受者ではなくサービ ス提供プロセスの重要な主体であることから、コ・プロダクションは、サービスの重要な 要素である」28とし、「サービスの質を改善するためや、将来のサービス提供やイノベーシ ョンを企画するために、公共サービスの提供プロセスにコ・プロダクションをいかに反映 するか」29として、利用者を提供プロセスに組み込む重要性を指摘している。「住民」の価値共創における捉え方として、地方自治体においては、住民個人との関係 性としてのコ・プロダクションとの捉え方もある。しかしながら、住民組織によるサービ スの充実が可能な事務事業は、コ・クリエーションとしてより組織的に捉え、住民主体に よる事業展開を基本とすることが、住民ニーズの反映と担い手の確保の両面から重要であ ることを十分に認識する必要がある。その際には、住民と共有できるビジョンを設定し、
具体的な事業及び住民参画が可能となるシステム構築を地方自治体が行うことが重要であ