第5章 自治体世論調査の品質
第 5 節 調査法別の事例分析
5.1 面接法-墨田区と江東区
面接法を採用している墨田区と江東区の概要とともに両区が実施した世論調査の回収状 況を整理し、担当者へのインタビュー調査の分析を行う。
106 (1)墨田区と江東区の概要
墨田区は東京都の北東部に位置し、東は旧中川を境に江戸川区、西は隅田川を境に荒川 区・台東区・中央区、南は北十間川、横十間川、竪川などを境に江東区、北は旧綾瀬川を 境に足立区、荒川区を境に葛飾区に接している区である。2007(平成 19)年 10 月の人口規 模は約 24 万人で、1995(平成 7)年まで連続して人口減少が続いていたが、昨今は人口増 加の傾向にある。総務省『住宅・土地統計調査』(2003)によれば、墨田区は、居住世帯の ある住宅総数に占める集合住宅の比率は、特別区および東京都下の市のなかで 20 位(68.9%)
であり、特別区のなかでは集合住宅の比率が低くなっている。
他方、江東区は東に荒川、西に隅田川が流れ、南は東京湾に面し、内部河川や運河が縦 横に走っている区である。2007(平成 19)年 10 月の人口規模は約 45 万人で、昨今の臨海・
ベイエリアの変貌によりマンション建設が急増しており、年間 1 万人前後の人口増加とな っている。居住世帯のある住宅総数に占める集合住宅の比率は、特別区および東京都下の 市のなかでも港区(88.7%)に次いで 2 位(83.5%)となっている(同『住宅・土地統計 調査』(2003))。両区ともに開発が進み、総人口よりも昼間人口が多くなっている。
(2)世論調査の概要
両区が隔年で実施している世論調査の回収率の推移と回収状況は以下のとおりである。
①回収率の推移
両区の世論調査の 1996 年からの回収率の推移を表したものが図 5-2 である。両区ともに 2004 年まで回収率 80%前後の高い水準で推移していたが、2006 年の墨田区の調査では 68.2%となり、2004 年調査から約 10 ポイントの低下となっている。他方、2005 年の江東 区の調査においては、過去 10 年の間で最高の 84.8%となっている。江東区では一定水準の 回収率を維持しているが、墨田区では 2002 年の調査以降は回収率が低下している。墨田区 と江東区の直近の世論調査の回収率はそれぞれ 84.8%(2005 年)、68.2%(2006 年)であ り、両区には約 17 ポイントの差がある。
107
図5-2 墨田区と江東区の世論調査の回収率の推移(1996~2006 年)
②世論調査の回収状況
両区の世論調査報告書(墨田区は 2006 年実施、江東区は 2005 年実施)から、調査の概 要、回収不能票の内訳、男女別・世代別回収数、男女別回収率を整理したものが表 5-4 で ある。
表5-4 墨田区と江東区の最新世論調査の概要
調査項目 墨田区 江東区
調査名 墨田区住民意識調査 江東区政世論調査
調査期間 2006 年 7 月 7 日~7 月 24 日 2005 年 6 月 24 日~7 月 11 日 回収数/標本数 1,023/1,500 1,017/1,200
回収率 68.2% 84.8%
抽出方法 層化二段抽出 層化二段抽出
謝礼 なし 記念品
担当部署 企画経営室広報広聴担当 政策経営部広報広聴課
回収不能票の内訳
区 不在 転居 拒否 不明 病気 その他 合計
墨田 (%) 202(42.3) 38(8.0) 179(37.6) 21(4.4) 14(2.9) 23(4.8) 477(100) 江東 (%) 96(52.4) 12(6.6) 61(33.3) 4(2.2) 4(2.2) 6(3.3) 183(100)
81.8%
75.7%
79.4% 81.4%
77.7%
68.2%
79.5%
77.6%
78.9% 79.3%
84.8%
50%
60%
70%
80%
90%
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 墨田区 江東区
墨田区 江東区
108 男女別・世代別回収数
区・性別 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 歳以上 合計
墨田 男性 54 73 69 92 100 50 438
女性 61 93 82 99 84 65 484
江東 男性 71 91 88 114 86 48 498
女性 71 103 84 111 84 66 519
男女別回収数と回収率
区・性別 回収数(比率) 未回収数(比率) 計
墨田 男性 502(65.5%) 264(34.5%) 766 女性 521(71.0%) 213(29.0%) 734 計 1,023(68.2%) 477(31.8%) 1,500 江東 男性 498(81.9%) 110(18.1%) 608 女性 519(87.7%) 73(12.3%) 592 計 1,017(84.8%) 183(15.2%) 1,200
また、墨田区と江東区が実施した最近 3 回の世論調査(墨田区は 2002 年、2004 年、2006 年、江東区は 2001 年、2003 年、2005 年調査)の世代別回収率を表したものが図 5-3、図 5-4 である。
図5-3 『墨田区住民意識調査』(2002 年~2006 年)の世代別回収率 78.7%
71.4% 74.7%
82.2%
89.7%
99.2%
57.5%
66.1%
82.1% 85.3%
94.2%
85.2%
56.1%
62.3%
67.2%
72.6%
79.4%
74.6%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
20-29 30-39 40-49 50-59 60-69
70-2002年 2004年 2006年
109
図5-4 『江東区政世論調査』(2001 年~2005 年)の世代別回収率
墨田区における 2002 年の世代別回収率は、20 歳代および 70 歳以上を除くと世代が高く なるほど回収率が高くなる傾向にある。20 歳代の回収率が 70%後半の数値であり、70 歳以 上の回収率が 90%を越えている。これが高い回収率(81.4%)に結びついていると考えら れる。2004 年の調査では、一転して 20 歳代と 70 歳以上の世代の回収率が低下しているが、
40 歳代、50 歳代、60 歳代の回収率が 2002 年よりも高くなっていて、これが高水準(回収 率 77.7%)の維持に結びついている。しかし、2006 年調査においてはすべての世代におい て、2002 年と 2004 年の回収率を下回り、結果として全体の回収率も大きく低下している(回 収率 68.2%)。ここで、世代階級と回収率の相関関係を確認すると、2002 年調査では相関 係数 0.857(P < 0.05)、2004 年調査では相関係数 0.879(P < 0.05)、2006 年調査では 相関係数 0.932(P < 0.01)という結果となった。墨田区では、調査年によって世代別回 収率にばらつきはあるものの、全体としては年齢が高い世代ほど回収率が高くなる傾向に あるといえる。
他方、江東区にあっては 2001 年の調査(回収率 78.9%)では 70 歳代を除き、高い世代 ほど回収率も高くなっている。2003 年の調査(回収率 79.3%)においては、30 歳代と 70 歳以上の世代の除き、2001 年よりも回収率が低くなっている。2003 年の回収率が 2001 年 の調査よりも若干高いのは、30 歳代の回収率が 88.1%と高い水準にあるからと考えられる。
また、2005 年の調査(回収率 84.8%)では、30 歳代と 60 歳代を除く世代において 2003 年 よりも回収率が高くなっている。ここで、墨田区と同様に世代階級と回収率の相関関係を
65.8%
73.0%
77.0%
87.2%
91.1%
81.0%
63.8%
88.1%
76.1% 75.7%
87.8%
85.8%
72.4%
71.3%
92.0%
98.3%
86.3%
95.8%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
20-29 30-39 40-49 50-59 60-69
70-2001年 2003年 2005年
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分析したが、いずれの調査でも有意な関係を確認することはできなかった。江東区では世 代別回収率が一定の傾向を示すことはなく、調査ごとに異なる傾向にある。さらに、表 5-4 をもとに墨田区と江東区の男女別の回収率についてカイ二乗検定を行った。その結果、両 区ともに性別により回収率に有意な差があることが確認できた。
(3)インタビュー調査の結果
ここでは、江東区と墨田区のそれぞれの世論調査担当者へのインタビュー調査の結果を 述べる。墨田区の担当者へのインタビューは、2007 年 10 月 29 日(午前 10 時~午前 10 時 50 分)に墨田区役所(東京都墨田区吾妻橋 1-23-20)で実施し、江東区の担当者に対し ては、2007 年 10 月 30 日(午後 2 時~午後 3 時 15 分)に江東区役所(東京都江東区東陽 4
-11-28)において実施した。このインタビュー調査の概要を整理したものが表 5-5 であ る。
表5-5 インタビュー調査の概要(墨田区・江東区)
区分 墨田区 江東区
調査対象者 企画経営室広報広聴担当 1 名 政策経営部広報広聴課 1 名
事前通知の有無 目的
実施している
8 時まで訪問するには事前通知が必須 実施主体が区であること 調査員の顔を確認すること
実施している 実施主体が区であること 目的を対象者に理解してもらうこと
調査員の質 とくに指定なし 経験のある調査員を指定
調査期間 2 週間程度
週末(土日)の回数は特に考慮なし
3 週間程度
週末(土日)は必ず 3 回含める
訪問回数 最低 2 回 最低 3 回
訪問時間 9 時~8 時 9 時~7 時
訪問方針 とくになし 対象者に会えるまで訪問を繰り返す
今後の課題 回収率の向上が課題 回収率の向上・維持が至上命題
①類似点
両区の類似点として、対象者への事前通知の実施があげられる。両区の担当者とも面接 調査での事前の協力依頼は必須と考えており、その目的も「実施主体が区であること」(両 区)、「調査員の顔を確認すること」(墨田区)、「目的を対象者に理解してもらうこと」(江 東区)というコメントにみられるように区と調査対象者との協力関係の構築にある。
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②相違点
両区の相違点として、調査員の質、調査期間、訪問回数、訪問時間、訪問方針があげら れる。調査員については、江東区は業者選定の際の仕様書において「経験のある調査員」
を指定している一方で、墨田区は特に指定していない。調査期間については、江東区では、
墨田区よりも調査期間が約 1 週間長く、調査期間に週末を必ず 3 回含めるように設定し、
週末の訪問に力を入れている。また、訪問回数は江東区の最低訪問回数が墨田区よりも 1 回多く設定されている。訪問時間は墨田区の方が、江東区よりも 1 時間長い午後 8 時まで となっている。さらに、江東区は調査対象者に直接会えるまで訪問を繰り返すことを訪問 方針として設定している。墨田区はとくに訪問方針を設定してはいない。
(4)面接法の考察
ここで、両区の世論調査の概要とインタビュー調査の結果をもとに面接法について考察 を行う。前述した表 5-4 のとおり、回収不能分については両区ともに「不在」が最も多い が、墨田区は標本数(1,500)に対して 202 票(13.5%)であり、江東区は標本数(1,200)に 対して 96 票(8%)にすぎない。また、明確な意思表示である「拒否」については、江東 区は標本数のうち 61 票(5%)、墨田区は標本数のうち 179 票(12%)であり、2 倍以上の 水準となっている。つまり、江東区は相対的に「不在」と「拒否」による回収不能が少な くなっている。これは、江東区の「会えるまで訪問する」という訪問方針を反映している ものと推測される。そして、この方針が、前述した江東区の過去 3 回の調査ともに世代別 回収率が異なる傾向を示す要因となっているとも推測される。つまり、最低訪問回数は設 定しているが、一律に調査員の訪問回数を設定せず「会えるまで訪問」を基本としている ことから、世代別回収率に一定の傾向が表れてはいないと考えられるのである。また、面 接法における調査員の質は対象者の回答の質に影響を与えると考えられることから、調査 員の質の差も影響していると推測される。
以上のように、両区ともに、事前準備として「調査を実施する側と調査される対象者の 協力関係」を構築し、「調査の意図をよく理解してもらう」(林,2002)ため、事前通知を行 っていることは共通であるが、訪問方針の違いと調査員の質が、両区の回収率の違いを生 じさせる要因として考えられる。調査不能については「大多数の『不能・有効』者は、何 らかの条件が整えば、調査に協力してもよいと考えているのである」、「『時間があれば協力 する』が 40%に上るという事実も無視するべきではない」(山内,米倉,2002)といわれるよ うに、まず対象者に会って、意思を確認する必要がある。この点からすると、江東区の「会 えるまで訪問」するという方針は、面接法にとって回収率の向上には有効な方針であると 考えられる。ただし、その方針を実現することは経費や調査期間の面で大きな負担となる。