第5章 自治体世論調査の品質
第 6 節 おわりに
自治体世論調査の調査実施段階で発生する調査誤差に対して自治体はどのように対応し ているのであろうか。本章における調査票調査の分析から、自治体世論調査は、住民基本 台帳の管理運用という自治体の特性によって標本抽出段階におけるカバレッジ誤差を制御 することが可能な環境にあることから、調査の品質は標本抽出段階ではなくデータ収集段 階における無回答による誤差が大きく影響していることが明らかになった。また、回収率 に影響を与える要因については、面接法においては老年人口率が、郵送法においてはリマ インダーの有無などが、回収率に影響を与える可能性のあることが明らかになり、先行研 究の結果を裏付ける結果とともに一部先行研究とは異なる結果が得られた。
事例分析からは、面接法、留置法、郵送法、複合調査法の特性とともに実施する際の実 務的な示唆が得られた。面接法は依然として自治体世論調査において高い回収率を実現す るためには有効な調査法であると考えられるが、調査環境が悪化するなかにあって、従来 通りの調査を実施していては回収率の低下は避けられない。面接法や留置法など調査員が
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介入する調査法においては、「対象者に会えるまで訪問する」といった明確な訪問方針のも と、事前通知により実施主体と対象者との信頼協力関係を構築していくことが回収率の維 持を可能にするひとつの要件になると考えられる。郵送法については、調査員の質に左右 されることはなく、有効回答1件当たり経費(決算額)も面接法と比較すると約半分に縮 減できる可能性がある。経費の面からみると郵送法は魅力的な方法であるといえるが、相 対的に回収率は低い水準になっている。複合調査法については、留置法を基本に郵送法を 補完する方法や、郵送法を基本としながら訪問回収で補完する方法があり、複合調査法の 特徴はその組み合わされた調査法によって決定される。今回とりあげた事例のように、複 合調査法は郵送法よりも高い回収率を実現できる可能性があることから、今後自治体が検 討すべき調査法のひとつであると考えられる。
また、今後自治体が世論調査を実施するにあたって、これまで以上に品質、調査コスト、
プライバシーに留意していく必要がある。とくに、世論調査の結果に対する信頼性が低下 している状況にあっては、まずは品質の向上を優先すべきであろう。たとえば、調査の品 質については回収率の目標を回収標本のみで結果を論じられる水準に設定し、それを達成 するために必要な調査コストを考えるべきだろう。同時に、価値観や生活環境が多様化し ている住民のプライバシー意識やセキュリティ意識への配慮も検討すべきである。これは、
住民との信頼関係の構築という広報広聴の本質の観点からも不可欠である。ただし、住民 プライバシーに対する過度の配慮が、調査の品質や結果への信頼性を低下させることにな っては、住民の協力自体に意味がなくなってしまう点には注意が必要である。このまま世 論調査の品質低下を見過ごしていては、母集団の特性を推測するという標本調査の意味が 失われ、ひいては政策形成の基礎資料としての世論調査そのものの意義が失われかねない。
自治体は世論調査の品質の向上についてあらためて議論すべきであろう。
注
1) 事前のサンプリングが統計的手法に則って行われ、計画標本が母集団の縮図になっていたと しても、未回収分が特定の層に集中すると回収標本の母集団に対する代表性に偏りが生じるこ とになり、その結果データへの信頼性が低下することになる。
2) ここでは訪問回収と郵送回収との併用は留置法に含めている。
3) 自治体によっても異なるが、住民基本台帳の一部の写しの閲覧には 30 分あたり 1,000 円から 6,000 円、転記 1 件あたり 70~150 円の手数料が必要となる。
4) 自治体が作成する名簿も、実際にはその地域に居住してはいるが住民登録していない住民を カバーしていないと考えられるが、住民基本台帳法(第 22 条)上、転入後 14 日以内に届出す る必要があることから、その数は全体数からするとわずかである。
5) 今回調査した中でもっとも抽出日と調査実施日が短かったのは 10 日間であった。
6) 第 4 章でみた『全国世論調査の現況』に掲載される調査について再度確認する。『全国世論調
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査の現況』には、以下の条件を満たした調査が掲載されている。その条件は、①個人を対象と する調査であること、②調査対象者(母集団)の範囲が明確に定義されていること、③意識に 関する調査であること、④対象者(標本数)が 500 人以上であること、⑤調査事項の数(質問 数)が 10 問以上であること、⑥調査票(質問紙)を用いた調査であること、となっている。
この報告書について「この調査で対象となっている世論調査とは、母集団が明確であること、
標本数が一定以上(500 人以上)であることなどの限定があり、しかもこの「調査」自体が郵 送調査であるので必ずしもすべての実際に行われた調査が網羅されているわけではない」(盛 山,近藤,岩永,1992,p.13)と指摘し、その集計値は必ずしも事実を反映しているとはいえない としている。ただし、自治体に関する調査結果については「地方自治体が他の機関と比べてよ り正確に調査に応じる傾向がある」(同,p.13)とあるように、「政府機関」「都道府県」「市等」
の世論調査の統計はかなり正確に現実を反映しているものと考えられる。
7) ここでいう区部とは東京特別区と政令指定都市、市部 1 は人口 20 万人以上、市部 2 は人口 20 万人未満である。
8) 可住地面積は総面積-(林野面積+主要湖沼面積)で表され、農地や道路も含め、居住地に 転用可能な既に開発された面積の総計としている(総務省統計局『社会生活統計指標』)。 9) インタビューの技術は「面接の構造化」という観点から、①構造化されたインタビュー、②
半構造化されたインタビュー、そして③自然なインタビューの三つに分類される(高橋,渡辺, 大淵,1998)。
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