第1章 行政広報広聴の基礎的枠組み
第 5 節 おわりに
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表1-3 行政広報広聴の基礎的枠組み
本質・理念 分類 情報 情報の内容 主な手法
(本質)
情報開発 価値創造 による 信頼関係 構築・維持
(理念)
真実性 双方向性
網羅性 並行性
(展開)
戦略的 継続的
行 政 広 聴
受動的 個別的
広聴 個別 広聴 市
民 の声
個別情報
(個人論的視座) 住民の個別意見・要望・提案など
面談、手紙、はがき、電 話、メール、 電子会議 室、SNS
集団 広聴
対話集会、懇談会、モ ニター制度など 能動的
集約的 広聴
調査 広聴
民 意
構造情報
(全体論的視座) 問題群に対する住民の意見構造や分布 世論意識調査、モニタ ー制度、ウェブ調査
行 政 広 報
公共サービス広報
(お知らせ広報)
公 共 サ ー ビス 情 報
生活情報 日常生活において便益や実益を伴う情報
(印刷媒体)
広報誌・紙 報告書 冊子 パンフレット チラシ 新聞・雑誌
(電波媒体)
テレビ ラジオ
(電子媒体)
ウェブサイト 音声配信 動画配信 SNS 文化情報 地域に関わる知識・教養・趣味等の情報
イベント情報 地域の事件・できごと・催し・予兆など プロモーション情報 地域特性の観点から公共サービス情報を編
集した情報
安全安心情報 防災・災害情報(平時・発災時・発災後)・防 犯情報・保健予防情報
政策広報 政 策 情 報
争点情報 直面する課題・議案の論点・説明
基礎情報
政策形成の基礎資料
統計、地図、法務・財務情報など議案の背景 や地域特性を表す情報
専門情報
個別課題解決のための技術情報 地震・津波・土砂災害・インフルエンザなどの 危機管理情報
選択肢情報
政策目標設定の争点と選択理由・実施に伴う 予算・人的資源・行為規範のあり様、技術的 可能性など
評価情報 政策・施策・事業評価など自治体のパフォー マンスに関わる情報
(注)筆者作成
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するとともに、広報と広聴がそれぞれ対象とする情報と手法・チャネルについて考察し、
行政広報広聴の基礎的枠組みを提示した。この枠組みは、行政が四つの理念(真実性、双 方向性、網羅性、並行性)に従い、多元的なチャネルを通して、個別情報と構造情報の集 約・調整および公共サービス情報と政策情報の公開・提供という情報循環を戦略的かつ継 続的に実践することにより価値創造を実現し、住民との信頼関係を構築・維持するという ものである。行政広報広聴は、地域社会における情報の偏在や非対称性の克服し、住民が いつでも意見・要望を伝えることができかつ必要な情報をいつでも入手できる社会の実現 に貢献するものであり、地域民主主義の質の向上という点においても意義のあるものであ る。
最後に、行政広報広聴の課題について述べる。まず、手法・チャネルの品質に関する課 題である。これについては、「民主主義政治体制にとって重要であるのは、意思表出のチャ ネルが多元的に整えられていることである。チャネル数が少なければ、外見的に民主制を 採用していても、実質を備えるものではなくなる」(新藤,2000,p.4)との指摘のとおり、地 域民主主義実践の場とするためには、行政はつねに社会環境や情報通信技術の変化に敏感 に対応し、多元的なチャネルの構築を検討していく必要がある。新たな手法であるウェブ サイトやSNSなどについても、どうすれば住民価値のある情報を提供できる媒体になり得 るのかという観点からの継続的な研究が必要である。もうひとつは、このチャネル上に流 れる情報に関する課題である。インターネットや情報端末の普及により、行政広報広聴は ウェブサイト、電子メール、SNS など住民との双方向かつ迅速なコミュニケーションを実 現する強力なツールを確保し、行政と住民をつなぐチャネル上に流れる情報の質的・量的 拡張を実現してきた。しかし、それらの行政と住民とを結ぶチャネルは、「民意の軌道」
(辻,1960)、「同意の循環」(井出,1967)といった相互の信頼関係を実現するような実質的な チャネルにはなり得ていない。このチャネルを信頼関係の構築に貢献する実質的なものと するためには、情報循環プロセスにおける価値創造という質的転換が不可欠であり、多元 的なチャネルから得られた情報から、いかに住民価値を創造するかという観点からの研究 が必要なのである。
35 注
1) 広義の情報公開の体系については、西尾,村松(1995,p.200)を参照されたい。
2) この調査は 199 団体のウェブサイト(組織と業務関連のページ)を対象に筆者が行ったもの である(2013 年 3 月実施)。
3) 1946 年 12 月にGHQの地方出先機関であった軍政部は、道府県庁に対してPRO(Public Relation Office)を設置するよう示唆を行った(草場,1980)。
4) 世論調査(public opinion poll)は、1930 年代のアメリカで成立した人々の意見を量的データ として統計的に扱う方法である。戦後日本における世論調査の歴史については、時事通信社 (1946)、日本世論調査協会(1986,1995)を参照されたい。
5) 日本への世論調査の導入時にはダイク(K. R. Dyke)、デミング(W. E. Deming)らの貢献 があった。
6) 地方自治世論調査会(1954)においては、1948 年に熊本県、1949 年には札幌市(2 回)、松本市、
丹波市、1950 年には北海道 14 市、佐賀県、山梨県、岡山県、大分県が世論調査を実施し、1949 年から 1950 年にかけての昭和 24 年度を「地方自治体の世論調査元年」としている。詳しくは、
地方自治世論調査会(1954)『世論調査 1』および日本世論調査協会(1986)『日本世論調査史資 料』を参照されたい。
7) 自治体の調査件数は日本の経済成長の緩急に対応した動きをみせながら急増していった。昭 和 27 年度には、前年の 3.4 倍という急激な伸びを示し、自治体に世論調査が浸透し始めたの である(日本世論調査協会,1986,p.45)。なお、デミング(W. E. Deming)の著書の翻訳とし て、日本生命保険統計数理研究所(1951)がある。
8) 民間情報教育局CIE(Civil Information & Education Section)は 1947 年から 1948 年にか けて 13 回の弘報技術講習会を実施した。この講習会のプログラムの詳細については、濱田 (2007)を参照されたい。その後、広報紙の発行や報道対応などの体制が整備されたが、朝鮮戦 争を契機とした連合国の占領政策の転換により、地方自治の充実よりも、行政の簡素合理化、
能率化に主眼が置かれ、自治体における行政民主化の手段である広報の確立という構想が変容 をせまられた。
9) たとえば、横浜市長の飛鳥田一雄が提起した「一万人集会」、東京都知事の美濃部亮吉の「対 話集会」などがある。住民が個別に意見を表明できる「市長への手紙」、「市政モニター」、「相 談行政」もこうした対話の一例といえる。これらの施策は、その後の自治体の広聴手法に大き な影響を及ぼした。しかし、住民との直接対話が「実質的に住民と行政の間にあったミゾをふ さいだとはいえないという側面もあることが指摘されている(村松,1988,p.62)。
10) 昭和の大合併は、1953 年の町村合併促進法及び 1956 年の新市町村建設促進法により、「町村 数を約 3 分の 1 に減少することを目途」とする町村合併促進基本計画(昭 28 年 10 月 30 日 閣 議決定)の達成を図ったものである。合併の結果、1947 年に 10,505 団体あった市町村は 1965 年には 3,257 団体に減少した。
詳細は、総務省ウェブサイト「合併デジタルアーカイブ」参照。
http://www.gappei-archive.soumu.go.jp/index.html [2013-9-10 accessed]
11) 山形県金山町による自治体初の情報公開条例の制定(1982 年)や神奈川県・埼玉県による情報 公開条例の制定(1983 年)など。
12) 自治体へのCRMの導入については、田熊(2002)、仲井(2003)、北川(2003)、大和(2004)、 金井(2006)を参照されたい。
13) 「電子行政オープンデータ戦略」(IT戦略本部,2010)においては、個人情報の保護に配慮し た上で、二次利用可能な形で行政情報を公開するオープンデータの目的として、(1)透明性・
信頼性の向上、(2)国民参加・官民協働の推進、(3)経済の活性化・行政の効率化、があげられ ている。
14) 日本における広報研究の先駆的研究者である小山は、1971 年の著作においては、「公聴」と いう用語を使用しているが、1975 年においては小山(1975,p.13)で用語の使用について言及し、
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「公聴」を「広聴」に変更している。
15) 小池(2003,p.101)は、「現在、行政が住民の意向を把握する一般的な日常の活動は「広聴」
と言い、「公聴」は、国会法第 51 条(公聴会)あるいは地方自治法第 109 条(常任委員会)に 規定されている議会での有識者・利害関係者・一般から意見を求める場合、その他法律で定め られた場合などに限定して使われるようになってきている。」と述べている。本研究では、自 治体の住民の意向を把握する活動を原則として「広聴」と表記する。ただし、先行研究におけ る引用については、原文のままにすることにした。
16) 樋上(1953a)が指摘した理念は以下のとおりである。水平性とは行政が住民と同列の立場で 相互理解に基づく協力を求めること、義務性とは情報の公開が義務であること、交流性とは双 方の意思を交流させること、客観性とは真実を知らせること、教育性とは低調な住民の自治意 識の向上を図ることである。
17) 日本における経営戦略論の先駆的研究者である伊丹(1980,p.11)は、戦略を「企業や事業 の将来のあるべき姿と、そこに至るまでの変革のシナリオ」と定義している。
18) 住民全体の意見構造の情報を収集する理由について、辻(1976,p.26)は、「とくに都市にお いては他人の行動の予測がたたず、特定の政策決定やその実施が都市住居者にいかなる反応を 生み出すかを的確に把握することは容易ではないからである」として、都市化に伴い世論の把 握が困難になっている状況を指摘している。
19) 電子会議室とはインターネットのホームページ上に設置した電子掲示板などを使って意見 交換や情報交換する仕組みのことである。2004 年には電子会議室は 900 以上の自治体により 運営されていたが、運用のためには多くのリソースの投入が必要である反面、多くの電子会議 室で書き込みがほとんどないことや不適切発言などにより閉鎖に追い込まれるケースもあり 現在では活発に活用されている例はほとんどない。詳しくは、「ICTを活用した地域社会への 住民参画のあり方に関する研究会」による住民参画システム利用の手引きを参照されたい。
http://www.soumu.go.jp/denshijiti/ict/index.html [2013-12-10 accessed]
20) 2010 年に、慶應義塾大学DP研究会(現慶應義塾大学DP研究センター)は神奈川県藤沢市 と協力して藤沢市の総合計画作成をテーマに 2 回の討論型世論調査を実施している。討論型世 論調査については、林(2004)、柳瀬(2005)、Fishkin(2009)を参照されたい。