第5章 自治体世論調査の品質
第 3 節 調査票調査の分析
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上させるためには、そのような誤差を可能なかぎり小さくする必要がある。本章では、こ れらの調査の過程で発生する誤差のうち、標本調査において発生する標本誤差とすでに自 治体世論調査を対象にした先行研究のある測定誤差を除き、カバレッジ誤差と無回答によ る誤差に焦点をあてて分析を進めるものとした。この分析の枠組みをまとめたものが表 5-1 である。
表5-1 自治体世論調査の品質に関する分析の枠組み
対象 誤差の発生段階 誤差の種類 本章での取り扱い
自治体
世論調査の品質
標本抽出段階 カバレッジ誤差 分析対象
標本誤差 -
データ収集段階 無回答による誤差 分析対象
測定誤差 -
(注)筆者作成
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面接法では最小値、最大値がそれぞれ 60%台後半、80%台後半であり、平均値も 70%台 後半となっていて全体として回収率は高水準にある。留置法は最大値こそ 80%を超えてい るが、最小値が 40%を切るなど回収率の変動幅が大きくなっている。これらに対して、採 用団体がもっとも多い郵送法は、最大値でも 70%に達しておらず最小値にいたっては 30%
を割り込むような状況にある。以上の回収率の値を参考にして今回の調査結果の回収率を 分類すると、実施 86 団体のうち回収率が 70%未満のものが 68 調査(約 80%)あり、50%
未満のものは 28 調査(32.6%)となった。
第 4 章で確認した回収標本のみで結果を論じても大きい問題は起きないとされる回収率 70%を基準に考えると、郵送法を採用するほぼすべての調査が回収標本のみの分析による 結論をそのまま活用できない状況にある。
3.2 標本抽出段階での誤差-カバレッジ誤差の分析
前述したように抽出段階における抽出名簿の閲覧(抽出枠及び抽出方法)と名簿の作成
(作成方法と実施時期)について分析を行った。
(1)抽出枠及び抽出方法
今回の調査結果から、実施 86 団体はいずれも地域に居住する一定の年齢(18 歳または 20 歳)以上の男女個人を母集団に設定し、住民基本台帳を抽出枠(sampling frame)とし て使用していることが明らかとなった。そして、86 団体のうち 42 団体が単純無作為抽出法、
38 団体が層化二段抽出法により対象者の抽出を行っている。つまり、実施団体はいずれも 住民基本台帳からの無作為抽出によって標本の代表性を確保していることになる。これは、
自治体以外の調査主体が標本の代表性の確保が困難になっていることとは対照的である。
また、自治体が対象者を抽出するために住民基本台帳を閲覧する場合は経費を要しない が、自治体以外の調査主体が閲覧リストを利用する場合は、閲覧時間や転記する人数によ って手数料が発生する3)。つまり、自治体は抽出コストの面でも他の調査主体に比べて有利 な状況にある。
(2)名簿作成方法と実施時期
次に、自治体が作成する対象者名簿の正確性について分析を行った。今回の調査では、
実施 86 団体のうち 85 団体が標本抽出時に自ら管理する電算システムを活用していること が明らかとなった(1 団体は未回答)。この電算システムを使って住民基本台帳データベー スから対象者を抽出するということは、名簿への転記ミスもなく正確かつ迅速に抽出を行 うことが可能ということである。これに対して、前述したように自治体以外の実施主体で
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は住民基本台帳を抽出枠として使用できたとしても、自治体が作成した閲覧リストから手 書きによる転記が必要となりミスが発生しやすい。
また、自治体の場合は、抽出日前日までに更新された直近の住民基本台帳データベース から抽出を行っている。これにより名簿作成日と抽出日にタイムラグがなくなり、抽出時 点(=名簿作成時点)で抽出確率がゼロの対象者がほとんどいないことになる4)。他方、自 治体以外が閲覧リストを利用する場合、自治体により異なるが数ヶ月に 1 度作成される閲 覧リストを使用せざるを得ず、リスト作成時から抽出時点までは一定のタイムラグが発生 することになる。つまり、住民の転出、転入、転居、入院、死亡等を考慮するとリストの 抽出時点で、すでに抽出確率がゼロの対象者が存在していることになる。
以上のように、住民基本台帳や選挙人名簿の閲覧制限がすすみ、多くの社会調査で標本 の代表性を確保することが困難になるなかにあって、住民基本台帳を管理しているという 特殊な状況にある自治体は、カバレッジ誤差の小さい対象者名簿を作成することによって 標本の代表性を確保しているのである。また、社会調査の品質とコストのトレードオフが 指摘されるなかで、自治体は低コストかつ迅速にリストを作成することが可能である。た だし、たとえ正確な対象者名簿を作成しても、調査対象者は常に異動する可能性を有して いることから名簿作成時と実査時までの期間を短縮しなければ、「不在、転居、不明」等に よる調査不能を減らすことができず、その正確性は意味を失ってしまう。言い換えれば、
カバレッジ誤差の小さな正確な名簿は、その作成時点から実査までの期間を短縮してはじ めて意味を持つことになる。この点、自治体は自らの計画にしたがって抽出時期を決定す ることが可能なため実査時期までの期間も短縮することができ、正確な名簿を実査に活用 することができる環境にあるといえる5)。
3.3 データ収集段階での誤差-無回答による誤差の分析
ここでは、無回答誤差の発生要因である調査不能とくに回収率に焦点をあてて分析を行 った。今回の調査結果から、各調査法を採用する団体数および平均回収率の推移(1996~
2006 年)を整理したものが図 4-12(再掲)である。
(1)調査法と回収率の推移
①調査法の推移
内閣府の『全国世論調査の現況』6)に掲載された全国世論調査の調査法の変化を時系列で みると、1996~2005 年の 10 年間に面接法と郵送法は減少し、留置法が増加傾向にあること がわかる(第 4 章の図 4-2)。しかし、自治体の世論調査にあってはこの 10 年間に郵送法を 採用する団体が増加している。今回の調査では調査法を変更したのは 15 団体であったが、
そのうち 10 団体がいずれも 2001 年以降に郵送法への変更を行っている。
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この調査法の変更理由について、調査対象とした自治体から「厳しい財政状況のため」、
「委託経費の削減」、「調査員と接触したくないという市民の意向」、「個人情報保護意識の 高揚のため」、「オートロック式のマンションの増加により個別に面接して聞き取ることが 難しくなってきたため」といった回答が得られた。これは、郵送法へ変更する自治体が増 加している背景に調査品質の改善よりも調査コストの削減と住民のプライバシーへの配慮 があることを示している。プライバシーへの配慮は、住民との長期的な信頼関係の構築・
維持という行政広報広聴の本質に関わる重要な問題である。
②回収率の推移
図 4-12 から、いずれの調査法の回収率も低下傾向にあることが確認できる。自治体世論 調査も、自治体以外の調査と同様に無回答による誤差が年々大きくなっている状況にある。
ただし、面接法と留置法の回収率については、低下傾向にあるものの依然として高い水準 を維持しているのに対して、郵送法の回収率は 50%を下回る水準にまで低下してきている。
面接法と留置法の回収率は、回収標本のみで結果を論じても大きい問題は起きない水準 にあるが、郵送法の回収率は、その調査法を含めて改善を検討すべき水準にあるといえる。
図4-12 世論調査の調査法および回収率の推移(再掲)
(2)回収率に影響を及ぼす要因
次に、世論調査の回収率に影響を与える要因について分析を行った。前述したように、
回収率の影響要因については様々な研究が報告されているが、ここでは自治体の世論調査 が各地域に居住する住民を対象にしていることから、人口特性(人口規模・老年人口率)、
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
0 5 10 15 20 25 30 35 40
‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06
採用団体数 平均回収率 面接法 留置法
郵送法
留置法 面接法
郵送法
(年)
(団体数) (回収率)
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地理的特性(可住地面積)と回収率との関係に焦点をあてた。また郵送法においてはリマ インダー(督促状)の効果の分析も行った。
①人口特性(人口規模・老年人口率)
社会調査の有効回収率に影響する要因として、調査対象者の居住する地域の人口規模が 有効回収率に影響を与える要因として指摘されている(岩井,稲葉 2001)。また、「全国規 模で見れば明確に郡部>市部 1>市部 2>区部という都市規模に逆比例した有効回収率の大 小序列がある」7)(前田,2005,p.61)、「大都市であるほど、有効回収率が低いのは、流出入 などの移動が頻繁であること、雇用者化が進み少なくとも昼間は家を完全に離れる人が多 い」(原,2007,p.237)、「大都市の居住者は、直接家を訪問されること、面談のため一定時 間をとられることをいやがる」(森岡,2007,p.30)とあるように、都市部とそれ以外の地域 では、地域住民の雇用形態や意識により回収率に違いがあることが報告されている。また、
年齢層と回収率の関係については、面接法では対象者の年齢が高くなるほど回収率は高く なる傾向にあり、留置法は年齢による差が少ないといわれている(杉山,1984)。
そこで、ここでは人口規模・老年人口率と回収率との関係について分析を行った。実施 86 団体を都県別に分類し、調査法別件数と平均回収率を表したものが第 4 章でみた表 4-10
(再掲)である。
表4-10 調査法別・都県別件数と平均回収率(再掲)
分析単位
全体 面接法 留置法 郵送法
未実施 件数 平均 団体数
回収率 件数 平均
回収率 件数 平均
回収率 件数 平均 回収率 東京都 特別区 22 65.1% 4 74.9% 12 71.4% 6 46.1% 1
市部 24 56.7% 1 88.2% 4 75.9% 19 51.0% 2 神奈川県 市部 13 51.4% 1 74.7% 0 - 12 49.5% 2 千葉県 市部 10 45.0% 0 - 1 35.1% 10 45.0% 17 埼玉県 市部 17 53.2% 1 83.1% 1 56.7% 15 50.8% 16 計 86 55.3% 7 77.9% 18 69.6% 61 50.3% 38
まず、各自治体の人口規模と回収率との関係についての相関分析を行った。その結果、
いずれの調査法においても人口規模と回収率について有意な関係を確認することはできな かった。表 4-10 からも調査法別の回収率を見る限り、いずれの調査法においても人口規模 の大きい特別区がとくに回収率が低くなっているとはいえない。次に、各自治体の老年人 口率(65 歳以上の年齢層の割合)と回収率との関係について分析を行った。相関分析の結 果、面接法において回収率と老年人口率との有意な関係が確認できた(相関係数 = 0.838, P < 0.05)。留置法、郵送法においては、有意な関係を確認することはできなかった。