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行政広報広聴

ドキュメント内 著者 金井 茂樹 著者別名 KANAI Shigeki (ページ 38-41)

第1章 行政広報広聴の基礎的枠組み

第 4 節 行政広報広聴の基礎的枠組み

4.1 行政広報広聴

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この時期における広聴研究として、自治体世論調査を分析対象にした大谷(2002,2003)や 具体的な市民の声を分析対象にした近藤(2003)、仙台都市総合研究機構(2003)がある。大 谷の研究では、大阪府下の 44 自治体および香川県 43 自治体を対象に行った自治体世論調 査の調査結果をもとに、サンプリング方法から調査項目のワーディングに至るまで詳細に 分析され、自治体世論調査の現状とその改善策が示されている。また、近藤や仙台都市総 合研究機構の研究においては、市民の声のテキストデータを対象にテキストマイニング分 析を行うことによって、政策形成に有用な具体的な知識の創出が試みられている。

他方、広報研究で注目すべきは本田(1995)である。本田は、この研究のなかで行政広報 広聴の本質と理念の重要性を指摘するとともに、その再検討を行い理論的な枠組みを提示 している。ただし、本田の提示した枠組みは、1990 年代後半以降の情報通信技術の発達や その活用は考慮されてはいない。また、中村(1996)、上野(1997,2003)、賀来(1998)は、政 策形成とインターネットの利用に関する論点に関連させて政策形成と広報との関係につい て議論を行っている。とくに、上野(2003,p.140)は、「『ネット市民』と呼ばれる新しい市 民層の出現が自治行政に新しい波を起こしつつある」という状況をとらえて、インターネ ットの即時性と双方向性が今後の行政広報広聴に威力を発揮する可能性を指摘し、「広報広 聴の担当者は、地域社会における生活者の動向に眼を向け、情報の受発信に新しいスタイ ルの開発を考えなければならない」との指摘を行った。さらには、デジタル媒体のみなら ず、印刷媒体にも大きな変化が見られる。従来行政が独自に制作していた、いわゆる「暮 らしのガイド」や「市民便利帳」といった冊子を、行政と民間企業が協働して制作する事 例が見られるようになった。これは、行政にとっての経費節減、民間企業による広告出稿 による可能性の広がり、住民にとって地域情報や生活情報に関連した広告情報といった「ト

リプルWIN」の典型と指摘された(川上,2008,p.43)。最近では、地域社会の共通課題に対

して、NPOをはじめとするステークホルダーが協働してその解決を図ることを通して相互 の信頼関係を継続的に深めていくという協働広報も提案されている(宮田,2012)。

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に関する学術的な報告が数多くなされた。この初期の研究のなかで、樋上(1953a,p.37 お よび 1955,p.126)は、行政広報広聴の概念は「公衆の意見反響などの調査(広聴活動)」、

「政策の適合と業務の改善(分析活動)」、「広く一般に知らせる活動(広報活動)」の基本 要素からなり、それらを循環させることによって「質のよい世論を生み出すのが、廣報の 務めである」とした。1960~70 年代の研究においては、井出(1967,p.32)が広報広聴の機能 を「行政体と公衆との相互統合を求め、行政において『同意の循環』を可能ならしめるこ と」として、行政広報広聴を「行政体の内と外とを有機的に関連づけ、様々な環境諸要素 が絡みあう行政のダイナミックスのなかで、『統合の再生産』を保証することを目指す、高 度の行政機能」と定義し、市民と行政の相互交流における同意の循環を指摘した。また、

小山(1971,p.27)は、行政広報を「(1)その目的が民衆の信頼および協力を得ようとするも のであり、(2)このために政府の政策、サービス、活動に関するインフォメーションを国民 に流すものであり、(3)それが効果をあげるためには民衆の意向や可能なまたは真実の反応 を知って施策に反映させることが必要であり、(4)そのためには専門の部局を設けて企画的 に継続的におこなわなければならない」活動と定義して、広報広聴による情報循環とその 継続的かつ戦略的な実践を提言した14)。1980 年代においては、今川(1987,p.32)は「市民 と行政の同意の循環」(井出,同)という位置づけを踏まえながら、広報広聴を「新たな行 政や政治を生み出す、“創造の循環過程”でもある。言いかえれば、『市民のコンセンサス』

を導きだし、それを基準として政策形成や執行に影響を与える、きわめて政治的な過程で ある」として、新たな行政の創造を強調した。さらに、1990 年代においては、本田(1995,p.64) が、行政広報広聴を「住民と行政体当局との間に最良の関係を設定し、これを継続的に維 持すること」と定義して、その本質が行政と住民との信頼関係の構築にあることを強調し た。

これらの先行研究によると、行政広報広聴概念は市民の意見の集約を行う広聴活動、管理 情報の利用機会の確保を行う広報活動、そして政策の適合や統合の再生産である分析活動を 構成要素とするものといえる。しかし、分析活動における政策の適合や統合の再生産が具体 的にどのような活動であるかは述べられていない。この統合の再生産については、民間経営 手法の導入による効率性と顧客満足を重視する自治体経営の視点から、行政と住民との間の 情報循環を活性化させることによって、住民にとって付加価値のある情報を開発していくこ と、すなわち“住民価値の創造”としてとらえることが可能である。「住民価値のある情報」

の提供が、政策形成に有用な情報の収集を実現し、それが価値ある政策に結びつくのである。

そこには、必然的に一定の理念に基づく戦略性と継続性が要求されることになる。

そこで、本研究では価値創造という点に着目して、行政広報広聴を「行政と住民との情報 循環により新たな価値を創造し、政策への反映を通して信頼関係を戦略的かつ継続的に構 築・維持することを目的とする活動」と定義する。言い換えれば、これは住民価値のある情

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報の公開・提供と政策形成に有用な情報の集約・調整という“情報循環”によって、価値創 造を行う活動であり15)、価値創造による信頼関係の構築であるといえる。

(2)行政広報広聴の理念

行政広報広聴の実践については、「PR が他のコミュニケーションの諸形態から区別され て、まさにPRとして現れるためには、そこに本質的な理念なりが当然掲げられていなけれ ばならない」(井出,1967,p.17)との指摘のとおり、そこには一定の理念が必要不可欠であ る。また、前述したとおり、行政広報広聴が法的拘束を受けていない活動であることから も理念に基づく実践は強調されるべきである。

行政広報広聴の理念に関して、樋上(1953a)は民主政治の二大原則(民意反映・公表公開)

から、①水平性、②義務性、③交流性、④客観性、⑤教育性、という理念を指摘した16)。ま た、井出(1967)は、PR概念の成熟に寄与した諸要素を拾い出し、①事実に基づいた正しい インフォメーションの提供(情報真実性)、②コミュニケーションにおける「相互過程(two

way process)」の確保、③「社会的責任」と「公共の利益」との一致、④人格的存在とし

て認めたうえでの相手の言い分に耳を傾けた真実に基づいた情報提供、を指摘した。さら に、本田(1995)は、それまで議論されてきた行政広報広聴の理念を①情報真実性、②周知 徹底性、③反応期待性、④平等並行性、に整理を行った。

このように、PRが導入されて以来、民主主義における広報広聴の実践的な理念が議論さ れてきた。この議論のなかでもっとも重視されてきた理念が「真実性」である。これは、

行政が提供する情報が真実であると同時に、住民から真実の反応(意見、要望、苦情、問 合せ等)を得なければならないことを要求する理念であり、行政活動の実態を正確に外部 者に示すという現代の行政に求められる透明性を確保するためには最も重視されるべき理 念である。これは樋上による「客観性」の理念や井出と本田が指摘した「情報真実性」の 理念と同義のものである。また、情報通信技術が発達した現代においては行政からの適時 迅速な情報提供が期待され、情報提供のタイミングがその真実性に大きな影響を与えるこ とから、これまで以上に提供を行う時間的な意味が重要になっている。次に、情報の流れ る方向に関する「双方向性」の理念である。樋上が指摘した「交流性」の理念や井出によ る「相互過程(two way process)の確保」と同義であり、双方の意思の交流、情報の循環 を目指すこと、すなわち広報と広聴が双方向かつ一体として実践されるべきことを要求す るものである。さらに、網羅性の理念である。これは本田が指摘する「周知徹底性」に関 連する理念であり、障害者や高齢者、外国人を含む多様なニーズを持つ地域住民一人ひと りが置かれている状況を常に意識しながら、すべての住民に対する広報広聴の実践を要求 するものである。つまり、行政広報広聴は、理念的に全住民を対象とした情報の公開・提 供と全住民を対象とした意見の集約・調整を前提としているのである。最後が、並行性の

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理念である。これは、井出が指摘する相手を人格的存在として認めることであり、住民の 立場に配慮しながら、情報保有者の論理に陥ることなく、住民と同じ目線で広報広聴を実 践すべきことを要求するものである。

本研究においては、これまでの行政広報研究における理念に関する議論を踏まえ、「真実 性」、「双方向性」、「網羅性」、「並行性」を行政広報広聴の四つの理念(Four Principles in Public Relations)とする。

(3)行政広報広聴の戦略的展開

第 2 節でみたように、広報広聴は法的拘束がなく、すべての政策プロセスに関係する組 織横断的な活動であり、明確な目標設定が難しくマネジメントサイクルが機能しづらいと いう特徴を持つ活動である。しかし、小山(1971)の指摘にあるように、継続的な住民と の信頼関係構築のためには、広報広聴の戦略的な展開が不可欠となる。戦略的とは、①将 来像である目標を持ち、②その目標にいたる道筋・手順であるシナリオを描き、③成果を 管理する指標を定める、ことを意味するものであり17)、言い換えれば、「どうありたいか」

を考え、目標の状態に「いかにしてたどりつくか」ということである。これを広報広聴の 展開にあてはめて考えると、①広報広聴の本質である住民との信頼関係の構築の具体的な 将来像を目標として設定し、②その目標をいかに実現するかについての戦略シナリオを策 定することである。戦略シナリオのなかには広報広聴の評価指標の設定も当然含まれるこ とになる。この戦略シナリオの策定上の留意点が、いくつかの先行研究で指摘されている。

すなわち、全体戦略の策定、主管部門の拡充・機能強化、広報担当官の設置、外部評価制 度の充実、主管部門の拡充・機能強化(北村,2004)、広報広聴主管部門と事業主管部門と の役割分担の明確化と連携強化、評価・改善の強化(岩井,2009)などの指摘である。これ らの先行研究における部門間連携と評価の重要性の指摘を鑑みると、これからの自治体経 営のもとでの広報広聴の戦略的展開には、目標を共有したうえでの部門間の緊密な連携と 適切な評価指標の設定によるマネジメントサイクルの実施が不可欠である。つまり、総合 計画に基づく「広報広聴戦略計画」の策定とその実践管理の要請である。

ドキュメント内 著者 金井 茂樹 著者別名 KANAI Shigeki (ページ 38-41)