第7章 自治体ウェブサイトにおけるペルソナの作成と活用
第 5 節 ペルソナの作成と適用
6.2 ペルソナ法の活用可能性
ペルソナ法を自治体サイトに継続的に適用していくための三つの課題を指摘し、最後に ペルソナの可能性について述べる。
第一の課題は、民間企業以上に多様なユーザを対象にする自治体サイトに対して、特定 ユーザを想定したペルソナにとっての使いやすさの改善を継続的に行っていくことが、他 の多くのユーザの利用品質にどのような影響を及ぼすかを検証していく必要があるという ことである。言い換えれば、ペルソナを用いて改善したページが、ユーザ全体の使いやす さの向上に結びつくのかという課題である。つまり、ペルソナ法の継続的適用が行政広報 広聴の理念である網羅性の理念の実践に結びつくか否かについての検証が必要なのである。
第二の課題は、ペルソナ手法そのものに内在する主観的デザインの部分を縮小し、より客 観的・科学的にペルソナを作成していくことである。本章で提案したパラメーターの設定 条件を精緻化していくことが必要であろう。パラメーターの精緻化がペルソナのさらなる 厳密性に結びつくのである。第三の課題は、ペルソナの全庁的な周知である。昨今の全庁 的なCMS(コンテンツマネジメントシステム)の導入17)により各部署の担当職員がウェブ サイト内のコンテンツを作成するようになっていることを踏まえると、ペルソナを組織横 断的に認知させていくことがウェブサイト全体の継続的な品質改善には必要であろう。
最後に、ペルソナの可能性について述べる。仮想的なユーザをデザインし、そのユーザ の利用シーンを想定して製品・サービス開発を進めるという人間中心設計に基づくペルソ ナ法の考え方は、ウェブサイトへの適用にとどまるものではない。この考え方はあらゆる 広報広聴媒体の品質を考えるうえでも重要な役割を果たすと考えられる。ペルソナを様々 な媒体に適用することによって、各媒体の改善点やユーザニーズの発見につながる可能性 がある。現実的にはすべての住民の要望を的確に把握することが困難ななかで、ペルソナ の活用によって仮説的にではあるが住民ニーズを発見し、それへの対応を検討することは、
潜在的な住民ニーズの先取りという点において新たな情報開発や価値創造に結びつく可能 性があると考えられる。
166 注
1) ユーザビリティの評価手法については、篠原(2004)を参照されたい。
2) 人間中心設計(Human Centered Design)とは利用者の特性や利用実態を的確に把握し、開発 関係者が共有できる要求事項のもと、ユーザビリティ評価と連動した設計により、より有効で 使いやすい、満足度の高い商品やサービスを提供する一連の活動プロセスである(黒須,松原, 八木,山崎,2013,p.ⅰ)。
3) シナリオ・ペルソナ法は、クーパー(Cooper,1999)によって提唱された手法である。クー パーは、プロダクト・デザインにおいてユーザへの感情移入が重要と考え、「インターフェイス 設計プロジェクトにおいて意思決定を促進するための、現実のユーザを代表する仮想的・原形 的人格」であるペルソナを用いた。
4) 多様な研究領域におけるユーザビリティ概念に関する議論については、黒須(2003)を参照 されたい。
5) ムルダーとヤール(Mulder, Yaar,2007)が提示したペルソナ作成手法は以下のとおりである。
「定性的なペルソナ」とは、主としてユーザーインタビュー、ユーザビリティテストなどの定 性的な調査結果を分析して、ユーザのゴール、態度、行動などにもとづいてユーザのセグメン テーションを行い、ペルソナを作成するアプローチである。「定量的検証を経た定性的なペル ソナ」とは、定性的な調査に加えて、簡易な定量的な調査やウェブサイトのトラフィック分析 などを通じてペルソナを作成するアプローチである。「定量的なペルソナ」とは、統計手法を 活用して作成する客観性の高いペルソナを作成するアプローチである。
6) NPO法人人間中心設計推進機構による自治体サイトのユーザビリティ評価については、デザ インアイティーマガジン(2008)を参照されたい。
7) ウェブ調査は、インターネットを活用した非確率的アプローチの調査法である。オンライン 調査、オンライン・リサーチとも呼ばれる。詳細については、大隅(2010)を参照されたい。
8) 仲川ら(2001)は、ユーザビリティに関する七つ評価項目(「内容の信頼性」・「役立ち感」・「操 作のわかりやすさ」・「構成のわかりやすさ」・「見やすさ」・「反応のよさ」・「好感度」)を提示 している。
9) 同居人については、「小学校入学前のお子さん」、「小・中学生」、「65 歳以上の方」、「同居者 はいない」を設定した。また、利用年数については、「1 年未満」、「1~2 年」、「3~4 年」、「5
~6 年」、「7~8 年」、「9~10 年」、「11 年以上」、利用頻度については、「ほとんど見ない」、「数 か月に 1 度程度」、「1 か月に 1 度程度」、「1 週間に 1 度程度」、「2~3 日に 1 度程度」、「ほとん ど毎日」を設定した。
10) 定性的コーディングとは、収集された文字テキストデータに対して「コード」、つまり、そ れぞれの部分が含む内容を示す一種の小見出し(コード)をつけていく作業であり、小見出し がつけられた文書資料の一部を「文書セグメント」という。詳しくは、佐藤(2008,pp.34-58)
を参照されたい。
11) アクセスログとは、Webサーバの動作を記録したものであり、具体的にはアクセス元のIP アドレス、アクセス元のドメイン名、アクセスされた日付と時刻、アクセスされたファイル名、
リンク元のページのURL、訪問者のWebブラウザ名やOS名、処理にかかった時間、受信バ イト数、送信バイト数などが記録される。また、検索ワードログとは、ユーザがサイト内検索 機能を利用する際に入力した単語などを記録したものである。なお、外部検索サイトで使用さ れたキーワードはアクセスログに記録される。
12) この自治体ウェブサイトではアクセスログ解析ソフトとしてAWStatsを活用している。
AWStats公式サイト http://awstats.sourceforge.net/ [2012-6-1 accessed]
13) このウェブサイトの 23 年度の検索キーワードランキングは、1 位:住民票(3,105 回)、2 位:保育園(2,582 回)、3 位:粗大ごみ(2,137 回)、4 位:小学校(1,912 回)、5 位:予防接 種(1,813 回)となっている。
14) 『通信利用動向調査』(総務省)は、世帯(全体・構成員)及び企業を対象とし、平成2年
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から毎年実施されているものである。総務省ウェブサイト
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05a.html [2012-6-1 accessed]
また、『国民生活時間調査』(NHK放送文化研究所)は、1960 年から 5 年ごとに実施されて いる調査であり、人びとの 1 日の生活を時間の面からとらえ、生活実態にそった放送を行う のに役立てるとともに、時間の面から日本人の生活実態を明らかにする基本データとして活 用することが目的とされている。
NHK放送文化研究所ウェブサイト
http://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/lifetime/index.html [2012-6-1 accessed]
15) 実務の現場においてペルソナを活用する際には、ペルソナに具体的な氏名を付ける必要があ る。ここでは、具体的な氏名を表記せず、「○山○子」とした。
16) MRワクチンとは、従来の麻疹(Measles)・風疹(Rubella)ワクチンを混合したワクチン である(麻疹・風疹混合ワクチン)。2005 年 6 月に承認され、2006 年 4 月から定期接種として 接種が開始された。
17) CMS(コンテンツマネジメントシステム:Content Management System)は、ウェブコン テンツを構成するテキストや画像などのデジタルコンテンツを統合・体系的に管理し、更新・
配信などの処理を行うシステムの総称である。
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