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自治体広告事業の競争優位の分析

ドキュメント内 著者 金井 茂樹 著者別名 KANAI Shigeki (ページ 195-200)

第8章 自治体広報紙を活用した広告事業

第 5 節 自治体広告事業の競争優位の分析

182 4.4 公平性の問題

広告の導入を阻むもうひとつの要因は公平性の問題である。ここでは、民業圧迫の問題 がどのような場合に阻害要因となるのかを中心に検討を行う。表 8-3 および表 8-6 から、

広告を導入している 12 団体のうちの 11 団体、導入を断念した 10 団体のうち 5 団体がこの 問題を検討していることが確認できる。それでは、導入自治体と導入を断念した自治体と では、この問題への対応がどのように異なるのであろうか。

この問題は、前述したように地域内に競合企業が存在することが前提であることから、

競合企業がなければ阻害要因とはなり得ない。しかし、競合企業がある地域であっても、

全ての自治体が導入を断念しているわけではない。このことから、競合企業があるケース では自治体は民業圧迫の問題に対して以下のような選択をしていると推測される。ひとつ は、競合企業との競争そのものを回避するという選択であり、もうひとつは既存の競合企 業に配慮しながら事業を展開するという選択である。前者を選択した自治体は、必然的に 広告導入を断念することになる。この選択は、地域産業の振興という役割を担っている自 治体においては十分説得力を持つものである。後者を選択した自治体は、競合企業の持つ 媒体の特性や広告料金など様々な点に配慮しながら事業運営を行うことになる。言い換え れば、競合企業への配慮によって広告事業として成り立たなくなると自治体が判断した場 合、または配慮しても競合企業に不利益を与えることが明らかな場合は広告導入を断念す ることになる。

以上のように、民業圧迫が阻害要因となるのは、自治体が広告導入の際にどこまで競合 企業の事業に配慮することができるかに深く関係している。とくに人口が集中している地 域ほど民間企業が事業展開している可能性が高いことから、結果的に大規模な自治体ほど 民業圧迫の問題は阻害要因になりやすいと考えられる。

なお、広告掲載企業を推奨している印象を住民に与えることについては、短期的には民 間事業者を推奨している印象を与える可能性はあるが、広報紙に民間事業者の広告を掲載 していることの周知や記事と広告を明確に分けるなど誤解を与えないような工夫を継続的 に行っていくことで解決可能であると考えられる。

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年度に 7,500 万円と一定の実績をあげ、広報紙への広告についても年間広告枠を毎年 2,000 万円超の金額で広告代理店に販売している。また、横浜市のような大規模な団体だけでは なく人口 1 万人に満たない小規模な団体にあっても広報紙に広告を導入し始め、一定の実 績を上げていることが確認できる(表 8-3)。

このように広告に関するノウハウを持たない新規参入の自治体が広告収益をあげている 理由は一体何であろうか。ここでは、まず広報紙の競争上の優位性を分析するための枠組 みを設定する。

自治体は、地域住民の生活に密着した幅広いサービスを提供するために様々な業種の民 間企業と関わっている。しかし、広告主確保のために地元の民間企業と特別な関係を構築 しているわけではない。民間企業以上に公平性・透明性が要求される自治体は、特定企業 との特別な関係を持つことは禁じられている。したがって、広報紙広告の優位性を広告業 界における自治体のポジション(広告主を獲得しやすい立場)に求めることは無理である10)。 そこで、広報紙広告の優位性は媒体そのものの特性にあると考え、経営学の競争戦略論に おける「資源ベースアプローチ」をもとに分析の枠組みを設定する。

この資源ベースアプローチとは、「企業が保有しているユニークな資源によって、同じ環 境でも異なる戦略を追求する可能性があり、それが競争優位の源泉になりうる」とする戦 略アプローチであり、その基本的なアイディアは、「企業は互いに本質的に異なるものであ り、この事実から出発して戦略や競争優位を分析」するものである(高橋,新宅,2002)。こ のアプローチは、1950 年代のPenroseの企業成長の理論に起源を持つものであり、「企業の 資源側の立場から、資源の特性とその変化に結び付けて、競争優位の創造と維持と再生」

を説明しようとするものである(高橋,新宅,同,p.688)。そして、この分野は、Wernerfelt

(1984)、Rumelt(1984)をはじめ、Dierickx and Cool(1989)やBarney(1986,1991,2002)

などにより多くの研究がなされている。とくに、Barney(2002)は資源が競争優位をもたら すかどうかは、資源の経済価値(value)、希少性(rarity)、模倣可能性(imitability)、組織

(organization)の四要因(VRIO)によって規定されると整理するとともに、競争優位を持 続可能とするためには資源を活用する適切な組織化が重要だとしている。また、このアプ ローチをダイナミックな視点に基づいて組織能力の育成に焦点を当て、コア・コンピタン ス(core competence)という概念11)を導入したPrahalad and Hamel(1990)によると、既存 製品の競争優位性は短期間において有効であるが、長期的にはコア・コンピタンスを競合 相手よりも低コストかつ迅速に構築する経営者の能力が競争優位を構築するうえで重要で あるという。

このように、資源ベースアプローチでは短期的な競争優位は資源や製品自体の経済価値、

希少性、模倣可能性によって規定される一方で、長期的な競争優位は「自社が顧客に提供 しようとする価値と保有する経営資源や能力との一貫性が重要」(青島,加藤,2003,p.98)

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であり、持てる資源を顧客のために活用する能力によって規定されるのである。

ここで、短期的な競争優位の源泉となる広告媒体の価値について具体的な評価項目を設 定する。広告主の目的は、「自社商品の購買を促すことであり、自社に対する好意的評価を 高めること」(佐藤,中山,1988,p.91)である。そのため、広告主またはその代理人である 広告会社は、媒体戦略を策定するなかで広告媒体の評価を行っている。従来の評価は、到 達率、発行部数、注目率、コストといった量的指標が中心に行われていたが、最近では「質 的指標なしには媒体の特性に即した評価はできない」(亀井,2000,p.6)といわれるように、

量・質の両面からの評価が行われている。たとえば、媒体計画の立案過程を論じた岸,田中, 嶋村(2000)は広告媒体の量的評価基準として、発行部数、普及率、閲読率、CPM(1,000 人当たりの到達費用)、そして質的評価基準として編集内容、接触状況、信頼性等をあげ、

両面からの媒体評価を行っている。そこで、本章においても広報紙の媒体特性を両面から 評価することとし、量的評価項目として発行部数、閲読率、CPM、質的評価項目として掲 載内容のユニーク性、保存性、信頼性を設定することとした。以上の分析の枠組みを整理 したものが表 8-7 である。

表8-7 広報紙広告の競争優位に関する分析の枠組み

事業名 競争優位の源泉 評価基準

広報紙広告

短期的競争優位 媒体の特性

量的評価

(発行部数、閲読率、CPM)

質的評価

(掲載内容のユニーク性、保存性、信頼性)

長期的競争優位 顧客価値の提供 組織能力の評価

(注)筆者作成

5.2 広報紙の広告媒体としての優位性

ここでは、これまで設定した分析の枠組みにしたがい、自治体の広報紙とその競争相手 である民間媒体社との広告媒体について分析を行う。分析の対象としたのは、千葉県内で 広告事業を展開している自治体(市町村)と千葉県内でフリーペーパーを発行している株 式会社地域新聞社(以下、(株)地域新聞社という)12)である。千葉県内市町村の広告につい ては、第 3 節で述べた県内 57 団体を対象に行った調査票調査の結果を用いた。また、民間 媒体社として(株)地域新聞社を選択したのは、1984 年に創業して以来、千葉県内を対象に フリーペーパー『地域新聞』を継続的に発行しているという実績によるものである。この (株)地域新聞社は、フリーペーパー発行業務を中心としながら、折り込み業務、販売促進

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プロモーション業務、ポスターや看板などのデザイン制作業務などを展開している企業で ある13)

以下では、第 1 章で整理した行政広報広聴の理念とともに、表 8-7 に示した分析の枠組 みに従い分析を行う。

5.3 短期的な競争優位の分析

(1)量的評価項目

千葉県内市町村の広報紙と(株)地域新聞社の『地域新聞』について量的評価項目(発行 部数、閲読率、CPM)について整理したものが表 8-8 である。

表8-8 広報紙と民間広告媒体の量的評価

評価項目 自治体広報紙 『地域新聞』

発行部数

(普及率)

配布手段

地域世帯数と同じかやや少ない部数 100%に近い普及率〔周知徹底性〕

164 万部超 平均 90%の世帯普及率

〔日本ABC協会14) 新聞折込・町会・自治会による配布

郵送・駅・コンビニエンスストア配置等

新聞を購読していない世帯にも 専属配布員による配布

閲読率 81.9%~98.65%(注 1) 未公表

CPM 164 円~8,694 円 311 円~2,158 円(注 2)

(注 1)閲読率は各団体が実施する世論調査等で測定されているが、必ずしも同一の測定尺度ではない。

(注 2)(株)地域新聞社のウェブサイトに掲載されている配布地域と広告料金から算定した。

①発行部数(普及率)

自治体の広報紙は、行政広報広聴の「網羅性」の理念にしたがい全戸配布が原則とされ ている。そのため新聞折り込みを中心として、町会や自治会による配布、郵送、駅やコン ビニエンスストアへの配置など様々な配布方法がとられている。今回の調査で回答を得た 千葉県内 49 団体のうち 19 団体が地域世帯と同数、30 団体が世帯数に近い部数を発行して いるなど 100%に近い世帯普及率を実現している。新聞を購読してはいないが、広報紙を読 んでいる人は少なくない。他方、(株)地域新聞社の発行する『地域新聞』も地域専属配布 員による全戸配布が原則とされている。「断られない限り配布」((株)地域新聞社の配布方 針)していることから必ずしも全戸配布が実現しているわけではないが、手渡し配布によ り新聞を購読していない世帯にも配布されていて平均 90%という高い普及率を実現してい る15)

ドキュメント内 著者 金井 茂樹 著者別名 KANAI Shigeki (ページ 195-200)