第5章 自治体世論調査の品質
第 5 節 調査法別の事例分析
5.2 留置法-台東区と葛飾区
次に、留置法を採用している台東区と葛飾区の概要とともに両区が実施した世論調査の 回収状況を整理し、担当者へのインタビュー調査の分析を行う。
(1)台東区と葛飾区の概要
台東区は、東京 23 区のほぼ中心に位置し、西は上野の山と東は隅田川に接した典型的な 下町であり、23 区のなかで最も小さい面積の区である。2007(平成 19)年 4 月の人口は約 16 万人(特別区中 21 位)を超え増加傾向にある。昼間人口は 31 万 7 千人であり、特別区 中 15 番目である。集合住宅の比率は 65.6%であり、特別区の中で 19 番目となっている。
他方、葛飾区は東京都の東北端に位置し、北西の中川・古隅田川を境として足立区、南 西の荒川を境に墨田区、南東には江戸川区、北側の大場川を境に埼玉県三郷市、東側の江 戸川を境に千葉県松戸市が接している。人口は約 42 万人(特別区中 8 位)を超え、平成 11 年以降増加傾向にある。昼間人口は 31 万 7 千人であり、特別区中 17 位となっている。集 合住宅の比率は 59.4%であり特別区中で最も低い水準となっている(総務省『住宅・土地 統計調査』(2003))。
(2)世論調査の概要
台東区は隔年、葛飾区は 3 年ごとに世論調査を実施している。両区の世論調査の回収率 の推移と回収状況は以下のとおりである。
①回収率の推移
台東区と葛飾区の 1996 年からの回収率の推移を表したものが図 5-5 である。両区の回収 率は 2005 年まで 80%以上の水準で推移している。2007 年の調査では両区とも回収率が低 下している(台東区が 15 ポイント以上の低下、葛飾区は約 7 ポイント低下)が、葛飾区は 高い水準を維持している。台東区と葛飾区の 2007 年の世論調査の回収率はそれぞれ 63.1%、
77.6%であり、両区には約 15 ポイントの差がある。
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図5-5 台東区と葛飾区の世論調査の回収率の推移(1996 年~2007 年)
②世論調査の回収状況
両区の 2007 年の世論調査報告書から、調査の概要、回収不能票の内訳、男女別・世代別 回収数、男女別回収率を整理したものが表 5-6 である。
表5-6 台東区と葛飾区の最新世論調査の概要
調査項目 台東区 葛飾区
調査名 台東区意識調査 葛飾区世論調査
調査期間 2007 年 7 月 5 日~7 月 25 日 2007 年 5 月 11 日~5 月 28 日 抽出日から調査
実施までの期間 約 3 か月 約 1 か月
回収数/標本数 631/1,000 1,241/1,600
回収率 63.1% 77.6%
抽出方法 単純無作為抽出 層化二段抽出
謝礼 記念品 記念品
担当部署 総務部広報課 政策経営部広報課
82.9%
83.9%
84.2%
81.6% 80.5%
63.1%
81.4%
85.0%
81.8%
83.9%
77.0%
50%
70%
90%
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 台東区 葛飾区
台東区 葛飾区
114 回収不能票の内訳
区 不在 転居 拒否 不明 病気 その他 合計
台東(%) 183(49.5) 40(10.8) 101(27.3) 25(6.8) 15(4.0) 5(5) 369(100) 葛飾(%) 170(47.4) 26(7.2) 105(29.2) 12(3.3) 29(8.0) 17(4.7) 359(100) 男女別・世代別回収数
区・性別 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 歳以上 合計
台東 男性 26 49 37 55 54 60 282
女性 27 50 44 77 64 86 349
葛飾 男性 57 111 97 117 90 107 583 女性 69 109 117 105 124 120 648 男女別回収数と回収率
区・性別 回収数(比率) 未回収数(比率) 計
台東 男性 282(55.6%) 225(44.4) 507 女性 349(70.8%) 144(29.2) 493 計 631(63.1%) 369(36.9) 1,000 葛飾 男性 583(72.4%) 222(27.6) 805
女性 648(81.5%) 147(18.5) 795 計 1,241(77.6%) 359(22.4) 1,600
また、台東区と葛飾区が実施した世論調査(台東区は 2003 年、2005 年、2007 年、葛飾 区は 2001 年、2004 年、2007 年調査)の世代別回収率を表したものが図 5-6 および図 5-7 である。
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図5-6 『台東区意識調査』(2003 年~2007 年)の世代別回収率
図5-7 『葛飾区世論調査』(2001 年~2007 年)の世代別回収率
台東区における 2003 年調査の世代別回収率は、世代が高くなるほど回収率が高くなって いる。60 歳代および 70 歳代で 100%を超える回収率となっているが、これは回答者の誤記 入等によるものと推測される。2005 年調査は 20 歳代の回収率(72.3%)が他の世代と比べ ると低くなっている(その他の世代の回収率は 80%前後の水準)が、比較的どの世代も偏 りなく高い回収率を実現している。2003 年と 2007 年の調査においては、世代間の回収率に ばらつきがみられ、全体としては世代が高くなるほど回収率が高くなっている。ここで、
54.3%
69.9% 77.5% 79.3%
100.6% 103.3%
72.3%
78.2%
83.8% 82.3% 84.1%
81.5%
38.4%
50.5% 54.7%
79.5%
74.2%
75.6%
30.0%
50.0%
70.0%
90.0%
110.0%
20-29 30-39 40-49 50-59 60-69
70-2003年 2005年 2007年
44.7%
89.7%
106.9%
93.0%
90.9%
58.1%
63.8% 66.1%
91.6% 93.0%
107.7%
84.8%
58.6%
72.6%
88.8% 89.9%
92.7%
89.6%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
110%
20-29 30-39 40-49 50-59 60-69
70-2001年 2004年 2007年
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世代階級と回収率の相関関係を確認すると、2003 年調査では相関係数 0.974(P < 0.01)、 2005 年調査では相関係数 0.742(有意ではない)、そして 2007 年調査では相関係数は 0.908
(P < 0.05)という結果となった。台東区では、2005 年については有意な関係ではなかっ たが、全体としては高い世代ほど回収率が高いという一定の傾向があるといえる。
他方、葛飾区の 2001 年の調査をみると、40 歳代が最も高い回収率となっており、50 歳 代、60 歳代、70 歳以上の年齢層が高くなるほど回収率が低下している。2004 年調査からは、
年齢層の上昇とともに回収率が上昇する傾向もみられるが、70 歳代の回収率は相対的に低 くなっている。2007 年調査は一転して世代が高くなるほど回収率が高くなる傾向がみられ る。世代階級と回収率の相関関係を確認すると、2001 年調査、2004 年調査ともに有意な関 係を確認できないが、2007 年では相関係数は 0.850(P < 0.05)という結果となった。葛 飾区では調査ごとに世代階級の回収率が異なり、一定の関係があるとはいえない。また、
表 5-6 をもとに台東区と葛飾区の男女別の回収率についてカイ二乗検定を行った。その結 果、両区ともに男女別回収率には差があることが確認できた。
(3)インタビュー調査の結果
ここでは、台東区と葛飾区の世論調査担当者へのインタビュー調査の結果を述べる。台 東区の担当者へのインタビューは、2007 年 11 月 1 日(午後 3 時~午後 4 時 30 分)に台東 区役所(東京都台東区東上野 4-5-6)で実施した。葛飾区の担当者に対しては、2007 年 10 月 12 日(午後 4 時~午後 4 時 40 分)に電話によるインタビューを実施した。このイン タビュー調査の概要を整理したものが表 5-7 である。
表5-7 インタビュー調査の概要(台東区・葛飾区)
区分 台東区 葛飾区
調査対象者 総務部広報課 2 名 政策経営部広報課 1 名
事前通知の有無 実施していない
(2005 年まで実施) 実施している
調査員の質 経験のある調査員を指定 とくに指定していない
調査期間 21 日間
週末の考慮はとくになし
18 日間
週末(土日)は必ず 3 回はさむ
訪問回数 とくに決めていない とくに決めていない
訪問時間 午前 9 時~午後 8 時 とくに決めていない
訪問方針 とくに決めていない 会えるまで訪問。意思を確認する
今後の課題 回収率の維持・向上 回収率の維持
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①類似点
両区の類似点として、調査期間の長さと訪問回数があげられる。葛飾区は調査期間の設 定について週末を 3 回含むことを強調していたが、台東区は 21 日間であり必然的に週末を 3 回含むものになっている。
②相違点
両区の相違点として、事前通知の有無、調査員の質、訪問時間、訪問方針があげられる。
まず、対象者への事前通知についてであるが、葛飾区は実施しているが、台東区では 2007 年からは廃止したということであった。その理由については、「事前通知の効果は不明確で あり、また経費を削減するため」という説明があった。調査員の質については、台東区は、
経験のある調査員を指定しているが、葛飾区は指定していない。また、葛飾区では訪問時間 を決めていないが、早朝や深夜に訪問することは考えられないことから、台東区と大きな差 はないと考えられる。訪問方針については、葛飾区が「会えるまで訪問。意思を確認する」
ことを定めている一方で、台東区は特に定めてはいない。
(4)留置法の考察
ここで、両区の世論調査の概要とインタビュー調査の結果をもとに留置法について考察 を行う。前述した表 5-6 のとおり、回収不能分については、台東区において「不在」と「転 居」の割合が多く、標本数(1,000)に対する「不在」が 183 票(18.3%)、「転居」が 40 票(4%)であるのに対して、葛飾区は、標本数(1,600)に対する「不在」が 170 票(約 10%)、「転居」が 26 票(約 1.6%)にすぎない。つまり、台東区は葛飾区と比較すると、「不 在」が約 1.8 倍、「転居」が 2.5 倍多い水準になっている。葛飾区で「不在」の割合が少な いのは、「会えるまで訪問。意思を確認する。」といった方針によるものだと推測される。
他方、台東区に「転居」の割合が多いのは、7 月の調査の 3 ヶ月前(4 月 1 日)を基準日と して標本を抽出していることが要因であると考えられる(4~6 月は住民異動が多い時期で もある)。留置法は、面接法よりも調査員の質の影響は少ないことから、調査員の質の影響 は回収率に大きな影響を与えるものではないと考えられる。
以上のように、調査期間や調査員の質などは両区に大きな差はないが、訪問方針と標本 の抽出日から実査までの期間の違いが回収率の差となって現われていると推測される。台 東区においては標本抽出と実査との期間が 3 か月以上あることが、「不在」や「転居」が原 因となり、回収率にマイナスの影響を与えていることは明らかである。葛飾区の調査の世 代別回収率が調査ごとにその傾向が異なる結果は、「会えるまで訪問する」という訪問方針 の表れであると考えられる。
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