第6章 自治体ウェブサイトの品質
第 4 節 調査と分析
4.2 調査結果の分析
今回の調査は、筆者が、検索サイト(GoogleおよびYahoo)と各団体のウェブサイト内 の検索機能を利用して調査項目の掲載の有無を確認するという方法で行った。
設定した 10 項目すべてを公開しているサイトは 1 区、電子市民会議室を除く 9 項目を公 開しているのは 22 区であった。いずれの団体においてもポータルサイトのような政策情報 が統一された形式で公開されてはいないが、各区のサイトには争点情報、基礎情報、評価 情報が公開されていることが確認できた。次に、①~⑧の掲載情報について“継続性”と
“関連性”の二つの視点から検証を行った。その結果、「世論・意識調査」、「行政評価」に ついては新宿区が“継続的”な公開を行い、「統計情報」については世田谷区が“継続的”
な公開を行っていることが明らかになった。以下ではこの二つの区の特徴的な取り組みに
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(1)争点情報の公開状況-世論・意識調査
新宿区ウェブサイトには、新宿区が毎年継続的に実施している「新宿区区民意識調査」
の調査項目や回答結果を検索できるウェブ上のシステムである“新宿区意識調査検索ペー ジ”が設置されている。このシステムでは過去に実施した「世論調査」(昭和 48 年度~平 成 13 年度)、「区民意識調査」(平成 14 年度~20 年度)および「区政モニターアンケート」
(平成 16 年度~19 年度)の質問項目とその結果が公開され、任意のキーワード、調査種別、
調査年度、分野・カテゴリーで検索することが可能になっている。また、調査報告書全文 をPDF形式でダウンロードすることが可能であり、これによりユーザは新宿区の住民意識 の変化を時系列に読み取ることができる。新宿区の「区民意識調査」は区が独自に収集し たオリジナル情報であり、新宿区が公開しなければ他のサイトでは閲覧ができない情報で ある。その意味で、これらの情報が新宿区の政策形成プロセスで果たす役割は重要である。
なお、昭和 40 年代から長期間にわたる住民意識調査の結果を公開している団体は特別区の なかでは新宿区のみである。
(2)評価情報の公開状況-行政評価
特別区のすべての区が事務事業評価の情報を掲載しているなかで、新宿区は評価情報の 公開において以下の三つの特徴を持つ。まず、住民と協働して行政運営を考えていくため の資料として、「事業別行政コスト計算書」を公開していることである。この計算書には、
文化センター、図書館、幼稚園の三つの事業について、事業の概要、行政コスト計算書、
事業別コスト分析、ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)による分析が示さ れ、今後の事業の方向性と提言が掲載されている。二つ目の特徴として、事務事業の外部 評価を行う外部評価委員会による報告書が公開されているだけではなく、その委員会の開 催日時、審議内容、さらには配付された資料等がすべてPDF形式で公開されていることで ある。これによって、事後的にではあるが、ユーザが行政評価における外部評価の結果を 検証することが可能になっている。最後の特徴が、「外部評価を踏まえた区の取り組み」と して、内部評価と外部評価の結果を踏まえた首長の総合判断および評価結果の次年度以降 の予算への反映に関する情報を公開していることである。事務事業評価の結果に対して予 算案の提出権を持つ首長のコメントの公開は、新宿区が行政評価を単なる形式的なもので はなく、政策形成プロセスにおけるフィードバックとして位置づけ、その結果を継続的に 活用しようとする意図を示すものであるといえる。
144 (3)基礎情報の現状-統計情報
世田谷区はウェブサイト内に「世田谷区の統計書」というタイトルのページを用意して いる。このページには、昭和 36 年から現在まで毎年公表された統計情報が掲載されている。
地域の人口・世帯数(掲載されている統計は明治 31 年以降)、年齢別人口(昭和 35 年以前 および昭和 38 年を除く)、高齢者人口、その他の人口などをはじめ、地域の特性情報とし て、「土地・気象」、「財政・税務」、「社会福祉」、「環境・保健」、「区民生活」、「教育、産業」、
「都市施設」、「選挙・議会」、「交通・通信」、「警察・消防」、「施設利用」などが掲載され ている。平成 14 年まではPDF形式、平成 15 年以降は汎用性が高く再利用が容易なCSV
(Comma-Separated Values)形式および文書構造や文字装飾を表現するhtml(Hypertext
Markup Language)形式での提供となっている12)。また、「国勢調査報告」(昭和 50 年以
降)、「事業所統計調査報告」、「商業統計調査報告」、「工業統計調査報告書」(いずれも昭和 47 年以降)も掲載されている。これらの情報により、ユーザは地域の人口、産業、福祉、
教育、環境など地域の変遷と特性を知ることができ、必要に応じて他の地域との比較をす ることが可能になる。過去 50 年という長期にわたる様々な領域に関する統計情報を公開し ている団体は特別区のなかでは世田谷区のみである。
(4)市民の声を収集する仕組み-電子市民会議室
電子市民会議室とは、自治体が開設し、その業務や話題に関連して住民やその他の人々 が意見交換や情報交換をするインターネット上の空間である(金安他,2004,p.20)。金安ら は、電子市民会議室は開設すれば必ずそこで意見交換が行われ、住民自治や行政と住民の 協働につながるというものではないとの認識を示しながら、「行政だけで運営するのではな く、徐々にではあっても市民を充分に巻き込み、市民の力にその推進力の中心が宿るほど になれば、継続と活用につながる」(同,p.22)とその継続的な運営上の留意点を指摘して いる。
新宿区は平成 15 年から住民との議論の場として、「新宿区電子会議室」をウェブサイト 上で運用している13)。ユーザの発言が必ずしも多いとはいえず、また削除されている意見も あるが、6 年以上継続して運営していることは市民の声を収集する仕組みとして、またウェ ブサイトのコミュニケーション基盤としての継続的な活用事例といえる。この電子会議室 から得られた地域住民の声は長期にわたって同一の手法によって得られたという点におい ても意義がある。なお、今回の調査ではウェブサイト上での「世論・意識調査」や「評価 情報」といった政策情報の掲載が他の区に比べ充実している新宿区のみが電子市民会議室 を継続的に運営していることが明らかになった。その他の 22 区では、調査時点において電 子会議室は設置されていなかった。
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今回の調査では、設定した政策情報(①~⑧)については、すべての区が公開を行って いるいるものの、“継続性”の観点からは情報の量・質ともに必ずしも十分とはいえない状 況にあることが明らかになった。そのなかで、今回とりあげた新宿区における「世論・意 識調査」と「評価情報」の公開および世田谷区における「統計情報」の公開は、いずれも
“継続性”という点で、政策情報の公開に関する先進団体と評価することができる。
また、自治体が運用する電子市民会議室については、書き込みがほとんどない状態や不 適切発言によって閉鎖に追い込まれるなど、政策チャネルとして有効に活用されている例 はほとんどない14)。特別区においては、世論・意識調査、評価情報が相対的に充実している 新宿区だけが電子市民会議室の継続的な運営を実現していることが確認できた。「電子会議 室という議論の場の設定が、自動的に合意の成立を保証してくれるわけではないが、使わ なければこのような合意形成チャンネルが成立しない」(廣瀬,同上,p.29)との指摘のとお り、直営、外部委託を問わず地域住民との間に電子的チャンネルを継続的に運営していく ことが多様性・多義性をもつ市民の声の収集と集積につながり、事務事業評価の改善や地 域の課題発見に結びつくのである。今回の調査から、新宿区にはウェブサイト上での政策 情報の拡充とともに、電子会議室の継続的な運営を目指すという姿勢を読みとることがで きる。
第 5 節 おわりに
ウェブサイトが自治体広報広聴の新たな手法として期待されるなかで、自治体サイトの 品質を向上させるためには、どのような観点からの評価が必要なのか。本章では、行政広 報広聴の本質と理念から、情報品質(quality of contents)と利用品質(quality in use)を 評価軸として、公共サービス情報・政策情報・ウェブユーザビリティ・ウェブアクセシビ リティを評価視点に持つ評価フレームワークを構築した。このフレームワークは行政広報 広聴の基礎的枠組みとウェブサイトの特性から導出したものであり、自治体のウェブサイ トの品質は、情報品質と利用品質の両面からの継続的改善が不可欠であることを示すもの である。真実性と双方向性の理念からは公共サービス情報と政策情報の量的・質的拡充が 要求され、網羅性と並行性の理念からはウェブユーザビリティとウェブアクセシビリティ の向上が要求されるというものである。また、今回のウェブサイトに公開されている政策 情報に焦点をあてた調査分析からは、多くの自治体サイト上に公開されている政策情報は
“継続性”の観点からは、質・量ともに十分とはいえない状況にあることが明らかになっ た。総務省主導のもと、多くの自治体サイトの利用品質の面からの改善が進んでいること は評価できるが、これからの住民参加・住民協働を目指す自治体経営においては、政策情 報の品質の向上という情報品質の改善についても検討が必要となるであろう。さらに、今