著者 金井 茂樹 著者別名 KANAI Shigeki
その他のタイトル Theory and Analysis of Public Relations in Local Government
ページ 1‑258
発行年 2015‑09‑15
学位授与番号 32675甲第364号 学位授与年月日 2015‑09‑15
学位名 博士(公共政策学)
学位授与機関 法政大学 (Hosei University)
URL http://doi.org/10.15002/00012335
法政大学審査学位論文
自治体経営における広報広聴に関する研究
-自治体と住民との関係構築に向けて-
金井 茂樹
i
目 次
序章 新公共経営の隆盛と自治体広報広聴 ... 1
第 1 節 自治体広報広聴... 1
1.1 新公共経営とは ... 1
1.2 自治体経営における広報広聴 ... 3
第 2 節 本研究の目的と構成 ... 7
2.1 広報広聴研究の課題と本研究の目的 ... 7
2.2 本研究の構成... 10
第Ⅰ部 フレームワーク編... 15
第1章 行政広報広聴の基礎的枠組み ... 17
第 1 節 はじめに ... 17
第 2 節 行政広報広聴の位置づけ ... 18
2.1 行政広報広聴の特徴 ... 18
2.2 行政広報と情報公開 ... 19
2.3 行政広報広聴を主管する部門 ... 20
第 3 節 行政広報広聴の先行研究 ... 20
3.1 戦後~1950 年代 ... 21
3.2 1960 年代~1980 年代 ... 22
3.3 1990 年代~現在 ... 24
第 4 節 行政広報広聴の基礎的枠組み ... 25
4.1 行政広報広聴... 25
4.2 行政広聴 ... 28
4.3 行政広報 ... 30
第 5 節 おわりに ... 33
第2章 自治体議会広報広聴の基礎的枠組み ... 37
第 1 節 はじめに ... 37
第 2 節 代表制の限界と議会広報広聴 ... 38
2.1 代表制の限界... 38
2.2 議会広報広聴の意義 ... 38
ii
2.3 議会広報広聴への批判と根拠 ... 39
第 3 節 議会・住民関係の変遷と議会広報広聴 ... 40
3.1 戦後~1950 年代 ... 40
3.2 1960 年代~1970 年代 ... 41
3.3 1980 年代~1990 年代 ... 42
3.4 2000 年以降 ... 43
第 4 節 議会広報広聴の基礎的枠組み ... 44
4.1 議会広報広聴... 44
4.2 議会広聴 ... 45
4.3 議会広報 ... 47
第 5 節 おわりに ... 49
第Ⅱ部 分析編 ... 51
第3章 市民の声のテキストマイニング分析 ... 53
第 1 節 はじめに ... 53
第 2 節 自治体広聴の枠組みと市民の声の分析の現状 ... 54
2.1 自治体広聴の枠組み ... 54
2.2 自治体における市民の声の分析の現状 ... 56
第 3 節 テキストマイニングの概要と先行研究 ... 57
3.1 テキストマイニングの概要 ... 57
3.2 テキストマイニングを活用した市民の声の分析事例 ... 58
第 4 節 テキストマイニング分析 ... 59
4.1 既存分析とデータの特徴 ... 59
4.2 テキストマイニング分析の適用 ... 60
第 5 節 おわりに ... 64
第4章 自治体世論調査の現状 ... 67
第 1 節 はじめに ... 67
第 2 節 自治体における世論調査の意義と品質 ... 68
2.1 本章で取り扱う世論調査 ... 68
2.2 世論調査の意義と品質 ... 68
第 3 節 世論調査の実施状況 ... 71
3.1 社会調査における調査法 ... 71
3.2 世論調査の実施状況 ... 73
3.3 東京都、東京都下特別区・市、内閣府の世論調査における調査法と回収率 ... 75
iii
第 4 節 関東 1 都 3 県の自治体における世論調査の実施状況と特性 ... 82
4.1 調査対象と調査項目 ... 82
4.2 自治体世論調査の実施状況と特性 ... 83
第 5 節 おわりに ... 92
第5章 自治体世論調査の品質 ... 95
第 1 節 はじめに ... 95
第 2 節 調査票調査の分析の枠組み ... 95
2.1 カバレッジ誤差 ... 96
2.2 標本誤差 ... 96
2.3 無回答による誤差 ... 97
2.4 測定誤差 ... 97
第 3 節 調査票調査の分析... 98
3.1 世論調査の現状 ... 98
3.2 標本抽出段階での誤差-カバレッジ誤差の分析 ... 99
3.3 データ収集段階での誤差-無回答による誤差の分析 ... 100
第 4 節 事例分析の概要... 103
第 5 節 調査法別の事例分析 ... 105
5.1 面接法-墨田区と江東区 ... 105
5.2 留置法-台東区と葛飾区 ... 112
5.3 郵送法-新宿区と足立区 ... 118
5.4 複合調査法-中野区と江戸川区 ... 123
第 6 節 おわりに ... 129
第6章 自治体ウェブサイトの品質 ... 133
第 1 節 はじめに ... 133
第 2 節 自治体サイトの位置付けと評価 ... 134
2.1 自治体におけるウェブサイトの位置付け ... 134
2.2 行政広報広聴の理念とウェブサイトの品質 ... 134
第 3 節 自治体サイトの評価フレームワーク ... 135
3.1 情報品質 ... 135
3.2 利用品質 ... 137
3.3 自治体サイトの評価フレームワーク ... 140
第 4 節 調査と分析 ... 141
4.1 調査概要と調査項目 ... 141
iv
4.2 調査結果の分析 ... 142
第 5 節 おわりに ... 145
第7章 自治体ウェブサイトにおけるペルソナの作成と活用 ... 149
第 1 節 はじめに ... 149
第 2 節 自治体サイトの品質 ... 150
第 3 節 ペルソナ法と分析フレームワーク ... 151
第 4 節 定量的調査による課題抽出 ... 152
4.1 ウェブ調査の概要と調査項目 ... 152
4.2 ウェブ調査の分析 ... 154
第 5 節 ペルソナの作成と適用 ... 158
5.1 ユーザカテゴリーの決定 ... 158
5.2 定性的調査の実施 ... 159
5.3 ペルソナの適用 ... 163
第 6 節 おわりに ... 164
6.1 ペルソナ法のプロセス ... 164
6.2 ペルソナ法の活用可能性 ... 165
第8章 自治体広報紙を活用した広告事業 ... 169
第 1 節 はじめに ... 169
第 2 節 広告業界の概要と自治体の広告事業の意義 ... 170
2.1 広告業界の概要 ... 170
2.2 自治体の広告事業の意義と特徴 ... 171
2.3 自治体広報紙への広告掲載に関する先行研究 ... 172
第 3 節 調査票調査と結果の概要 ... 174
3.1 調査対象と調査項目 ... 174
3.2 調査結果の概要 ... 176
第 4 節 広告導入の現状と阻害要因の分析 ... 178
4.1 自治体人口規模と広告導入 ... 178
4.2 広告導入の阻害要因 ... 180
4.3 収益性の問題... 181
4.4 公平性の問題... 182
第 5 節 自治体広告事業の競争優位の分析 ... 182
5.1 分析の枠組み... 182
5.2 広報紙の広告媒体としての優位性 ... 184
v
5.3 短期的な競争優位の分析 ... 185
5.4 長期的な競争優位の分析 ... 188
第 6 節 おわりに ... 189
第9章 科学技術情報と行政広報 ... 193
第 1 節 はじめに ... 193
第 2 節 原発事故に対する政府の対応と放射線健康リスク情報 ... 194
2.1 政府が発信した放射線健康リスク情報 ... 194
2.2 科学者・専門家が発信した放射線健康リスク情報 ... 195
2.3 自治体が発信した放射線健康リスク情報 ... 197
第 3 節 放射線健康リスク情報に関する行政広報の分析 ... 199
3.1 行政広報広聴の基礎的枠組み ... 199
3.2 放射線健康リスク情報に関する行政広報の分析 ... 199
第 4 節 行政広報と科学コミュニケーション ... 202
4.1 科学コミュニケーションの理論 ... 202
4.2 行政広報と科学コミュニケーションの協働 ... 204
第 5 節 おわりに ... 204
第10章 議会改革における議会広報広聴 ... 209
第 1 節 はじめに ... 209
第 2 節 議会改革における議会広報広聴の位置づけ ... 210
第 3 節 先進地方議会の広報広聴活動の現状 ... 210
3.1 議会広報広聴の基礎的枠組み ... 211
3.2 北海道栗山町議会 ... 211
3.3 山梨県昭和町議会 ... 213
3.4 福島県会津若松市議会 ... 215
3.5 愛知県名古屋市議会 ... 216
3.6 議会広報広聴の現状 ... 219
第 4 節 山梨県昭和町議会の議会広報誌の分析 ... 220
4.1 昭和町の議会改革の概要 ... 221
4.2 昭和町議会の広報誌『議会だよりしょうわ』 ... 223
4.3 昭和町議会広報の考察 ... 225
第 5 節 おわりに ... 226
終章 結論と今後の課題... 231
第 1 節 本研究の結論... 231
vi
1.1 研究課題の結論 ... 231
1.2 本研究の結論... 236
第 2 節 今後の課題と展望... 237
2.1 今後の課題... 237
2.2 今後の展望... 238
参考文献 ... 241
vii
図表目次
表
表1-1 行政広報と情報公開 ... 19
表1-2 広報広聴主管部門 ... 20
表1-3 行政広報広聴の基礎的枠組み ... 33
表2-1 議会広報広聴の基礎的枠組み ... 49
表3-1 自治体広聴の枠組み ... 55
表3-2 分析の枠組みと本章における分析対象 ... 59
表3-3 「良い点」に関する主なクラスター ... 61
表3-4 「改善点」に関する主なクラスター ... 61
表3-5 「良い点」のクラスターにおける自由回答の原文(一部) ... 62
表3-6 「改善点」のクラスターにおける自由回答の原文(一部) ... 62
表4-1 他記式・自記式の調査法とその特徴 ... 71
表4-2 調査項目 ... 83
表4-3 委託業者の選定方法 ... 87
表4-4 調査票の作成方法 ... 87
表4-5 調査結果の分析方法 ... 88
表4-6 世論調査における標本 1 件あたりの経費 ... 88
表4-7 調査法別の団体数および回収率 ... 89
表4-8 調査法の変更と団体数 ... 90
表4-9 調査法別・都県別件数と平均回収率 ... 92
表5-1 自治体世論調査の品質に関する分析の枠組み ... 98
表5-2 インタビュー質問項目 ... 104
表5-3 特別区の世論調査の調査法別一覧 ... 105
表5-4 墨田区と江東区の最新世論調査の概要 ... 107
表5-5 インタビュー調査の概要(墨田区・江東区) ... 110
表5-6 台東区と葛飾区の最新世論調査の概要 ... 113
表5-7 インタビュー調査の概要(台東区・葛飾区) ... 116
表5-8 新宿区と足立区の最新世論調査の概要 ... 119 表5-9 新宿区と足立区における回収率および有効回答 1 件当たり経費(決算額ベース) 120
viii
表5-10 インタビュー調査の概要(新宿区・足立区) ... 122
表5-11 中野区と江戸川区の最新世論調査の概要 ... 125
表5-12 インタビュー調査の概要(中野区・江戸川区) ... 128
表6-1 自治体ウェブサイトの評価フレームワーク ... 140
表6-2 調査項目 ... 142
表7-1 自治体ウェブサイトの評価フレームワーク ... 150
表7-2 ウェブ調査の調査項目 ... 153
表7-3 対応分析で得られた成分スコア ... 156
表7-4 調査 10 項目と総合満足度との関連性・不満層の意見傾向 ... 158
表7-5 被験者のインターネット利用状況 ... 161
表7-6 ペルソナ基本文書(一部抜粋) ... 163
表8-1 調査項目 ... 175
表8-2 広報紙への広告掲載の実施状況(千葉県を除く 49 市町村) ... 176
表8-3 広報紙に広告を掲載している自治体(人口規模順) ... 177
表8-4 広報紙への広告導入を断念した自治体(人口規模順) ... 177
表8-5 広告導入に関する人口規模別団体数 ... 180
表8-6 広報紙への広告掲載の阻害要因(10 団体からの回答・複数回答) ... 180
表8-7 広報紙広告の競争優位に関する分析の枠組み ... 184
表8-8 広報紙と民間広告媒体の量的評価 ... 185
表8-9 広報紙と民間広告媒体の質的評価 ... 187
表8-10 広告媒体の顧客価値を高める活動 ... 188
表10-1 議会広報の手法と政策情報の公開状況 ... 218
図
図4-1 実施主体別世論調査実施数の推移(内閣府『全国世論調査の現況』より筆者作成)74 図4-2 世論調査における調査法の推移(内閣府『全国世論調査の現況』より筆者作成) . 75 図4-3 東京都下の特別区部および市部の調査法別地図 ... 76図4-4 面接法による回収率の推移(1996 年~2006 年) ... 78
図4-5 訪問留置法による回収率の推移(1996 年~2006 年) ... 79
図4-6 郵送法による回収率の推移(1996 年~2006 年) ... 80
図4-7 世論調査実施団体の人口規模別件数 ... 84
図4-8 世論調査未実施団体の人口規模別件数 ... 84
ix
図4-9 人口規模別実施団体の割合 ... 84
図4-10 世論調査の月別実施件数と平均回収率 ... 85
図4-11 世論調査の実施間隔別件数 ... 86
図4-12 世論調査の調査法および回収率の推移 ... 89
図5-1 特別区の調査法別地図 ... 105
図5-2 墨田区と江東区の世論調査の回収率の推移(1996~2006 年) ... 107
図5-3 『墨田区住民意識調査』(2002 年~2006 年)の世代別回収率 ... 108
図5-4 『江東区政世論調査』(2001 年~2005 年)の世代別回収率 ... 109
図5-5 台東区と葛飾区の世論調査の回収率の推移(1996 年~2007 年) ... 113
図5-6 『台東区意識調査』(2003 年~2007 年)の世代別回収率 ... 115
図5-7 『葛飾区世論調査』(2001 年~2007 年)の世代別回収率 ... 115
図5-8 新宿区と足立区の世論調査の回収率の推移(1996 年~2006 年) ... 119
図5-9 『新宿区区民意識調査』(2004 年~2006 年)の世代別回収率 ... 121
図5-10 『足立区政世論調査』(2004 年~2006 年)の世代別回収率 ... 121
図5-11 中野区と江戸川区の世論調査の回収率の推移(1996 年~2006 年) ... 125
図5-12 『中野区政世論調査』(2004 年~2006 年)の世代別回収率 ... 126
図5-13 『江戸川区民世論調査』(2002 年~2006 年)の世代別回収率 ... 127
図7-1 満足層・不満層の回答比率 ... 155
図7-2 好感度と満足度の同時布置図 ... 156
図8-1 日本における広告取引(公正取引委員会,2005,p.15 より引用) ... 170
図8-2 千葉県内市町村の人口規模と広告の掲載状況(■実施団体■実施を断念した団体) ... 179
1
序章 新公共経営の隆盛と自治体広報広聴
第 1 節 自治体広報広聴
1.1 新公共経営とは
(1)新公共経営の形成
1920 年代末の世界恐慌を機に顕在化した「市場の失敗」を補完するために、政府はケイ ンズ主義的な経済運営を図った。しかし、政治があらゆる領域に介入する社会は、科学技 術や市場の急速な発達に対応できず、非効率的な資源配分を伴う“大きな政府”を生み出 し、市場と行政の効率性を損なうとともに財政を肥大化させた。このような「政府の失敗」
を克服するために新自由主義やマネタリズムに基づく“小さな政府”への構造転換を図る ための手段が新公共経営(NPM:New Public Management)を中心とする行政改革であ る1)。NPM とは、イギリス、ニュージーランド、カナダをはじめとするアングロ・サクソ ン系諸国を中心に形成された行政運営理論であり、民間企業における経営理念や手法、さ らには成功事例などを可能なかぎり行政現場に導入することで行政部門の効率化・活性化 を図るというものである2)。
1979 年、英国のサッチャー政権は、政府の財政再建を図るために市場メカニズムの強化 による構造改革を実施した。民営化、補助金削減、エージェンシー制の導入などにより、
肥大化した政府部門の見直しを進めたのである。また、メージャー政権においては、「市民 憲章」構想による行政サービスの効率化や“Value for Money(支出に見合う価値)”概念 の普及、PFI(Private Finance Initiative)などが推進された。NPMを中心とする行政改 革は英国で一定の成果をあげたことによりOECD諸国を中心に広まり、1970 年代後半以降 のNPMの隆盛は、行政における国際的傾向のひとつであるといわれた(Hood,1991,p.3)。 これは、市場原理や企業管理手法の導入による行政管理の効率化という手法が、“大きな政 府”から“小さな政府”への構造転換の手法のひとつとして評価されたことを意味するも のである。しかしながら、その後、様々な国や地域に導入されたNPMをめぐり、積極的に 評 価 す る 考 え 方 (Osborne and Gaebler,1992) が あ る 一 方 で 、 否 定 的 な 考 え 方 (Mintzberg,1996)も報告されるなど行政改革の手法として多様な観点から議論がなされて きている。
2 (2)NPM の構成要素と理論の現状
NPM に関する様々な議論のなかで、その構成要素や原則は多様な形で整理されてきた。
英国のフッド(Hood,1991)は、NPMの構成要素を①公共部門における専門家による実践 的管理、②業績に関する明確な基準と測定手法、③プロセスよりも成果の重視、④公共部 門における組織単位の分割最適化、⑤公共部門における競争原理の導入、⑥民間企業で実 践されている管理手法の重視、⑦資源利用における規律と倹約の重視、に整理した。米国 のオズボーンとゲーブラー(Osborne and Gaebler,1992)は、「企業家的政府」の共通の傾 向として、①触媒、②地域社会による所有、③競争、④使命重視、⑤結果志向、⑥顧客重 視、⑦企業化、⑧先を見通す、⑨分権化、⑩市場志向、を指摘した。また、OECD(OECD,1995)
は、先進諸国の公共管理改革を①権限委譲・柔軟性、②業績・統制・責任、③競争・選択、
④ニーズへの対応、⑤人的資源管理、⑥IT(情報通信技術)、⑦規制改革、⑧舵取り、に分 類した。さらに、ロートン(Lawton,1998)、ヒュー(Hughes,1998)らも市場における企 業経営を中心とする構成要素の提示を行った。これら 1990 年代のNPMの原則、構成要素、
共通点の考察から、笠(2002,p.170)はNPMの構成要素はフッドのいう七原則に収斂する とした。
他方、NPMの導入が遅れた日本においては、大住(1999,p.1)が、NPMの構成要素を
①経営資源の使用における裁量の拡大と業績・成果による統制、②そのための制度的な仕 組みとしての市場メカニズムの活用、③顧客主義、④ヒエラルキーの簡素化、に整理した。
また、山本(2002,pp.122-125)は、NPM の基本原理を①成果志向、②顧客志向、③市場 機構の活用、④分権化、に整理を行った。さらに、児山(2005)は、①政府―実施者―受 益者、②政府・実施者―負担者、③政府・実施者―被規制者、④政府・実施者の内部にお ける管理者―職員、⑤政府の統治能力、⑥有権者―政府、⑦基準設定と測定・評価、とい う枠組みから、オズボーン(Osborne and Gaebler,同)とOECD(OECD,同)の構成要 素の再整理を行った。
以上のように、NPMの構成要素や基本原理は様々な視点から整理されてきたが、新制度 派経済学と経営管理論を起源に持つNPMは、「市場メカニズムの活用、エージェンシーへ の権限委譲、成果志向・顧客志向の業績測定などを中核にした改革の思潮と手法の総称」(西 尾,2001,p.10)であり、「その国独自の文化や歴史の結晶である既存の制度やその国のおか れた国際的経済環境などによって、独自の形態に発展」(笠,2002,p.168)し、「各国に導入 される過程で様々な形があり、継続的にその形を変えている」(山本,2003,p.19)といわれ、
様々な構成要素や原則が議論されており現時点でも体系的な理論が確立しているものでは ない。
3 (3)日本における NPM の展開
日本は 1990 年代以降、税収の減少、社会保障費の増大、行政需要の拡大など厳しい財政 状況に陥るとともに、成熟化社会のなかで住民の価値観や生活様式は多様化し、画一的な 行政サービスでは従前の効果を達成することが難しい状況になった。このような環境変化 のなかで、自治体の事業が生み出す「成果」に対して大きな社会的関心が向けられるよう になり、自治体には限られた財源のなかで常に住民ニーズや住民満足を念頭におきながら 効率性・収益性・有効性を追求し、結果に対する説明責任を果たすという“経営感覚”を 持つことが不可欠となったのである。
日本におけるNPMの全国的な普及は、いくつかの自治体が財政危機を克服するために企 業経営のイノベーション理論やその手法を導入したことがきっかけとなった3)。三重県の事 務事業評価システムや静岡県の業務棚卸法などは NPM 型の行政評価制度を導入した先行 事例である。総務省も 2001 年に国や自治体へのNPM導入に関する審議を行う「新たな行 政マネジメント研究会」(国対象)と「地方行政NPM導入研究会」(自治体対象)をそれぞ れスタートさせた。2002 年には「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が策定され、
行政評価の枠組みが制度化された。2004 年には地方分権改革推進会議から提出された「地 方公共団体の行財政改革の推進等行政体制の整備についての意見」のなかで新しい行政手 法としてNPMがとりあげられ、NPMを「住民を行政サービスの顧客として捉え、行政部 門への民間的経営手法の導入を図る」考え方として紹介された。NPMの導入によって、自 治体は政策・施策・事務事業から得られる成果を的確に評価し、効率よく業績をあげ、か つ説明責任を果たすことが求められるようになった。こうした潮流のなかで自治体がひと つの経営体として経営責任を持ち、組織や業務の効率化・適正化とともに、住民満足を向 上させるという「自治体経営」の考え方が広がったのである。すなわち、“管理から経営へ”
という行政のあり方の転換と“住民から顧客へ”という住民のとらえ方の転換である。
1.2 自治体経営における広報広聴
(1)これまでの自治体広報広聴の展開
戦後、GHQ が日本の非軍事化や民主化のために導入した施策のひとつが PR(Public
Relations)である4)。導入当初においては、この Public Relationsという概念をめぐり混
乱が生じたが、GHQの幕僚機関であったCIE(Civil Information and Education Section:
民間情報教育局)による指導により、1950 年代半ばには広報紙の発行や報道対応の体制が 整備され、科学的手法としての世論調査も多くの自治体で実施されるようになった5)。しか し、GHQによる影響力が低下すると、財・サービスの供給機能が圧倒的な比重を占めてい たことから、「お知らせ」を中心とした広報活動重視の傾向が強まり、広報誌の編集や写真
4
の撮影といった広報の技術的側面の進展はみられたものの、世論調査を中心とする広聴活 動が軽視されるようになった。1960 年代には反公害や福祉政策・憲法擁護を訴えて登場し た革新自治体の首長のもと、「住民直結」や「市民生活優先」の理念のもと対話や市民集会 といった直接民主主義的な手法が導入されるなど自治体の広聴活動があらためて注目され るようになった。1970 年代に入ると「住民直結」いった革新的な考え方が社会に受容・共 有されるようになり、直接民主主義的な広聴活動が多くの自治体において標準的な活動に なったのである。また、1980 年代は、海外との人的・物的交流の飛躍的拡大による「国際 化」、情報通信技術の急速な発達による「情報化」、経済的豊かさを背景にした価値観の変 化を伴う「成熟化・都市化」、支出制約の強化やゼロシーリング予算の継続による「財政制 約」という四つの現象が、日本の政治・経済・社会のあらゆる分野の基本構造に変化を及 ぼしていることが指摘され(総務庁長官官房企画課,1991,pp.133-137)、そのなかでもとく に「情報化」と「成熟化・都市化」は自治体広報広聴に大きな影響を及ぼした6)。さらに、
1990 年代後半以降においては、前述したとおり自治体経営における顧客満足の向上が要請 されるなかで、あらためて住民ニーズの測定・把握といった広聴活動が重視されるように なった。
(2)情報化・成熟化・都市化・自治体経営による広報広聴への影響
ここでは、1980 年代以降の社会環境の変化のなかで、とくに「情報化」、「成熟化・都市 化」、「自治体経営」が自治体広報広聴に与えた影響について整理する。
①情報化
情報化が自治体の政策にどのような影響を与えるかついては次のようにいわれている。
すなわち、「コンピュータによる通信や事務処理の高度化が将来的には行政手法を大きく変 える可能性があることは、ここで指摘するまでもないであろう。IT の活用については、そ の限界がまだ見えていないといってもよい。(中略)政策と情報化については、二つの側面 がある。ひとつは政策手段として情報化がどのように活用できるかであり、もうひとつは 政策プロセス全体に情報化がどのようにかかわるかである」(武藤,2003,p.42)。この指摘 のとおり、1980 年代以降の情報化は自治体広報広聴の手法とプロセスの両面において、そ れまでにない大きな影響を与えてきている。
広報広聴の手法については、1990 年代半ば頃、自治体はウェブサイトや電子メールとい った情報通信技術を活用した新たな手法の導入を始め、自治体と住民との双方向かつ迅速 なコミュニケーションを実現した。その後、2001 年の国家 IT 戦略において重点政策分野と して掲げられた超高速ネットワークのインフラ整備によって高速かつ安価なインターネッ ト通信が可能になり、利用者も急速に拡大した。2000 年代半ばには、“ICTを活用した住民 参画システム”として電子掲示板や電子会議室、地域SNS(Social Networking Service)
5
といった手法を採用する自治体が多くみられた7)。その後、SNSのユーザ数が急増するなか で、2011 年 3 月の東日本大震災を契機として多くの自治体が住民との密接かつリアルタイ ムのコミュニケーションの実現を図るべくTwitterやFacebookといったSNSを導入した。
また、情報化は広報広聴プロセスに対しても大きな影響を与えた。広報面においては、
情報のデジタル化によって組織内部の情報の共有化が進んだことにより自治体が制作する 広報誌・紙といった印刷媒体や映像媒体の編集プロセスが大幅に効率化し、住民に対して それまでよりも迅速かつ正確に情報提供することが可能になった。また、広聴面において も、情報のデジタル化によって住民から寄せられる意見、要望、苦情、問合せ等のいわゆ る“市民の声”が組織内で迅速に共有されるとともに、データ分析ツールの進歩によって それまで測定・把握が困難であった住民ニーズの収集・可視化を実現したのである。
このように、情報化は広報広聴の手法の多様化とそのプロセス品質の向上を実現したの である。最近では、高速通信インフラの整備と情報端末の高機能化を背景にインターネッ トを活用した新たなサービスが次々に登場し、ユーザ一人ひとりが発信する情報量が爆発 的に増加してきている。自治体に寄せられる意見、要望、苦情、問合せや自治体に対する 評価、評判、風評等の情報も急増し、“情報を集める時代”から“情報が集まる時代”に変 わったともいわれている。情報通信技術が急速に発達しているなかで、広報広聴の手法や プロセスの品質をいかに高めていくかについて検討することは不可欠になっている。
②成熟化・都市化
1990 年代以降、「市民活動も、モノトリ段階が終わった今日では、むしろ地球規模のひろ がりをもつ環境や地域個性をもつ文化をふくめてシビル・ミニマムの質整備をめぐる運動 となっています」(松下,1996,pp.24-15)と指摘されるようにシビル・ミニマムの量的充足 とともに質的充足が求められるようになってきている。これからは、住民の価値観や生活 様式が多様化した成熟化・都市化社会においては、画一的な行政サービスでは従前の効果 を達成することが難しい状況になり、地域住民の多様なニーズに対して、きめ細かく対応 した質の高い行政サービスが必要とされるということである。“市民の声”を継続的に測 定・把握していかなければ、行政サービスと住民ニーズの乖離は避けられず、行政サービ スの質的充足を実現することはできない。これからは、住民への直接的なサービスではな い広報広聴も例外ではなく、自治体が所管する多くの事業と同様に、多様化した住民ニー ズをいかに正確に把握し適切に対応していくかといった品質面からの改善検討が不可欠に なっている。
③自治体経営
前述したように、1990 年代後半に「効率性・収益性の追求」と「顧客満足度(Customer
Satisfaction=CS)の向上」を理念とするNPMが自治体に導入された。「効率性・収益性の
追求」のもと、民間経営手法の導入、数値目標設定による事業成果の意識、数値目標達成
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を基準とした政策評価(一般的には事務事業評価)、その評価に基づく新たな政策形成とい った既存の事業プロセスの見直しが進むとともに、企業会計方式、連結決算、PFI等が個別 事業として実施されるようになった。また、民間経営の「顧客満足」や「顧客満足経営」
概念の導入により“市民の声”がこれまで以上に重視されるようになり、住民満足度調査 をはじめ、パブリックコメント、市政モニター、市民の声システムといった住民ニーズを 測定・把握する仕組みが整備される等、NPM の導入は広聴活動に大きな影響を及ぼした。
さらに、NPMのひとつのアプローチである緩やかな改革といわれる“行政の現代化(public modernization)”においては、企業経営における「ビジネス・モデル」としての行政の展 開が想定され、価値形成と価値実現プロセスの確保が必要といわれている(大住,2012)。 効率性・収益性と顧客満足度向上を目指すNPMは、行政改革の手段として改革の枠組みを 規定するものであると同時に、個々の政策・施策については「ビジネス・モデル」として の価値形成と価値実現を中心としたマネジメントを要求するのである。つまり、自治体経 営は広報広聴活動に対しても、その活動自体の効率性や品質の向上とともに、価値創造に よる満足度の向上を要請するものである。これからは、価値の提供・共有という自治体経 営の観点から広報広聴をとらえていくことが不可欠となっている8)。
(3)自治体広報と行政広報
ここで「自治体広報」と「行政広報」の用語の使用法について確認する。一般的に、行 政広報は政府広報と自治体広報(都道府県と市区町村)に区分して使用され、そこでは自 治体広報が行政広報の下位概念として位置づけられ、自治体広報は“首長による広報”と して認識されることが多い9)。しかし、自治体は首長と議会との二元代表によって構成され ることから、理念的には自治体広報には首長が主体となる「行政広報」と議会が主体とな る「議会広報」があると考えられる。議会広報は、昨今の自治体議会改革の広がりのなか でも首長による広報とは異なる“議会独自の広報”として議論されるようになってきてい る10)。したがって、本研究では二元代表制との整合性を考慮したうえで、自治体広報は、“首 長による行政広報”と“議会による議会広報”から構成されるものとしてとらえることと する。
また、「広報」と「広聴」の用語については、高寄(1987,pp.3-6)が行政広報の機能を、
①行政目的や行政効果を市民に理解してもらう、②市民生活の利便性向上と行政事務の遂 行の円滑化の基盤となる、③市民の理解と批判の上での行政運営を実現すること、④住民 と行政との情報循環媒体としての機能を担うものと整理しているように、「広報」という用 語は本来的に広報と広聴の両者を含むものである。しかし、「広報」という用語を使用する 場合、その文脈により広聴の意味を含むか否かが曖昧になっている場合も少なくない。
そこで、本研究では自治体広報の主体を首長(行政)と議会に区分するとともに、広報
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と広聴の議論を明確にするため、「広報」単独で使用する場合は「広聴」を含まないものと して用いることとし、自治体広報広聴は行政による“行政広報広聴”と議会による“議会 広報広聴”から構成されるものとした。
第 2 節 本研究の目的と構成
2.1 広報広聴研究の課題と本研究の目的
前述したとおり、戦後GHQがPRを日本に導入してから現在まで、自治体の広報広聴は 半世紀以上にわたり研究されてきた。その研究の変遷のなかで、1980 年代以降の情報化の 進展と社会の成熟化、そして 1990 年代以降のNPMによる行政改革や地方分権の推進は、
それまでにない大きな影響を自治体広報広聴研究に及ぼしている。また、2000 年代半ば以 降の自治体議会改革においては、議会が主体となる議会広報広聴が注目されるようになり、
行政広報広聴とは異なる文脈で議論されるようになってきている。このような環境変化の もとで、昨今の自治体広報広聴研究は検討すべき多くの研究課題を抱えている。本研究は、
そのなかから以下の六つの課題に焦点をあてて議論を行う。
(1)広報広聴の本質論と手法論との断絶
戦後のPR導入直後においては、日本の民主化への期待から自治体広報広聴の理論的な研 究とともに実務からの事例研究も数多く報告された。ただし、その研究のほとんどが行政 広報広聴を対象にしたものでり、議会広報広聴については個別の論点としてほとんど議論 されることはなかった。その後、広報広聴が自治体に一定の定着をみるにしたがい理論的 な研究は次第に少なくなり、実務においては広聴よりも広報が重視され、広報の技術的な 側面に研究の焦点が移っていった。その結果、1980 年代には、“広報研究は媒体研究である”
といったとらえ方もされるようになった。1990 年半ば以降は、自治体は広報広聴手法とし てウェブサイトや電子メールなど情報通信技術を積極的に活用するようになったことから、
政治学や行政学以外の研究領域からも行政広報広聴に関する研究が数多く報告されるよう になった。当時の情報社会論においては情報化が社会構造を変革するという技術決定論的 な考え方が広まっていたとの指摘(佐藤,1996,p.49)にみられるように、情報通信技術を いかに広報広聴に適用するかという研究報告が数多くなされた。
このように、自治体広報広聴に関する研究は様々な領域から蓄積されてきたものの、情 報化による多様化・高度化した手法に関する研究に偏り、民主主義における広報広聴の本 質や理念に関する議論はほとんどなされてはいない。そもそも本質を踏まえたうえで手法 の議論がなされるべきであるが、現在は自治体広報広聴の本質論と手法論が別個に議論さ れ、両者が断絶している状況にある。PR導入当初の民主主義論における広報広聴の本質に
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ついて、住民参加・協働による効率性や顧客満足を目指す自治体経営のもとで、あらため て議論する必要がある。
(2)政策形成ルートの未確立と世論調査の品質低下
行政による広聴活動は戦後 CIE(民間情報教育局)の指導による世論調査に始まった。
1960 年代の革新首長らのもとでの直接民主主義的な対話の導入、1990 年以降の電子メール、
電子掲示板、SNS といった電子媒体の活用など、行政は時代の変化とともに様々な手法を 取り入れながら“市民の声”の集約・調整を行ってきた。しかし、実務においては、 市民 の声への迅速な対応が重視され、政策形成への活用に関しては市民の声の個別性や代表性 の問題、政策課題抽出作業に伴う困難性、抽出プロセスにおける判断の恣意性が常に問わ れ、その活用が進んでいるとはいえない状況にある。自治体において地域の課題発見のき っかけになり得る市民の声の分析の重要性は理解されてはいるものの、市民の声から政策 形成に至る“政策形成ルート”は確立されているとはいえない。このことは、住民の意見 や要望が政策に適切に反映されていない可能性を示すものでもある。もちろん地域住民の 個々の意見や要望の集積から政策形成に有用な知見が必ず得られるという保証はないが、
その可能性は常に存在している。それを発見する努力をすることが自治体には求められて いるのである。多様性・多義性を持つ市民の声の分析は多くの自治体にとって重要な課題 になっている。
また、個別・具体的な市民の声の分析のみならず、統計的手法を用いて市民の意見の構 造や分布を測定する世論調査も大きな問題をかかえている。昨今の自治体が実施する調査 は、プライバシー意識やセキュリティ意識の高まりや住宅環境の変化等により調査票の回 収率が急落し、調査母集団の代表性を損なうといった危機的状況に置かれているのである。
世論調査の結果が政策形成の基礎資料になっていることを鑑みると、世論調査の品質低下 は自治体が政策形成に関する説明責任を果たし得ない状況に陥っている可能性を示唆する ものであり、早急に改善しなければならない課題であることは間違いない。
(3)自治体ウェブサイトへの低評価
自治体ウェブサイトは、1993 年の郵政省によるインターネットの商用利用の許可を背景 にして 1990 年代半ばに登場した手法であり、現在ではほぼすべての自治体で運営されてい る。ウェブサイトの登場により印刷媒体では困難であった膨大な情報をデジタルデータと して住民に提供することが可能になった。自治体はウェブサイトをこれからの中心的な広 報広聴手法として位置づけ、これまでに十年以上にわたり運用ノウハウを蓄積してきた。
しかしながら、自治体ウェブサイトを活用するユーザからは依然として「見づらい」、「使 いづらい」、「ほしい情報が見つからない」といった評価をされることが多く、ユーザが望
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む品質水準・満足水準に到達しているとはいえない状況にある。今後の情報通信技術やソ フトウェア技術の発達を背景に、これまで以上に自治体ウェブサイトへのユーザの期待が 高まるなかで、その品質改善は急務である。IT国家戦略「i-Japan戦略 2015」(IT戦略本 部)においても、自治体ウェブサイトには適切な評価基準に基づく継続的改善による品質 向上が期待されている。日常生活に必要な行政サービスに関わる情報の入手手段としては、
依然として広報誌・紙が中心になっているが、テキストや画像、音声、動画といったあら ゆる情報を掲載することが可能なウェブサイトは住民参加・協働による効率性や顧客満足 を目指す自治体経営において不可欠な手法であり、その品質改善が課題になっている。
(4)自主財源確保のための広報媒体の活用
2000 年 4 月に地方分権一括法が施行された。国庫補助負担金の廃止・縮減、税財源の移 譲、地方交付税の見直しは自主財源の乏しい自治体財政を直撃し、多くの自治体は住民サ ービスの低下、職員の削減など厳しい財政運営を強いられている。行政の効率性・収益性 と顧客満足向上が要請される自治体経営のなかで、自主財源の獲得を目指して多くの自治 体が注目しているのが広告事業である。自治体の広告事業とは、その団体が所有する財産 の広告媒体としての価値に注目し、そこへの広告導入を図ることで財政に寄与しようとす るものである。具体的には、①広報紙、ウェブサイトなどの広報媒体への広告掲載、②庁 舎の壁面やエレベーターなど公共施設への広告掲出、③大型施設のネーミングライツ、④ 民間事業者とのタイアップなどの形で実施されている。このなかでも広報紙への広告掲載 は自主財源確保策のひとつとして導入する団体が増加してきている。自治体が広報紙に民 間企業の広告を掲載することはとくに新しい取り組みではなく、神戸市や札幌市などの一 部の団体では以前から行われていた。しかし、最近の導入団体においては、事業の意義や 本質が議論されず、どのように事業を展開していくかといった事業戦略も持たずに安易に 導入されている事例もみられる。中長期的にいかに広告事業を展開して自主財源を確保し ていくかが多くの自治体にとって課題になっている。
(5)専門情報の提供に伴う行政広報の失敗
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災を起因とする福島第一原発事故による放射性物 質の拡散に対して、行政は放射性物資に関わるあらゆる情報を市民に提供していかなけれ ばならない事態に陥った。行政は専門家の協力のもと、放射性物質の健康への影響につい て情報提供を行ってきたが、その情報をめぐり多くの自治体で行政と住民、さらには住民 同士の対立と混乱が生じた。これは、この放射性物質による健康リスク情報の提供に関し て、行政が住民との信頼関係を構築できず、“行政広報の失敗”というべき状況が生じたこ とを意味している。ここでいう行政広報の失敗とは、本研究で議論する行政広報広聴の四
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つの理念のうち、一つでも満たさない活動が行われた場合に生じる行政と住民との信頼関 係構築の失敗という状況のことである。言い換えれば、行政は高度な専門情報の提供にお いて、住民との信頼関係の構築を困難にするという“脆弱性”を内包しているということ でもある。今後、大地震による津波や異常気象による集中豪雨、感染症の爆発的拡大など が懸念されるなかで、地震、津波、土砂災害、新型インフルエンザ等への対応など高度な 専門知識を必要とする分野の情報提供における脆弱性をいかに克服していくかは自治体の 課題である。
(6)議会改革における議会広報広聴
議会・議員と地域住民とのコミュニケーションについては、これまで請願や陳情、議員 の個人活動に関する議論に限定されてきた。これまで、議会広報広聴に関する研究につい ては、「議会広報が自治体広報の範疇のなかで論議の対象から比較的に除外されてきたこと は、わが国の自治体広報の健全な発展を、ある偏重なものとして育成し、かつ普遍化して しまった」(本田,1995,p.184)との指摘のとおり本格的な議論がほとんど行われてきてい ない。しかし、住民の議会への不信が広がるなかで、議会と住民との関係づくりが重視さ れるようになり、自治体議会改革のなかで策定された議会基本条例には議会・議員による 具体的な広報広聴活動が規定されるようになってきている。自治体議会改革の議論のなか で、議会と住民との信頼関係の構築を本質とする議会広報広聴を個別の論点として議論す ることは、二元代表制における自治体運営にとって重要な課題になってきている。
本研究は、これからの自治体経営を意識しながら自治体広報広聴の本質と理念に関する 検討を行ったうえで、行政広聴広報と議会広報広聴の品質にかかわる六つの研究課題に関 する議論を通して、自治体広報広聴の品質改善のための提言を行うことを目的とするもの である。なお、「執行機関の行政広報とともに議事機関の議会広報の双方が首尾よく運営さ れてはじめて、地方自治体における広報活動の展開が達成される」(本田,1995,p.189)と いう指摘を踏まえ、自治体広報広聴の主体を行政と議会に区分したうえで議論を行ってい る。
2.2 本研究の構成
これらの課題を検討するために本研究は、この序章のほかフレームワーク編の二つの章 と分析編の八つの章および終章をあわせた十二章構成で議論を進める。
まず、フレームワーク編の二つの章では、自治体広報広聴の主体を行政と議会に明確に 区分し、最初の研究課題として提示した広報広聴の本質に関する議論を行う。第 1 章は行 政による広報広聴に関する章であり、PR導入以来の行政広報広聴に関する伝統的な広報広
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聴の本質と理念とともに対象とする情報と手法について議論を行い、基礎的枠組みを構築 する。第 2 章は、これまで個別論点として議論されてこなかった議会広報広聴に関する章 であり、行政広報広聴の基礎的枠組みを手がかりに対象情報と手法について議論を行い、
議会独自の基礎的枠組みを構築する。
次に、フレームワーク編で構築した行政と議会のそれぞれの基礎的枠組みに従い、残り の研究課題について議論を行う分析編を用意した。この分析編は、行政広聴を分析対象に した第 3 章から第 5 章、行政広報を対象にした第 6 章から第 9 章、そして議会広報広聴を 対象にした第 10 章で構成される。
第 3 章は、行政が世論調査によって取得した自由記述データを事例にとりあげ、そのデ ータに対してテキストマイニング分析を適用することによって自由記述データの構造を明 らかにし、市民の声データへのテキストマイニング分析の適用可能性を示す。これは、広 聴活動によって取得した情報から、新たな情報開発を具体的に試みる分析である。
第 4 章と第 5 章は、行政が実施する広聴活動の中心的手法である世論調査に関する章で ある。住民のニーズを反映した政策形成が求められるなかにあって、その基礎資料となる 世論調査の品質向上は不可欠である。第 4 章は、住民のプライバシー意識の高まりや住宅 セキュリティの強化など調査環境が悪化するなかで実施されている自治体世論調査をとり あげ、内閣府が発行する『全国世論調査の現況』をはじめ、公表されている複数の自治体 の世論調査報告書の結果とともに、1 都 3 県の市区町村を対象に行った「世論調査の実施状 況に関する調査票調査」(対象 144 団体,回答 124 団体)の結果から、自治体世論調査の実 施状況や特性を明らかにする。続く、第 5 章では、前半において第 4 章の調査票調査を活 用し、自治体世論調査の品質に影響を与える誤差について分析する。後半では、東京都特 別区から八つの団体を選び、世論調査担当者へのインタビュー調査をもとに各自治体の世 論調査の特徴を明らかにし、自治体世論調査の品質向上のための実践的示唆を得る。なお、
第 4 章と第 5 章において使用する「自治体世論調査」という用語は、行政が実施する世論 調査を表すものとして使用し、議会が実施する世論調査を含んではいない。
第 6 章および第 7 章は、広報媒体として今後さらに期待される自治体ウェブサイトに焦 点をあてた議論を行う。第 6 章では、第 1 章で構築した行政広報の基礎的枠組みをもとに、
ウェブサイトの品質について「情報品質:quality of contents」と「利用品質:quality in use」
の二つの視点から議論を行い、自治体ウェブサイト独自の評価フレームワークを構築する。
そして、このフレームワークに基づき東京都 23 区のウェブサイトにおける掲載情報につい て調査分析を行い、その情報品質の現状について考察する。続く第 7 章は、ウェブサイト の品質改善手法のひとつであるペルソナ法に焦点をあて、自治体ウェブサイトを対象にし たペルソナの作成およびその適用可能性について議論する。ペルソナ法とは、後述するよ うに仮想的なユーザ(ペルソナ)をデザインし、そのユーザの利用シーンを想定して製品・
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サービス開発を進める手法である。これは、ユーザの情報リテラシーの向上とともに自治 体ウェブサイトに求められる品質水準が高まるなかで、ユーザニーズにきめ細かく対応す るための実務レベルにおける品質改善手法に関する分析である。なお、第 6 章と第 7 章に おいて使用する「自治体ウェブサイト」という用語は、行政が運営しているウェブサイト を表すものとして用いており、ここでは議会が運営するウェブサイトを含まないものとし ている。
第 8 章は、自主財源確保のための広報媒体の広告事業への活用に焦点をあてて議論を行 う。ここでは、厳しい財政状況のもと多くの自治体で実施されるようになった広告事業の 様々な媒体のうち、ほぼすべての自治体が発行している基礎的媒体である広報誌・紙への 広告導入に関する分析を行う。前半では、先行研究が提示した広報紙への広告導入と人口 規模の関係および広告導入の阻害要因を明らかにする。後半では、企業戦略論における資 源ベース戦略のフレームワークを用いて、自治体が発行する広報誌・紙と民間企業が発行 するフリーペーパー(無料の印刷媒体)とを比較分析することにより、自治体広報誌・紙 の競争上の優位性を明らかにする。
第 9 章は、行政広報による専門情報の提供に焦点をあてた議論である。ここでは、東日 本大震災に起因する福島第一原子力発電所事故による放射線健康リスク情報をめぐる行政 広報の事例として横浜市の広報紙をとりあげて分析を行う。高度な科学技術に支えられて いる現代社会において、行政広報が高度な科学技術情報を含む「専門情報」を住民に提供 する際のリスクを明らかにするとともに、行政広報と科学コミュニケーションとの連携可 能性を検討する。
第 10 章では、第 2 章で述べた基礎的枠組みに基づき議会広報広聴に関する議論を行う。
前半では、議会改革における広報広聴の位置づけを確認するとともに、議会改革に取り組 む先進的な四つの自治体議会(栗山町,昭和町,会津若松市,名古屋市)を事例としてとりあ げ、その議会基本条例に規定されている広報広聴活動と実際に実践されている広報広聴活 動の調査結果から議会広報広聴の現状を明らかにする。また、後半では山梨県昭和町議会 を事例としてとりあげ、昭和町議会議員へのインタビュー調査とともに議会広報誌に関す る分析を行い、議会改革における議会広報のあり方について提言を行う。
最後に、終章では本研究で得られた理解をまとめ、本研究で構築した基礎的枠組みに基 づく分析が自治体広報広聴研究にどのような新しい知見をもたらしたかについて確認する とともに今後の課題・展望について述べる。
なお、第 3 章から第 7 章でとりあげた事例は、東京 23 区をはじめとする首都圏の基礎自 治体が中心になっている。このような自治体の広報広聴を研究フィールドとして選択した のは以下の理由からである。首都圏の自治体は、その人口規模により住民との距離感が大 きく、かつ地域住民の価値観や生活様式が多様化している地域と推測され、他の地域の自
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治体よりも相対的に多様・多元的な広報広聴活動が展開されている可能性が高いと考えら れるからである。
注
1) 公共経営(public management)という表現は、1950 年代以降、戦後の地方自治制度の確立 とともに、地方自治行政における市町村運営、行政運営などにおける制度論重視から運営論重 視への理念や実態の転換を契機に用いられ始めた。公共経営としての地方自治に対する認識は、
行財政が逼迫しやすい不況期に強く認識されてきた(松行康夫,1995)。
2) NPMという言葉を広めたフッド(C. Hood)の 1991 年の論文では、NPMが曖昧な用語であ り、1970 年代後半から多くのOECD諸国において行政改革の議論を支配した、大まかに似た 教義をあらわす名称であるとされた。
3) 日本へのNPMの導入が他の先進国と比べて遅れた要因は、日本の伝統的な「官」中心の権 威主義的集権体制にあった。詳しくは、岡田(2005)を参照されたい。
4) 日本のPRの起点をGHQによるアメリカPRの導入ではなく、第二次大戦中にドイツを経由 して導入されたとする考え方もある。これについては三浦(1996)を参照されたい。
5) 日本における行政広報の先駆的研究者のひとりである小山(1975,p.9)は、PRが日本に輸入 された当時のことについて、次のように述べている。「パブリック・リレーションズPublic
Relationsとは、戦後新しく日本に輸入された観念と言葉である。この米国で誕生した言葉は、
具体的な明確な内容を示していないので、実際家の方面からも学会の方面からも広範な議論を ひき起こしている。一般に妥当する体系や統一的な概念構成がまだ作られていないということ はすべてのパブリック・リレーションズの努力がまだ初期の段階にあることからきているもの であって、科学的に明確な概念が定立されるにはパブリック・リレーションズと呼ばれている ものに密接に結びついている各個の現象に関する正確な事実認識が前提となるものである。こ のことは、パブリック・リレーションズが、まず実際の必要から生じたものであって、理論か ら成立したものでないことを示すものである」。
6) 1980 年代以降の日本のシステムの基本構造に変化を引き起こした社会環境の四つの変動は、
「社会環境の変動とガヴァメンタルシステムの動態的連関に関する調査研究」(総務庁長官官 房企画課)において指摘されている。この研究は、1990(平成 2)年から 1994(平成 6)年ま での 5 か年の調査研究期間とする長期の基礎的な行政管理研究プロジェクトとして実施され たものである。その目的は、「単に国や地方自治体さらには国際関係をも規定しているフォー マルな統治システムだけではなく、経済活動の諸ルールや人々の行動様式等インフォーマルな 要素を含んだ、広く社会の諸要素から構成されるシステム」をガヴァメンタルシステムとして 定義し、このシステムを取り巻く環境の変化によって、それ自体の変化を強いられているとい う認識に基づいて、その変化のあり方を探ることとされた。なお、この研究の一連の成果は、
『社会環境の変動とガヴァメンタルシステムの動態的連関に関する調査研究報告書』(平成 2 年度~平成 6 年度)として公表されている。
7) 自治体への地域SNSの導入については、「ICTを活用した地域社会への住民参画のあり方に 関する研究会」(ICT住民参画研究会,総務省)において本格的に議論された。
8) 自治体が住民に提供する価値は、企業が顧客に対して提供する顧客価値に該当するものと考 えられる。顧客価値は顧客が得るすべてのベネフィット(総顧客価値)とその入手・使用にかか るコスト(総顧客コスト)の差としてもとらえられる(Kotler and Keller,2006,pp.64-65)。 総顧客価値とは、特定の市場提供物に対して顧客が期待する経済的、機能的、心理的ベネフィ ットを総合し、金銭的価値として知覚されるものであり、製品価値、サービス価値、従業員価 値、イメージ価値によって決定されるものとされる。他方、総顧客コストとは、特定の市場提
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供物を評価し、入手し、使用し、廃棄する過程において顧客が見積もったコストを総合したも のであり、金銭的コスト、時間的コスト、エネルギーコスト、心理的コストによって決定され るとされる。
また、この顧客が期待する価値は四段階(基本価値・期待価値・願望価値・未知価値)で 構成される(Albrecht,1992)。基本価値は絶対不可欠な要因であり、期待価値は顧客が当然 視する要因であり、この二つは当然備えていなければならない価値の段階である。そして、
願望価値は顧客が必ずしもそれがあることを期待してはいないが、もし、それがあるならば 高く評価することが明らかな要因である。最後の未知価値は、顧客の願望や期待のレベルを 超えたものが提供され、顧客に驚きを持って受けとめられる要因である。未知価値を実現し てはじめて競争上の優位を持つことになるといわれている。
9) 行政広報の分類については、上野(2003)を参照されたい。
10) 自治体議会における議会広報広聴については、廣瀬(2002,2010)を参照されたい。
第Ⅰ部 フレームワーク編
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第1章 行政広報広聴の基礎的枠組み
第 1 節 はじめに
少子高齢化による税収減少や多様化する価値観・生活様式による行政需要の拡大、地方 分権の進展、情報通信技術の急速な発達、効率性・収益性・顧客満足を目指す自治体経営 の要請など自治体を取り巻く環境が大きく変化しているなかで、自治体の保有する行政情 報の適切な提供と住民の意見要望を反映した政策形成が求められている。これは行政と住 民とのコミュニケーションの活性化と情報共有の要請である。自治体においてこの役割を 担う活動が広報広聴であり、その目標は情報の非対称性の克服と情報共有を通じた信頼関 係の構築である。「情報なくして参加なし」、「情報は民主主義の通貨」といわれるように広 報広聴は参加・協働による自治体経営や地域民主主義にとって不可欠な活動である。昨今 の情報化の進展のもと、多くの自治体は情報通信技術を活用した新たな広報広聴手法を積 極的に試みている。しかし、情報通信技術の活用は少子高齢社会における情報格差を拡大 させる可能性もあることから、自治体は新手法のみならず従来手法についても社会環境の 変化に適応させながら質的転換を図っていく必要がある。地方分権推進法の成立と同時期 に、新しい公共経営手法であるNPM(New Public Management)が多くの自治体に導入 され、住民参加、住民の納得、住民満足という視点から行政サービスが評価されるように なってきている。また、広報広聴の戦略的な実践を目指す、いわゆる「広報広聴戦略プラ ン」を策定する自治体も登場してきている。しかし、成熟化社会における住民の価値観や 生活様式の多様化、情報通信技術の急速な発達や情報端末の普及を背景にした住民とのチ ャネルの多様化・複雑化の状況にあって、自治体広報広聴が十分に機能しているとはいえ ない。情報発信機能としての広報と情報収集機能としての広聴による情報循環によって、
自治体と住民との信頼関係をいかに醸成していくかが大きな課題となっているのである。
そこで、第 1 章は戦後から現在までの広報広聴研究を検討することにより、行政広報広 聴の本質と理念、対象とする情報、手法・チャネルについて整理を行い、基礎的枠組みを 提示する。情報化が進展し行政と住民を結ぶチャネルが複雑化するなかで、現代的な行政 広報広聴の本質と理念を踏まえた枠組みを提示することは、今後の自治体経営にとって意 義があると考える。なお、本章は地域住民の日常生活に密接に関わる多様な情報を有する 基礎自治体を念頭に議論を行っている。
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第 2 節 行政広報広聴の位置づけ
行政機関における広報広聴は、憲法 15 条 2 項の公務員の地位と職務に根拠づけられる性 質を持つものである。「公務員は、『全体の奉仕者』として職務を遂行することを憲法が規 定している以上は、行政広報は、民主主義国家にとって、固有のものであり、必然のもの」
(縣,2006,P.1)との指摘のとおり、行政広報広聴は法令上の明確な規定はないものの民主的 行政にとって不可欠な活動のひとつである。
2.1 行政広報広聴の特徴
まず、第一は、上で述べたとおり広報広聴に対する明確な法的拘束が存在しないという ことである。そのため、広報広聴施策は若干の例外(自治体の予算および決算の公表等)
を除いてその実施が選択的であり、その手法を含めて行政の意向によっていかなる形態に も構成可能な独自の施策展開になっているということである。言い換えれば、市民にどの ような情報を、どのように提供するかは行政の任意であり、広報誌・紙の発行やウェブサ イトを運営する義務はない。この法的拘束がないことについて、東京市町村自治調査会
(2000,p.105)も広報広聴は行政の創意工夫によっていかなる形態にも構成でき、また市 民が行政に対して創意工夫を要求することや市民自らが当該施策の決定や実施に参加する ことも可能であるとしつつ、広報広聴施策を情報伝達・管理施策ととらえ、市民への間接 サービスという位置づけから直接サービスの位置づけへと自覚的に変化させた場合には市 民と行政とをつなぐ太いパイプとなり得るとの指摘を行っている。このことは多くの自治 体事業にその程度の違いはあるものの法的拘束が存在していることとは対照的である。第 二は、広報広聴施策はすべての政策プロセスに関係し、組織横断的な活動であるというこ とである。広報紙やウェブサイトなどに掲載されるあらゆる情報は広報主管部門と事業主 管部門との調整プロセスのなかで決定されるものである。また、広聴主管部門には行政組 織内のあらゆる事業に関わる住民からの意見や要望が集まり、それらは事業の改善のみな らず、地域課題の発見や解決の手がかりにもなり得る可能性があるものである。第三は、
広報広聴に法的拘束が存在しないことから、明確な目標設定がなされずマネジメントサイ クルが機能しづらいということである。NPM導入により行政広報広聴を対象にした行政評 価が数多く行われているが、目標設定や効果測定は依然としてマネジメント上の課題とな っている。ただし、この点については企業広報を含めて広報の効果測定は困難であるとい われており広報広聴の一般的な特徴でもある。