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関係するすべての市民が参加する「対話の場」の必要性

第一章 本研究の背景等

1.5 我が国における HLW 処分に関する取組が抱える課題

1.5.2 関係するすべての市民が参加する「対話の場」の必要性

処分懇報告書も指摘しているとおり、我が国において、HLW 処分事業に関して市民の 関心が薄いのは、従来、HLW 処分に関する技術的な側面ばかりに議論や検討が集中して きたこと、また、こうした議論や検討も政府の審議会や原子力委員会などにおいて、政府 や専門家や技術者の間だけで進められてきたことが大きな理由の一つとして考えられる。

加えて、政府やNUMOが一方的な情報提供活動にばかり注力してきた結果、関係するす べての市民を集め、市民の意見や要求に耳を傾け、市民と一緒になって問題の解決に向け て議論する場、すなわち「対話の場」を設けてこなかったことも要因の一つである。

たとえば、高知県東洋町の事例を受け、経済産業省は、2007年(平成19年)6月から 11月まで、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会放射性廃棄物小委員会に おいて、最終処分事業を推進するための取組の強化策について集中審議を行い、『放射性廃 棄物小委員会報告書(中間とりまとめ)~最終処分事業を推進するための取組の強化策に ついて~』をまとめた。その中では、原子力発電の必要性についての理解はある程度進ん でいるが、HLW 処分の必要性についての国民の認識は相対的に浅いとし、また、高知県 東洋町に関する報道は国民がHLW処分の必要性について考える契機となったものの、自 分の問題として捉えるまでの理解が得られたとは言えないとの認識を示し、国民全般に対 するHLW処分の認知度の更なる向上が課題であり、多くの国民からHLW処分への理解 を得られるよう、原子力発電の便益を受ける国民一人ひとりにとって重要な意味を持つ HLW処分の内容や必要性について情報提供を行うとの方針が示されている69。しかし、こ こでは、「対話の場」を設け、市民からの意見や要求をHLW処分に関する意思決定に反映 するという考えに至っていない。これでは、市民がHLW 問題に関心を持ち、HLW 処分 の必要性について「自分の問題」として考えるようになるには程遠いであろう。

日本原子力産業協会は、2009年(平成21年)3月から7月まで、原子力施設の立地県 及び立地市町村を訪問し、HLW処分についての意見を収集し、そのうえで、学識者、有識 者による高レベル放射性廃棄物処分勉強会を開催し、2010年(平成22年)3月、『高レベ ル放射性廃棄物処分事業のさらなる理解に向けて―国が前面に立った取り組みについて

―』という報告書をまとめた。同報告書は、HLW処分問題をめぐる現状の取組では、国と してこの問題を重要な社会的アジェンダと位置付けるための積極的な取組や、出された意 見をどう反映させていくのかという姿勢が明確には見えてこないと指摘し、国民各層によ る広範な議論を通してHLW処分問題を「国論」とするためには、理解促進活動に留まら ず、「公論」を喚起するための積極的な取組や、意見の反映方法などに関する国の取組の

「設計図」を国民に見せ、これを実践していくことが喫緊の課題であると指摘している。

また、同報告書では、海外における取組を踏まえ、HLW 処分を社会の理解を得て進め るためには、社会の受け止め方に視点を置き、国民と一緒に作り上げるという考え方が必 要であり、「価値観が多様化した社会においては、ある人にとって望ましいことが、他の人 にとっても好ましいとは限らないことから、特定の価値観だけを一元的に主張するのでは

69 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会放射性廃棄物小委員会(2007)『放射 性廃棄物小委員会報告書(中間とりまとめ)~最終処分事業を推進するための取組の強化策 について~』, 2007年(平成19年)11月1日, p.7。

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なく、さまざまな価値観を持った人が、価値観を異にしながらも問題解決に向けて協働す る進め方が求められる」(日本原子力産業協会高レベル放射性廃棄物処分勉強会, 2010,

pp.17-18)こと、また、「技術はさまざまな可能性を作り出すことはできるが、これら準備

された可能性から何を選択するかは、技術の優劣等、一つの絶対的な尺度で決まるのでは なく、その時の社会が何に価値観を置くかにより変わってくる」(同上, p.18)ことを指摘 し、このことから、社会が求める価値に視点を置いた進め方、国民とともに問題解決に向 けて協働する進め方、さらに国民と一緒に作り上げるという考え方が重要であることを示 している。

そのうえで、同報告書では、「国民と一緒に作り上げるという考え方」によって取組を進 めるためには、社会が消化し、受け入れることが難しいHLW問題を如何に社会の理解を 得て解決するかを考え、性急な意思決定を求めるのではなく、社会が受け入れやすいと思 われる出発点を探すこと、次の段階における通過点や選択肢は実行可能な範囲で自在なも のとすること、途中で集められた知識や様々な経験を通して社会が段階的に問題を解決す るという進め方を模索することなどが重要であると指摘している。また、HLW 問題を国 民と一緒に考え、土台となる基本政策についても社会的な合意を作り上げるという新たな 取組について、社会が受け入れるためには、国民各層からの意見を聴き、それを取組に反 映させていく明確な姿勢を示すという行動の基本理念が必要であると指摘している。

先に述べたとおり、日本学術会議(2012)は、政府の審議会のように、政策論争の一方 の陣営が、同時に討論過程の管理者となっているような場合、議論の公正な管理はできず、

社会的信頼と合意形成を得ることが困難であるとし、HLW問題に関する取組においては、

民主主義の精神により、多様な立場のステークホルダーが排除されることなく討論を尽く すことができるようステークホルダーが議論に参加することを保障するとともに、討論過 程を独立の第三者が公正に管理する場を設置することが重要であると指摘している。また、

国民的関心を喚起して国民的議論を展開していくためには、多様な「公論形成の場」を設 けることが重要であるとして、多様な立場のステークホルダーが集まる「中心的な政策討 論の場」と、これと連動する形で様々な課題について議論する多数の「個別的な討論の場」

が形成されることが望ましいと指摘している。

さらに、日本学術会議(2012)は、HLW問題について、国民の理解を得ながら合意形 成を進めるためには、社会的合意を段階的に高めていく手続きを考えるべきと指摘し、各 段階での議論は、多様な立場のステークホルダーが参加するとともに、討論過程の公正な 管理を任務とする独立で中立的な主体による公正な運営が不可欠であると指摘している。

そのうえで、政策アジェンダ(議題)設定と社会的合意に基づいた政策決定の手順として、

①HLWの総量管理の重要性や、重視すべき評価基準(安全性、生命・健康の価値、負担の 公平、手続きの公正、将来世代の自己決定性、現在世代の責任、回収可能性、経済性、な どの評価基準について、それぞれの重要性や相互の優先性をどのよう判断するか)に関す る社会的認識の共有を図る第一段階、②HLW の総量の把握と管理、暫定保管の選択、暫 定保管に必要な施設の数の問題について合意に基づく社会的決定を行う第二段階、③必要 な施設の立地候補地の選定の問題、住民投票を含む立地点の地域住民の同意確認手続きの 明確化、暫定保管よりもさらに長期的な対処方法に関する合意形成を図る第三段階、の三 つの段階を示している。

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すでに述べたとおり、原子力委員会(2012)は、HLW処分に関する取組の進め方に関 しては国民の間に多様な意見があり得ることから、こうした多様な意見を十分に踏まえる 仕組みを整備することが重要であると指摘している。そのうえで、原子力委員会(2012)

は、海外の取組を踏まえ、それぞれの決定に最新の科学的知見が反映されるとともに科学 的知見の不確実性が適切に考慮されること、また、公衆の意見や地域の利害が思慮深くバ ランスの取れた形で反映されることなどが重要であると指摘している。さらに、HLW 処 分に関する取組を効果的に進めるためには、地域の持続的発展を重視する自治体などのス テークホルダーと実施主体がお互いに関与し、相互に交流し、共同して作業することがで きる環境と仕組みを自治体と協議しながら整えることが重要であると指摘している。

2015年(平成27年)4月に日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォロ ーアップ検討委員会が発表した『高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言―国民的 合意形成に向けた暫定保管』においては、社会的合意形成を図りつつHLW問題に対処す るためには、まず原子力政策に対する国民の信頼を回復することが重要であるとの認識を 示し、「核のごみ」の問題の解決を目指した真剣な国民的議論を起こしてそれを活性化して いく必要があると指摘した70。そのうえで、HLW問題を社会的合意の下に解決するため、

国民の意見を反映した政策形成を担う会議体として「高レベル放射性廃棄物問題総合政策 委員会(仮称)」を設置することを提言し、様々な立場のステークホルダーに開かれた形で 委員を選出するとともに、中核メンバーは原子力事業の推進に利害関係を持たない者とす ることを求めている。

また、同報告書は、市民参加を通じて、「(HLW処分の)立地選定の在り方とその合意形 成について公論を喚起すること」(日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフ ォローアップ検討委員会, 2015, p.14)や「暫定保管の前期30年の間に、エネルギー政策 に関する国民的議論をリードし、原子力利用の将来像をどうするのかについて国民の合意 形成に携わること」(同上)を目的として、市民団体、経済界及び学問界から均等に計15 名程度を選抜し、これを委員とする「核のごみ問題国民会議」を設置することを提言して いる。さらに、暫定保管や地層処分の安全性に関する科学技術的な問題についての調査研 究を徹底して行う諮問機関として「科学技術的問題検討専門調査委員会」を設置すること も提言している。この委員会の設置に当たっては、「自律性・第三者性・公正中立性を確保 し社会的信頼を得られるよう、専門家の利害関係状況の確認、公募推薦制、公的支援の原 則を採用する」(同上)こととし、委員の選定に当たっては、「原子力工学、放射線医学、

地質学、火山学、アセスメントなどを専門とする自然科学者だけでなく、経済学、社会学、

法学などの社会科学者、哲学者、弁護士なども含む」(同上, p.15)ことを求めている。

2015年(平成27年)5月に閣議決定された基本方針においては、処分地選定プロセス における関係住民の理解の増進に向けては、関係住民の理解と協力を得ることが重要であ り、そのためには、相互理解促進活動や情報公開を徹底し透明性を確保することが必要で あるとの認識を示し、相互理解促進活動や情報公開を行うに当たっては、生活様式や居住 環境が地域や人によって異なることを踏まえ、説明会の開催、図書館や公的集会所での資

70 日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会(2015)『高 レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言―国民的合意形成に向けた暫定保管』, 2015年

(平成27年)4月24日, p.13。

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